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🕒 最終更新: 2026-09-21 (直近更新)

セールスフォース Salesforce, Inc.・CRM

NYSEUS-GAAP1月決算 SaaS/CRM・AIエージェント27年度Q2(26年5〜7月期)決算まで反映

「ソフトは買うものではなく、月額で借りるもの」——SaaS(サブスクリプション型ソフト)という商売を世の中に定着させた元祖のひとつ。売上の95%が更新される月額・年額課金で、FY2026(2026年1月期)の売上は415.25億ドル。直近12か月(TTM)のフリーキャッシュフローは151.54億ドルと売上の3分の1超が現金で残る。時価総額1,958.1億ドル(約28.6兆円)。ただし今期は、Informaticaの買収と「250億ドルを借りて自社株を買い戻す」異例の資本政策で、貸借対照表が別会社のように変わった

💡 はじめての方へ:Salesforceは、営業担当が「どの会社に、誰が、いつ、いくらで提案したか」を管理する顧客管理(CRM)ソフトを、パソコンにインストールさせるのではなくインターネット経由の月額課金で貸し出す会社として1999年に生まれました。一度会社の営業・問い合わせ窓口の記録がここに溜まると乗り換えは大変で、契約が毎年ほぼ自動的に更新されるのが最大の強みです。最近は買収でデータ基盤(Informatica)を取り込み、AIエージェント(Agentforce)を売り込んでいます。

2027年度第2四半期(2026年5〜7月期)決算=2026年8月26日発表を反映済み(→③ 成長の歩み)。年次ベースの財務3表・収益性・会計基準ビューはFY2026通期(2026年1月期)の確定実績(貸借対照表のみ2026年7月末)、株価・同業比較は2026年9月18日終値時点(stockanalysis.com)にもとづく。会社の会計年度は1月末締めで、「FY2026=2025年2月〜2026年1月」。

01企業カルテ

2027年度第2四半期(2026年5〜7月期・2026年8月26日発表)実績と直近の市場評価。

売上(Q2FY27)
113.45億ドル
前年同期比+10.8%(Informatica除く実質は+6.4%)
営業利益
23.31億ドル
営業利益率20.5%(非GAAPは34.1%)
純利益
35.26億ドル
うち戦略投資の評価益26.13億ドル・EPS $4.29
cRPO(12か月内に売上化する契約残)
33.5十億ドル
会社発表:前年同期から+14%(恒常為替)
FCF(直近12か月)
151.54億ドル
売上の34.5%が現金で残る
時価総額
1,958.1億ドル
株価$237.92(2026/9/18終値)
PER(実績TTM)
22.05
予想PER16.23倍・PBR5.10倍
ROIC(筆者試算・FY2026)
10.9%
推定WACC9.2%をやや上回る
成長性
Q2FY27の売上は会社発表で+11%だが、買収したInformatica(4.56億ドル)を除くと実質は+6.4%。会社は「下期に実質の増収が再加速」と説明している
収益性
非GAAP営業利益率34.1%、直近12か月のFCFマージン34.5%。サブスク部門の粗利率は81.3%と高い(GAAP営業利益率は買収関連の償却で20.5%)
財務健全性
自己資本比率は52.7%(2026年1月末)→35.0%(同7月末)に低下。有利子負債は144.4億ドル→392.9億ドルへ急増
株主還元
FY2027上期だけで自社株買い273.3億ドル+配当7.3億ドル。500億ドルの新自社株買い枠も設定。ただし原資の大半は借入
バリュエーション
PER22.05倍(予想16.23倍)はMSFT(27.51倍)・SAP(27.21倍)より割安、Adobe(13.90倍)よりは高い

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。時価総額・PER・PBR・β等は2026年9月18日終値時点でstockanalysis.comから取得した市場データ。ROIC・WACCは筆者試算で、算出根拠は⑨ 収益性に記載。

