🕒 最終更新: 2026-09-12
スターバックス Starbucks Corporation・SBUX
Nasdaq US-GAAP 9月決算
コーヒーチェーン FY2025通期決算まで反映
世界最大のコーヒーチェーン。だが売っているのはコーヒーではなく「第3の場所(サードプレイス)」 という滞在体験。FY2025(2025年9月期)の純収益は371.8億ドル(約5.7兆円)だが、「Back to Starbucks」再建の途上で営業利益率は前期15.0%から7.9%へ急落 。店舗の閉鎖・人員再編にともなうリストラ費用8.9億ドルを計上した1年だった。一方、直近四半期(Q4)は7四半期ぶりに既存店売上がプラス転換し、再建の兆しも出ている。
💡 はじめての方へ: スターバックスの飲み物は原価だけで見ればコンビニのコーヒーとそう変わりません。それでも高い価格で売れるのは、Wi-Fi・座席・BGM・接客がセットになった「そこにいていい場所」 を売っているからです。1987年にハワード・シュルツがイタリアのエスプレッソバー文化からこの発想を持ち込み、単なる「コーヒー豆屋」を「滞在体験を売る店」に変えたことが、今日の4万店超のビジネスの出発点になっています。
※FY2025通期(2025年9月期・2025年10月29日発表)を反映済み 。財務3表・収益性・会計基準ビュー・同業比較はFY2025通期の確定実績、株価・同業比較は2026年9月11日時点。
① 企業カルテ ② ビジネスモデル図解 ③ 成長の歩み ④ 「Back to Starbucks」再建の中身 ⑤ 財務3表 ⑥ 収益性 ⑦ 会計基準ビュー ⑧ 同業比較 ⑨ 課題と改善点 ⑩ 投資判断
01 企業カルテ
FY2025通期実績(2025年9月期・2025/10/29発表)と2026年9月11日時点の市場評価。
純収益 (FY2025)
371.8億ドル
前期比+2.8%・約5.73兆円(154.04円換算)
営業利益
29.4億ドル
営業利益率 7.9%(前期15.0%から急落)
純利益
18.6億ドル
純利益率5.0%・EPS $1.63(前期$3.31)
期末店舗数
40,990店
直営52.5%・ライセンス47.5%
リストラ費用
8.9億ドル
627店舗の閉鎖・支援組織の再編
時価総額
1,130.9億ドル
約17.4兆円・株価$99.22(26/9/11)
PER (実績TTM)
57.0倍
予想33.7倍・PBR 算出不可(自己資本マイナス)
ROIC (筆者試算)
51.0%
自己資本マイナスにより見かけ上押し上げ(本文参照)
△
成長性
FY2025の純収益は+2.8%と緩やかな伸び。既存店売上はFY2025通期で▲1%だったが、直近Q4は+1%へ転換し底打ちの兆し
×
収益性
営業利益率7.9%(前期15.0%)・純利益率5.0%(前期10.4%)へ急落。リストラ費用と人件費インフレが直撃
×
財務健全性
自己資本比率 ▲25.3%。長年の自社株買いの累積で自己資本そのものがマイナスになっている(FY2025単年の自社株買いは0ドル)
△
株主還元
FY2025の株主還元は配当27.7億ドルのみ(自社株買いは停止)。純利益比149%で、稼いだ以上を配当に充てている
×
バリュエーション
PER57.0倍は利益急減の裏返しで見かけ上割高。予想PER33.7倍は再建後の利益回復を織り込んだ水準
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=154.04円(2026/9/11)。市場データ(時価総額・PER・52週レンジ)はstockanalysis.comの2026年9月11日取得値。実績PER56.99倍・予想PER33.66倍、52週レンジ$77.99〜$110.51。
💡 読み方: PER57倍だけ見ると「バブル的に割高」に見えますが、これは分母のEPSが再建コストで一時的に潰れているためです。予想PER33.7倍 (今期の業績回復を織り込んだ数字)で見るとやや現実的になります。ただし、それでも同業のマクドナルド(PER20.6倍)より明確に高く、市場は「Back to Starbucks」の成功をかなり織り込んでいる という点は押さえておく必要があります。
02 ビジネスモデル図解
