🕒 最終更新: 2026-09-14 (直近更新)
キャタピラー Caterpillar Inc.・CAT
NYSEUS-GAAP12月決算
建設・鉱山機械26年4〜6月期決算まで反映
世界最大の建設・鉱山機械メーカー。だが本当の強さは「機械を売った後」にある——金融子会社Cat Financialの据置払い融資と、純正部品・再生部品(Cat Reman)によるサービス収益(2025年度実績240億ドル)が、新車販売の波を均す後方収益になっている。2026年度第2四半期は売上高205.4億ドル(+24.0%)・受注残バックログは1年で92%増の721.0億ドルと過去最高を更新した。
💡 はじめての方へ:黄色い重機で有名なキャタピラーですが、実は「機械を売った後」にもう一段の商売があります。ディーラーから機械を買った顧客の多くは、キャタピラーの金融子会社Cat Financialからお金を借りて何年もかけて返済し、機械が古くなれば純正部品や再生部品で整備を続けます。自動車で言えば「車を売る」だけでなく「ローンを組ませ、車検・部品交換で稼ぐ」ディーラー機能まで自社で持っているようなもの。本業の機械販売は景気に左右されやすい一方、この「後方収益」が業績のクッションになっています。
※2026年度第2四半期(4〜6月期)決算=2026年8月4日発表を反映済み(→③ 成長の歩み・④ 今期の焦点)。財務3表・収益性・会計基準ビューはFY2025通期(2025年12月期)の確定実績、株価・同業比較は2026年9月11日時点にもとづく。セグメント名は2026年度より「Energy & Transportation」から「Power & Energy」に呼称変更されている。
01企業カルテ
FY2025通期実績(2025年12月期・2026/1/29発表)と直近の市場評価。
売上高(FY2025)
675.9億ドル
前年比+4.3%・過去最高
営業利益
111.5億ドル
営業利益率16.5%(前年比▲14.7%・関税コストが影響)
純利益
88.8億ドル
前年比▲17.7%・EPS $18.81
受注残(バックログ)
721.0億ドル
2026年度第2四半期末・前年同期比+92%で過去最高
サービス収益
240億ドル
FY2025実績・2030年目標300億ドル(+25%)
時価総額
3,762.8億ドル
株価$818.57(26/9/11時点)
PER(実績TTM)
35.3倍
予想28.48倍・PBR19.40倍
ROIC(筆者試算)
17.3%
推定WACC約11.3%を上回る
○
成長性
FY2025通期は関税コストで減益だったが、2026年度は一転して加速。上期売上+23.2%・営業利益+35.7%、受注残は1年で92%増
△
収益性
FY2025営業利益率16.5%(調整後17.2%)。ただしFinancial Products(金融事業)の利益率は23.9%〜28.6%まで上昇中で、本業より稼ぎがいい
△
財務健全性
自己資本比率18.9%(2026年6月末)。ただし有利子負債451.5億ドルの多くはCat Financialの融資原資(融資残高252.1億ドルに対応)
◎
株主還元
31年連続増配(2024年12月期時点)。長年の自社株買いで発行株数を圧縮し続けている
▼
バリュエーション
PER35.3倍・PBR19.40倍は同業ディア(PBR6.51倍)・コマツ(PBR1.90倍)を大きく上回る高値圏
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。時価総額・PER・PBRは2026年9月11日時点の市場データ。ROIC・ROEデュポン分解の算定根拠は⑥ 収益性に記載。
💡 読み方:PBR19.40倍は「解散価値の19倍」という一見異様な数字ですが、これはキャタピラーの実力が同業の10倍あるという意味ではありません。長年の自社株買いで
自己資本を意図的に薄くしている(2026年6月末の株主資本はわずか193.9億ドル)ため、分母が小さくなって比率が跳ね上がっているだけです。詳しくは
⑥ 収益性で解説します。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、キャタピラーの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点1925年、Holt Manufacturing社とC. L. Best Tractor社の合併により誕生。以来100年、世界192か国の独立系ディーラー網を通じた建機販売を軸に成長
定説建機メーカーは、機械を製造してディーラー経由で売り切ることで稼ぐビジネス