💡 読み方:今期の純利益35.26億ドルは営業利益23.31億ドルより大きく見えます。理由は本業ではなく、保有する他社株(戦略投資)の時価上昇で出た評価益26.13億ドルが足されているからです。会社自身もこの評価益は将来予測に含めていません。本業の実力は「営業利益」と「フリーキャッシュフロー」で見るのが安全です。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、Salesforceの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点1999年創業。パッケージ販売ではなくインターネット経由の月額課金(サブスクリプション)で顧客管理ソフトを提供する形を打ち出した
定説Salesforceは営業管理の便利ツールを売る会社で、AI時代にはChatGPTのようなAIに置き換えられる
逆説実態は逆。顧客の営業・問い合わせ・マーケティングの記録がここに蓄積される「データを預かる側」であり、AIを動かすほどそのデータの価値が上がる構造になっている。会社はこの位置取りを武器に、買収でデータ基盤(Informatica)を取り込み、AIエージェント製品(Agentforce)を既存顧客に上乗せ販売している。ただしその原資を、借入で自社株買いをしつつ買収も進めるという高い資本効率志向の財務運営でまかなっており、収益構造より資本政策のほうが今期の論点になっている

2027年度第2四半期(Q2FY27)の売上113.45億ドルの95.4%(108.20億ドル)がサブスクリプション&サポート、残り4.6%(5.25億ドル)が導入支援等のプロフェッショナルサービス。サブスク部分は2つの製品群に分かれ、Agentforce Apps(営業・サービス・マーケティング・コマース・Slack)が71.93億ドル、Data 360・Headless Platform他(データ基盤・Informatica・MuleSoft・Tableauなど)が36.18億ドル。地域別ではアメリカ大陸が74.04億ドル(65.3%)、欧州27.64億ドル、アジア太平洋11.68億ドル。成長の主役は後者のデータ基盤群で、会社発表の恒常為替ベース成長率はApps+8%に対しData 360群+20%(Informatica含む)と2倍以上の差がある。

💡 やさしく:Salesforceは「電気・水道」のような会社です。顧客は毎月・毎年、契約を更新して料金を払い続けます(Q2FY27時点の収益減少率=attritionは約8%と会社が説明)。お金の流れは主に4方向。①顧客から入るサブスク料、②買収先への支払い(買収代金)と買収先から入る売上、③債権者から借りるお金と利払い、④株主への自社株買い・配当。いま最も大きく動いているのは③と④——本業の外側で巨額の資金が動いています。

03成長の歩み — 「売上は+1割、利益率は10倍」の5年

FY2022(2022年1月期)からFY2026(2026年1月期)まで。売上は年平均11.9%で成長した一方、GAAP営業利益率は2.1%から20.1%へ、非GAAPでも18.7%から34.1%へ改善した。伸びしろは「売る量」より「稼ぎ方の効率」から生まれている。

売上の推移(FY2022〜TTM)

単位:億ドル。濃い棒=直近12か月(2025年8月〜2026年7月)。1月決算

FY2022の264.92億ドルからFY2026の415.25億ドルへ1.57倍。前年比の伸びはFY2023の+18.3%(Slack買収〈2021年7月〉の通年寄与を含む)から、FY2024が+11.2%、FY2025が+8.7%、FY2026が+9.6%と一桁台に落ち着いた。4年平均成長率は11.9%。直近12か月(Q3FY26〜Q2FY27)は439.38億ドルで、Informatica(2025年11月買収)の上乗せ分を含む。

営業利益率の推移(GAAP vs 非GAAP)

単位:%。非GAAPは株式報酬・買収無形資産の償却・リストラ等を除いた会社発表の指標

FY2023はリストラ費用8.28億ドルなどでGAAP営業利益率が3.3%まで沈んだが、FY2024以降は14.4%→19.0%→20.1%と急回復。非GAAPは22.5%(FY2023)から34.1%(FY2026)へ。売上が約1.3倍になる間に営業利益(GAAP)は8.1倍(FY2023の10.30億ドル→FY2026の83.31億ドル)に増え、コスト構造の効率化が利益を作った。

💡 やさしく:FY2023までのSalesforceは「売上を伸ばすためにお金を使う会社」でした。FY2024から「同じ売上で残るお金を増やす会社」に変わり、営業担当の増やしすぎを止めて売上に対する販売・マーケ費用の割合を下げました(詳細は)。

フリーキャッシュフロー(FCF)の推移

単位:億ドル。営業CF−設備投資。濃い棒=直近12か月

FCFはFY2022の52.83億ドルからFY2026の144.02億ドルへ2.7倍。直近12か月では151.54億ドルで、売上の34.5%に相当する。営業CFがFY2026に149.96億ドルと売上の36.1%あるのは、顧客が年払いで前払いした代金(前受収益)を先に受け取るサブスクの構造による(→⑤)。設備投資はFY2026でも5.94億ドルと売上の1.4%にすぎず、アセットライトな事業だとわかる。