モノ(緑 )・カネ(黄 )・情報(青 )の流れで見る、スターバックスの3つの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点 1971年シアトル1号店(生豆焙煎店)。1987年、当時マーケティング責任者だったハワード・シュルツが買収し、イタリア式エスプレッソバーの「店内で過ごす」体験を米国に導入して現在の業態へ転換
定説 コーヒーチェーンは、コーヒー豆や飲料を仕入れて加工し、飲食物として販売して稼ぐ飲食業
逆説 スターバックスが本当に売っているのは、原価の低いコーヒーそのものではなく「第3の場所(サードプレイス)」 という滞在体験。同じ「スターバックスの店」でも直営店 とライセンス店 では稼ぎ方がまったく違う。直営店収益は純収益の82.7%を占めるが、店舗数ベースでは直営52.5%・ライセンス47.5%とほぼ半々——つまり店舗の半分近くを占めるライセンス店は、ロイヤリティと商品卸売という「薄い取り分」しか生んでいない 。空港・高速道路など自社で運営しきれない立地は看板だけ貸し、収益性の高い中心市街地は直営で「第3の場所」を直接運営する使い分けが利益の源泉
収益は3層構造。直営店収益 307.4億ドル(純収益の82.7%)は消費者から直接受け取る売上そのもの。ライセンス店収益 43.5億ドル(11.7%)はライセンシー(提携先企業)から受け取るロイヤリティ・コーヒー豆等の卸売代金で、店舗の運営コスト(人件費・賃料)はライセンシー側が負担するため、直営店より薄いが安定した取り分になる。その他収益 20.9億ドル(5.6%、主にChannel Development=ネスレとのグローバルコーヒーアライアンスを通じたスーパー等の棚向け商品販売)は店舗網すら経由しない第3のルート。この3層のうちChannel Developmentの営業利益率は47.3%と圧倒的に高く 、直営(11.5%)・ライセンス収益を含むInternational(12.1%)を大きく上回る——「店を持たずに商品だけ流す」ほうが利益率は高いという逆説がここにもある。
💡 やさしく: あなたが空港のスターバックスでコーヒーを買っても、そのお店は実はスターバックス本社が運営していないことがあります。本社は看板とレシピ、コーヒー豆を貸し出し、ロイヤリティを受け取るだけ 。逆に、街中の主要な店舗の多くは本社が直接雇い、直接運営しています。同じ緑のロゴでも、裏側の契約はまったく別物なのです。
03 成長の歩み — 増収は続くが、FY2025に利益だけが崩れた
純収益はFY2021の290.6億ドルからFY2025の371.8億ドルへ5年で1.28倍と着実に増えてきた。ところがFY2025は増収なのに営業利益が前期比▲45.7% という異常な年になった。
純収益の推移(FY2021〜FY2025) 単位:億ドル ■濃い棒=直近期。9月決算
営業利益率の推移 FY2025はリストラ費用8.9億ドルの計上で急落
FY2021〜FY2024は14〜17%のレンジで推移していたが、FY2025は7.9%へほぼ半減。人件費インフレへの対応(FY2022の労働力投資)と、FY2025の店舗閉鎖・組織再編コストという2度の「利益率を犠牲にした投資」局面 が重なっている。
純利益の推移 単位:億ドル
FY2021の42.0億ドルから、FY2022はいったん32.8億ドルへ落ち込み、FY2023に41.2億ドルまで戻したが、FY2025は18.6億ドルへ再び大きく落ち込んだ 。増収を続けながら利益だけが不安定という点が、この5年のスターバックスの特徴。
04 「Back to Starbucks」再建の中身 — 北米事業の営業利益率が18.7%→4.5%へ
2024年9月に就任したブライアン・ニコルCEOが掲げる再建計画「Back to Starbucks」の1年目の決算がFY2025。627店舗の閉鎖と組織再編で8.9億ドルのリストラ費用 を計上し、利益を大きく圧縮した一方、Q4には既存店売上が7四半期ぶりにプラス転換 した。Q4単体の実績は純収益95.69億ドル・営業利益2.78億ドル(営業利益率 2.9%)・純利益1.33億ドル・EPS $0.12(非GAAP EPS $0.52)で、リストラ費用の大半(6.5億ドル)がこの四半期に集中計上された。
既存店売上の前年比較 — 7四半期ぶりに世界全体がプラス転換(Q4) 単位:%。前年同期(Q4 FY2024)と直近四半期(Q4 FY2025)の比較
