CompanyPocketβ 用語集

Amazon AMZN

NASDAQUS-GAAP12月決算 EC×クラウドデータ基準日 2026/7/17

世界最大級のECサイトと、企業のITインフラを支えるクラウド事業「AWS」を両輪で持つ複合企業。直近12カ月の売上高は7,428億ドル、営業利益率は薄利のEC事業を含めても11.5%まで改善。ただし直近のFCFは巨額のAI関連設備投資でマイナスに転じた。

💡 はじめての方へ:ネット通販でおなじみのAmazonですが、実は利益の多くを稼いでいるのは「AWS」というクラウド事業——世界中の企業のシステムをAmazonのコンピューターで動かすサービスです。「安く売って薄利多売」のEC事業と、「高収益」のクラウド事業という2つの顔を持っています。

01企業カルテ

直近12カ月(TTM・2025年4月〜2026年3月)実績と現在の市場評価。

売上高(TTM)
7,428億ドル
+14.2%・約120.6兆円換算
営業利益
854億ドル
利益率11.5%・5年で倍以上に改善)
純利益
908億ドル
+37.7%・EPS $8.36
ROE
21.4%
FY22の赤字転落から回復済み
ROIC
14.2%
安定的に資本コストを上回る水準
FCF(TTM)
▲25億ドル
設備投資1,510億ドルの急拡大で一時マイナス
時価総額
2.66兆ドル
1年で+12.2%
PER(実績)
29.6
成長株として標準的な評価
成長性
TTM売上+14.2%と大型企業として堅調な成長
収益性
営業利益率11.5%は5年で倍以上に改善(FY22の2.4%から)
財務健全性
自己資本比率48.2%と健全な水準
株主還元
無配。FCFが一時マイナスのため還元より投資優先の局面
バリュエーション
PER29.6倍は成長・収益改善を織り込んだ水準

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=162.40円概算。

💡 読み方:利益は順調に伸びていますが、直近12カ月のFCF(自由に使えるお金)はマイナス25億ドルという珍しい状態です。これは倒産の兆候ではなく、AI・物流向けの巨大な設備投資(1,510億ドル)を積極的に行った結果——④で詳しく解説します。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、Amazonの稼ぎ方。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点ネット書店から始まった「地球上で最も豊富な品揃え」戦略
定説ECサイトは薄利多売のビジネスで、高収益は望めない
逆説ECを支えるために自社開発したITインフラ(サーバー・データセンター)を、外部企業にクラウドサービス(AWS)として貸し出すことで、EC本体より遥かに高い利益率の第二の収益源を確立

「自社のために作った仕組みを、他社にも貸し出す」という発想の転換がAmazonの真骨頂。EC事業(北米+国際、Prime会費・広告収益含む)は薄利だが、AWSは企業のITシステムを支えるインフラとして極めて高い利益率を持つ。規模で見ると、EC事業(北米+国際)が売上の82%(5,882億ドル)を占め依然として本体。AWSは売上ではわずか18%(1,287億ドル)だが、営業利益では全社の57%をこの1事業が生み出す——「売上は小さいのに利益は稼ぎ頭」という二階建て構造が数字で明確に確認できる。

💡 やさしく:Amazonは最初、「自分たちのネット通販を動かすための巨大なコンピューター設備」を作りました。その後「この設備、他の会社にも貸してあげよう」と考えたのがAWSの始まり。売上ではまだEC事業の方が大きい(8割超)ですが、会社全体の儲けの半分以上はAWSが生み出しています。

03成長の歩み — FY22の赤字転落から収益改善へ

2022年はインフレ・コスト高で異例の赤字。そこから3年連続で増収増益・利益率改善が続く。

売上高の推移(FY2021〜FY2025・TTM)

単位:億ドル ■濃い棒=TTM(直近12カ月)

営業利益の推移(FY2021〜FY2025・TTM)

単位:億ドル

営業利益率の推移

FY22の2.4%を底に5年で4倍以上に改善

04今期の焦点 — FCFマイナス化を分解する

純利益は+37.7%増益なのに、なぜ自由に使えるお金(FCF)はマイナスになったのか。

営業CFと設備投資の関係(TTM・億ドル)

