01企業カルテ
直近12カ月(TTM・2025年4月〜2026年3月)実績と現在の市場評価。
売上高(TTM)
979億ドル
+2.3%・約15.9兆円換算
営業利益
49.0億ドル
(利益率5.0%・FY22の16.8%から急低下)
純利益
38.6億ドル
▲36.8%・EPS $1.09
PER(実績)
370.4倍
自動車メーカーとして極めて異例な水準
△
成長性
TTM売上+2.3%とほぼ横ばい。FY25は前年比マイナスだった
✕
収益性
営業利益率5.0%はFY22ピーク(16.8%)から3分の1以下に低下
○
財務健全性
自己資本比率59.0%、有利子負債92.3億ドルと財務は健全
△
株主還元
無配。FCFは+70億ドルとプラス圏を維持
✕
バリュエーション
PER370倍は自動車事業の実力とはかけ離れた、将来事業への期待込みの評価
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=162.40円概算。
💡 読み方:この会社を理解する鍵は「自動車事業の実力」と「株価」が大きく乖離しているという事実です。純利益は前年比▲36.8%まで落ち込んでいるのに、株価(時価総額)は逆に+38.1%上昇——市場は「今の車の商売」ではなく「将来の別の商売(自動運転・ロボット等)」に価値を見出しています。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、Teslaの稼ぎ方。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点「持続可能なエネルギーへの移行を加速する」というミッション
定説自動車メーカーは車を作って売ることで稼ぐ
逆説車の販売はあくまで入口。走行データを蓄積して自動運転(FSD)を開発し、将来は「車を売る会社」から「移動サービス・ロボットを提供する会社」への転換を目指す
現状の収益の柱は自動車販売とエネルギー貯蔵(蓄電池)事業。規模で見ると、自動車事業がFY2025売上948億ドルの73%(695億ドル)を占め圧倒的な主力。エネルギー貯蔵事業は13%(128億ドル)だが前期比+26.6%で急成長中。残る13%(125億ドル)は中古車販売・保険・充電(スーパーチャージャー)等のサービス等収入。ただし株式市場が評価しているのは、販売した車から集まる膨大な走行データを使って開発する完全自動運転(FSD)ソフトウェアと、それを応用したロボットタクシー・人型ロボット(Optimus)等の将来事業への期待——これらはまだ売上として実現していない。現在の自動車事業の利益率だけでは、現在の株価水準を説明できない。
💡 やさしく:Teslaの車を買うと、その車が走るたびにデータが集まります。会社はそのデータを使って「運転手のいらない車(自動運転)」を開発しようとしています。もしこれが実現すれば、車を売るだけでなく「タクシーサービス」や「ロボット」でも稼げるようになる——今の株価は、この「まだ実現していない未来」への期待も込みの値段です。
03成長の歩み — FY2022をピークに収益性が悪化
2022年に営業利益率16.8%のピークをつけて以降、価格競争激化とともに一貫して低下を続けている。
売上高の推移(FY2021〜FY2025・TTM)
単位:億ドル ■濃い棒=TTM(直近12カ月)
FY2025(2025年12月期)は前年比▲2.9%と、上場来ほぼ初めての減収となった。TTMではわずかに回復(+2.3%)しているが、成長の勢いは明らかに鈍化している。
営業利益率の推移(FY2021〜FY2025・TTM)
FY22の16.8%から一貫して低下
ROE・ROICの推移
FY22のピークから急落
ROIC52.7%(FY22)→7.3%(TTM)という劇的な低下は、値下げ競争による利益率悪化が資本効率全体を蝕んでいることを示す。中国BYD等の競合台頭による価格競争が背景にあるとみられる。
04今期の焦点 — PER370倍という異常値を分解する
自動車事業の実力(営業利益率5.0%)だけでは正当化できない株価評価の理由を考える。
「今の利益」と「株価評価」の乖離
通常の自動車メーカーのPERは10〜20倍程度
一般的な自動車メーカーのPERが10〜20倍程度であるのに対し、TeslaのPER370倍は純利益の370年分の値段が既についていることを意味する。市場はこの数字を「自動車会社としての利益」ではなく、「将来の自動運転・ロボットタクシー・Optimusロボット事業が生み出すであろう利益」を織り込んだ数字として評価していると解釈できる。