1年前のQ4 FY2024は北米▲6%・インターナショナル▲9%と両輪が二桁近く落ち込んでいたが、Q4 FY2025は北米が横ばい(0%)、インターナショナルが+3%まで回復し、世界全体では+1%と7四半期ぶりのプラス に転じた。会社は9月の月次で米国既存店売上がプラスに転じたとコメントしており、再建施策(接客時間の目標設定・メニュー簡素化・手書きカップ等の「体験の再構築」)が数字に出始めている。
💡 やさしく: 「既存店売上」とは、新規出店の効果を除いた「同じ店が去年より売れたか」を示す数字です。1年前は多くの店で客足が減っていましたが、今は下げ止まり、一部は増加に転じました。お店を増やして売上を作る段階から、今ある店を良くして売上を作る段階へ ——スターバックスの戦略が変わったことがこの数字に表れています。
セグメント別営業利益率の急落(FY2024→FY2025) 単位:%。通期実績
最も傷んだのは北米(North America) で、営業利益率が19.8%→11.5%(通期)、直近Q4だけ見ると18.7%→4.5% まで落ち込んだ。北米はスターバックスの店舗の45%・売上の74%を占める最大市場であり、セグメント としての傷の深さが全社利益率を直接押し下げている。Channel Development(ネスレとの提携)は47.3%と依然として高利益率を保っており、「店を運営する事業」ほど再建コストの影響を強く受けている 構図が読み取れる。
リストラ費用8.9億ドルの内訳(FY2025・セグメント別) 単位:億ドル。627店舗の閉鎖+支援組織の再編
リストラ費用8.9億ドルのうち73%(6.5億ドル)が北米 に集中しており、閉鎖627店舗の90%超も北米に所在する。次いでCorporate and Other(本社機能の再編)が1.5億ドル。「不採算店を閉じて、残った店の体験に投資し直す」 という再建の設計思想が、費用の分布そのものに表れている。
05 財務3表ビジュアル
リストラ費用で圧縮されたP/L、自己資本がマイナスというユニークなB/S、それでも配当は維持したC/F——再建1年目の財務の姿を3枚で見る。
PL滝グラフ — 純収益371.8億ドルはどこへ消えるか(FY2025) 単位:億ドル
💡 やさしく: 371.8億ドルの売上から、原材料費・店舗運営費など通常の費用(336.0億ドル)に加えてリストラ費用8.9億ドル を特別に引き、提携先からの持分法投資利益2.5億ドルを足し戻した結果、営業利益は29.4億ドルまで圧縮されました。リストラ費用がなければ営業利益は38.3億ドル(利益率10.3%)——一時費用がなければ、まだ二桁近い利益率を保てていた という見方もできます。
BS比例図 — 自己資本がマイナスの財務構造(FY2025末) 箱の高さ=金額。自己資本比率 ▲25.3%
自己資本比率は -25.3%。総資産320.2億ドルに対し、株主資本は▲81.0億ドル(マイナス) 。これは経営不振の兆候ではなく、過去10年以上にわたる大規模な自社株買いが、利益剰余金を上回るペースで自己資本を取り崩し続けた結果 。負債の中には有利子負債160.7億ドルに加え、店舗リース由来のオペレーティングリース負債 105.4億ドル(使用権資産93.2億ドル)が含まれ、4万店超を「借りて」運営する事業モデルの重さがBSに表れている。
キャッシュフロー(FY2025) 単位:億ドル。営業CF 47.5億ドル
営業CF47.5億ドルに対し設備投資23.1億ドルで、FCF は24.4億ドル。この年の株主還元は配当27.7億ドルのみ(自社株買いは0ドル) で、還元性向は純利益の149%——稼いだ以上を配当に充てて自己資本をさらに削っている 状態。財務CFが▲23.0億ドルなのはこの配当と借入の純返済によるもの。
06 収益性 — ROEが「壊れている」実例、だからROICで見る
スターバックスは自己資本がマイナスのため、ROE という指標そのものが機能しない。収益性はROIC で見る必要がある。
ROEが機能しない実例 FY2025・平均残高ベース
ROE=純利益18.6億ドル÷平均株主資本▲77.7億ドル=▲23.9% 。純利益 は黒字なのに、ROEの符号はマイナスになる——分母(自己資本)そのものがマイナスだからだ。デュポン分解 (利益率×回転率×レバレッジ)もレバレッジ項の符号が壊れるため実施できない。本サイトの他社(トヨタ・任天堂・オイシックス等)とは異なり、スターバックスはROEというツールが分析上の意味を持たない稀な実例 ——これは経営破綻を意味せず、長年の株主還元(自社株買い)の副産物である。
