🕒 最終更新: 2026-09-07
ウォルマート Walmart Inc.・WMT
NYSE US-GAAP 1月決算
総合小売 26年5〜7月期決算まで反映
「エブリデー・ロープライス(EDLP)」を物流と規模で実現してきた世界最大の小売企業。FY2026(2026年1月期)の純売上高は706.4十億ドル(約110.4兆円)に達したが、営業利益率はわずか4.2% 。ただし店舗網・物流網という圧倒的な資産の上に、広告事業(Walmart Connect、約64億ドル規模・前年比+46%)・会員収入・マーケットプレイスという高収益レイヤーを重ね始めており、EC売上比率は純売上高の21.3%まで拡大 した。時価総額850.0十億ドル(約132.8兆円)。
💡 はじめての方へ: ウォルマートは「毎日、いつでも安い」を掲げるディスカウントストアです。安くするために仕入れと配送を極限まで効率化してきましたが、それだけでは利益率は4%程度にしかなりません。いま力を入れているのは、店舗とネットを行き来する客のデータやトラフィックを使った「広告」「会員費」「マーケットプレイス」というオマケ的な高収益事業 ——これはAmazonが先にやっていた稼ぎ方です。
※2026年度第2四半期(5〜7月期)決算=2026年8月20日発表を反映済み (→④ 直近四半期 )。通期ベースの財務3表・収益性・会計基準ビューはFY2026通期(2026年1月期)の確定実績、株価・同業比較は2026年9月4日終値にもとづく。
① 企業カルテ ② ビジネスモデル図解 ③ 成長の歩み ④ 直近四半期(26年5〜7月期) ⑤ 広告・会員・EC「Amazon化」の中身 ⑥ 財務3表 ⑦ 収益性 ⑧ 会計基準ビュー ⑨ 同業比較 ⑩ 課題と改善点 ⑪ 投資判断
01 企業カルテ
FY2026通期実績(2026年1月期・2026-02-19発表)と直近の市場評価。
純売上高 (FY2026)
706.4十億ドル
+4.7%・約110.4兆円(156.25円換算)
営業利益
29.8十億ドル
営業利益率 4.2%(小売業として標準的な薄さ)
純利益
21.9十億ドル
純利益率3.10%・EPS $2.73(+13.3%)
eコマース比率
21.3%
純売上高比。FY2024は15.6%から拡大
広告事業(グローバル)
約6.4十億ドル
前年比+46%(会社発表)
時価総額
850.0十億ドル
約132.8兆円・株価$107.14(26/9/4終値)
PER (実績TTM)
38.82倍
PBR 8.66倍・ROE 22.31%
ROIC (筆者試算)
15.37%
推定WACC 7.08%を上回る
○
成長性
FY2026純売上高+4.7%。直近26年5〜7月期は+5.9%、6か月累計+6.6%と加速。eコマース比率も3期連続で拡大
△
収益性
営業利益率4.2%・純利益率3.10%は小売業として標準的な水準(Amazon17.44%とは一桁違う)。広告・会員という高収益レイヤーの拡大がここを底上げできるかが焦点
○
財務健全性
自己資本比率 35.0%。有利子負債51.5十億ドルに対し営業CF 41.6十億ドルと十分なカバー力
◎
株主還元
53年連続増配の「配当王」(配当利回り0.92%)。FY2026は配当7.5十億ドル+自社株買い8.1十億ドル=純利益の71.2%を還元
△
バリュエーション
PER38.82倍はTarget(17.05倍)は元より、同業のCostco(46.06倍)に次ぐ高水準。52週レンジ$98.88〜135.16の中間圏
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=156.25円(2026/9/4)。PER・PBR・ROE等はstockanalysis.com公表のTTM実績値、時価総額・株価は2026年9月4日終値。
💡 読み方: 営業利益率4.2%は、Visaの60%やAmazonの12.1%と比べるとかなり薄く見えます。でもこれは小売業では普通のことで、薄い利益率を「売上の規模」と「資産の回転の速さ」で補うのが小売業のROEの作り方 です(後述の⑦収益性で詳しく分解します)。ウォルマートが今やろうとしているのは、この薄利構造そのものに、広告や会員費という利益率の高い事業を上乗せすることです。
02 ビジネスモデル図解