逆説実際には「売った後」に稼ぐ比重が大きい。子会社Cat Financialが顧客・ディーラーへの据置払い融資(2026年6月末の融資残高合算252.1億ドル)で金利収入を得て、機械が稼働し続ける限り純正部品・整備・再生部品(Cat Reman)というサービス収益(2025年度実績240億ドル・2030年目標300億ドル)が積み上がる。Financial Productsセグメントの利益率は2025年度第1四半期21.4%→2026年度第2四半期28.6%へ四半期ごとに拡大し、過去延滞率は1.62%→1.31%へ改善——景気循環の波が大きい新車販売を、この「後方収益」が均している
キャタピラーはMP&E(Machinery, Power & Energy)とFinancial Products(Cat Financial等)の2枚看板で構成される。MP&Eは建設産業機械・資源産業機械・パワー&エナジーの3セグメントで新車・部品を製造し、世界の独立系ディーラーへ卸す(ディーラー自身はキャタピラーの子会社ではない)。ディーラーから機械を買う顧客の多くは、Cat Financialから融資を受けて分割で支払う。Cat Financialは自ら市場から資金調達(2026年6月末の有利子負債451.5億ドルの多くを占める)し、その利ざやと保険事業(Insurance Services)で稼ぐ——つまりキャタピラーは「機械メーカー」であると同時に「自社製品専門のノンバンク」でもある。
💡 やさしく:自動車ディーラーで新車を買うとき、多くの人はディーラー系列のローン会社でお金を借ります。キャタピラーも同じ仕組みを自前で持っていて、それがCat Financialです。機械を買った顧客は何年もかけてローンを返済し、その間ずっと金利を払い続けます。さらに機械が古くなれば、純正部品や「新品同様の品質・新品と同じ保証つき」の再生部品(Reman)で整備します。「売って終わり」ではなく「売ってからが本番」——これがキャタピラーの後方収益モデルです。
03成長の歩み — FY2025は関税で足踏み、2026年度に入り急加速
FY2025通期は売上高675.9億ドル(FY2024の648.1億ドルから前年比+4.3%)と過去最高を更新したものの、関税コストの影響でEPSはFY2024の$22.05からFY2025は$18.81へ減益だった。2026年度に入り売上・利益とも二桁成長へ転換し、受注残(バックログ)は1年で92%増と過去最高を更新し続けている。
四半期売上高の推移(2025年度第1四半期〜2026年度第2四半期)
単位:億ドル ■濃い棒=直近期
2025年度第4四半期(前年同期比+18.0%・162.2→191.3億ドル)を境に増収率が加速し、2026年度第1四半期は174.2億ドル(EPS $5.47)、2026年度第2四半期には四半期売上高が史上初めて200億ドルを突破(205.4億ドル・+24.0%)、EPSは$7.77(非GAAP EPS $8.17)。主因は建設・鉱山機械の販売数量増とデータセンター向け発電需要の伸び。
受注残(バックログ)の推移
単位:億ドル。2025年度第4四半期・2026年度第1四半期は会社発表の前年比・前期比の実額差分から筆者が逆算した推定値(※)
2024年度第4四半期の約300億ドルから2026年度第2四半期の721.0億ドルへ、1年半で2.4倍。会社は「主要3セグメントすべてで受注が広がっている」と説明しており、まだ売上に計上されていない先行需要がこれだけ積み上がっている状態。景気後退時にはこのバックログが業績の緩衝材になる一方、金利上昇で顧客の資金調達(多くはCat Financial経由)が滞れば取消リスクも抱える。
セグメント別売上高(2025年度第2四半期→2026年度第2四半期)
単位:億ドル。セグメント間取引を含む総売上
3セグメントすべてが増収。伸び率は建設産業機械+34.8%(61.9→83.5億ドル)>パワー&エナジー+17.1%(70.4→82.4億ドル)>資源産業機械+19.6%(38.9→46.5億ドル)の順。Financial Products(金融事業)も+9.9%(10.4→11.5億ドル)と着実に伸びている。
04今期の焦点:後方収益モデルの正体 — Cat Financialとサービス収益
キャタピラーの真の強みは「新車を売る力」だけではない。融資(Cat Financial)と部品・整備(サービス収益)という2つの後方収益が、景気循環の波が大きい新車販売をどう均しているかを分解する。
Financial Products(Cat Financial等)の収益と利益率の推移
単位:左軸=収益(億ドル)。利益率=セグメント利益÷セグメント収益