💡 やさしく: 「自己資本がマイナス」と聞くと不安になりますが、これは会社が儲けた以上のお金を何年もかけて株主に還元し続けた結果 です。家計に例えると、貯金(自己資本)を全部取り崩してさらに借金してでも配当を払い続けている状態。稼ぐ力そのもの(ROIC)は健全でも、財務の「バッファー」は薄いという二面性を理解する必要があります。
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)単位:%。FY2025末時点
ROIC=NOPAT(営業利益29.37億ドル×(1−実効税率25.9%)=21.76億ドル)÷投下資本(株主資本▲81.0億ドル+有利子負債160.7億ドル−現金・有価証券37.1億ドル=42.6億ドル)=51.0% 。推定WACC約8.3%を大きく上回るが、この高さの半分は「自己資本がマイナスで投下資本の分母自体が小さい」という財務構造の産物 であり、本サイトの他社のROICと単純比較すべきではない。それでも営業利益率7.9%まで落ち込んだ年でも資本効率自体は崩れていないことは確認できる。
07 会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
スターバックスはUS-GAAP 採用。4万店超のリース資産の扱いと、のれんの償却有無が読み方の鍵になる。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2025) 単位:億ドル
詳しく見る:会計基準の技術的差異(US-GAAP/JGAAP/IFRS)
US-GAAP(採用中) JGAAPならこう見える IFRSならこう見える
約9,300店を超える店舗のオペレーティングリース を、ASC842に基づき使用権資産93.2億ドル・リース負債105.4億ドルとしてBSに両建て計上している。米国基準は2019年から現行方式で、日本基準より早く「借りている店舗」を資産・負債として可視化してきた
のれん 33.7億ドルは非償却・減損テストのみ。買収(Teavana、上海国有パートナー持分の買い取り等)由来だが、総資産に占める比率は10.5%とVisaのような金融・決済業と比べて小さい
非GAAP EPSはリストラ・減損費用を除外して算出され、FY2025は$2.13(GAAP EPS $1.63の1.3倍)。この差額そのものが「再建コストの規模」を表す
「経常利益」区分はなく、営業利益の下に金融収支(受取利息・支払利息)が並ぶ。FY2025の営業外損益は▲4.3億ドルとGAAP上の営業利益(29.4億ドル)に対して重みを持つ水準
JGAAPならのれん33.7億ドルは20年以内の規則償却が必要。均等償却なら年1.7億ドルの追加費用が発生し、営業利益は29.4億ドル→27.7億ドル、営業利益率は7.9%→7.4%に見える
日本基準のリース会計は伝統的に賃借料を単純な費用(オフバランス)として扱う実務が中心だった(新リース基準の議論はあるが本稿執筆時点で未強制適用)。その考え方に寄せると、使用権資産93.2億ドル・リース負債105.4億ドルはBSに計上されず、総資産・総負債とも圧縮され、自己資本比率のマイナス幅の見え方が変わる (分母である総資産が小さくなるため、比率自体はより大きくマイナスに振れる)
「特別損失」という区分があるため、日本基準ならリストラ費用8.9億ドルは営業利益の外(特別損失)に計上される可能性が高く、その場合の営業利益率は7.9%ではなく10.3%(=リストラ除きベース)に近い数字として表示される
IFRS16は米国のASC842とほぼ同じ考え方でリースを両建て計上するため、リース処理の差はUS-GAAPとほぼ生じない
IFRSでは「表示上の区分」の裁量が大きく、リストラ費用を「その他の費用」として営業利益の下に置く企業も多い。その場合、Starbucksが採用している「営業費用に含める」表示よりも営業利益は高く見える
のれんはIFRSも非償却・減損テストのみでUS-GAAPと同じ思想。ただし減損の戻し入れ(一度計上した減損の取り消し)はIFRSでは認められる場合があり、US-GAAPより柔軟
💡 やさしく: 「営業利益率7.9%」という数字は、627店舗を閉じるための一時費用を含んだ数字です。もし日本の会計基準のように、この費用を「特別損失」という別枠に出せたなら、本業の実力を示す営業利益率は10.3%に見えたはず。会計上どこに費用を置くかで、同じ実態でも「本業が弱っている」ようにも「一時的な出費だっただけ」のようにも見える ——これが会計基準を学ぶ意味です。