設備投資が営業CFを上回りFCFがマイナス化

TTM営業CF1,485億ドルに対し、設備投資(Capex)が1,510億ドルと上回ったため、FCFは▲25億ドルとなった。AI・クラウド需要拡大に対応するデータセンター投資と、物流網の強化投資が背景にあるとみられる。営業利益・純利益は伸びているため、事業の実力低下ではなく、将来の成長のための先行投資が現在のキャッシュフローを一時的に圧迫している状態。

💡 やさしく:「稼いだお金より、未来のための投資(データセンター建設等)の方が一時的に大きくなった」というだけで、赤字とは違います。Microsoft等の他のテック大手でも同様にAI投資でキャッシュフローが圧迫される傾向があり、業界全体のトレンドの一部と見ることもできます。

FCFの5年推移 — FY23-24で稼いだ黒字が、AI投資で再びマイナスに

単位:億ドル

FY21-22はコロナ特需後の投資拡大で連続マイナス、FY23-24はコスト効率化で+320億ドル台まで黒字化。しかしFY25に+77億ドルへ急減し、TTMでは再びマイナス▲25億ドルへ転落。設備投資がFY23の527億ドルからFY25には1,318億ドルへ2.5倍に急拡大したことが直接の原因で、「一度改善した後に再び投資局面へ入った」という波形が読み取れる。

05セグメント — 売上の6割は北米、利益の6割はAWS

FY2025通期の3セグメント(北米・国際・AWS)を見ると、「売上を作るEC」と「利益を作るAWS」の役割分担がはっきり分かる。

セグメント別 売上高(FY2025・億ドル)

北米が売上の59%を占める最大セグメント

北米4,263億ドル・国際1,619億ドル・AWS1,287億ドル(合計7,169億ドルは全社実績のFY2025値と完全一致)。売上規模ではECの北米・国際が圧倒的に大きい。

セグメント別 営業利益率(FY2025)

AWSの利益率35.4%はEC事業の5〜10倍

AWSの営業利益率35.4%(営業利益456億ドル)に対し、北米は6.9%・国際は2.9%と薄利。3セグメント合計の営業利益799.75億ドルのうち、AWS単独で57%(456億ドル)を稼ぎ出している——売上シェアはわずか18%のAWSが、利益の過半を支える構図が数字で裏付けられる。

💡 やさしく:Amazonの売上の看板は「ネット通販」ですが、会社の利益を実際に稼いでいるのは看板の裏にある「AWS」というクラウド事業です。売上の2割にも満たないAWSが、利益では半分以上を占める——これがAmazonという会社の本当の姿です。

06財務3表ビジュアル

巨大な設備投資と着実な利益成長のバランスを見る。

PL滝グラフ — 売上高7,428億ドルはどこへ消えるか(TTM)

単位:億ドル
💡 やさしく:7,428億ドル売って、費用は6,574億ドル。本業のもうけは854億ドル(11.5%)まで残ります。EC事業だけなら数%の薄利ですが、AWSの高収益がこの水準まで全体を押し上げています。

BS比例図 — 総資産9,166億ドルの中身(TTM末)

自己資本比率48.2%

キャッシュフロー(TTM)

単位:億ドル。設備投資が突出

財務CFは+625億ドルとプラス(社債発行等による資金調達とみられる)。巨額投資を借入で補いながら、AI・物流インフラの拡張を進めている構図。

07収益性 — ROEを分解する

ROE21.4%(TTM)をデュポン分解で見る。

ROE(TTM)
21.4%
12.2%
売上高純利益率
AWSの高収益が全体を牽引
× 0.81回
総資産回転率
設備投資拡大で資産が重くなる傾向
× 2.15倍
財務レバレッジ
自己資本比率48.2%

平均残高ベースの筆者概算。FY22の赤字転落(ROE▲1.9%)から着実に回復し、TTMでは21.4%まで改善している。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか

単位:%。stockanalysis.com算定値

ROIC14.24%(TTM)は推定WACC(7〜8%)を明確に上回り、価値創造の状態。FY22の2.99%から着実に改善しており、EC事業の効率化とAWSの拡大が両輪で寄与している。