04売上の中身 — 既存アプリは+8%、伸びているのはデータ基盤

Salesforceの売上は5つの「クラウド」に分かれて開示されてきたが、2027年度から「Agentforce Apps」と「Data 360・Headless Platform他」の2区分に再編された。どちらが会社を引っ張っているかを見る。

クラウド別売上(FY2025 vs FY2026・旧5区分)

単位:億ドル。サブスク&サポート収益の内訳。プラットフォーム他はInformatica 3.88億ドルを含む

FY2026に最も大きいのはService(98.18億ドル)とSales(90.28億ドル)で、成長はいずれも+8%台。Marketing・Commerce(54.28億ドル)は+2.8%とほぼ横ばい、Integration・Analytics(62.32億ドル)は+7.9%。唯一の高成長はプラットフォーム・Slack他の88.82億ドル(+22.6%)だが、うちInformaticaの寄与3.88億ドルを除くと実質は+17.2%程度になる。

2区分での比較(Q2FY26 vs Q2FY27)

単位:億ドル。新区分での開示(過去分は会社が組み替え済み)

Agentforce Appsは66.82億ドルから71.93億ドルへ+7.6%、Data 360・Headless Platform他は30.08億ドルから36.18億ドルへ+20.3%。サブスク全体108.20億ドルのうち、Appsが66.5%、Data 360群が33.4%を占める。両区分の増収11.21億ドルのうち、Data 360群が6.10億ドル(54%)を稼いだ——売上の3分の1でしかない事業が増収の過半を作っている。うちInformatica寄与は4.40億ドル。

恒常為替ベースの成長率(6四半期)

単位:%。会社発表(為替変動とヘッジ損益を除く)

Agentforce Appsは+6〜8%で安定推移(Q2FY27は+8%)。Data 360群はQ3FY26の+13%からQ4FY26に+21%へ跳ね、Q1FY27に+23%、Q2FY27に+20%。この跳ね上がりの時期は、Informaticaを買収した2025年11月と一致する。会社は買収の寄与を除いた実質の再加速を2027年度下期に見込む(2026年8月時点の説明)。

💡 やさしく:「営業管理アプリ(Apps)」は成熟して年+7〜8%。会社が力を入れる「AIに社内データを食べさせる基盤(Data 360)」は年+20%。ただし後者の一部は「他社を丸ごと買って足した」分なので、本当の成長力を見るには買収の寄与を差し引いて考える必要があります。

05サブスクの単位経済 — なぜ「粗利82%・営業CF36%」になるのか

サブスクの強みは、一度作ったソフトを追加コストほぼゼロで貸し出せる粗利率と、年払いの前受金による資金繰りの良さ。逆に、最大のコストは「新しい顧客を獲得する営業費用」で、その比率を下げられたことが利益率上昇の正体である。

販売・マーケ費と研究開発費の対売上比率(5年)

単位:%(費用÷売上)

販売・マーケティング費(S&M)の対売上比率は、FY2022の44.8%からFY2026の34.6%へ約10ポイント低下した。研究開発費(R&D)は16.9%から14.4%へ。この2費目だけで対売上12.6ポイントの改善で、FY2022〜FY2026の営業利益率の改善幅(GAAPで18.0ポイント)の約7割を説明する。ただしFY2026は絶対額ではS&Mが143.45億ドルと前年より増えており、比率の低下ペースは鈍っている。

粗利率:サブスクは稼ぎ頭、導入支援はもともと赤字

単位:%。粗利率=(収益−売上原価)÷収益

サブスク&サポートの粗利率はFY2026で82.7%、Q2FY27は81.3%。一方プロフェッショナルサービス(導入支援)はFY2026に収益21.37億ドルに対し原価24.74億ドルで粗利率▲15.8%、Q2FY27は▲19.6%と赤字。導入支援は「赤字で売って、その後のサブスク契約で回収する」入口であり、Q2FY27はサブスクの粗利率が前年同期(83.0%)から低下している点に注意したい。売上原価に含まれる買収無形資産の償却が前年同期の1.50億ドルから2.34億ドルに増えたことが一因。

