🕒 最終更新: 2026-09-17 (直近更新)
ゴールドマン・サックス GS
NYSEUS-GAAP12月決算
投資銀行データ基準日 2026/9/16
企業のM&Aや株式・債券の引受で稼ぐ「投資銀行」のイメージが強いが、実際の収益の柱はFICC・株式のトレーディング。2026年第2四半期は純利益66.3億ドル・四半期として過去最高を記録した。
💡 はじめての方へ:1869年にマーカス・ゴールドマンが手形割引業として創業し、1999年の株式上場まで130年間、社員が共同出資する「パートナーシップ」形態を貫いた名門投資銀行です。「ウォール街の黒幕」的なイメージを持たれがちですが、実際に収益を分解すると、M&A助言・引受の「投資銀行手数料」は全体の2割弱にすぎず、株式・債券・為替・コモディティを売買する「トレーディング」が過半を稼いでいます。
01企業カルテ
2025年12月期(本決算・2026年1月15日発表)実績と、2026年第2四半期決算(2026年7月14日発表)・現在の市場評価。
純収益(FY2025)
582.8億ドル
前年比+9%
純利益(FY2025)
171.8億ドル
前年比+20%・EPS $51.32
ROE(FY2025・会社発表)
15.0%
FY2024は12.7%(算式は⑦で解説)
CET1比率
(普通株式等Tier1・Advanced)
13.7%
2026年6月末速報・規制所要水準を上回る
時価総額(2026/9/16)
2,966億ドル
約46.1兆円換算
PER(実績TTM・筆者算出)
15.13倍
株価$979.51÷TTM EPS $64.76
PBR(筆者算出)
2.66倍
株価$979.51÷BVPS $367.67
配当利回り
2.04%
四半期配当$5.00に増配(26年7月)
◎
成長性
2026年第2四半期は純利益66.3億ドルと四半期として過去最高。GBM(投資銀行・トレーディング)が前年比+53%と急拡大
◎
収益性
FY2025 ROE15.0%・ROTE16.0%(会社発表)は3年連続で改善。2Q26単体の年率ROEは23.5%
○
財務健全性
CET1比率(Advanced)13.7%は規制所要水準を明確にクリア。ただしFY2025末15.0%から低下傾向
○
株主還元
FY2025は自社株買い123.6億ドル・配当44.2億ドルの合計167.8億ドルを還元、四半期配当も$5.00へ増配。Q2FY26の自社株買い平均取得単価は$984.57
△
バリュエーション
PER15.13倍・PBR2.66倍は過去5年のレンジでは高め。トレーディング収益への依存度の高さが割安評価の一因
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=155.37円(2026/9/16)。
💡 読み方:2026年第2四半期の純利益66.3億ドルは、単に「相場が良かった」だけでなく、投資銀行手数料(M&A助言・引受)も前年比+55%と大きく伸びています。トレーディング収益(市場の値動き頼み)と投資銀行手数料(案件成約頼み)の両輪がそろって伸びているかどうかが、決算の「質」を見極めるポイントです。
02ビジネスモデル図解
モノ・サービス(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、ゴールドマン・サックスの稼ぎ方。
カネの流れ
金融サービスの流れ
出資・情報の流れ
起点1869年、マーカス・ゴールドマンがニューヨークで手形割引業として創業。1999年の株式上場までの130年間、社員が共同出資する「パートナーシップ」形態を貫いた
定説投資銀行は企業のM&A助言や株式・債券の引受で手数料を稼ぐ
逆説2026年第2四半期のGBM(グローバル・バンキング&マーケッツ)部門収益155.2億ドルのうち、M&A助言・引受の「投資銀行手数料」は33.95億ドル(GBM収益の22%)にすぎない。残る74.1億ドル(equities)と45.9億ドル(FICC、合計でGBM収益の75%)は、株式・債券・為替・コモディティを自己勘定・顧客仲介で売買する「トレーディング」収益。企業の相談役という顔よりも、日々の値動きにさらされる巨大なマーケットメイク会社という顔の方が収益の実態に近い