08 同業比較 — 「直営で運営する側」と「看板を貸す側」の利益率格差
マクドナルド(MCD)・レストラン・ブランズ・インターナショナル(QSR=バーガーキング等)・ヤム・ブランズ(YUM=KFC等)はいずれも店舗の9割超がフランチャイズ(ライセンス)。直営比率が52.5%と高いスターバックスと比較する(2026/9/11時点)。
純利益率の比較 単位:%。直近12か月(TTM)実績
スターバックスの純利益率5.17%(TTM)に対し、マクドナルド31.72%・QSR13.13%・YUM25.41% ——いずれもスターバックスの2.5〜6倍の水準にある。差の最大の理由は直営 比率で、マクドナルド・QSR・YUMは店舗の9割超をフランチャイズ化し、人件費・賃料・食材費という重い固定費をフランチャイジー側に転嫁している。スターバックスは直営52.5%という他の大手チェーンにない「重い」構造を選んでいる ため、景気や人件費インフレの影響を直接受けやすい。
💡 やさしく: マクドナルドは「不動産を貸してロイヤリティを受け取る大家業」に近い構造で、利益率が高く安定します。スターバックスは自分で店を運営する比率が高いぶん、儲けも大きくなり得ますが、コスト増の影響も直接受けます。「第3の場所」という体験の質を自社でコントロールし続けるための代償 が、この利益率の差に表れています。
バリュエーション・配当の比較 2026/9/11時点
PERはスターバックス57.0倍が突出して高く、マクドナルド20.6倍・QSR20.5倍・YUM18.1倍とほぼ横並びの同業3社を大きく上回る。これはスターバックスの分母(EPS)が再建コストで一時的に潰れているための見かけ上の割高感 で、予想PER33.7倍まで下がる。配当利回りはQSR3.42%・マクドナルド2.94%・スターバックス2.50%・YUM2.11%の順。PBR・ROEはスターバックス・マクドナルドともに自己資本がマイナス(またはごく小さい)ため算出不可 ——大規模な自社株買いを続けてきた成熟した米国外食企業に共通する現象である。
09 戦略・課題と改善ポイント
ブランド力・店舗網という土台は強固。課題は「再建コストが利益を圧迫する期間をどう短縮するか」と「北米事業の構造的な立て直し」に集約される。
強み Strengths
世界40,990店舗・年間純収益371.8億ドルという規模と、40年以上かけて築いた「サードプレイス」ブランド
直営52.5%・ライセンス47.5%という使い分けにより、収益性の高い旗艦立地は自社運営、拡張が難しい立地は看板貸しで拡大できる柔軟性
ネスレとのグローバルコーヒーアライアンス(Channel Development、営業利益率47.3%)という高利益率の第3の収益源
62四半期連続の配当支払い実績(配当CAGR約18%)という株主還元の継続性
弱み Weaknesses
北米事業の営業利益率がFY2024の19.8%からFY2025は11.5%(Q4だけなら18.7%→4.5%)へ急落。全社利益の大半を稼ぐ最大市場が最も傷んでいる
自己資本比率 ▲25.3%。財務的なバッファーが薄く、今後大きな投資や景気後退が重なった場合の耐性に不安が残る
FY2025のリストラ費用8.9億ドルが営業利益率を約2.4ポイント押し下げた。再建コストの計上がいつ終わるか不透明
直営比率が同業(マクドナルド等)より高く、人件費インフレ・最低賃金上昇の影響を直接受けやすい構造
還元性向149%(配当が純利益を上回る)が続けば、さらに財務的な余力を削ることになる
機会 Opportunities
Q4に既存店売上が7四半期ぶりにプラス転換(世界+1%)。「Back to Starbucks」施策(接客時間の目標設定・メニュー簡素化)の効果が出始めている可能性
インターナショナル事業は既存店売上+3%(Q4)・中国+2%と、北米より早く回復の兆しが見える
Channel Developmentのような「店舗を介さない」高利益率の収益源をさらに拡大できる余地
ライセンス店比率をさらに高めれば、直営で抱えている固定費リスクを構造的に下げられる(ただし「第3の場所」の質の管理という強みとのトレードオフ)
脅威 Threats
米国の最低賃金上昇・労働組合活動(一部店舗で組合結成の動き)による人件費のさらなる上昇圧力
