ExxonMobil(エクソンモービル) XOM
NYSE US-GAAP 12月決算
エネルギー(統合石油・ガス) データ基準日 2026/7/24
原油・天然ガスの採掘(Upstream )から精製・燃料販売(Energy Products )、石油化学(Chemical Products )まで垂直統合する世界最大級の総合エネルギー企業。FY2025の売上高は3,239億ドル(約52.6兆円) ・純利益288億ドルで3期連続の減益となったが、2026年1-3月期は中東情勢によるBrent原油急騰($61→$118)で明暗が分かれ、Upstreamが57億ドルの黒字を守る一方でEnergy Productsが13億ドルの赤字に転落 する「上流と下流の綱引き」が鮮明になった。
💡 はじめての方へ: ガソリンスタンドの「Exxon」「Mobil」でおなじみのアメリカ石油最大手です。地面から原油・天然ガスを掘り出す「上流」、それを精製してガソリンやジェット燃料に変える「下流」、さらにプラスチックの原料を作る「化学品」まで、1つの会社で全部やっている珍しい会社。原油の値段が上がったり下がったりするたびに業績が大きく波打つ のが最大の特徴で、2022年は原油高騰で過去最高益(557億ドル)、2020年はコロナ禍の原油急落で創業以来初の赤字(▲224億ドル)と、わずか2年で天国と地獄を経験しました。
① 企業カルテ ② ビジネスモデル図解 ③ 成長の歩み ④ 今期の焦点 ⑤ セグメント ⑥ 財務3表 ⑦ 収益性 ⑧ 会計基準ビュー ⑨ 同業比較 ⑩ 課題と改善点 ⑪ 投資判断
01 企業カルテ
FY2025通期実績(2025年12月期・2026/2/18開示、SEC 10-K確定値)と2026年1-3月期・現在の市場評価。
売上高 (FY2025)
3,239億ドル
▲4.5%・約52.6兆円(162.4円換算)
純利益(親会社株主帰属)
288億ドル
▲14.4%・EPS $6.70(3期連続減益)
Upstream純利益
214億ドル
セグメント利益合計の66%を稼ぐ柱
株主還元(配当+自社株買い)
375億ドル
配当172億ドル+自社株買い203億ドル
直近四半期(26年1-3月期)
42億ドル
▲45.8%・中東情勢でEnergy Products赤字転落
配当
43年連続増配
利回り2.63%・1株$4.12
時価総額
6,504億ドル
約105.6兆円・株価$156.89(26/7/24)
PER (実績TTM)
26.4倍
予想12.5倍・原油高持続を織り込む
△
成長性
2022年ピーク(557億ドル)から3期連続減益。原油安が主因で「実力」自体は底堅い
○
収益性
ROIC9.7%(筆者試算)はWACC推定7%を上回るが、原油安でマージンは圧縮中
◎
財務健全性
自己資本比率59.4%・純有利子負債/資本比率11.0%(10-K開示のNet debt to capital)とメジャー随一の低レバレッジ
◎
株主還元
43年連続増配(配当貴族)+年200億ドル規模の自社株買い
○
バリュエーション
実績PER26倍は原油安で利益が沈んだ結果の見かけ高め。予想PER12.5倍は業界内では妥当水準
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=162.40円(2026/7/17時点、サイト内の他社ページと同一基準)。
💡 読み方: 「純利益が3期連続減益」と聞くと業績不振に見えますが、実態は2022年のロシア・ウクライナ危機による原油高騰という「異常値」からの正常化 です。さらに2026年に入ってからは中東情勢の緊迫化でBrent原油が1-3月期だけで$61から$118へ急騰し、原油高の恩恵を受けるUpstreamと、原料コスト増に苦しむEnergy Products(下流)の明暗がくっきり分かれました。原油という「1つの変数」が、社内の複数事業に正反対の効果を及ぼす——それがこの会社を読み解く一番のポイントです。
02 ビジネスモデル図解
モノ(緑 )・カネ(黄 )・情報(青 )の流れで見る、ExxonMobilの稼ぎ方。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点 地中の原油・天然ガスを掘り出す「Upstream(上流)」事業