モノ(緑 )・カネ(黄 )・情報(青 )の流れで見る、ウォルマートの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点 1962年、サム・ウォルトンがアーカンソー州ロジャースに開いた「Wal-Mart Discount City」1号店。EDLP (Every Day Low Price)とEDLC(Every Day Low Cost)を掲げ、仕入れ・物流の効率化で低価格を実現する構造を作った
定説 小売業は仕入れて安く売るだけの薄利多売ビジネスで、Amazonのようなプラットフォーム型の高収益事業とは別世界にいる
逆説 ウォルマートの営業利益率はFY2026で4.2%しかなく、定説通り薄利。しかし店舗網・物流網・約2.7億人/週の来店客という圧倒的なトラフィックの上に、広告事業(Walmart Connect) ・会員収入 ・第三者マーケットプレイス という高収益デジタルレイヤーを重ね始めている。これはAmazonが広告・プライム会員・マーケットプレイス手数料で稼いできた構造そのもの。Amazonに小売を侵食されてきたウォルマートが、逆にAmazon型の稼ぎ方を自社の物流網の上に築こうとしている
ウォルマートの収益の柱は今も圧倒的に商品販売 (純売上高706.4十億ドル、総収益の99.1%)だが、そこに会員収入等 (6.75十億ドル、Walmart+・Sam's Club会員費等)と、売上・原価どちらかに計上される広告事業 (グローバルで約6.4十億ドル・前年比+46%)が上乗せされている。マーケットプレイス(第三者出品者からの手数料)の金額は会社から独立開示されていない。
💡 やさしく: ウォルマートで買い物をすると、代金の大半は仕入れ先のメーカーへの支払いに消えます(売上原価は純売上高の75.8%)。手元に残る利益はわずかですが、「せどり」ではなく「広告枠を売る」「会員費をもらう」という、モノを右から左に流さなくても儲かる仕事 を店舗網の上に増やしているのが今のウォルマートです。
03 成長の歩み — 薄利ながら着実に拡大する売上とeコマース比率
純売上高は3期連続で増収。セグメント別ではWalmart U.S.が規模で圧倒するが、International・Sam's Clubも安定成長を続けている。
純売上高の推移(FY2024〜FY2026) 単位:十億ドル ■濃い棒=直近期。1月決算
営業利益率の推移 FY2025の4.35%が直近3期で最も高い
FY2026は4.22%へやや低下。売上原価・販管費とも増加率が純売上高の伸び(+4.7%)を上回ったためで、関税対応コストや賃金上昇が利益率をわずかに圧迫 している。
セグメント別純売上高の推移 単位:十億ドル
FY2026はWalmart U.S.が純売上高483.0十億ドル・営業利益25.2十億ドルと全体の68%前後を占める規模。International(純売上高130.4十億ドル)・Sam's Club(同93.0十億ドル)もそれぞれ3期連続で増収しており、特定セグメントに依存しない分散成長 になっている。
04 直近四半期(2026年5〜7月期)— 営業利益+28.8%なのにEPSは△9.1%という「ねじれ」
2026年8月20日発表の2026年度第2四半期。関税還付の受領で営業利益は前年同期比+28.8% と大きく伸びたが、保有株式等の評価損益が前年同期の利得から一転して損失となったため、GAAP EPSはむしろ$0.88→$0.80(△9.1%)へ低下 した。
営業利益
9.38十億ドル
+28.8%・関税還付の受領が主因
純利益 (GAAP)
6.37十億ドル
△9.4%・EPS $0.80(△9.1%)
調整後EPS
0.81ドル
株式投資評価損益・税務項目を除く
グローバルeコマース
+23%
店舗発送のピックアップ&デリバリーが牽引(会社発表)
広告事業(グローバル)
+38%
Walmart Connect(米国・VIZIO除く)は+43%(会社発表)
会員費収益(世界)
+17%
Walmart+純増が過去最高の第2四半期(会社発表)
ROA / ROI(TTM)
8.0% / 15.4%
前年同期 8.3% / 15.1%
総収益(純売上高+会員収入等)は187.9十億ドル。※eコマース・広告・会員費の伸び率は、四半期ベースの絶対額(世界合計)が一次資料に開示されていないため会社発表の数値をそのまま引用しており、独立再計算はしていない。他の数値はすべて決算発表資料の実額から筆者が算出・検算済み。
セグメント別純売上高(前年同期比較) 単位:十億ドル