契約済みの将来売上(RPOとcRPO)

単位:十億ドル。期末残高。2026年1月末はInformatica約2.2十億ドルを含む

全契約の未認識残高であるRPOは2026年7月末に66.3十億ドル(2026年1月末72.4)。このうち12か月以内に売上になる分がcRPOで33.5十億ドル。会社はRPOが季節性や更新時期・為替に左右されると注記しており、1月末に高く期中に下がる動きが毎年見られる(2025年1月末63.4→同7月末59.9)。四半期ごとの増減でなく、同じ時期どうしで比べる必要がある。cRPOは会社発表で前年同期から+14%(恒常為替)と、Q2FY26時点の+10%から加速した。

💡 やさしく:cRPOは「向こう1年で入ってくると契約で決まっている売上」。直近12か月の売上(439.38億ドル)に対し、約76%相当がすでに契約として積み上がっているという感覚です。売上の「在庫」がすでにあるから、業績の見通しが立てやすい会社と言えます。ただし将来のAI課金は「使った分だけ払う」従量型が増えるため、会社自身が「cRPOと売上の関係は今後変わりうる」と注記しています。

06M&Aで大きくなった会社 — のれんが総資産の54%

Salesforceの成長は、自社開発と同じくらい「買って足す」ことで作られてきた。Slack(2021年7月)に続き、直近ではInformatica(2025年11月)を取り込み、さらにContentfulとFinの買収(2026年6月に契約を発表、2027年度第3四半期中に完了見込み)も控えている。

のれん残高の推移

単位:億ドル。「のれん」=買収価格のうち帳簿上の純資産を超えて払った分

のれんはFY2025末の512.83億ドルから、2026年7月末に592.50億ドルへ。総資産1,096.20億ドルの54.1%がのれん、これに買収無形資産61.42億ドルを加えると、株主資本383.78億ドルを大きく上回る。つまり有形資産だけで見た純資産はマイナス約270.14億ドル。買収先が期待通りの利益を生まないと、のれんの減損損失が一気に出るリスクがある。

買収に投じた現金

単位:億ドル。キャッシュフロー計算書の「企業結合による支出(取得現金控除後)」

FY2025は27.34億ドル、FY2026は92.68億ドルと3.4倍に。FY2027上期は15.04億ドル。FY2026分の大半がInformatica(2025年11月に買収完了)で、Q4FY26だけで82.36億ドル。支払いには2025年6月に契約した40億ドルの364日クレジット契約と20億ドルの3年クレジット契約(合計60億ドル)が充てられ、2026年3月に60億ドルのシニア無担保ターム・ローン(2031年3月満期)へ借り換えられた(10-Q記載)。

Informaticaの売上寄与

単位:億ドル。会社開示の総売上(プロサービス含む)

買収完了後の2025年11月〜2026年1月(Q4FY26)が3.99億ドル、Q1FY27が4.44億ドル、Q2FY27が4.56億ドル。会社ガイダンスはFY2027通期の売上成長へのInformatica寄与を3ポイント強、Q3FY27を4ポイント強と見込む。Informaticaを除いた実質の売上成長は、Q2FY27で+6.4%(会社発表の+11%は買収込み)。買収で成長率を「買った」面は明確で、実質の成長が再加速するかどうかが、今期後半の最大の見どころになる。

💡 やさしく:M&Aは「時間をお金で買う」行為です。Salesforceは自前でデータ基盤を作る代わりに会社ごと買って製品ラインに足しました。効果はすぐ売上に現れますが、払った金額のうち帳簿上の純資産を超える部分(のれん)は、買収先がその後も稼ぎ続けてくれないと回収できません。売上の「見かけ」の伸びと、既存事業の実力を分けて見る癖をつけておくと安心です。

07借金で自社株買い — 「250億ドルのASR」が貸借対照表を変えた

2026年3月、Salesforceは総額250億ドルのシニア無担保社債を発行し、その全額をASR(加速型自社株買い)に充てた。株数を減らして1株あたり利益(EPS)を押し上げる一方、貸借対照表は一変した。