定説 原油価格が上がれば石油会社は儲かり、下がれば損をする——価格次第の一本足打法
逆説 実際は上流と下流(Energy Products)が原油高騰時に綱引きの関係になる。2026年1-3月期はUpstreamが黒字を守る一方、原料コスト増とヘッジ会計の時間差でEnergy Productsが赤字転落。垂直統合は、社内で追い風と向かい風を打ち消し合う「自家製ヘッジ」として機能する
原油・天然ガスを掘るUpstream(上流) 、それを精製してガソリン・ジェット燃料等に変えるEnergy Products(下流) 、石油化学品を作るChemical Products(化学品) 、潤滑油等のSpecialty Products の4セグメントで構成。売上の75%はEnergy Productsが占めるが、セグメント利益の66%はUpstreamが稼ぐ——「売上は下流、利益は上流」という非対称な構造が最大の特徴。
💡 やさしく: ExxonMobilは「油田」「ガソリンスタンド」「プラスチック工場」を1つの会社で経営しているようなものです。油田(Upstream)は原油が値上がりすれば丸儲けですが、ガソリンスタンド側(Energy Products)は仕入れる原油が値上がりすると利益が圧迫されます。もし油田だけの会社なら原油安でまるごと赤字になりますが、ガソリンスタンドやプラスチック工場も持っているので、原油安のときはそちらが下支えする——価格の波を社内でならす仕組みなのです。
03 成長の歩み — 原油サイクルに翻弄された6年間
2020年のコロナ禍による原油急落から、2022年の資源高騰による過去最高益、そして原油安定化局面での減益へ——Brent原油価格と業績がほぼ連動している。
売上高の推移(FY2020〜FY2025) 単位:億ドル ■濃い棒=直近期
純利益の推移(FY2020〜FY2025) 単位:億ドル。2020年はコロナ禍で創業以来初の赤字
Brent原油の年間平均価格 単位:ドル/バレル。純利益の波とほぼ同じ形を描く
2023-2025年はExxonMobil自身の実現価格(10-K本文)、2020-2022年はEIA公表の市場平均(概算・整数丸め)。純利益のグラフと重ねると、山と谷のタイミングがほぼ一致する。
💡 やさしく: 3枚のグラフを見比べてみてください。売上・純利益・原油価格が、まるで同じリズムで踊っているのがわかります。2020年(原油安)は3つとも谷、2022年(原油高騰)は3つとも山。ExxonMobilの業績を予想するコツは、決算書を読み込む前に「今、原油はいくらか」を見ることだったりします。
04 今期の焦点 — 原油サイクルで明暗が分かれる4事業を分解する
2026年1-3月期、中東情勢の緊迫化でBrent原油は1月の$61から3月末には$118へ急騰した(EIA調べ)。この価格ショックが4つのセグメントにどう波及したかを分解する。
セグメント別 純利益の推移(FY2023→FY2024→FY2025) 単位:億ドル。原油安が進む中でUpstreamは踏みとどまり、Energy Products・Chemical Productsが大きく振れる
Brent平均価格が82.62→80.76→69.06ドルへ緩やかに下がる中、Upstreamの利益は213億→254億→214億ドルとほぼ横ばい(Guyana・Permianの増産が価格下落を相殺)。一方Energy Productsは121億→40億→74億ドルと乱高下し、Chemical Productsも16億→26億→8億ドルと荒れている——下流・化学品の方が価格変動への耐性が弱いことがわかる。
中東ショックの瞬間 — 2026年1-3月期 vs 前年同期 単位:億ドル。Energy Productsが四半期ベースで赤字に転落
Upstreamは57億ドル(前年68億ドル)とやや減益ながら黒字を確保。対してEnergy Productsは▲13億ドルの赤字(前年8億ドルの黒字)に転落した。原因は原油高そのものではなく、中東の供給混乱による決済済みヘッジの損失(識別項目7億ドル)と、デリバティブの時価評価と現物取引の時間差(見積タイミング影響39億ドル、LIFO在庫会計の影響を含む) ——これらを除いた「実力ベース」の利益は88億ドル(1株$2.09)で、前年同期の76億ドル($1.73)を上回っていた。
