JPモルガン・チェース JPM
NYSE US-GAAP 12月決算
ユニバーサルバンク データ基準日 2026/7/24
投資銀行・商業銀行・資産運用・トレーディングを併せ持つ、総資産4.42兆ドル(約724兆円)の世界最大級ユニバーサルバンク。2026年第2四半期は純利益211.6億ドル・四半期として過去最高 を記録。実は稼ぎの主役は個人向け銀行ではなく、大企業・機関投資家向けの投資銀行部門(CIB)。
💡 はじめての方へ: 「JPモルガン」も「チェース」も、日本でいえば三菱UFJ銀行のような米国の巨大銀行ブランドですが、もとは別々の会社でした。1799年創業の商業銀行「チェース」と、19世紀末に恐慌時のアメリカ経済を陰で支えた名門投資銀行「J.P.モルガン」が2000年に合体し、2004年にバンク・ワンを吸収して今の姿になりました。街角のATMを持つ銀行でありながら、実際の稼ぎ頭はウォール街の企業買収助言・株式トレーディング部門という、二つの顔を持つ会社です。
① 企業カルテ ② ビジネスモデル図解 ③ 成長の歩み ④ 今期の焦点 ⑤ 事業セグメント ⑥ 財務3表 ⑦ 収益性 ⑧ 会計基準ビュー ⑨ 同業比較 ⑩ 課題と改善点 ⑪ 投資判断
01 企業カルテ
2025年12月期(本決算・2026年2月13日提出10-K確定値)実績と現在の市場評価。
純収益 (managed基準・FY2025)
1,856億ドル
+3%・約30.4兆円換算
当期純利益 (FY2025)
570億ドル
△2%・EPS $20.02
ROE (会社発表)
17%
前期18%(算式は⑦で解説)
自己資本比率 (CET1・規制ベース)
14.6%
規制所要水準を大きく上回る
時価総額 (2026/7/24)
9,389億ドル
約153.7兆円・世界最大級の銀行
PER (実績TTM)
15.02倍
米メガバンクの中で最高水準
PBR
2.66倍
株価$353.21÷簿価$133.01
配当利回り
1.70%
配当+自社株買いで年470億ドル超還元
◎
成長性
2026年第2四半期は純利益211.6億ドルと四半期として過去最高。CIB(投資銀行・トレーディング)が急拡大中
◎
収益性
ROE17%・ROTCE20%(会社発表)は米メガバンクの中でも圧倒的な水準
○
財務健全性
CET1比率14.6%は規制所要水準を明確にクリアするが、自社株買いで低下傾向(前期15.7%)
○
株主還元
2025年は自社株買い316億ドル・配当156億ドル程度(概算)と積極的な還元姿勢
△
バリュエーション
PER15.02倍・PBR2.66倍は米メガバンクの中でも最高水準、既に高い評価が織り込み済み
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=163.75円(2026/7/24)。
💡 読み方: 2026年第2四半期の純利益には、決済ネットワーク会社Visaの株式売却益46億ドル(保有していたVisa Class B株式の一部を交換・売却、税引き前ベース)という一時的な利益が含まれています。会社発表の非GAAP調整(単純な引き算ではなく税効果等も加味した算定)で、これを除いた「地力」の純利益は169億ドルとされ、それでも前年から伸びています。決算発表を見るときは「一時的な特別益」と「本業の伸び」を分けて見る癖をつけると、実力がより正確に見えてきます。
02 ビジネスモデル図解
モノ・サービス(緑 )・カネ(黄 )・情報(青 )の流れで見る、JPモルガンの稼ぎ方。
カネの流れ
金融サービスの流れ
出資・情報の流れ
起点 1799年創業「マンハッタン・カンパニー銀行」を源流とする商業銀行チェースと、名門投資銀行J.P.モルガンが2000年に統合、2004年にバンク・ワンを吸収して誕生した米国最大の銀行
定説 銀行は預金を集めて貸し出す「預貸金利ざや」で稼ぐ
逆説 実際の最大の稼ぎ頭は、街角の個人向け銀行業務ではなく、大企業・機関投資家向けの投資銀行手数料とトレーディング収益(CIB部門)。2025年通期は同部門が全社の純収益の42%・純利益の49%を稼ぎ出し、個人向け銀行の消費者・地域銀行部門(CCB)を上回った