有利子負債と株主資本の入れ替わり

単位:億ドル。期末残高

有利子負債は2025年1月末の84.33億ドルから2026年1月末に144.39億ドル、2026年7月末に392.88億ドルへ。一方で株主資本は611.73億ドル→591.42億ドル→383.78億ドルと縮んだ(自己株式が322.28億ドルから550.22億ドルに増えたため)。現預金・有価証券を差し引いた純有利子負債は、2026年1月末の48.74億ドルから2026年7月末に278.85億ドルへ。自己資本比率は52.7%から35.0%へ低下した。

自社株買い(現金支出)の推移

単位:億ドル。キャッシュフロー計算書の「自己株式取得」

FY2022は0、FY2023に40.00億ドルで再開、FY2024が76.20億ドル、FY2025が78.29億ドル、FY2026が125.96億ドル。FY2027は上期だけで273.32億ドルと、過去最大の年間額(FY2026)の2.2倍を半年で執行した。ASRでは約1.03億株を平均$198.34で受け取り済み(全体の約80%)で、残りの最終決済は2026年10月と会社は見込む。支払利息は四半期で0.67億ドル(Q2FY26)から4.73億ドル(Q2FY27)へ約7倍になった。

💡 やさしく:住宅ローンで「自宅の持ち分を買い戻す」ようなものです。株数が減れば、同じ利益でも1株あたりの取り分(EPS)は増えます。ただし借入には利息がかかり、金利を上回る利益を出せなければ意味がありません。Q2FY27の利払い4.73億ドルは、営業利益23.31億ドルの約2割にあたります。ASR平均取得価格$198.34に対し、いまの株価$237.92は約20%高いので、少なくとも「安く買えた」面はあります。

08財務3表ビジュアル

PLとCFはFY2026通期(2026年1月期)、BSは最新の2026年7月末。利益は堅調だが、B/Sは今期に入って借入と自己株式で大きく組み替わっている。

PL滝グラフ — 売上415.25億ドルはどこへ消えるか(FY2026)

単位:億ドル
💡 やさしく:415.25億ドルの売上から、サーバー費用やサポート人件費などの売上原価92.70億ドルを引いた粗利が322.55億ドル。そこから研究開発59.93億ドル・営業と販促143.45億ドル・管理部門30.00億ドル・リストラ5.86億ドルを引くと営業利益83.31億ドル。保有株の評価益10.17億ドルなどを足し、税金20.63億ドルを引いて純利益74.57億ドル。いちばん大きな出費は「営業・販促」で、売上の約3分の1です。

BS比例図 — 総資産1,096.20億ドルの中身(2026年7月末)

箱の高さ=金額。自己資本比率35.0%

資産の54.1%(592.50億ドル)がのれん。のれんと無形資産を合わせると6割近くに達する。売掛金は63.20億ドル(2026年1月末は143.39億ドル)と季節的に縮み、前受収益187.87億ドル(同243.17億ドル)も1月をピークに下がる。1月末に請求が集中してピークになる季節性があり、2026年7月末の数字だけでは「年間の平均的な姿」より小さく見える点に注意。

キャッシュフロー(FY2026)

単位:億ドル。営業CF149.96億ドル

営業CF149.96億ドルに対し、投資CFは▲85.90億ドル(うち企業買収92.68億ドル)、財務CFは▲80.79億ドル。財務CFの内訳は自社株買い125.96億ドル・配当15.87億ドルの支出に対し、借入による調達60.00億ドルなど。買収92.68億ドル+株主還元141.83億ドル=234.51億ドルがFCF144.02億ドルを上回り、差額は借入や有価証券の取り崩しで補った。FY2026末の現預金は73.27億ドルと前年末から15.21億ドル減。

09収益性 — ROE12.4%をデュポン分解する

FY2026のROEは12.4%。利益率17.96%は高いが、総資産の6割近くを占めるのれんや無形資産が回転率を押し下げ、レバレッジも1.79倍と控えめだった。

ROE(FY2026・平均残高ベース・筆者算出)
12.4%
18.0%
売上高純利益率
Visa(50.1%)には遠いが、SAP(20.4%)に近い水準
x 0.386回
総資産回転率
のれん・買収無形資産が重く、回転は遅い
x 1.79倍
財務レバレッジ
Visa(2.52倍)より低い。ただし2026年7月末は2.86倍に上昇