2025年5〜7月期 2026年5〜7月期
3セグメント すべてが増収。Walmart U.S.は125.2十億ドル(+3.5%)、Internationalは35.2十億ドル(+12.8%、現地通貨ベースでは+7.9%)、Sam's Clubは25.7十億ドル(+8.8%)。Internationalの伸びの一部は為替の追い風(現地通貨ベースの伸びは名目より低い)。
営業利益7.29→9.38十億ドルへの内訳(前年同期比) 単位:十億ドル。関税還付の受領が全セグメントに寄与
増加分2.10十億ドルの内訳はWalmart U.S. +1.39・International +0.21・Sam's Club +0.21・Corporate and support(損失縮小)+0.30。4部門すべてがプラス寄与 という珍しい四半期で、決算発表資料は「関税還付の受領」を主因に挙げている。
この四半期に起きた財務イベント
関税還付を受領 したことが営業利益を押し上げた一方、その一部を価格投資(値下げ)に再配分 する方針を会社は明言。純粋な事業改善分は「ガイダンス上限相当」とコメント
自社株買いは年初来累計4,230万株・5.1十億ドル($30十億の枠のうち残り25.1十億ドル)
6か月累計の純利益は11.7十億ドル(+1.6%)。FCF は5.5十億ドルと前年同期の6.9十億ドルから減少。設備投資が14.2十億ドル(前年11.4十億ドル)へ増加したため
総資産293.9十億ドル・自己資本比率33.4%(2026年7月末時点)。有利子負債は57.2十億ドルへ増加
05 広告・会員・EC「Amazon化」の中身 — なぜ営業増益なのに純利益は減ったのか
今期の「営業利益+28.8%・EPS△9.1%」というねじれの正体と、ウォルマートが薄利構造から抜け出そうとしている中身の2つを分解する。
eコマース売上が純売上高に占める比率 FY2024〜FY2026・単位:%
FY2024の15.6%からFY2026は21.3%へ、3期で5.7ポイント拡大。セグメント別のeコマース売上高(10-K開示の概算値)はWalmart U.S.が995.98億→99.6十億ドル、Internationalが35.8十億ドル、Sam's Clubが15.0十億ドル(いずれもFY2026)。店舗を「配送拠点」として使うことで、Amazonに対しても即日〜翌日配送で対抗できている 。
高収益レイヤーの規模 — 広告事業 vs 会員収入等 FY2026・単位:十億ドル
広告事業(Walmart Connect、VIZIOを含む)は約6.4十億ドルで前年比+46%(会社発表)。会員収入等(Walmart+・Sam's Club会員費に賃貸収入等を含む会社の開示区分)は6.75十億ドルで前年比+4.7%(筆者算出)。広告事業の伸び率が会員収入等の10倍近い ことが、ウォルマートが今どこに重心を置いているかを示している。
営業利益9.38十億ドル→純利益6.37十億ドルへ「消えた」2つの要因 2026年5〜7月期・単位:十億ドル
営業利益は前年同期比+28.8%だったのに、純利益は△9.4%。原因は「その他(利得)及び損失」の符号が逆転したこと——前年同期は保有株式等の評価益2.71十億ドルが純利益を押し上げていたが、今期は評価損1.20十億ドルとなり、符号込みで3.91十億ドルの逆風 になった。会社はこの評価損益を除いた「調整後EPS」($0.81、前年同期$0.68から改善)を業績評価の物差しとして重視している。
💡 やさしく: 本業(お店を回して稼ぐ力)は明確に良くなっています。悪化して見えるのは、株式などの含み損益という「本業と関係ない」項目が、前年はプラスに、今年はマイナスに振れた ため。決算書のGAAP純利益だけを見ると誤解しやすい、典型的なケースです。
06 財務3表ビジュアル
薄利率のP/L、店舗・物流という実物資産が並ぶB/S、そして稼いだ以上を配当と投資に回すC/F——小売業らしい財務的特徴が3枚に表れる。
PL滝グラフ — 総収益713.2十億ドルはどこへ消えるか(FY2026) 単位:十億ドル
💡 やさしく: 713.2十億ドルの総収益のうち535.4十億ドル(75.1%)が仕入代金(売上原価)、147.9十億ドルが人件費・店舗運営費など(販管費)に消え、残る営業利益は29.8十億ドルだけ。Visaのような「線路を貸すだけ」の会社と違い、ウォルマートは実際にモノを仕入れて運んで並べる分だけ費用がかさむ 構造です。