08会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS

AmazonはUS-GAAP採用。EC×クラウドの複合企業特有の会計上の論点を見る。

会計基準による見え方の違い

  • データセンター等の設備投資は資産計上され減価償却される。AI関連投資の拡大は今後の減価償却費増加要因
  • 在庫(EC事業の商品在庫)の評価方法が利益に影響
  • 「経常利益」区分はなく、営業利益の下は金融損益等のみ
  • JGAAPでも大枠は同様だが、「経常利益」区分が復活する
  • IFRSも設備投資の資産計上は同様。リース会計(IFRS16)では物流倉庫等の賃借がBS計上され資産・負債とも膨らむ可能性
💡 やさしく:ECとクラウドという性質の異なる2つの事業を1つの決算書にまとめているため、全体の数字だけでは実態が見えにくい会社です。⑤で見たセグメント別の情報を併せて見ることが、より深い理解につながります。

09米テック比較 — クラウド3強の一角として

Microsoft(Azure)・NVIDIA等、本サイト掲載の米テック大手と比較。

時価総額2.66兆ドルはApple(4.90兆ドル)・NVIDIA(4.91兆ドル)・Microsoft(2.93兆ドル)と比べるとやや下回るが、EC×クラウドという事業の多角化度では独自の立ち位置にある。

💡 やさしく:クラウド事業(AWS)だけで見ればMicrosoftのAzureと直接のライバル関係にありますが、Amazonにはさらに巨大なEC事業もあるという点が大きな違いです。

10戦略・課題と改善ポイント

旗印は「地球上で最もお客様を大切にする企業」。課題はAI投資の回収とEC事業のさらなる効率化。

強み Strengths

  • AWSという高収益クラウド事業と、世界最大級のEC基盤の両輪
  • 5年で営業利益率が4倍以上に改善する収益構造の進化
  • Amazon Prime会員という強固な顧客基盤
  • 広告事業という高収益な第三の収益源の育成

弱み Weaknesses

  • TTMのFCFがマイナスと、キャッシュフローが一時的に圧迫
  • EC事業自体は依然として薄利な構造
  • 設備投資の急拡大による減価償却費増加が今後の利益を圧迫する可能性

機会 Opportunities

  • AWSのAIサービス需要拡大によるさらなる成長
  • 広告事業のさらなる収益化
  • 物流網の効率化によるEC事業の利益率改善余地

脅威 Threats

  • クラウド市場でのMicrosoft Azure・Google Cloudとの競争激化
  • AI投資が期待通りの収益に結びつかないリスク
  • EC市場での競合(Shopify・中国系ECプラットフォーム等)

改善ポイント(優先度つき)

最優先

設備投資の回収ペース

FCFマイナス化の解消には、AWS・AI関連投資の収益化が計画通り進むかが鍵。

中期

EC事業のさらなる効率化

薄利体質のEC事業を、自動化・物流効率化でどこまで改善できるか。

中期

国際セグメントの収益性改善

国際セグメントの営業利益率は2.9%と北米(6.9%)・AWS(35.4%)に見劣りする。海外展開の収益化ペースが今後の焦点。

11投資メリット・デメリット

「利益成長は着実。論点はAI投資の急拡大がFCFにどこまで影響し続けるか」が本レポートの総括。

▲ 強気材料(メリット)

  • 営業利益率が5年で4倍以上に改善(2.4%→11.5%)
  • 純利益+37.7%と大幅増益が継続
  • ROIC14.2%とWACCを上回る資本効率
  • AWS・EC・広告という3本柱の収益構造

▼ 弱気材料(デメリット)

  • TTMのFCFがマイナスと、キャッシュフローが一時的に悪化
  • 設備投資の急拡大が今後も続けば財務負担が増す可能性
  • EC事業自体は依然として薄利構造
  • PER29.6倍は成長を織り込み済みの水準

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオAWS成長加速でEPS $10×PER32倍=$320水準
中立シナリオ現在の改善ペース継続、EPS $8.7×PER28倍=$244前後
弱気シナリオ設備投資負担継続でEPS $7×PER22倍=$154前後
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①AWSの成長率②FCFの回復時期(設備投資が一巡するか)、③EC事業の利益率改善。「利益は伸びているのにキャッシュがマイナス」という状態が一時的なものか構造的なものかを見極めることが、この銘柄の投資判断の核心です。