大企業・機関投資家(GBM顧客)からはM&Aアドバイス料・引受手数料・トレーディングの売買差益を、富裕層・年金基金等(AWM顧客)からは運用報酬・プライベートバンキング収益を得る。個人向け消費者金融Marcus・Apple Card発行という「銀行っぽい」事業にも2020年代に参入したが、2024〜2025年に相次いで撤退し、Platform SolutionsのFY2025収益はFY2024比93%縮小した——「本業回帰」が最近3年の最大の経営判断だった。
💡 やさしく:ゴールドマンを「証券会社」と考えると分かりやすいですが、日本の証券会社の主な顧客が個人投資家であるのに対し、ゴールドマンの顧客はほぼ全て大企業・機関投資家・超富裕層です。街中に支店はなく、個人が窓口で株を買うこともできません。企業や大口投資家同士の巨大な取引をつなぐ「卸売の金融会社」というのが実態に近いイメージです。
03成長の歩み — 乱高下を経て過去最高益へ
2021年に記録的な純利益216億ドルを稼いだ後、2022〜2023年は市場低迷とMarcus事業の損失で純利益が半分以下に落ち込んだ。2024〜2025年に急回復し、2026年は四半期ベースで過去最高を更新中。
純収益の推移(億ドル)
FY2021〜FY2025 ■濃い棒=直近期
純利益の推移(億ドル)
2022〜2023年はMarcus事業の損失・市場低迷で落ち込み
ROEの推移(%・会社発表)
平均月次普通株主資本ベース
2021年は市場活況とM&Aブームで純利益216.4億ドル・ROE23.0%と記録的な年になったが、2022年以降の金利急上昇でトレーディング・引受収益が失速し、加えて個人向けデジタル銀行Marcusや汎用消費者金融事業の損失がのしかかり、2023年のROEは7.5%まで落ち込んだ。2024年にMarcus・Apple Card事業の縮小方針を明確化して以降、投資銀行・トレーディング中心の事業構成に回帰し、業績は2年連続で改善。1株当たり純資産(BVPS)もFY2025末に$357.60まで積み上がった。
04今期の焦点 — トレーディング(FICC・株式)の爆発的拡大
2026年第2四半期は純収益203.4億ドル・純利益66.3億ドル(EPS $20.98)と四半期として過去最高を更新。中でもGBM部門のEquities(株式トレーディング)が前年比+72%と突出して伸び、5四半期連続でGBM収益が拡大している。
GBM主要3事業の四半期収益推移(億ドル)
2Q25〜2Q26 投資銀行手数料・FICC・Equities
投資銀行手数料は2Q25の21.9億ドルから2Q26に34.0億ドルへ、Equitiesは43.0億ドルから74.2億ドルへとほぼ倍増した。5四半期通じて3事業すべてが右肩上がりで拡大しており、一過性ではなく複数四半期にわたるトレンドであることが読み取れる。
Equities収益の内訳比較(億ドル)
2Q25→2Q26 intermediation(仲介)とfinancing(資金供与)
Equities intermediation(デリバティブ・現物の仲介)は前年比+60%の41.6億ドル、Equities financing(プライム・ブローカレッジ等の資金供与)は前年比+91%の32.6億ドルへ拡大。特にfinancingの伸びは、ヘッジファンド等の顧客がゴールドマンの与信枠・レバレッジを積極活用している表れで、相場が反転すれば収益変動も大きくなりやすい「諸刃の剣」でもある。
💡 やさしく:「トレーディングで儲かった」と聞くとギャンブル的なイメージを持つかもしれませんが、ゴールドマンの主な儲けは自分で相場を張ることよりも、顧客(ヘッジファンドや年金基金)の売買を仲介し、その都度小さな手数料・利ざやを積み重ねる「マーケットメイク」です。ただし、株式市場全体の取引量が増えるほど儲かる構造のため、市場が静かになるとこの収益は急に細ります。
05事業セグメント — GBMが収益の7割を占める