💡 やさしく:普通の自動車会社なら「今年儲けた分の10〜20年分」の値段で株が取引されますが、Teslaは「370年分」。これは「今の車の商売」だけでは説明がつかず、「将来、車以外の新しい商売(自動運転タクシーやロボット)が大化けする」という賭けに投資家がお金を払っている状態です。この賭けが当たるかどうかが、株価の最大の変数です。
「テック企業」として見ても突出した高評価
本サイト掲載の米テック大手6社のPERと比較(2026/7/17時点)
Teslaを自動車メーカーではなく「テック企業」として見ても、PER370.4倍は次点のApple(40.5倍)の9倍以上という突出した水準。NVIDIA(31.1倍、AI半導体という実際に急成長中の事業を持つ)と比べても10倍以上高い。つまりTeslaの評価は「割高なテック株」の中でも例外的な位置にあり、市場が織り込む期待の大きさが際立って高いことがわかる。
05セグメント — 車が主力、エネルギー事業が育ちつつある
FY2025通期の売上948億ドルの内訳。自動車が7割超を占めるが、エネルギー貯蔵事業が急拡大中。
セグメント別 売上構成(FY2025・億ドル)
自動車695億ドル・エネルギー128億ドル・サービス等125億ドル
セグメント別 売上高 前期比(FY2025)
自動車が減収の中、エネルギー貯蔵事業だけが急成長
読みどころ
- 自動車事業(売上の73%)が主力だが前期比▲9.8%の減収。価格競争・値下げの影響で収益の柱が揺らいでいる
- エネルギー貯蔵事業(同13%)は前期比+26.6%・46.7GWhの記録的な導入量で急成長。自動車事業の減収を一部相殺
- サービス等(同13%)も+19.0%で拡大。中古車販売・保険・充電(スーパーチャージャー)等を含む
- 会社の将来シナリオ(FSD・ロボタクシー・Optimus)はこの3区分のいずれにも明確に区分されておらず、実現時の収益インパクトは未知数
💡 やさしく:「車の会社」というイメージが強いですが、実は蓄電池を家庭・企業・電力会社に売る「エネルギー事業」が静かに急成長しています。車の売れ行きが鈍る中、このエネルギー事業がもう一つの成長エンジンになれるかが注目点です。
06財務3表ビジュアル
収益性は低下しても、財務体力自体は健全さを保っている。
PL滝グラフ — 売上高979億ドルはどこへ消えるか(TTM)
単位:億ドル
💡 やさしく:979億ドル売って、費用は930億ドル。本業のもうけは49億ドル(5.0%)しか残りません。これはNVIDIA(64%)はもちろん、一般的な自動車メーカーと比べても見劣りする水準です。
BS比例図 — 総資産1,437億ドルの中身(TTM末)
自己資本比率59.0%
キャッシュフロー(TTM)
単位:億ドル。営業CF165億ドル
FCF(stockanalysis.com算定)は+70億ドルと依然プラスを維持。収益性は悪化しているが、財務的な危機というわけではない。
07収益性 — ROE4.7%を分解する
ROE4.7%(TTM)をデュポン分解で見る。ピーク時からの劣化ぶりを確認する。
=
3.9%
売上高純利益率
値下げ競争でFY22比大幅低下
× 0.68回
総資産回転率
工場・設備投資の拡大で資産増加
× 1.69倍
財務レバレッジ
自己資本比率59.0%と健全
平均残高ベースの筆者概算。純利益率の低下が全体を押し下げる主因で、財務レバレッジ・回転率は大きく変わっていない——つまり問題は「値下げ競争による利益率の劣化」に集約される。
08会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
TeslaはUS-GAAP採用。自動車メーカーとしての会計処理の特徴を見る。
会計基準による見え方の違い
- 工場(ギガファクトリー)等の設備投資は資産計上され、減価償却の負担が今後も利益を圧迫する要因になり得る
- 研究開発費(FSD開発費含む)は原則費用処理され、将来の自動運転事業の「価値」はBS上には表れない
- 「経常利益」区分はなく、営業利益の下は金融損益等のみ
- JGAAPでも大枠は同様だが「経常利益」区分が復活する
- IFRSも大枠は同様。開発費の一部資産化ルールの違いはあるが、影響は限定的とみられる