BS比例図 — 総資産284.7十億ドルの中身(FY2026末) 箱の高さ=金額。自己資本比率 35.0%
総資産の47.8%(136.1十億ドル)が店舗・物流センターなどの有形固定資産(純額)。のれん は28.7十億ドルとFlipkart等の買収により一定額計上されているが、資産全体に占める比率は10.1%と大きくない。実物資産(店舗・在庫・設備)が資産の大半を占める のが小売業らしい特徴。有利子負債は51.5十億ドル。
キャッシュフロー(FY2026) 単位:十億ドル。営業CF 41.6十億ドル
営業CF41.6十億ドルに対し設備投資は26.6十億ドル(収益比3.7%ではなく、対純売上高比3.8%)と重く、FCF は14.9十億ドル。この年の株主還元は配当7.5十億ドル+自社株買い8.1十億ドル=15.6十億ドルで、純利益21.9十億ドルの71.2%、FCFの104.5%を株主に返している 。
07 収益性 — ROE22.98%をデュポン分解 する
ウォルマートのROEは、Visaのような高い利益率ではなく、ほぼ「総資産回転率の速さ」だけで作られている——小売業の教科書的な構造。
ROE (FY2026・平均残高ベース)
22.98%
=
3.10%
売上高純利益率
本サイト掲載企業で最低水準の1つ
× 2.590回
総資産回転率
在庫の高速回転で薄利をカバー
本サイト掲載企業と並べると構造の違いがはっきりする。Visa (ROE52.1%=純利益率50.1%×0.412回×2.52倍)は「利益率」だけでROEを作る対極のタイプ。ウォルマートは純利益率3.10%という薄さを、総資産回転率2.590回という速さで補う「薄利高回転型」 の代表例で、これはオイシックスのようなEC小売と同じ系譜にある。財務レバレッジ2.862倍はVisaの2.52倍よりやや高いが、突出した水準ではない。なお直近12か月ベースのROEは22.31%(stockanalysis.com集計)。
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか単位:%。FY2026末時点
ROIC=NOPAT(営業利益29.825十億ドル×(1−実効税率24.43%)=22.54十億ドル)÷投下資本146.68十億ドル(株主資本等106.18+有利子負債51.52−現金10.73)=15.37% 。stockanalysis.com公表の推定WACC 7.08%を8.3ポイント上回っており、薄利ながら資本コストを上回るリターンを生んでいる 。ただしVisaのROIC46.2%と比べると、実物資産(店舗・在庫・物流網)を大量に抱える分、投下資本あたりの効率は見劣りする。
💡 やさしく: ROIC15.4%は「商売に使うお金1に対して毎年0.15稼ぐ」ということ。Visaの46%と比べると見劣りしますが、店舗も物流センターも持たないVisaと、世界に1万店超を構えるウォルマートを同じ土俵で比べるのはそもそも無理があります 。小売業同士(Costco・Target)との比較は次章⑨で行います。
08 会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
ウォルマートはUS-GAAP 採用。「その他(利得)及び損失」の符号規則と、リース会計の扱いが読み方の鍵になる。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2026) 単位:十億ドル
詳しく見る:会計基準の技術的差異(US-GAAP/JGAAP/IFRS)
US-GAAP(採用中) JGAAPならこう見える IFRSならこう見える
「その他(利得)及び損失」は括弧内表記が利得を意味する会社独自の符号規則。FY2026は2.075十億ドルの純利得 (保有する株式投資の評価益等)が税引前利益を押し上げたが、2026年5〜7月期は逆に1.200十億ドルの純損失 となり、GAAP EPSを押し下げた。会社はこの変動を除いた「調整後EPS」を業績評価の主要指標としている
「経常利益」区分はなく、営業利益の下に支払利息等(純額)とその他損益が並ぶだけの構造
のれん 28.7十億ドルは非償却・減損テストのみ。買収(Flipkart、jet.com等)で発生した分が中心
店舗・倉庫のリースはASC842でオペレーティングリース使用権資産14.75十億ドル・ファイナンスリース使用権資産6.12十億ドルとしてB/Sに計上される