個人・中小企業(CCB)からの預金は依然として最大の資金調達源だが、収益の主戦場は大企業・機関投資家向けのM&Aアドバイス・株式/債券引受・マーケットメイク(CIB) と、富裕層・年金基金向けの資産運用(AWM) に広がっている。さらに、決済ネットワーク大手Visaの株式(Class B) を保有し続けており、2026年第2四半期には保有株の一部交換・売却で46億ドルの利益を計上した——「銀行」という名前から連想される預貸金利ざやビジネスは、稼ぎの一部にすぎない。
💡 やさしく: 普通の銀行は「安い金利で預金を集めて、高い金利で貸し出す」差額(利ざや)で儲けます。JPモルガンもこの商売はしていますが、それ以上に儲けているのが、大企業のM&A(合併・買収)を助言したり、株や債券を売買する仲介をしたりする「ウォール街の仕事」です。2025年は投資銀行・トレーディング部門(CIB)だけで、会社全体の利益のほぼ半分を稼ぎ出しました。「街の銀行」の顔と「ウォール街の投資銀行」の顔、両方を持つのがJPモルガンの正体です。
03 成長の歩み — 10年で純利益が2.3倍
2008年の金融危機でベアー・スターンズとワシントン・ミューチュアルの銀行部門を買収し危機の勝者として台頭。2016年の純収益966億ドルから、2025年は1,824億ドル(reported基準)へ拡大した。
純収益の推移(reported基準・億ドル) FY2016〜FY2025 ■濃い棒=直近期
当期純利益の推移(億ドル) 2020年はコロナ禍の与信費用増で落ち込み、その後回復基調
ROEの推移(%・筆者算出) 期末自己資本の単純平均ベース(算式は⑦で解説)
2000年にJ.P.モルガンとチェース・マンハッタンが統合、2004年にバンク・ワン(今のCEOジェイミー・ダイモン氏の出身元)を吸収。2008年の金融危機ではベアー・スターンズ(3月)とワシントン・ミューチュアルの銀行部門(9月、米史上最大の銀行破綻)を相次いで買収し、危機を乗り切った数少ない大手銀行として存在感を高めた。
04 今期の焦点 — 投資銀行がついに個人向け銀行を逆転
2025年通期、CIB(投資銀行・トレーディング)部門の収益がCCB(消費者・地域銀行)部門を初めて上回った。2026年第2四半期はその勢いが四半期として過去最高益に結実した。
CCB(消費者銀行)とCIB(投資銀行)の収益逆転(億ドル) managed基準・2023〜2025年通期
CIB部門の純収益は2023年の643.5億ドルから2025年に784.5億ドルへ+21.9%拡大し、CCB部門(701.5億ドル→760.3億ドル、+8.4%)を初めて上回った。IPO・M&A市場の回復(投資銀行手数料+30%〜45%)とトレーディング収益の急伸(Equity Markets収益は2Q26に前年同期比+86%)が牽引役。
四半期純利益の推移(億ドル) 4Q24〜2Q26 2Q26は四半期として過去最高
2026年第2四半期の純利益211.6億ドル(EPS $7.70)のうち、Visa株式の交換・売却益46億ドルと一部株式投資の評価益10億ドル(合計56億ドル、いずれも純収益ベース=税引き前)は一時的要因。EPSへの影響はVisa益+$1.27・株式投資益+$0.29の合計$1.56で、純利益ベースの押し上げ効果は会社発表の実力ベース純利益169億ドルとの差額から約42.6億ドルと算出できる。これを除いた実力ベースの純利益は169億ドル(ROTCE23%)で、それでも前年同期比+13%の増益だった。
💡 やさしく: JPモルガンの「本業」は、実はもう個人向けの銀行窓口業務ではありません。企業の合併・買収を手伝ったり、株や債券を大量に売買したりする「投資銀行」の仕事が、2025年についに個人向け銀行部門の収益を追い抜きました。株式市場が活況になるほど(トレーディングが儲かるほど)JPモルガンの業績も跳ね上がる——これは裏を返せば、株式市場が冷え込むと業績のブレも大きくなりやすいということでもあります。
05 事業セグメント — 4部門の収益構成と稼ぐ効率