Financial Products(Cat Financial・Insurance Servicesで構成)の利益率は2025年度第1四半期21.4%→2025年度第2四半期23.8%→2026年度第1四半期22.4%→2026年度第2四半期28.6%と、四半期を追うごとに切り上がっている。2026年度第2四半期の利益は3.28億ドル(前年同期比+32.3%)で、会社は「平均運用資産の増加・保険事業の株式評価益・保険マージンの改善」を理由に挙げている。MP&E(機械製造)の営業利益率(2026年度第2四半期20.9%)と比べても遜色ない水準まで来ている。
Cat Financialの融資の質:過去延滞率と貸倒引当金
単位:%。融資残高(Cat Financial・2026年6月末で合算252.1億ドル)に対する比率
過去延滞率(61日以上の延滞)は2025年度第2四半期の1.62%から2026年度第2四半期は1.31%へ改善。融資残高が2025年12月末の249.2億ドルから2026年6月末の252.1億ドルへ拡大する中でも、貸倒引当金は284百万ドル(0.86%)から2.94億ドル(0.84%)へ、比率では横ばい〜微減——融資を拡大しながら、貸し倒れリスクは悪化していない。景気後退局面で自動車ローン同様に延滞が急増するリスクは残るが、現時点の数字はむしろ改善方向にある。
💡 やさしく:キャタピラーの機械は1台数千万円〜数億円するため、多くの顧客はローンを組みます。もし延滞や貸し倒れが増えれば、Cat Financialは「儲かる金融事業」から「不良債権を抱える重荷」に変わってしまいます。延滞率が下がっているという事実は、融資の量を増やしながら質を落としていないという、金融事業としては理想的な状態を示しています。
サービス収益(部品・整備・Reman)の2030年目標
単位:億ドル。会社の2025年投資家説明会(Investor Day)で示された目標
サービス収益(アフターマーケット部品・整備等が中心。金融事業の大半とディスコンティニュード製品は除く)は2025年度実績240億ドルで、会社は2030年までに300億ドル(+25%)への拡大を目標に掲げる。再生部品事業Cat Remanは8,000点以上の再生部品を取り扱い、「新品同様の品質・新品と同じ保証」を売りにする——廃棄物を減らすサステナビリティ文脈と、利益率の高いアフターマーケット収益を同時に狙う一石二鳥の事業。新車が景気で売れない年でも、稼働中の機械が現役である限りこの収益は途切れにくい。
05財務3表ビジュアル
関税コストが利益を圧迫したFY2025のP/L、金融事業の融資残高が積み上がるB/S、そして機械製造事業(MP&E)が稼ぐ現金をほぼ全額株主に返すC/F。
PL滝グラフ — 売上高675.9億ドルはどこへ消えるか(FY2025)
単位:億ドル
💡 やさしく:675.9億ドル(約9.9兆円)の売上に対し、税引前利益は115.4億ドル。FY2025は関税コストの増加が響き、前年の133.7億ドルから減っています。それでも税引後88.8億ドルが最終的な取り分として残ります。
BS比例図 — 総資産1,026.1億ドルの中身(2026年6月末)
箱の高さ=金額。自己資本比率18.9%
総資産の24.6%(252.1億ドル)が顧客・ディーラーへの融資残高(Cat Financial分の受取債権、流動10,844+固定14,364百万ドル)。棚卸資産206.3億ドルも大きく、製造業らしい在庫負担が残る一方、有利子負債451.5億ドルの大半はこの融資残高を賄うための調達債務——製造業の運転資金というより、銀行のバランスシートに近い性格を持つ。
キャッシュフロー(2026年度上期)
単位:億ドル。MP&E営業CF70.0億ドル
MP&E(機械製造事業)の営業CFは70.0億ドル、設備投資13.0億ドルを差し引いたMP&E FCFは57.0億ドルで、前年同期(26.0億ドル)から2.2倍に拡大。会社は「MP&E FCFの実質すべてを長期的に株主へ還元する」方針を掲げており、2026年度上期だけで自社株買い65.2億ドル+配当14.0億ドルを実施した。
06収益性 — ROE56%をデュポン分解する
直近12か月(TTM)の実績EPSは$23.22(2026年6月末までの合算値、株価$818.57に対する実績PER35.3倍)。キャタピラーの高いROEは、利益率の高さではなく「自己資本の薄さ(財務レバレッジ)」でほぼ説明がつく。
=
× 0.73回
総資産回転率
融資残高・在庫が重く回転は遅い
× 5.29倍
財務レバレッジ
自己資本を意図的に薄くした結果
本サイト掲載企業と並べると構造の違いがはっきりする。Apple(レバレッジ5.54倍)と近い水準で、Visa(レバレッジ2.52倍・純利益率50.1%)とは対照的に「利益率ではなくレバレッジでROEを作る」タイプ。総資産1,026.1億ドルに対し株主資本はわずか193.9億ドル(自己資本比率18.9%)——長年の自社株買いで自己資本を削り続けた結果であり、「ROEが高い=収益力が高い」と単純に読むと実態を見誤る典型例。同業ディアのROE18.24%・PBR6.51倍と比べると、キャタピラーがどれだけ自己資本を薄くしているかが分かる。