会社はGBM(グローバル・バンキング&マーケッツ)/AWM(資産運用)/Platform Solutionsの3区分で業績を開示する。
セグメント別 純収益の構成(FY2025・億ドル)
合計582.8億ドルの内訳
セグメント別収益 前年比(FY2024→FY2025)
単位:%
GBMは前年比+18%と拡大を牽引した一方、Platform SolutionsはApple Cardポートフォリオの売却保有処理に伴う評価損(純収益ベースで22.6億ドルの押し下げ)により前年比▲93%と急減した。もっとも、この評価損は同時に計上した与信引当の戻入(24.8億ドル)で相殺されており、純利益への影響は限定的である旨を会社が開示している。
読みどころ
- GBM(71%)が圧倒的な最大の稼ぎ頭。その4分の3はFICC・株式のトレーディングで、投資銀行手数料は全社収益の16%にとどまる
- AWM(29%)は運用報酬中心の安定収益源。2026年第2四半期の収益は45.97億ドルで、運用資産の積み上がりとともに緩やかに拡大
- Platform Solutions(0.3%)はMarcus・Apple Card撤退でほぼ消滅。FY2025の収益は151百万ドル、2026年第2四半期は221百万ドルまで縮小し、今後は決算開示上の重要性も低下していく見込み
💡 やさしく:「投資銀行」を名乗る会社ですが、決算を分解すると実態は「トレーディング会社+資産運用会社」に近いことが分かります。M&Aのニュースで名前をよく見る割に、その収益自体は全体の16%程度しかないというのは意外に感じるかもしれません。
06財務3表ビジュアル
銀行持株会社の財務諸表は、製造業・小売業とは読み方が根本的に異なる。
PL滝グラフ — 純収益582.8億ドルから純利益171.8億ドルへ(FY2025)
単位:億ドル
💡 やさしく:ゴールドマンには製造業のような「原価」がありません。代わりに人件費・システム費などの「営業費用」と、貸したお金が返ってこないリスクに備える「与信費用引当」が純収益から差し引かれます。FY2025はこの引当が△11.1億ドル(マイナス=取り崩し・戻入)と逆に利益を押し上げました。理由は⑧の会計基準ビューで解説します。
BS比例図 — 総資産1.81兆ドルの中身(FY2025末)
株主資本比率(単純)6.9%
単純な自己資本比率6.9%だけを見て「財務が弱い」と判断するのは誤り——投資銀行の総資産の大半はトレーディング資産・担保付き取引等の「一時的に通過するお金」であり、事業会社の設備投資とは性質が異なる。2026年6月末の総資産は2,128十億ドルとさらに拡大した。健全性は⑦で解説する規制ベースのCET1比率で見るのが実務的。
ROIC・FCFという物差しが馴染まない理由
投資銀行特有の事情
一般事業会社の分析ではROIC(投じた資本全体の効率)とWACCを比べたり、FCF(営業CF−設備投資)で「自由に使える現金」を見るのが定番だが、ゴールドマンのような投資銀行では両方とも意味を持ちにくい。理由は、①貸借対照表の資産の大半(トレーディング資産・担保付き契約)が日々回転する「在庫」に近く、事業会社の投下資本と同列に扱えない、②設備投資(capex)がそもそも僅少で、キャッシュフロー計算書の大部分は預金・トレーディング資産・借入金残高の増減という「商売そのものの規模変動」で占められ、フリーキャッシュフローという概念自体が実質的な意味を持たない。このため本ページはROIC・FCFの代わりにCET1比率(規制自己資本比率)とROEを健全性・収益性の主軸に据えた。
💡 やさしく:「フリーキャッシュフロー(FCF)が多い会社は良い会社」という物差しは、工場や店舗に設備投資する事業会社では有効ですが、ゴールドマンのような投資銀行にはそのまま当てはまりません。設備投資がほとんど無い代わりに、日々巨額の証券・担保が出入りするため、「余ったお金」という概念自体が薄いのです。
07収益性 — ROE15.0%の中身とCET1比率
ROE15.0%(FY2025・会社発表)をデュポン分解すると「利益率×回転率×レバレッジ」の掛け算が見えてくる。