JGAAPならのれんは20年以内の規則償却が必要。28.7十億ドルを20年均等償却すると年約1.4十億ドルの費用が発生し、営業利益は29.8十億ドル→28.4十億ドルに見える(営業利益率は4.22%→4.02%)
「経常利益」に相当する段階がないため、日本株と比較する際は営業利益か税引前利益で揃える必要がある
「その他(利得)及び損失」に相当する保有株式の評価損益は、JGAAPでは有価証券の区分(売買目的・その他有価証券等)によって損益計算書を通さず純資産直入になる場合があり、同じ含み損益でも表示先が変わりうる
IFRSでものれんは非償却・減損テストのみで、US-GAAPと同じ思想
IFRS16のリース会計はUS-GAAPのASC842と類似し、ほぼ全てのリースをB/Sに資産計上する点は共通。ただし損益計算書上の費用区分(利息費用と減価償却費に分解する点)には細かな差異がある
欧州の同業(Carrefour、Tesco等)はIFRS採用だが、業態(ハイパーマーケット中心)や不動産所有比率が異なるため、利益率の単純比較には注意が必要
💡 やさしく: ウォルマートの「純利益」には、本業の儲けとは関係ない株式投資の値上がり・値下がり が混ざっています。2026年5〜7月期のように、本業(営業利益)は絶好調でも、たまたま保有株の評価損が出ただけで最終利益がマイナスに見えることがある——決算書の一番下の数字だけを見て一喜一憂するのは危険 だという典型例です。
09 同業比較 — 「薄利高回転」で束ねられる小売と、稼ぎ方が違うAmazon
会員制ホールセールのCostco、米国内総合小売のTarget、そして広告・会員・マーケットプレイスの先輩であるAmazonと比較する(2026/9/4〜9/6時点)。
純利益率の比較 単位:%。直近12か月(TTM)実績
ウォルマート(3.00%)とCostco(3.01%)はほぼ同水準——どちらもEDLPに近い薄利高回転モデルだからだ。Target(4.08%)はやや高いが売上規模は7分の1にとどまる。Amazon(17.44%)だけが桁違い で、これはAWSという高収益クラウド事業と、広告・プライム会員という高マージン事業を先に確立しているため。ウォルマートが今追いかけている「広告・会員」路線は、まさにこの差を縮めるための一手 。
💡 やさしく: ウォルマートとCostcoは「薄利多売の優等生」同士。両者とも利益率3%前後ですが、それでも成立するのは売上の規模と在庫の回転が速いからです。Amazonだけ利益率が飛び抜けて高いのは、小売の外に「クラウド」「広告」という別の稼ぎ方を持っているためです。
10 戦略・課題と改善ポイント
ビジネスモデルの土台(規模・物流・EDLP)は盤石。課題は「薄い利益率を広告・会員でどこまで底上げできるか」と「関税・為替という外部変動への感応度」に集約される。
強み Strengths
週間来店客数約2.8億人・19か国10,900店超という圧倒的な規模とネットワーク効果
53年連続増配の「配当王」。株主還元性向はFY2026で純利益の71.2%
eコマース比率が3期でFY2024の15.6%→FY2026の21.3%へ拡大し、Amazonへの対抗力を高めている
広告事業(Walmart Connect)が約6.4十億ドル規模・前年比+46%と急拡大し、高収益レイヤーが育ちつつある
弱み Weaknesses
営業利益率4.2%・純利益率3.10%と薄く、費用増加(賃金・保険等)の影響を受けやすい
2026年5〜7月期はGAAP純利益が前年同期比△9.4%(EPS△9.1%)——株式投資評価損益という一過性要因とはいえ、決算のブレ幅は小さくない
Sam's Club U.S.の営業利益率は2.6%(FY2026)とWalmart U.S.(5.2%)より低く、燃料関連費用の影響を受けやすい
会員収入等は前年比+4.7%(FY2026)にとどまり、広告事業の伸び(+46%)に比べると成長ドライバーとしての勢いは弱い
機会 Opportunities
eコマース比率はまだ21.3%で、Amazonの小売事業に対してもまだ伸びしろがある
広告事業は前年比+46%で急拡大中。VIZIO買収によるコネクテッドTV広告の統合効果も継続
Flipkart(インド)・PhonePe等、新興国eコマース・フィンテックへの布石
関税還付など一時的な追い風を、価格投資(値下げ)に再配分することで顧客基盤の維持・拡大を図る戦略