FY2026の平均総資産1,076.2億ドル÷平均自己資本601.6億ドル=1.79倍。ところが2026年7月末には総資産1,096.20億ドル÷自己資本383.78億ドル=2.86倍と、ASRを境にレバレッジが一気に高まった。参考:直近12か月の純利益96.62億ドルを1月末・7月末の平均自己資本487.6億ドルで割ると19.8%で、stockanalysis.comのROE19.38%とほぼ整合する。FY2026通期の12.4%より高いのは、自己資本が小さくなった分の押し上げを含むためで、収益力そのものが改善したわけではない。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)

単位:%。FY2026通期ベース

ROIC=NOPAT(営業利益83.31億ドル×(1−実効税率21.67%)=65.26億ドル)÷投下資本(有利子負債+株主資本−現預金・有価証券。FY2025末555.74億ドルとFY2026末640.16億ドルの平均597.95億ドル)=10.91%。推定WACC9.21%(株主資本コスト10.3%=無リスク金利4.3%+β1.20×リスクプレミアム5.0%、負債コスト税引後3.77%、時価総額1,958.1億ドルと有利子負債392.9億ドルで加重)をやや上回る。Visa(ROIC46.2%)やOracle(14.8%)と比べるとスプレッドは薄いが、これはのれんを多く抱える買収型の会社に共通する姿。stockanalysis.comのROIC10.96%とも整合する。

💡 やさしく:ROIC10.9%は「事業に投じた資本100に対して毎年10.9稼ぐ」意味。資本調達コスト9.2%との差1.7ポイントが、買収の「上澄み」です。買収したInformaticaなどがこの差を広げてくれれば買収は成功、縮めれば失敗という見方ができます。

10会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS

SalesforceはUS-GAAP採用。株式報酬・買収無形資産の償却・リストラ費用の3つの調整で、GAAPと非GAAPの営業利益は約1.7倍も違う。

どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2026)

単位:億ドル
詳しく見る:会計基準の技術的差異(US-GAAP/JGAAP/IFRS)
  • 非GAAP営業利益141.56億ドルは、GAAP営業利益83.31億ドルに買収無形資産の償却16.87億ドル・株式報酬34.80億ドル・リストラ等6.58億ドルを足し戻したもの。株式報酬34.80億ドルは売上の8.4%にあたり、現金支出でなくても実質的なコストなので、非GAAPだけで「実力」を判断するのは危うい
  • 保有する他社株などの戦略投資は、公正価値の変動が毎期損益計算書に出る。FY2026は10.17億ドルの利益、FY2027上期は31.71億ドルの利益。会社はこの変動を将来予測には織り込まないと明示している(予測不能なため)
  • FY2027上期の非GAAP EPS $9.73には、戦略投資の評価益が$2.98分含まれる(会社開示)。非GAAP EPSであっても、投資益は除外されない点に注意
  • 営業活動で発生する「獲得コストの資産化」(手数料等)が、2026年7月末で流動20.74億ドル・非流動28.70億ドル計上されている。将来の償却費として営業費用に回る
  • JGAAPならのれんは20年以内の規則償却。592.50億ドルを20年均等償却すると年約29.6億ドルが営業費用に加わり、TTMの営業利益87.35億ドルは約57.7億ドルに減る計算になる(概算)
  • 戦略投資の評価損益は、JGAAPでは市場性のある株式なら原則として時価評価益が純資産に直入されることもあり、営業外損益として出る現行の会計とは損益の出方が異なる可能性がある
  • 「経常利益」に相当する概念がないため、日本のSaaS企業(例:freee・マネーフォワード)と比較する際は営業利益か税引前利益で水準を揃える必要がある
  • IFRSでものれんは非償却・減損テストのみで、US-GAAPと同じ思想。ただしIAS38は開発局面の要件を満たすと開発費の資産化を求めており、Salesforceの研究開発費(FY2026は59.93億ドル)の一部が資産に回れば、営業利益はさらに高く出る可能性がある(US-GAAPは原則として発生時に費用処理)
  • 契約獲得コスト(販売手数料)の資産化はIFRS15でもUS-GAAPのASC340-40とほぼ同様で、この項目の差は小さい
  • 戦略投資の公正価値変動は、IFRS9でもFVTPL区分ならば損益に出る。ただしその他包括利益(FVOCI)を選べる株式もあり、選択次第でGAAP純利益のブレを減らせる余地がある
💡 やさしく:同じ会社でも「GAAP営業利益83.31億ドル」と「非GAAP営業利益141.56億ドル」の2つの顔があります。差額58億ドルのうち、最大は株式報酬34.80億ドルです。「社員に払う給料の一部を株でまかなっている」のが実態で、それは既存株主の取り分を薄める本物のコストです。本ページは両方を併記しています。