💡 やさしく: 2026年1-3月期は「会計上の利益」と「実力」が大きく乖離した珍しい四半期でした。中東で紛争が起きて原油が急騰すると、ExxonMobilが事前に結んでいた「保険(ヘッジ)」の一部が裏目に出て、帳簿上は損失が出ます。でもこれは一時的な時間差の問題で、翌四半期以降に巻き戻る性質のもの。会社発表の「識別項目・タイミング影響を除いた実力ベース利益」(1株$2.09)の方が、この会社の地力を正しく映しています。
05 セグメント — 売上の75%は下流、利益の66%は上流
4セグメント(Upstream/Energy Products/Chemical Products/Specialty Products)の売上と利益の構成比は正反対を向いている。
セグメント別売上高(FY2025・外部顧客向け) 単位:億ドル。合計3,238億ドル(連結売上とほぼ一致)
読みどころ
Energy Products(下流): 売上2,445億ドル(75.5%)と圧倒的だが、利益は74億ドル(22.9%)にとどまる薄利多売事業
Upstream(上流): 売上394億ドル(12.2%)しかないのに、利益は214億ドル(65.8%)と過半を稼ぐ高マージン事業
Chemical Products: 売上222億ドル(6.9%)・利益8億ドル(2.5%)と、FY2025は化学市況低迷の直撃で最も苦戦
💡 やさしく: Energy Products(下流)は「薄利多売のガソリンスタンド」、Upstream(上流)は「掘り当てれば儲かる油田」。会社の看板(ガソリンスタンド)が稼いでいるように見えて、実は利益の主役は目立たない油田事業なのです。
06 財務3表ビジュアル
巨大な収益・費用が行き交う一方、有利子負債は435億ドルと総資産の1割弱にとどまり、資源メジャーの中でも際立って保守的な財務構造。
PL滝グラフ — 収益合計3,322億ドルから純利益288億ドルへ(FY2025) 単位:億ドル
💡 やさしく: 3,322億ドルの収益のうち、原油・製品の仕入れで1,842億ドル、工場の操業費・人件費・減価償却等で816億ドル、税金・賦課金で252億ドルが出ていき、最終的に残る純利益は288億ドル(8.7%)。日本円で約4.7兆円——トヨタの純利益(4.77兆円・24/3期)とほぼ同水準の規模です。
BS比例図 — 総資産4,490億ドルの中身(FY2025末) 箱の高さ=金額。自己資本比率 59.4%
総資産の3分の2(2,994億ドル)が有形固定資産(油田・精製プラント等)。有利子負債は435億ドルと総資産の1割弱にとどまり、自己資本比率59.4%はChevron(59.3%、少数株主持分含む同一基準で算出)とほぼ並ぶ水準——巨額投資が必要な業種にもかかわらず借金への依存度が低い。
キャッシュフロー(FY2025) 単位:億ドル。営業CF 520億ドル
FCF =営業CF519.7億ドル−設備投資283.6億ドル=236.1億ドル 。これを配当172.3億ドル+自社株買い202.7億ドルの合計375億ドルで株主に還元しており、FCFを上回る株主還元を財務の厚み(現金・有価証券)で補っている。
07 収益性 — ROEも原油サイクルで波打つ
ROE は2022年の28.6%から2025年の11.1%まで低下。デュポン分解 で中身を見る。
=
× 1.73倍
財務レバレッジ
借金にほぼ頼らない保守的な資本構成
財務レバレッジ1.73倍は、自社株買いで資本を極限まで圧縮するApple(5.54倍・本サイト掲載)とは対照的。ExxonMobilのROEは「レバレッジの魔法」ではなく、ほぼ丸ごと「利益率×回転率」という実力で説明できる。
ROEの推移(FY2021〜FY2025) 2022年の資源高騰でピークをつけ、その後は原油安定化とともに低下
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)単位:%。EBIT近似を用いた概算値