コーヒー豆(アラビカ種)の国際相場・気候変動による調達コストの変動
中国市場での現地コーヒーチェーン(低価格帯)との競争激化
自己資本がマイナスの状態が続く中で、金利上昇局面では有利子負債160.7億ドルの借換コストが利益をさらに圧迫するリスク
改善ポイント(優先度つき)
最優先 北米事業の営業利益率の底打ち確認 Q4だけで見ると18.7%→4.5%まで落ち込んだ北米事業が、リストラ完了後にどこまで回復するかが再建の成否を決める。次の四半期以降の推移が最重要指標。
最優先 既存店売上プラス圏の定着 Q4に世界+1%へ転換したのは1四半期のみ。次のQ1 FY2026以降も継続してプラスを維持できるかが、市場が織り込む予想PER33.7倍を正当化できるかの分かれ目になる。
中期 財務バッファーの再構築 自己資本▲81.0億ドル・還元性向149%の状態が続けば、次の景気後退時に配当維持と事業投資の両立が難しくなる。配当据え置きのまま増益で自然に還元性向を下げる道筋が必要。
中期 ライセンス比率の最適化 マクドナルド等と比べて低い47.5%というライセンス比率をどこまで引き上げれば、体験の質を落とさずに固定費リスクを下げられるかの見極め。
10 投資メリット・デメリット
「ブランドと店舗網は健在、利益率は再建途上」という構図に対し、PER57.0倍(予想33.7倍)という株価がどこまで回復を先取りしているかが最大の論点。
▲ 強気材料(メリット)
Q4に既存店売上が7四半期ぶりに世界全体でプラス転換(+1%)。北米も前年同期▲6%から横ばい(0%)へ改善
リストラ費用8.9億ドルは一時費用であり、除けば営業利益率は10.3%相当——本業の実力はまだ二桁近い水準にある
Channel Development(営業利益率47.3%)という高収益の第3の収益源を持つ
62四半期連続配当という株主還元の継続実績。ブランド力・店舗網という土台自体は揺らいでいない
インターナショナル事業(+3%)・中国(+2%)は北米より早く既存店売上の改善が見えている
▼ 弱気材料(デメリット)
PER57.0倍は同業(マクドナルド20.6倍・QSR20.5倍・YUM18.1倍)を大幅に上回り、再建成功をかなり織り込んだ株価
自己資本比率▲25.3%と財務バッファーが薄い状態で、還元性向149%(配当が純利益を上回る)が続いている
北米事業の営業利益率がQ4だけで見ると4.5%まで落ち込んでおり、通期での回復ペースが不透明
直営比率52.5%という構造上、人件費インフレ・最低賃金上昇の影響を同業より直接的に受ける
再建1年目のQ4でも既存店売上+1%にとどまり、力強い回復と呼べる水準にはまだ達していない
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ 既存店売上のプラス転換が定着し、北米の営業利益率が二桁台へ回復。FY2027非GAAP EPS $3.60×PER32倍=$115.2 (約1万7,745円換算)
中立シナリオ 市場予想並み。予想PER33.66倍からの逆算値であるFY2026非GAAP EPS想定$2.95を据え置き、FY2027非GAAP EPS $2.95×PER30倍=$88.5 (約1万3,633円換算・現値比▲11%)
弱気シナリオ 既存店売上マイナスが再燃し、人件費インフレと再建コストが長期化。FY2027非GAAP EPS $2.30×PER22倍=$50.6 (約7,794円換算)
※起点となるFY2026(2026年9月期)の非GAAP EPSについて、会社は現在正式な数値ガイダンスを非公表。上記$2.95は2026年9月11日時点の株価$99.22と予想PER33.66倍から逆算した市場コンセンサス相当の参考値(二次データ)であり、会社予想でも本サイトの独自試算そのものでもない。3シナリオはその翌期(FY2027)を対象とした筆者試算。
💡 はじめての方への総括: 見るべきは3つ。①既存店売上の継続性 (Q4の+1%が1四半期の反発なのか、トレンドの転換なのか)、②北米事業の営業利益率の回復ペース (Q4は4.5%まで落ち込んだ最重要セグメント)、③財務バッファー (自己資本がマイナスの状態で配当を維持し続けられるか)。スターバックスの「第3の場所」というブランドの強さ自体に疑いは少ないですが、再建のスピードと株価がすでに織り込んでいる期待のスピードが釣り合っているか を見極める必要がある局面です。