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)
単位:%。2026年6月末時点
ROIC=NOPAT(TTM営業利益130.92億ドル×(1−TTM実効税率23.5%)=100.2億ドル)÷投下資本(株主資本193.9億ドル+有利子負債451.5億ドル−現金67.1億ドル=578.3億ドル)=17.3%。推定WACC約11.3%(株主資本コスト12.15%=無リスク金利4.2%+β1.59×リスクプレミアム5.0%、負債コスト税引後3.83%を時価ベースの資本構成で加重)を約6ポイント上回り、価値創造は続いているものの、Visa(ROIC46.2%・WACC比+38pt)のような圧倒的な差ではない。投下資本の有利子負債451.5億ドルには、Cat Financialが融資原資として調達した借入がそのまま含まれており、製造業の設備投資効率と金融事業のレバレッジ効果が混ざった数字である点に注意が必要。
💡 やさしく:ROIC17.3%は「事業に投じたお金1に対して毎年0.173稼ぐ」ということ。悪くない数字ですが、この投下資本にはCat Financialが顧客への融資のために借りたお金も含まれています。銀行が「預金者から借りて顧客に貸す」ビジネスと同じ構造がキャタピラーの中にもあるため、純粋な製造業と同じ物差しで比べるには注意が必要です。
07会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
キャタピラーはUS-GAAP採用。「金融子会社の支払利息を営業費用に含める」という表示方法が、他業種との比較で見落とされやすい。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2025)
単位:億ドル
詳しく見る:会計基準の技術的差異(US-GAAP/JGAAP/IFRS)
- Financial Products(Cat Financial等)の支払利息(Interest expense of Financial Products)は、通常の企業なら営業外に計上する箇所を含め「営業費用(Total operating costs)」の内側に含まれ、その結果が「営業利益(Operating profit)」として開示される。製造事業(MP&E)自身の借入利息(Interest expense excluding Financial Products)はこれとは別に、営業利益の下(営業外)に計上される——金融事業の調達コストを本業の原価と同列に扱う、金融子会社を持つメーカー特有の表示
- 「経常利益」区分はなく、営業利益の下に金融収支(Other income/expense)が並ぶだけの構造
- 非GAAP指標として、関税による一時的な回収額(IEEPA tariff recoveries)や事業売却に伴う再編費用を調整後利益から除外している。2026年度第2四半期は関税回収3.92億ドルを含んだ営業利益が発表値で、これを除いた実質の関税負担は約4億ドルだったと会社は説明している
- 連結決算のほかに、MP&EとFinancial Productsを分離した「補足連結データ(Supplemental Consolidating Data)」を毎期開示——製造事業と金融事業のPL・BS・CFを別々に確認できる、金融子会社を持つ製造業ならではの開示
- 日本の決算短信であれば、金融子会社の支払利息を営業費用に含めず、営業外費用として区分するのが一般的。US-GAAPの表示のまま営業利益率を国内の重工業と比較すると、キャタピラーの営業利益率がやや低めに出る可能性がある
- 「経常利益」に相当する段階がないため、日本株と比較する際は営業利益か税引前利益で揃える必要がある
- 棚卸資産の評価方法は、JGAAPでは低価法が原則で先入先出法(FIFO)等が主流。キャタピラーのような重工業のUS-GAAP開示では後入先出法(LIFO)を一部採用するケースがあり、インフレ局面では売上原価が高めに(利益が低めに)出る効果を持つ
- IFRSでは金融事業(Financial Products)を製造事業と統合して1つの営業利益にまとめる実務が一般的で、キャタピラーの「補足連結データ」による分離開示ほど詳細に切り分けないことが多い
- IFRSはLIFO法を禁止しているため、米国基準からIFRSへ組み替えると棚卸資産の評価額・売上原価が変わりうる
- 同業のコマツ(JGAAP採用)・ディア(US-GAAP採用)と並べる際は、金融事業の利益をどこに計上しているかという表示の違いに注意が必要