ROIC=EBIT近似(税引前利益412.7億+支払利息6.0億=418.7億ドル)×(1−実効税率27.9%)=NOPAT302.0億ドル÷投下資本(株主資本2,666億+有利子負債435億=3,102億ドル)≒9.7% 。推定WACC(7%前後)を上回り価値創造を続けているが、2022年ピーク時(推定20%超)からは大きく低下しており、原油安局面での資本効率の目減りが読み取れる。
💡 やさしく: ROIC9.7%は「原油という資源を掘って売る商売に投じた1ドルが、年9.7セントを生んでいる」という意味。資本コスト(7%前後)は上回っていますが、その差はコロナ後の資源高騰期に比べると縮んでいます。原油価格が今後どう動くかが、この差をさらに縮めるか広げるかを左右します。
08 会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
ExxonMobilはUS-GAAP 採用。要点は2つ——①在庫評価にLIFO(後入先出法) を使うため原油急騰・急落時に利益が振れやすい、②一度計上した減損は原油価格が戻っても戻せない 。サイクル産業のExxonMobilを読むうえで特に重要な2点。
収益の段階別サマリー(FY2025) 単位:億ドル。Exxonは「営業利益」を単独の段階として開示しない
US-GAAP(採用中) JGAAPならこう見える IFRSならこう見える
連結損益計算書は「収益合計」から一気に「税引前利益」へ進み、日本の決算書にある「営業利益」「経常利益」という中間段階が存在しない 。支払利息も他の費用と一緒に「税引前利益」計算に含まれる
石油・ガス開発費の会計処理は成功成果法(Successful Efforts法) ——掘っても出なかった井戸(ドライホール)の費用はその場で損失計上する保守的な方式
棚卸資産(原油・製品在庫)の評価に一部LIFO(後入先出法)を採用。2026年1-3月期の「タイミング影響39億ドル」の一因もここにある
JGAAPなら「営業利益」「経常利益」の段階が復活し、本業の収益力と金融費用の影響を切り分けて見やすくなる
LIFO(後入先出法)はJGAAPでは2010年基準改正で事実上廃止されており、日本の石油元売り各社(出光興産等)は総平均法などを採用。同じ原油急騰局面でも、ExxonMobilの方が在庫評価損益の振れが利益に出やすい
減損の考え方は大枠で類似するが、一度減損した資産の戻し入れ(減損の戻入れ)はJGAAPでも原則認められない点はUS-GAAPと共通
最大の差異は減損 の戻入れ——IFRSは資産価値が回復すれば減損の戻入れ(最大で取得原価まで)が認められるが、US-GAAPは一度計上した減損を将来価値が戻っても絶対に戻せない。ExxonMobilはFY2025に全社計17億ドルの減損を計上(Upstream10.8億ドル・Energy Products2.7億ドル・Chemical Products3.2億ドル・Specialty Products0.3億ドル)しており、仮に原油価格が急回復しても、この17億ドルは帳簿上永久に戻らない
IFRSにも成功成果法・フルコスト法の選択肢があるが、LIFOでの棚卸資産評価はIFRSでは禁止されている(US-GAAPのみ容認)
セグメント利益の定義も差異——ExxonMobilは税金・少数株主持分まで差し引いた「セグメント純利益」を開示するが、IFRS採用企業(日本製鉄等)の多くは税引前のセグメント利益(事業利益)を主指標とすることが多い
🔍 詳しく見る:会計基準の技術的差異(プロ向け)
LIFO清算(LIFO liquidation)リスク: 原油急落局面で古い(=安い)簿価の在庫が取り崩されると、一時的に利益が押し上げられる「LIFO清算益」が発生することがある。IFRS/JGAAP採用企業では原理的に起こらない、US-GAAP・LIFO特有の論点
減損の非対称性: US-GAAPは減損の戻入れを禁止するため、原油安局面で減損計上→原油高局面で資産価値が回復しても簿価は据え置き、という資産価値と簿価の乖離がIFRS採用の欧州メジャー(Shell・BP等)より生じやすい