11同業比較 — 「割安なSaaS」か、「成長が止まった成熟企業」か

企業向けソフトの巨人マイクロソフト(MSFT)、欧州ERP最大手のSAP、ワークフローSaaSのServiceNow(NOW)、クリエイティブ・ドキュメント領域のAdobe(ADBE)と比較する(2026/9/18終値時点)。

純利益率の比較

単位:%。直近12か月(TTM)実績

CRMの純利益率21.99%は、MSFT(40.31%)・ADBE(28.05%)には及ばないが、SAP(20.41%)を上回り、NOW(11.34%)の約2倍。ただしCRMの直近12か月の純利益には戦略投資の評価益が含まれるため、本業の利益率という意味ではもう少し低い(GAAP営業利益率は19.9%)。MSFTは純利益率40%台でクラウド投資を賄える体力の違いがある。

バリュエーション・資本効率の比較

2026/9/18終値時点

実績PERでCRM(22.05倍)は、MSFT(27.51倍)・SAP(27.21倍)・NOW(84.64倍)より割安、ADBE(13.90倍)よりは高い。予想PERは16.23倍まで下がり、NOW(29.90倍)・MSFT(24.99倍)・SAP(23.67倍)を下回る。PERの低いADBE(13.90倍)・CRMは、AI時代にソフト企業の収益が置き換えられる不安を市場が織り込んでいる可能性がある(筆者の見立て)。ROEはADBE(61.90%)・MSFT(34.04%)に対しCRMは19.38%とSAP(18.32%)並みで、PBRは5.10倍とSAP(4.69倍)に次いで低い。配当利回りはCRM(0.74%)がSAP(1.02%)・MSFT(0.79%)に近く、NOWとADBEは無配。

12戦略・課題と改善ポイント

強みは「更新され続ける契約と高い粗利率」。課題は、買収で足した成長と借入で作った株主還元が、実質的な成長の再加速で裏付けられるかに集約される。

強み Strengths

  • 売上の95%がサブスク&サポート。収益減少率(attrition)は約8%にとどまり、契約が積み上がる構造(cRPO33.5十億ドル)
  • サブスク粗利率81.3%(Q2FY27)、直近12か月FCFマージン34.5%と、稼ぐ力が強い
  • アセットライト。設備投資は売上の1〜2%(FY2026は5.94億ドル)で、成長に大きな設備が要らない
  • 顧客の営業・サービス・マーケの記録という「AIが使うデータ」を持ち、Data 360群が+20%成長

弱み Weaknesses

  • 買収を除いた実質成長はQ2FY27で+6.4%と、会社発表の+11%より低い
  • のれんが総資産の54.1%。株主資本383.78億ドルを上回るのれん+無形資産で、有形の純資産はマイナス
  • 有利子負債が144.39億ドルから392.88億ドルへ急増し、支払利息が四半期0.67億ドル→4.73億ドルへ7倍に
  • Marketing・Commerce(+2.8%)とIntegration・Analyticsの伸びが低く、事業ごとの温度差が大きい

機会 Opportunities

  • Agentforce ARRは15億ドル超(前年同期から+240%超)、AIとData 360を合わせたARRは約39億ドルで、AI課金という新しい収益源が立ち上がりつつある
  • FY2030の売上目標630億ドル(Informatica込み)。FY2027ガイダンス中央値462.5億ドルから年約10.9%成長で到達する計算
  • Contentful・Fin(2026年6月発表)の買収完了で、コンテンツ管理とAIカスタマーサービスの領域を取り込める

脅威 Threats

  • AIエージェントが「ユーザー数課金(シート課金)」を置き換え、既存のApps収益(+8%成長)が縮小する可能性
  • のれん592.50億ドルの減損リスク。買収先が期待どおり稼げないと大きな特別損失に
  • 金利上昇や信用格付けの変化は、有利子負債392.88億ドルの利払い負担に直結する
  • Microsoft・ServiceNow・SAP・Oracleなど、資金力のある競合とのAI機能競争