会社は消費者・地域銀行(CCB)/商業・投資銀行(CIB)/資産運用(AWM)/コーポレートの4区分で業績を開示する。
セグメント別 純収益の構成(managed基準・FY2025・億ドル) 合計1,855.8億ドルの内訳
セグメント別 ROE(FY2025) 配分資本に対する利益率。会社発表の管理会計ベース
資産運用(AWM)はセグメントの中で最も収益規模が小さい(構成比13%)にもかかわらず、ROEは40%と全社トップ。運用資産に対する報酬ビジネスは、貸出金のように多額の自己資本を必要としないため、資本効率が際立って高い。
読みどころ
CIB(42%)が最大の稼ぎ頭。 純利益ベースではさらに比重が高く49%を占める
CCB(41%) は預金・カード・住宅ローンが中心。純利益シェアは32%とCIBに次ぐ
AWM(13%)は運用資産5.1兆ドル(2Q26末)を背景に着実に拡大
コーポレート(4%)は全社の資金調達・投資ポートフォリオ運用等。2024年はVisa関連の一時益で純利益106億ドルと膨らんだ
💡 やさしく: 「JPモルガン銀行」と聞くと窓口業務を思い浮かべますが、稼ぎの中身を分解すると、投資銀行・トレーディング(CIB)と資産運用(AWM)を合わせた「ウォール街」的な仕事が純利益の6割近くを占めています。街の銀行の顔をした投資銀行、というのが実態に近い表現です。
06 財務3表ビジュアル
銀行の財務諸表は、製造業・小売業とは読み方が根本的に異なる。
PL滝グラフ — 純収益1,824億ドルから当期純利益570億ドルへ(FY2025・reported基準) 単位:億ドル
💡 やさしく: 銀行には「仕入れて売る」商売がないので、事業会社のような「原価」がありません。代わりに、人件費・システム費などの「非金利費用」と、貸したお金が返ってこないリスクに備える「与信費用(貸倒引当金の積み増し)」が純収益から差し引かれます。JPモルガンの与信費用は142.1億ドル(FY2025)で、このうちApple Cardの新規発行に伴う22億ドルは、実際にお金が返ってこなくなったわけではなく、将来のリスクに先回りして計上した引当金です(詳しくは⑧の会計基準ビューで解説)。
BS比例図 — 総資産4.42兆ドルの中身(FY2025末) 株主資本比率(単純)8.2%
負債の大半は預金・市場調達資金であり、一般事業会社の借入金とは性質が異なる(銀行の本業そのものが資金の仲介であるため)。単純な自己資本比率 8.2%だけを見て「財務が弱い」と判断するのは誤り——銀行の健全性は⑦で解説する規制ベースの自己資本比率(CET1比率)で見るのが実務的。
キャッシュフロー(FY2025) 単位:億ドル。読み方に要注意
単純計算のFCF (営業CF+投資CF)は▲4,133億ドル と大幅マイナス。ただしこれは、総資産が1年で4,224億ドル増加(貸出金・トレーディング資産等の積み増し)したことの裏返しであり、事業会社の「本業で稼いだ現金」とは全く性質が異なる。実際、財務活動によるキャッシュフロー(預金・長期債務等の調達)は+2,695億ドルの資金流入で、資金繰りが悪化しているわけではない。銀行のCF計算書を事業会社と同じ感覚で読むと誤読しやすい典型例。
07 収益性 — ROE17%の中身と自己資本の厚み
ROE 17%(会社発表)をデュポン分解 すると「利益率×回転率×レバレッジ」の掛け算が見えてくる。
=
30.7%
純収益に対する純利益率
CIBの高マージン事業が押し上げ
× 4.4%
総資産回転率
銀行は資産(貸出金)を大きく抱える業態のため低い
× 11.9倍
財務レバレッジ
預金という低コストの負債を使う銀行業の構造
純利益570.5億ドル÷純収益(managed)1,855.8億ドル=30.7%(利益率)。純収益1,855.8億ドル÷平均総資産4兆2,139億ドル=4.4%(総資産回転率)。平均総資産4兆2,139億ドル÷平均株主資本3,536億ドル=11.9倍(財務レバレッジ)。30.7%×4.4%×11.9倍≒16.1%と、本ページ独自算出のROEにおおむね一致する。なお会社発表のROE17%は優先株式を除く平均普通株主資本ベースで算出されており、算式の違いにより本ページの独自算出値(16.1%)とは約1ポイントの差がある——三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306、ROE13.98%)と比べても、JPモルガンの資本効率は明確に高い。