セグメント利益=連結純利益に一致する開示方式: 4セグメントの「セグメント利益」合計にCorporate and Financing(本社・金融)区分を加えると連結純利益に完全一致する開示方式を採る。日本製鉄の「事業利益」のような独自の非GAAP中間指標を作らず、税引後・少数株主持分控除後の実額で開示する分、他のUS-GAAP企業との比較はしやすいが、税引前ベースで開示するIFRS企業との単純比較には注意が必要
💡 やさしく: 日本の決算書にある「営業利益」「経常利益」がExxonMobilにはありません。また「一度計上した減損は原油価格が戻っても帳簿上は戻らない」というルールは、原油のように価格が乱高下する商品を扱う会社にとって大きな意味を持ちます——原油安の年に評価損を計上すると、その後どれだけ原油が値上がりしても、その評価損は会計上「なかったこと」にはならないのです。
09 同業比較 — 統合型・上流専業・下流専業を並べる
同じ統合型メジャーのChevron(米国・US-GAAP)に加え、上流専業のINPEX(日本・IFRS任意適用)、下流専業の出光興産(日本・JGAAP)を並べ、セグメント別マージンの違いを裏付ける(2026/7/24時点、いずれもstockanalysis.com直接取得)。
営業利益率の比較 — 上流専業ほど高マージン、下流専業ほど薄利 ExxonMobilは4事業の合算のため中間的な水準に落ち着く
上流専業のINPEXは営業利益率50.0%と圧倒的な高マージン——本レポート④⑤で見たExxonMobilのUpstream単体の高収益性を裏付ける参照値。対して下流専業の出光興産はわずか2.6%と薄利多売の典型。ExxonMobilの実効的な利益率(純利益率8.7%)はChevron(6.8%)をやや上回るが、これは上流と化学品でカバーしている構図で、Energy Products単体の薄利はExxonMobilも出光興産と同じ土俵にある。
バリュエーション・財務指標の比較 単位:時価総額は兆円換算(1ドル=162.40円)。PER・PBR・ROE・配当利回りは各社直近実績
時価総額はExxonMobil(105.6兆円)がChevron(62.5兆円)の約1.7倍、INPEX(4.37兆円)の約24倍と圧倒的な規模。ROEはExxonMobil11.1%・Chevron6.6%とExxonMobilが優位だが、出光興産(9.9%)・INPEX(7.8%)と比べると突出はしていない。PBRはExxonMobil2.51倍・Chevron2.07倍と米国2社が1倍を大きく上回るのに対し、INPEX0.87倍・出光興産0.92倍と日本2社は解散価値(純資産)を下回る評価にとどまる——日本の資源・エネルギー株は業績好調でも株価評価が伸びにくいという構造的な傾向が読み取れる。PERも一桁台後半〜30倍台とばらつきが大きく、会計基準(US-GAAP/IFRS/JGAAP)の違いによる利益の出方の差も反映している点に注意が必要(詳細は⑧会計基準ビュー)。
💡 やさしく: 「石油会社」と一括りにしても、油田専業(INPEX)・ガソリンスタンド/精製専業(出光興産)・両方持ち(ExxonMobil・Chevron)では稼ぎ方がまるで違います。油田専業は原油高で笑い、精製専業は原油高で顔をしかめる——ExxonMobilとChevronはその両方を抱えることで、極端な浮き沈みを避けている「ハイブリッド」なのです。
10 戦略・課題と改善ポイント
財務基盤は盤石。焦点は原油サイクルへの構造的な耐性強化と、低炭素事業への投資が実を結ぶかどうか。
強み Strengths
上流・下流・化学品の垂直統合による価格変動リスクの内部ヘッジ機能
自己資本比率59.4%・純有利子負債比率11.0%とメジャー随一の財務健全性
43年連続増配+年200億ドル規模の自社株買いという株主還元の一貫性
Guyana・Permianでの構造的な生産量増加(原油価格に依存しない成長ドライバー)
弱み Weaknesses
業績が原油価格に強く連動し、EPSの予測可能性が低い(2020年赤字→2022年最高益)
Energy Products・Chemical Productsのマージンが薄く、四半期単位で赤字転落もあり得る(2026年1-3月期のEnergy Productsが実例)