改善ポイント(優先度つき)

最優先

買収を除いた実質成長の再加速を数字で示す

会社は2027年度下期に実質の増収が再加速すると説明している。Q3FY27以降、Informatica寄与を除いた成長率を四半期ごとに明示できるかが信頼の分かれ目。

最優先

財務レバレッジの着地点を示す

自己資本比率は35.0%まで低下した。ASR最終決済(2026年10月予定)後、追加の借入を伴う株主還元を続けるのか、負債返済に回すのかの方針が問われる。

中期

Marketing・Commerceの成長率引き上げ

FY2026は+2.8%、直近四半期は恒常為替でマイナス圏。Salesforce最大手のSales/Serviceに比べて競争力の再構築が必要。

中期

従量課金(AI)への移行に耐える収益モデルの開示

会社自身が「cRPOと売上の関係は変わりうる」と注記している。AI課金の収益認識が変わるなかで、投資家が追える先行指標(ARR、AWU等)を継続的に開示できるか。

13投資メリット・デメリット

「更新され続ける契約」という守りの強さに、「AIによる代替」という攻めの不安が重なる。論点は、PER22.05倍(予想16.23倍)の株価が、その不安をどこまで織り込んでいるか。

▲ 強気材料(メリット)

  • 売上の95%がサブスク。cRPO33.5十億ドルと収益減少率約8%で、業績の見通しが立てやすい
  • 直近12か月FCF151.54億ドル(売上比34.5%)。時価総額1,958.1億ドルに対しFCF利回りは約7.7%
  • 500億ドルの自社株買い枠を設定し、上期だけで273.32億ドルを執行。株数は前年同期から約141百万株(15%)減少
  • FY2027ガイダンスは売上46.1〜46.4十億ドル・非GAAP EPS $16.67〜$16.71。会社は下期の実質増収再加速を見込む
  • 予想PER16.23倍はMSFT(24.99倍)・SAP(23.67倍)・NOW(29.90倍)より低い

▼ 弱気材料(デメリット)

  • 買収を除いた実質成長は+6.4%(Q2FY27)と一桁台。AIが既存のApps(+8%)を侵食するリスク
  • 有利子負債392.88億ドル・自己資本比率35.0%と財務体質が急変し、支払利息は四半期4.73億ドルに膨らんだ
  • ROIC10.9%と推定WACC9.2%の差は1.7ポイントと薄く、のれん592.50億ドルの減損リスクが常にある
  • FY2027上期のGAAP純利益・非GAAP EPSには戦略投資の評価益(EPSで$2.98分)が含まれ、本業の伸びより大きく見える
  • ASRの最終決済や追加の買収(Contentful・Fin)で、株数・負債・のれんがさらに変動する

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ実質成長が再加速しAI課金が立ち上がる。評価益を除くFY2027 EPS $14.20×PER22倍=$312.4(現値$237.92比+31.3%)
中立シナリオ会社ガイダンス通り。非GAAP EPS $16.69から上期の評価益$2.98を除いた$13.71×PER17.5倍=$239.9(現値比+0.8%、ほぼ横ばい)
弱気シナリオAI代替と競争激化で成長が鈍化、買収の消化に難航。評価益を除くEPS $13.00×PER14倍=$182.0(現値比▲23.5%)

※起点のFY2027非GAAP EPSガイダンス$16.67〜$16.71(中央値$16.69)は会社発表(2026年8月26日)。評価益の$2.98はFY2027上期に非GAAP EPSに含まれた戦略投資の損益(同発表の脚注)であり、下期の評価損益を予測することはできないため、ここでは除外して見ている。3シナリオは筆者が想定した数値で、会社予想でも市場コンセンサスでもありません。

💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①買収を除いた実質の増収が下期に再加速するか(現状は+6.4%)、②借入で膨らんだ有利子負債をどう管理するか(自己資本比率35.0%)、③AIエージェントがSalesforceの収益を奪うのではなく上乗せするか(Agentforce ARRは15億ドル超)。Salesforceは「サブスクで安定して稼ぐ守りの会社」が「買収と借入で攻める会社」に変わりつつあり、守りの強さは変わらない一方、財務の余裕は以前より小さくなっているという点を理解した上で見る必要があります。