=
29.5%
純収益に対する純利益率
トレーディング収益の高マージンが押し上げ
× 3.3%
総資産回転率
トレーディング資産を大きく抱える業態のため低い
× 14.1倍
財務レバレッジ
預り金・調達負債を使う投資銀行業の構造
純利益171.76億ドル÷純収益582.83億ドル=29.47%(利益率)。純収益582.83億ドル÷平均総資産1兆7,430億ドル=3.34%(総資産回転率、FY2024末1.676兆ドルとFY2025末1.810兆ドルの単純平均)。平均総資産1兆7,430億ドル÷平均株主資本1,235億ドル=14.11倍(財務レバレッジ、FY2024末1,220億ドルとFY2025末1,250億ドルの単純平均)。29.47%×3.34%×14.11倍≒13.9%と、本ページ独自算出のROEはおおむね近い水準になる。会社発表のROE15.0%は月次平均・優先株式配当控除後の普通株主資本ベースで算出されており、算式の違いにより本ページの独自算出値(13.9%)とは約1.1ポイントの差がある——JPモルガン・チェース(JPM、本サイト掲載、ROE17%)と比べると、ゴールドマンの資本効率はやや見劣りする一方、モルガン・スタンレー(ROE17.97%)にも及ばない水準にとどまる。
CET1比率(普通株式等Tier1・Advanced基準)の推移
ROICに代わる銀行版の健全性指標
CET1比率(Advanced)はFY2024末15.3%からFY2025末15.0%、2026年6月末には13.7%(速報値)まで低下した。低下の主因は自社株買いの継続(FY2025は123.6億ドル、Q2FY26だけで40.0億ドル)であり、業績悪化のシグナルではなく、積み上がった資本を積極的に株主還元に回している結果と読むのが実務的。それでもバーゼルⅢの規制所要水準(ゴールドマンの場合おおむね10%台前半)は明確に上回っている。
💡 やさしく:非金融の会社ならROIC(投じたお金全体でどれだけ稼いだか)とWACC(資金調達コスト)を比べるのが定番ですが、投資銀行は預り金・トレーディング資産という特殊な貸借対照表を持つ業態のため、この物差しをそのまま当てはめると意味を持ちにくい。健全性は、規制当局が定める自己資本比率(リスクの大きさに対する自己資本の割合=CET1比率)で見るのが実務的で、本ページもROICの代わりにCET1比率を収益性・健全性の中心指標のひとつとして扱った。
08会計基準ビュー — US-GAAP採用
ゴールドマンはUS-GAAP(米国会計基準)を採用。一言でいうと、日本基準(JGAAP)には無い「経常利益」区分が無く、貸倒引当は将来の予想損失を早期に計上するCECL方式を採用している。
与信費用引当の推移(億ドル)
FY2024→FY2025 CECLならではの「戻入」が発生
FY2024は与信費用引当13.5億ドル(費用計上)だったのに対し、FY2025は△11.1億ドル(純戻入=逆に利益を押し上げ)に転じた。これはApple Cardのクレジットカード・ポートフォリオを売却目的保有に振り替えたことに伴い、それまで積んでいた将来の予想損失引当(CECLの考え方に基づく)が不要になったため取り崩されたもの。「まだ実際には損失が出ていないのに、将来の予想損失をあらかじめ引当計上し、事業撤退時にはその引当を戻し入れる」という一連の流れは、CECLならではの会計処理である。
▸ 詳しく見る:会計基準の技術的差異(JGAAP/IFRSならどう見えるか)
- 貸倒引当はCECL(予想信用損失モデル)を採用。貸出や与信枠を実行した「その時点」で将来にわたる予想損失を一括で見積もり引当金計上する。Apple Cardポートフォリオを売却目的保有に振り替えた際、実際の貸倒れが確定する前に引当金24.8億ドルを一括で取り崩した——CECLの「早期・一括」計上(およびその巻き戻し)の典型例
- 「経常利益」に相当する区分はなく、純収益から営業費用・与信費用を差し引けば税引前利益に達するシンプルな構造
- のれんは非償却・減損テストのみ。過去の買収(例: 資産運用会社の買収)で積み上がったのれんが規則償却されず利益を圧迫しない