US-GAAP・LIFO会計により、四半期決算にタイミング差由来のノイズが乗りやすい
低炭素事業(CCS・水素等)はまだ収益貢献が小さく、投資回収に時間を要する
機会 Opportunities
Golden Pass LNG Train 1が2026年3月に稼働開始。米国LNG輸出のさらなる拡大
構造的コスト削減が2019年以降累計156億ドルに到達、2030年に200億ドルを目標
中東情勢の混乱が長期化すれば、Upstreamの高収益局面が続く可能性
低炭素データセンター事業・炭素回収貯留(CCS)等の新規事業の将来的な収益化
脅威 Threats
中東情勢が沈静化しBrentが急落すれば、Upstreamの収益基盤が一気に細る
脱炭素・EVシフトによる長期的な石油需要のピークアウトリスク
各国の環境規制強化・炭素課金導入によるコスト増
地政学リスク(中東供給混乱、対ロシア制裁の余波等)による事業環境の不確実性
改善ポイント(優先度つき)
最優先 下流・化学品マージンの構造的な底上げ Energy Products・Chemical Productsの利益変動が大きすぎる。構造的コスト削減の継続と高付加価値製品比率の引き上げが焦点。
最優先 ヘッジ戦略とタイミング差の説明責任 2026年1-3月期のような「実力と会計上の利益の乖離」が繰り返されると市場の信認を損ないかねない。開示の透明性維持が重要。
中期 Guyana・Permian以降の成長ドライバーの確保 既存の高収益資産に続く「次のGuyana」をどこに見出すかが、原油安局面での利益下支え力を左右する。
中期 低炭素事業の収益化ペース CCS・水素・低炭素データセンター等への投資が、いつ実際の利益貢献に転じるかは依然として不透明。
11 投資メリット・デメリット
「財務は盤石、株主還元も一級品。論点は原油サイクルのどの局面で買うか」が本レポートの総括。2026年1-3月期は中東情勢というワイルドカードが加わり、先行き不透明感が一段と高まっている。
▲ 強気材料(メリット)
Upstreamは価格下落局面でもGuyana・Permianの増産でカバーし、利益の底堅さを示した
自己資本比率59.4%・純有利子負債比率11.0%と資源メジャー随一の財務健全性
43年連続増配+自社株買いで年375億ドルの株主還元
中東情勢の緊迫化でBrentが高値圏に入れば、Upstream収益がさらに拡大する可能性
1-3月期の「実力ベース」利益(88億ドル)は前年同期を上回っており、会計上の減益ほど実態は悪くない
▼ 弱気材料(デメリット)
実績PER26.4倍は3期連続減益後の水準としては割高感があり、予想PER12.5倍の実現には原油高の持続が前提
Energy Products・Chemical Productsのマージンは薄く、四半期単位で赤字化するボラティリティがある
中東情勢が沈静化しBrentが急落すれば、Upstreamの収益拡大シナリオは崩れる
脱炭素シフトという長期的な逆風は消えていない
円建て投資家は為替(162円台の円安水準)の反転リスクも負う
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ 中東情勢の混乱長期化でBrent高値圏が定着、コンセンサス予想EPS $12.52×PER15倍=$187.8(約30,500円換算・+19.7%)
中立シナリオ コンセンサス予想EPS $12.52×現状の予想PER12.5倍=$156.5(現状とほぼ同水準・約25,400円換算)
弱気シナリオ 中東情勢が沈静化しBrent$65台へ戻り下流マージンも低迷継続、EPS $7.00×PER11倍=$77.0(約12,500円換算・▲50.9%)
💡 はじめての方への総括: チェックポイントは3つ。①Brent原油価格 (中東情勢の帰趨で$60台にも$100超にも動きうる)、②Energy Products・Chemical Productsのマージン回復 (下流の薄利体質が改善するか)、③株主還元の持続力 (43年連続増配とFCFのバランス)。「原油会社の株を買う」ことは、実質的に「原油価格に賭ける」こととほぼ同義——垂直統合はその賭けのボラティリティを和らげる仕組みだと理解した上で投資判断をすることが重要です。