脅威 Threats
関税・貿易政策の変更リスク。関税還付という一時的な追い風が今後も続くとは限らない
米国の薬価規制(処方薬の最大公正価格規制、2026年1月施行)が薬局部門の既存店売上に約125ベーシスポイントの逆風
為替変動——Internationalセグメントの売上・利益は現地通貨換算の影響を強く受ける(2026年5〜7月期は為替が売上に+1.5十億ドルの追い風)
Amazon・Costco等との価格競争が続く中、広告・会員という新しい収益源の成長率が鈍化するリスク
改善ポイント(優先度つき)
最優先 広告・会員収入の成長維持 広告事業+46%・会員収入等+4.7%という非対称な伸びを、両輪でどこまで底上げできるかが、薄利構造からの脱却度合いを測る最大の指標になる。
最優先 一時要因を除いた実力の可視化 2026年5〜7月期のように株式投資評価損益でGAAP純利益が大きく振れる構造は、投資家に誤読されやすい。調整後EPSと合わせた開示の充実が求められる。
中期 Sam's Club U.S.の利益率改善 営業利益率2.6%(FY2026)はWalmart U.S.の半分。燃料関連費用の変動を除いた収益性向上が課題。
中期 関税還付の使い道 会社は還付分を価格投資に振り向ける方針を明言している。短期の増益と長期の顧客基盤維持のバランスをどう取るかが問われる。
11 投資メリット・デメリット
「薄利高回転+圧倒的な物流網」という小売の王道モデルに、広告・会員という高収益レイヤーを重ねる戦略は着実に進んでいる。論点は、PER38.82倍という株価がその上乗せ分をどこまで織り込んでいるか。
▲ 強気材料(メリット)
53年連続増配の「配当王」。株主還元性向71.2%(FY2026)で安定した株主還元を継続
eコマース比率が3期連続で拡大(15.6%→17.9%→21.3%)し、Amazonへの対抗力が着実に強化されている
広告事業が前年比+46%と急拡大。高収益レイヤーの上乗せが利益率改善につながる可能性
ROIC15.37%は推定WACC7.08%を8.3ポイント上回り、資本コストを上回るリターンを継続的に生んでいる
2026年度6か月累計の純売上高は+6.6%と加速。会社はFY27通期ガイダンスを上方修正済み(純売上高+4.0〜5.0%、調整後EPS $2.80〜2.87)
▼ 弱気材料(デメリット)
PER38.82倍は同業のTarget(17.05倍)は元より小売業平均より高く、52週レンジの中間圏にある株価に成長期待が織り込まれている
営業利益率4.2%・純利益率3.10%と薄く、賃金・保険・関税等のコスト増に収益性が左右されやすい
2026年5〜7月期はGAAP EPSが前年同期比△9.1%と、営業利益の伸び(+28.8%)とは逆方向に動いた(株式投資評価損益による一過性要因)
会員収入等の伸び(+4.7%)は広告事業(+46%)に比べて鈍く、高収益レイヤーの拡大が広告頼みになっている
米国の薬価規制や関税・為替など、外部要因への感応度が引き続き高い
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ 広告・会員両輪の成長が続き、利益率改善が加速。FY2027調整後EPS $2.95×PER38倍=$112 (約17,500円換算)
中立シナリオ 会社ガイダンス中央値並み。FY2027調整後EPS $2.83(会社ガイダンス$2.80〜2.87の中央値)×PER35倍=$99 (約15,469円換算・現値比△8%)
弱気シナリオ コスト増・関税還付の一巡で増益ペースが鈍化。FY2027調整後EPS $2.70×PER28倍=$76 (約11,875円換算)
※FY2027(2027年1月期)の調整後EPSは、会社ガイダンス(2026-08-20時点、$2.80〜2.87)を起点とした筆者試算であり、会社予想でも市場コンセンサスそのものでもありません。
💡 はじめての方への総括: 見るべきは3つ。①広告・会員収入の伸び (広告+46%の勢いを維持できるか)、②GAAP純利益のブレ (株式投資評価損益で振れる回が多いため、調整後EPSと合わせて見る癖をつける)、③PERの水準 (38.82倍は小売業としては高め)。ウォルマートは「安さで勝つ」という強みを保ったまま、Amazon的な高収益事業を静かに積み上げている段階——その積み上げの速度が、今の株価を正当化できるかが最大の論点です。