自己資本比率(CET1等・規制ベース)の推移 ROIC に代わる銀行版の健全性指標
普通株式等Tier1(CET1)比率はFY2024の15.7%からFY2025は14.6%へ低下、2026年第2四半期には14.1%(Standardized基準)までさらに下がった。低下の主因は①2025年に316億ドルの自社株買いを実施したこと、②2025年1月にCECL(予想信用損失モデル)移行に伴う資本猶予措置が完全に終了したこと——業績悪化のサインではなく、資本を積極的に株主還元へ回している結果と読むのが実務的。Tier1比率15.5%・総自己資本比率17.4%(FY2025)はいずれもバーゼルⅢの規制所要水準を明確に上回る。
💡 やさしく: 非金融の会社ならROIC (投じたお金全体でどれだけ稼いだか)とWACC(資金調達コスト)を比べるのが定番ですが、銀行は預金という特殊な「負債」を元手に商売する業態のため、この物差しをそのまま当てはめると意味を持ちにくい。銀行の健全性は、規制当局が定める自己資本比率(リスクの大きさに対する自己資本の割合)で見るのが実務的で、本ページもROICの代わりにCET1比率を収益性・健全性の中心指標のひとつとして扱った。
08 会計基準ビュー — US-GAAP採用
JPモルガンはUS-GAAP (米国会計基準)を採用。一言でいうと、日本基準(JGAAP)には無い「経常利益」区分が無く、貸倒引当は将来の予想損失を早期に計上するCECL 方式を採用している。
reported基準とmanaged基準の差(FY2025・億ドル) 米国の銀行特有の非GAAP表示
JPモルガンは決算を「reported(GAAP)」と「managed (管理会計)」の2通りで開示する。managed基準は非課税所得を税引き前ベースに換算する調整(FTE調整)を加えるため、reported基準より純収益が31.3億ドル大きく表示される(1,824.5億ドル→1,855.8億ドル)。純利益への影響はなく、あくまで表示上の調整。JGAAP・IFRS採用企業にはこの「2通りの決算」という発想自体が存在しない。
▸ 詳しく見る:会計基準の技術的差異(JGAAP/IFRSならどう見えるか)
US-GAAP(採用中) JGAAPならこう見える IFRSならこう見える
貸倒引当はCECL (予想信用損失モデル)を採用。貸出や与信枠を実行した「その時点」で、将来にわたる予想損失を一括で見積もり引当金計上する。2025年第4四半期、Chaseが新たにApple Cardの発行者になる契約を結んだ際、まだ実際にはポートフォリオを保有していない段階で22億ドルの引当金を先行計上した——CECLの「早期・一括」計上の典型例
「経常利益」に相当する区分はなく、純収益(純金利収入+非金利収益)から非金利費用・与信費用を差し引けば税引前利益に達するシンプルな構造
のれんは非償却・減損テストのみ。数百件に及ぶ買収(バンク・ワン、ベアー・スターンズ、ワシントン・ミューチュアル等)で積み上がったのれんが規則償却されず利益を圧迫しない
JGAAPには米国のCECLのような「将来の予想損失を早期に一括計上する」引当ルールが無く、実務上より発生(実現)に近いタイミングで貸倒引当金を計上する。同じ与信でもJPモルガンの引当金の方が早期・多めに計上されやすい
「経常利益」区分が無いため、日本の銀行(例:三菱UFJフィナンシャル・グループ)と利益段階を比較する際は、税引前利益ベースで揃える必要がある
のれんはJGAAPなら20年以内の規則償却が必要。JPモルガンの過去の大型買収由来ののれん(総資産の一定割合を占める)を仮にJGAAPで償却すれば、その分利益は下押しされる