- JGAAPには米国のCECLのような「将来の予想損失を早期に一括計上する」引当ルールが無く、実務上より発生(実現)に近いタイミングで貸倒引当金を計上する。Apple Cardのような事業撤退時の一括戻入という会計処理は、JGAAPではそのままの形では生じにくい
- 「経常利益」区分が無いため、日本の証券会社(例: 野村ホールディングス)と利益段階を比較する際は、税引前利益ベースで揃える必要がある
- のれんはJGAAPなら20年以内の規則償却が必要。ゴールドマンの買収由来ののれんを仮にJGAAPで償却すれば、その分利益は下押しされる
- デリバティブ資産・負債の相殺(ネッティング)要件はIFRS(IAS32)の方がUS-GAAPより厳格。同じ取引でもIFRS表示に置き換えると、ゴールドマンの総資産・総負債はUS-GAAP開示よりかなり大きく見える可能性がある——米銀・米系証券と欧州・日本の金融機関の総資産を単純比較する際によく指摘される論点
- IFRS9の減損モデルは「12か月期待損失(ステージ1)→信用悪化後に生涯期待損失(ステージ2/3)」と段階的に引当を積み増すのに対し、CECLは当初認識時から生涯期待損失を一括計上する点でより保守的(早期に大きな引当を積みやすい)
- のれんはIFRSもUS-GAAPと同じく非償却・減損テストのみで、この点は差異が小さい
💡 やさしく:与信費用がマイナス(利益の押し上げ)になるのは一見不思議ですが、「以前に将来のリスクに備えて多めに積んでおいたお金を、事業撤退が決まって不要になったので戻した」というだけの話です。日本の会計基準では、そもそもここまで先回りして引当を積む発想が薄いため、同じ出来事が起きても決算への現れ方が異なります。
09同業比較 — 投資銀行専業と総合金融グループの差
米大手金融3社と比べると、「投資銀行専業」と「個人向け銀行を持つ総合金融グループ」で、収益性とバリュエーションの構図がはっきり分かれる。
ゴールドマンの時価総額46.1兆円は、JPモルガン(145.4兆円)の3分の1、バンク・オブ・アメリカ(63.7兆円)の7割程度。個人向け商業銀行を持たない専業投資銀行としては、モルガン・スタンレー(50.6兆円)とほぼ同規模。
ROEで見ると、モルガン・スタンレー(17.97%)・JPモルガン(17.79%)がゴールドマン(16.90%・stockanalysis算定のTTMベース)をわずかに上回る。個人向け銀行を持つバンク・オブ・アメリカ(11.20%)は3社の中で最も低く、「投資銀行・資産運用に軸足を置く会社ほど資本効率が高い」という構図が浮かぶ。PBRもモルガン・スタンレー(3.04倍)>JPモルガン(2.65倍)≒ゴールドマン(2.70倍)>バンク・オブ・アメリカ(1.51倍)と同じ並び順になっている。
💡 やさしく:同じ「米国の大手金融機関」でも、ゴールドマンやモルガン・スタンレーのように投資銀行・資産運用を中心にした会社の方が、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカのように個人向け銀行業務まで抱える会社より、株主資本を効率よく稼ぐ力(ROE)が高く評価される傾向があります。「大きい銀行=優秀」ではなく、どこで稼いでいるかで市場の評価は変わります。
10戦略・課題と改善ポイント
旗印は投資銀行・トレーディングへの本業回帰と過去最高水準の収益性。課題はトレーディング収益への依存度の高さとバリュエーションの重さ。
強み Strengths
- 2026年第2四半期は純利益66.3億ドルと四半期として過去最高、GBM収益は前年比+53%
- 投資銀行のブランド力・案件組成力を背景に、投資銀行手数料も前年比+55%と堅調
- Marcus・Apple Card撤退で本業(投資銀行・トレーディング・資産運用)に集中
- CET1比率13.7%(Advanced・2Q26速報)はバーゼルⅢ所要水準を明確にクリア
弱み Weaknesses
- GBM収益の75%がトレーディング(FICC・株式)で、投資銀行手数料は22%にとどまり相場変動の影響を受けやすい