💡 やさしく:会計上、FSD(自動運転技術)の開発にかけたお金は「費用」として利益を減らすだけで、決算書の「資産」には計上されません。つまり市場が期待する「将来の価値」は、今の決算書のどこにも数字として表れていないのです。
09米テック比較 — 「車の会社」か「テック企業」か
自動車メーカーとしてではなく、テクノロジー企業として評価されている点で異色の存在。
時価総額1.43兆ドルは、本サイト掲載のApple・NVIDIA・Microsoft・Amazonと比べると小さいが、それでも一般的な自動車メーカー(PER10〜20倍水準)とは全く異なるテック企業型の評価(PER370倍)を受けている点が特異。
💡 やさしく:Teslaは「車を作る会社」に分類されがちですが、株式市場での値段のつき方は完全に「テクノロジー企業」型です。トヨタと比べるより、AI関連のテック企業と比べる方が、この株価の意味を理解しやすいかもしれません。
10戦略・課題と改善ポイント
旗印は「持続可能なエネルギーへの移行」から「自動運転・ロボットへの転換」へ。課題は自動車事業の収益性回復と将来事業の実現。
強み Strengths
- EVパイオニアとしてのブランド力と膨大な走行データ蓄積
- 自己資本比率59.0%と財務は依然として健全
- FCF+70億ドルとプラス圏を維持
- FSD・ロボットタクシー・Optimus等、複数の将来事業の種を保有
弱み Weaknesses
- 営業利益率5.0%とFY22ピークから3分の1以下に低下
- ROE4.7%・ROIC7.3%と資本効率が大幅悪化
- FY25は前年比減収と成長も鈍化
- PER370倍は自動車事業の実力からは大きく乖離した評価
機会 Opportunities
- FSD(完全自動運転)の実用化が進めば新たな収益源に
- ロボットタクシー事業の本格展開
- Optimus(人型ロボット)事業の商業化
- エネルギー貯蔵(蓄電池)事業のさらなる拡大
脅威 Threats
- 中国BYD等、EV市場での価格競争激化
- 自動車事業の収益性がさらに悪化するリスク
- FSD・ロボットタクシー等の将来事業が期待通りに実現しないリスク
- PER370倍という評価が調整される際の株価下落リスク
改善ポイント(優先度つき)
最優先自動車事業の収益性回復
値下げ競争からの脱却、あるいは新モデルによる高付加価値化が、営業利益率5.0%からの回復の鍵。
最優先FSD・ロボットタクシー事業の実現
株価が織り込む将来事業が、実際にいつ・どの規模で収益化するかが最大の投資論点。
中期成長率の回復
FY25の減収から、新モデル投入等でどう成長軌道に戻すか。
11投資メリット・デメリット
「自動車事業としての実力は明確に悪化中。論点はPER370倍が正当化する将来事業(FSD・ロボット)への賭けが実るか」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
- FSD・ロボットタクシー・Optimus等、複数の将来事業への布石
- 財務は依然健全(自己資本比率59.0%、FCF+70億ドル)
- EVパイオニアとしてのブランド力とデータ蓄積
- エネルギー貯蔵事業という第二の柱
▼ 弱気材料(デメリット)
- 営業利益率5.0%はFY22ピーク(16.8%)から劇的に悪化
- ROE・ROICともにFY22ピークから大幅低下
- FY25は減収、TTMも成長率+2.3%と鈍化が鮮明
- PER370倍は自動車事業の実力とかけ離れ、将来事業が実現しない場合の下落リスクが大きい
- 中国EVメーカーとの価格競争が構造的な逆風として続く
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオFSD・ロボットタクシーが本格収益化し、テック企業としての評価が定着
中立シナリオ自動車事業の利益率が横ばいで推移、将来事業は緩やかに進捗
弱気シナリオ価格競争激化・将来事業の遅延でPERが自動車メーカー並みに収斂、株価大幅調整
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①自動車事業の利益率(5.0%からの回復有無)、②FSD・ロボットタクシーの実用化進捗、③中国EVメーカーとの競争状況。「PER370倍」という数字は、今の会社ではなく"将来なるかもしれない会社"に払っている値段だと理解することが、この銘柄を評価する上で最も重要です。