デリバティブ資産・負債の相殺(ネッティング)要件はIFRS(IAS32)の方がUS-GAAPより厳格。同じ取引でもIFRS表示に置き換えると、JPモルガンの総資産・総負債はUS-GAAP開示よりかなり大きく見える可能性がある——米銀と欧州・日本の銀行の総資産を単純比較する際によく指摘される論点
IFRS9の減損モデルは「12か月期待損失(ステージ1)→信用悪化後に生涯期待損失(ステージ2/3)」と段階的に引当を積み増すのに対し、CECLは当初認識時から生涯期待損失を一括計上する点でより保守的(早期に大きな引当を積みやすい)
のれんはIFRSもUS-GAAPと同じく非償却・減損テストのみで、この点は差異が小さい
💡 やさしく: Apple Cardの引当金22億ドルは、「まだ何も悪いことが起きていないのに、先回りしてリスクに備える」米国会計基準ならではの発想の産物です。日本の会計基準では、実際に返済が滞り始めてから引当を積むのが一般的で、同じ取引でも計上のタイミングが違います。「米国の銀行は与信費用が急に跳ねやすい」と感じたら、この会計ルールの違いを思い出してください。
09 同業比較 — 日米メガバンクの評価格差
米メガバンク3社と日本のメガバンク2社を並べると、「米銀の方が総じて評価が高い」という通説は、実は正確ではない。
時価総額比較(2026/7/24時点・円換算) 1ドル=163.75円で換算
JPモルガンの時価総額153.7兆円は、2位のバンク・オブ・アメリカ(71.3兆円)の2倍以上、日本最大の三菱UFJフィナンシャル・グループ(41.2兆円)の3.7倍。世界の銀行株の中でも別格の規模を持つ。
ROE・PBRの比較(直近通期実績) 単位:%(ROE)・倍(PBR)
JPモルガン(ROE17%・PBR2.66倍)は5社の中で突出して高い。一方、バンク・オブ・アメリカ(ROE10.6%・PBR1.61倍)とシティグループ(ROE6.8%・PBR1.20倍)は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(ROE13.98%・PBR1.76倍)や三井住友フィナンシャルグループ(ROE13.47%・PBR1.63倍)を下回る 。「米銀は総じて日本のメガバンクよりROE・PBRが高い」という通説は、JPモルガン1社の突出によるところが大きく、バンク・オブ・アメリカやシティグループは必ずしも日本のメガバンクより高評価とは言えない。
💡 やさしく: 「アメリカの銀行は日本より稼ぐ力が強い」というイメージは、実はJPモルガン1社の強さに引っ張られた面が大きいのが実態です。同じ米国のシティグループはROE6.8%と、三菱UFJ(13.98%)の半分程度にとどまります。「アメリカ」「日本」という国でひとくくりにせず、個別の銀行の実力を見ることが大切です。
10 戦略・課題と改善ポイント
旗印は投資銀行・トレーディングを軸にした業界最高水準の資本効率。課題はバリュエーションの高さとトレーディング収益への依存度上昇。
強み Strengths
時価総額9,389億ドル(約153.7兆円)・総資産4.42兆ドルと世界最大級の規模
ROE17%・ROTCE20%(会社発表)は米メガバンクの中でも圧倒的な収益性
投資銀行手数料ランキング世界1位クラス、CIB部門の圧倒的なリーグテーブル地位
CET1比率14.6%はバーゼルⅢ最低所要水準を明確にクリアする財務健全性
弱み Weaknesses
PER15.02倍・PBR2.66倍は米メガバンクの中でも最高水準、既に高い評価が織り込み済み
CIB(投資銀行・トレーディング)への収益依存度上昇で、業績のブレが大きくなりやすい
2026年第2四半期の好決算にはVisa株売却益等46億ドルの一時的要因を含む
CET1比率は自社株買いにより低下トレンド(FY2024の15.7%→FY2025の14.6%→2Q26の14.1%)
機会 Opportunities
AI投資ブームによる設備投資資金需要とIPO・M&A市場の本格回復でCIB収益がさらに拡大
Apple Cardの新規発行者への転換で決済・カード事業の顧客基盤を拡大