- ROE15.0%(FY2025)はJPモルガン(17.79%)・モルガン・スタンレー(17.97%)にやや劣る
- CET1比率は自社株買いにより低下トレンド(FY2024末15.3%→FY2025末15.0%→2Q26末13.7%)
- Marcus・Apple Card事業からの撤退は近年の経営判断ミスの後始末という側面もある
機会 Opportunities
- IPO・M&A市場の本格回復が続けば投資銀行手数料のさらなる拡大が見込める
- 資産運用(AWM)部門の運用報酬型ビジネスは資本効率が高く、安定収益源として育成余地が大きい
- 本業集中による経営のシンプル化で、市場からの評価(バリュエーション)改善の余地
脅威 Threats
- トレーディング収益への依存度の高さは、市場急変時の減益リスクを増幅する
- 地政学リスク・関税政策・金利変動によるボラティリティが収益を左右しやすい
- バーゼルⅢ・エンドゲーム等、規制資本のさらなる強化観測
- 個人向け銀行業務を持たないため、預金という安定調達源に乏しい構造的な脆さ
改善ポイント(優先度つき)
最優先トレーディング収益への依存度の分散
GBM収益の75%を占めるトレーディングは市場環境次第で大きく振れる。AWM部門の運用報酬型収益をさらに育て、業績の振れ幅を抑えられるかが課題。
中期CET1比率の目標レンジの明確な提示
自社株買いの継続ペースと規制資本の下限との関係を、投資家によりわかりやすく説明できるかが評価の安定に寄与する。
中期投資銀行手数料の構成比引き上げ
市場変動に左右されにくい投資銀行手数料(現状GBM収益の22%)の比重を高められれば、収益の質・バリュエーションの改善につながりうる。
11投資メリット・デメリット
「トレーディング主導で過去最高益を更新中だが、その分だけ相場変動リスクも大きい」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
- 2026年第2四半期は純利益66.3億ドルと四半期として過去最高、GBM・AWM双方が2桁成長
- 投資銀行手数料(前年比+55%)とトレーディング収益(FICC+32%・Equities+72%)が同時に拡大している「質の良い」決算
- Marcus・Apple Card撤退により本業(投資銀行・トレーディング・資産運用)に集中する経営に転換
- CET1比率13.7%はバーゼルⅢ所要水準を明確にクリアし、財務基盤は健全
▼ 弱気材料(デメリット)
- GBM収益の75%がトレーディングで、相場が反転すれば収益も急速に萎む構造
- ROE15.0%(FY2025)はモルガン・スタンレー・JPモルガンに見劣りし、PER15.13倍・PBR2.66倍は過去のレンジでは高め
- CET1比率は自社株買いにより低下トレンド、規制強化観測も残る
- 個人向け銀行業務を持たず、預金という安定調達源に乏しい
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオIPO・M&A市場とトレーディング収益がともに拡大基調を維持:EPS $75×PER17倍=$1,275(現在比+30%)
中立シナリオトレーディング収益の伸びが一巡し、投資銀行手数料の回復とバランスする:EPS $68×PER15倍=$1,020(現在比+4%)
弱気シナリオ市場急変・与信費用増でトレーディング収益とGBM業績が悪化:EPS $52×PER12倍=$624(現在比△36%)
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①トレーディング収益(FICC・Equities)の持続性(一時的な相場活況なのか、構造的な拡大なのか)、②投資銀行手数料の伸び(案件成約ベースの「地に足のついた」収益が伴っているか)、③CET1比率の下げ止まり(自社株買いのペースが持続可能か)。「過去最高益=安心」ではなく、その最高益がどの程度トレーディング相場に依存しているかを意識することが、ゴールドマンを見るときの一番のポイントです。