💡 やさしく:キャタピラーの「営業利益」には、実はCat Financialが顧客への融資のために借りたお金の利息が費用として含まれています。普通のメーカーなら、こうした金融関係の利息は「営業外費用」として本業の利益とは別枠で扱われることが多いのですが、キャタピラーは金融事業も本業の一部とみなして営業利益に含めているのです。これは「隠している」のではなく、金融事業を本業の一部と考える経営方針の表れです。
08同業比較 — 「自己資本を薄くする経営」と「厚く持つ経営」の評価格差
同じく自社金融子会社を持つ耐久財メーカー、ディア・アンド・カンパニー(農業機械・John Deere Financial)とパッカー(大型トラック・PACCAR Financial)、そしてJGAAP採用の同業コマツと比較する(2026/9/11時点)。
PBR・ROEの比較 — 自己資本の厚さの違い
単位:倍・%。直近実績
キャタピラーのPBR19.40倍・ROE56.97%は、同業3社と比べても突出している。ディア(PBR6.51倍・ROE18.24%)・パッカー(PBR3.18倍・ROE12.76%)はいずれも同型の金融子会社(John Deere Financial・PACCAR Financial)を持ちながら、キャタピラーほど自己資本を薄くしていない。コマツ(PBR1.90倍・ROE12.3%、参考値)はJGAAP採用で最も保守的な資本構成。同じ「機械+金融」モデルでも、自社株買いの強度でこれだけ評価が変わることを示す一枚。
💡 やさしく:4社とも「機械を売ってローンも貸す」という似たビジネスをしていますが、キャタピラーだけが自己資本をとりわけ薄く保っています。自己資本を薄くするとROEは高く見えますが、同時に不況時の余力(バッファー)は小さくなります。PBRが高いのは市場がその薄さを許容しているからで、業績の実力そのものが4社で20倍近く違うわけではありません。
バリュエーション・収益性の比較
2026/9/11時点
PERで見るとキャタピラー(実績35.27倍)はディア(37.57倍)よりやや割安、コマツ(17.61倍)・パッカー(25.84倍)よりは割高。純利益率はキャタピラー14.51%・ディア10.17%・パッカー9.00%とキャタピラーが最も高いが、その差の一部はFinancial Productsセグメントの利益率の高さ(直近28.6%)が牽引している。配当利回りはコマツ2.57%・パッカー2.28%・ディア0.96%に対しキャタピラー0.80%と最も低く、還元の主軸は配当より自社株買いにある。
09戦略・課題と改善ポイント
機械製造と金融事業を両輪で持つ強さの裏側に、「関税コスト」「金融事業の景気敏感性」「極端に薄い自己資本」という3つのリスクが同居する。
強み Strengths
- 受注残721.0億ドル(前年同期比+92%)という過去最高の先行需要を抱える
- Financial Products(Cat Financial等)の利益率が四半期ごとに拡大(21.4%→28.6%)し、過去延滞率は改善傾向(1.62%→1.31%)
- サービス収益(部品・整備・Reman)が2025年度実績240億ドル、2030年目標300億ドルと、新車販売に依存しない収益源として拡大中
- 31年連続増配(2024年12月期時点)の株主還元実績と、192か国に広がる独立系ディーラー網
弱み Weaknesses
- 自己資本比率18.9%(2026年6月末)と極めて薄く、PBR19.40倍という高いバリュエーションの裏返しでもある。不況時の財務余力は同業(ディア・パッカー)より小さい
- FY2025は関税コストの影響で営業利益が前年比▲14.7%・純利益が▲17.7%と減益。2026年度も関税費用は継続的な逆風(2026年通期で約22億ドル、IEEPA関税回収除く)
- Financial Productsの有利子負債451.5億ドルは金利環境の影響を強く受け、市場調達コストの上昇は利ざやを圧迫する
- 資源産業機械の2026年度第1四半期セグメント利益率は10.0%(前年同期17.0%)へ悪化。素材価格・鉱山投資サイクルへの感応度が高い
機会 Opportunities
- データセンター向け発電需要の急拡大(パワー&エナジーの発電関連売上が牽引役)
- 2030年投資家目標: 売上高1,000億ドル・調整後営業利益率21〜25%、サービス収益300億ドルという長期成長シナリオ
- 受注残の積み上がりが2026年度後半以降の売上を下支え
- 自律走行トラック(鉱山向け)等の自動化技術で、労働力不足に悩む顧客への提案価値を強化
脅威 Threats
- 米国の関税政策変更リスク。2026年通期の関税コストは約22億ドル(IEEPA関税回収を除く)を見込む