資産運用(AWM)の運用資産5.1兆ドル(2Q26末、前年比+18%)を背景にした継続的な手数料収益の積み上げ
脅威 Threats
ジェイミー・ダイモンCEO(在任約20年)の後継者問題。市場が注視する経営リスク
地政学リスク・関税政策による与信費用の急増リスク
トレーディング収益への依存度上昇は、市場急変時の減益要因になりやすい
バーゼルⅢ・エンドゲーム等、規制資本のさらなる強化観測
改善ポイント(優先度つき)
最優先 後継者計画の透明性向上 ダイモンCEOの在任期間の長さは強みであると同時に、市場が神経質になりやすい経営リスク。後継体制の明確化が株価の安定要因になり得る。
中期 トレーディング収益への依存度の分散 CIB部門の急拡大は好材料だが、資産運用(AWM)等の安定収益源をさらに育て、市場変動への感応度を下げられるかが中期的な課題。
中期 資本水準(CET1比率)の目標レンジの明確な提示 自社株買いの継続ペースと規制資本の下限との関係を、投資家によりわかりやすく説明できるかが評価の安定に寄与する。
11 投資メリット・デメリット
「投資銀行・トレーディングを軸に業界最高水準の収益性を誇るが、その分だけ評価も既に高い」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
2026年第2四半期は純利益211.6億ドルと四半期として過去最高、実力ベースでも前年比+13%の増益
ROE17%・ROTCE20%(会社発表)は米メガバンクの中でも圧倒的な収益性を維持
CET1比率14.6%はバーゼルⅢ最低所要水準を明確にクリアし、財務基盤は健全
CIB(投資銀行・トレーディング)の急拡大とAWM(資産運用)の着実な成長という2本柱
▼ 弱気材料(デメリット)
PER15.02倍・PBR2.66倍は米メガバンクの中でも最高水準、既に高い評価が織り込み済み
トレーディング収益への依存度上昇は、市場急変時の減益リスクを高める
2026年第2四半期の好決算にはVisa株売却益等一時的要因(純収益ベース56億ドル、税引き後の純利益押し上げは約42.6億ドル)を含む
CET1比率は自社株買いにより低下トレンド、ダイモンCEOの後継者問題という経営リスクも残る
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ IPO・M&A市場が本格回復しCIB収益がさらに拡大:EPS $25×PER16倍=$400(約6.5万円換算・現在比+13%)
中立シナリオ 一時益の反動が一巡しトレーディング収益が平常化:EPS $22×PER15倍=$330(約5.4万円換算・現在比△7%)
弱気シナリオ 市場急変・与信費用増でトレーディング収益とCIB業績が悪化:EPS $18×PER12倍=$216(約3.5万円換算・現在比△39%)
💡 はじめての方への総括: チェックポイントは3つ。①CIB(投資銀行・トレーディング)の収益動向 (IPO・M&A・株式市場の活況が続くか)、②一時的な特別益を除いた実力ベースの純利益の伸び 、③CET1比率の下げ止まり (自社株買いのペースが持続可能か)。「世界最強の銀行だから安心」ではなく、その強さに対して既にどれだけ高い株価が付いているか を意識することが、JPモルガンを見るときの一番のポイントです。
データ出典
免責事項: 本ページは公開情報に基づく分析・情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を勧誘・助言するものではありません。ROEはSEC一次資料に基づく会社発表値と、本ページが独自算出した参考値の2種類を併記しており、算式(分母・分子の範囲や平均の取り方)の違いにより数値が異なります。デュポン分解・ROICの代替指標としての位置づけ・シナリオ試算等は筆者による概算・見解を含みます。投資に関する最終決定はご自身の判断でお願いします。データ基準日:財務=2026年2月13日提出のFY2025 10-K+2026年第2四半期決算(2026年7月14日発表)、株価=2026年7月24日。 CompanyPocket(β) — 2026年7月25日作成