- 金利上昇局面でCat Financialの調達コストが上がり、金融事業の利益率拡大トレンドが反転するリスク
- 景気後退時には新車販売の減速に加え、Cat Financialの過去延滞率が一気に悪化する複合リスクを抱える(自動車ローン同様の構造)
- 鉱山・資源開発向け(資源産業機械セグメント)はコモディティ価格サイクルに左右されやすい
改善ポイント(優先度つき)
最優先関税コストの価格転嫁・回収
2026年度第2四半期はIEEPA関税回収3.92億ドルで一部相殺できたが、通期では約22億ドルの純負担が残る見通し。価格改定でどこまで転嫁できるかが利益率の分水嶺になる。
最優先受注残721億ドルの着実な売上化
記録的な受注残は追い風だが、部材調達・生産能力の制約で納期が長期化すれば顧客離脱のリスクもある。生産キャパシティ増強の進捗が焦点。
中期Financial Productsの資産の質の維持
過去延滞率は改善しているが、融資残高が拡大する局面ほど不況時の逆回転リスクは大きくなる。引当金比率の推移を継続的に監視すべき局面。
中期自己資本の薄さと格付け維持のバランス
自社株買いのペースを維持しつつ、Financial Products向けの資金調達に必要な信用格付けを守れるか。財務レバレッジ5.29倍は既に高水準。
10投資メリット・デメリット
「機械を売る」と「機械を売った後に融資・整備で稼ぐ」の二枚看板は強い。論点は、受注残の急拡大が本当に利益へ転換するか、そして関税という外部要因をどこまで吸収できるかにある。
▲ 強気材料(メリット)
- 受注残721.0億ドル(前年同期比+92%)という過去最高の先行需要。2026年度上期は売上+23.2%・営業利益+35.7%・純利益+46.9%と急加速
- Financial Productsの利益率が28.6%まで拡大し、過去延滞率は1.31%へ改善——「売った後」の収益が量・質ともに向上中
- サービス収益2030年目標300億ドル(2025年実績比+25%)という、新車販売に依存しない成長シナリオが会社から示されている
- 31年連続増配、MP&E FCFの実質すべてを株主へ還元する方針を継続
- データセンター向け発電需要という新しい追い風がパワー&エナジーセグメントに吹いている
▼ 弱気材料(デメリット)
- PER35.3倍・PBR19.40倍は同業ディア(PBR6.51倍)・パッカー(PBR3.18倍)・コマツ(PBR1.90倍)と比べ突出して高い
- 自己資本比率18.9%と極めて薄く、財務レバレッジ5.29倍。不況耐性は同業より低いとみられる
- 2026年度も関税コストは約22億ドルの純負担が続く見通しで、価格転嫁の成否が利益率を左右する
- 資源産業機械の利益率が10.0%へ悪化するなど、セグメント間でばらつきが出ている
- Financial Productsの融資拡大は、景気後退局面で延滞率・貸倒引当金が急速に悪化するリスクと表裏一体
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ受注残の売上化が順調に進み、関税コストの価格転嫁も進む。FY2026非GAAP EPS $28.59(FY2025比+50%)×PER32倍(同業ディアの予想PER付近)=$915
中立シナリオ会社ガイダンス(売上高10%台半ば〜後半の成長)並みの着地。FY2026非GAAP EPS $26.68(+40%)×PER28.48倍(CAT自身の現在の予想PER)=$760(現値比−7%)
弱気シナリオ関税負担が想定超に膨らみ、資源産業機械の不振も続く。FY2026非GAAP EPS $23.82(+25%)×PER22倍(同業パッカーの実績PER付近)=$524
※起点のFY2025非GAAP EPSは$19.06(会社発表)。2026年度上期の非GAAP EPSは前年同期比+52.8%($8.97→$13.71)という実績の強さと、会社が示すFY2026通期ガイダンス(売上高「10%台半ば〜後半の成長」・関税除く調整後営業利益率は「目標レンジ下限に近い水準」)を踏まえた筆者試算であり、会社予想でも市場コンセンサスそのものでもない。
💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①受注残721億ドルの売上化ペース(記録的な受注が実際の売上・利益にどれだけ・いつ変わるか)、②Financial Productsの資産の質(過去延滞率1.31%が景気後退局面でも維持できるか)、③関税コストの転嫁(2026年通期で見込む約22億ドルの純負担をどこまで価格に乗せられるか)。「機械を売って終わり」ではなく「売った後の融資と整備で稼ぎ続ける」という構造そのものは強固ですが、その強みを支える自己資本の薄さが、この会社の裏返しのリスクです。