🕒 最終更新: 2026-09-15 (直近更新)
AMD Advanced Micro Devices, Inc.・AMD
NASDAQUS-GAAP12月決算
ファブレス半導体26年4〜6月期決算まで反映
自社工場を持たない「ファブレス」戦略で、2015年に株価1.75ドルまで沈み「倒産秒読み」とまで言われた状態からIntelを追い詰めた設計特化の半導体企業。2009年に自社工場をGLOBALFOUNDRIESとして切り離し、台湾TSMCの最先端プロセスを武器に反転攻勢をかけた。FY2025(2025年12月期)は売上346.4億ドル・純利益43.4億ドルの過去最高を更新し、AI向けInstinct GPUを擁するデータセンター事業は2026年4〜6月期に会社全体売上の58.2%を占めるまで拡大した。時価総額は約7,992億ドル(2026年9月14日時点)。
💡 はじめての方へ:パソコンやゲーム機の「頭脳」を作る会社と聞くと、大きな工場でシリコンを焼いているイメージがあるかもしれません。しかしAMDは2009年以降、自分では1枚のシリコンウエハーも作っていません。設計図だけを描き、実際の製造は台湾のTSMCという専門の工場に外注しています。工場という重い設備投資を持たない身軽さのおかげで、最新の製造技術をいち早く使えるようになり、同じパソコン用CPUの世界でずっと自社工場にこだわってきたIntelを追い詰めることに成功しました。
※2026年度第2四半期(4〜6月期)決算=米国時間2026年8月4日発表を反映済み(→④ 今期の焦点)。通期ベースの財務3表・収益性・会計基準ビューはFY2025通期(2025年12月期)の確定実績、株価・同業比較は2026年9月14日終値にもとづく。
01企業カルテ
FY2025通期実績(2025年12月期・2026/2/3発表)と直近の市場評価。
売上高(FY2025)
346.4億ドル
前年比+34.3%・過去最高
営業利益
36.9億ドル
営業利益率10.66%(非GAAP22.43%)
純利益
43.4億ドル
純利益率12.51%・EPS $2.65
データセンター売上
166.3億ドル
前年比+32.2%・全社売上の48.0%
FCF
55.2億ドル
FCFマージン15.93%・調整後EBITDA85.2億ドル
時価総額
7,992億ドル
株価$489.58(26/9/14終値)・52週高値$584.73
PER(実績TTM)
125.9倍
非GAAP PER85.0倍・PBR12.69倍
ROIC(筆者試算)
5.77%
推定WACC約12.3%を下回る
◎
成長性
FY2025売上+34.3%・純利益+164.2%。2026年度上期も売上+44.1%・純利益+132.8%と加速中
△
収益性
営業利益率10.66%(非GAAP22.43%)。本サイト掲載企業の中では中位。同業NVIDIAの利益率には及ばない
◎
財務健全性
自己資本比率81.9%と極めて健全。ただし総資産の54.4%がのれん・無形資産(Xilinx買収由来)
×
株主還元
配当ゼロ。FY2025の株主還元は自社株買い13.16億ドルのみ(純利益の30%)
×
バリュエーション
PER125.9倍(TTM・GAAP)と割高感が強い。AI成長期待が株価にすでに大きく織り込まれている
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。時価総額・PER・PBRは2026年9月14日終値と発行済株式数1,632,475,042株(2026年7月29日時点、10-Qカバーページ)から筆者算出。円換算は1ドル=154.55円(2026/9/14)。
💡 読み方:PER125.9倍という数字だけ見ると「バブルでは」と感じるかもしれません。ただしこれは直近12か月の実績利益に対する倍率で、AI向けデータセンター事業が四半期ごとに急拡大している最中の会社です。市場は「今の利益」ではなく「これから数年で膨らむはずの利益」に値段をつけている状態だと理解すると、数字の意味が見えてきます。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、AMDの「ファブレス」設計図。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。
カネの流れ
モノ・設計データの流れ
情報の流れ
起点1969年設立。当初はIntelのx86命令セットのセカンドソース企業として出発し、長年自社工場(Fab)を持つ「垂直統合型(IDM)」だった
定説最先端の半導体で戦うには、設計から製造まで自社で握る垂直統合(IDM)でなければならない——IntelやSamsungが体現してきた業界の常識
逆説AMDは2009年、赤字続きだった自社工場部門をGLOBALFOUNDRIESとしてスピンオフし、設計に特化する「ファブレス」企業に転換した。工場という巨大な固定費を切り離した結果、台湾TSMCの最先端プロセス(7nm以下)をいち早く使えるようになり、皮肉にも自社工場を持ち続けたIntelより先に微細化を進めることに成功した。2015年には株価が1.75ドルまで下落し市場から「倒産秒読み」とみなされたが、Ryzen/EPYC投入後の復活で2026年9月14日時点の株価は$489.58——ファブレス転換の起点である2015年安値の279.8倍
AMDの製造は3社のファウンドリ(受託製造)に委託されている。マイクロプロセッサ・GPU製品のうち7nm以下の先端プロセスはTSMC(台湾積体電路製造)に全量委託し、7nmより大きいプロセスノードは主にGLOBALFOUNDRIES(旧AMD自社工場部門)に委託。FPGA等の集積回路(IC)製品はTSMC・UMC・Samsungにも分散している。組立・検査・パッケージング(ATMP)はTongfu Microelectronics系列の合弁会社が担う。AMD自身が2026年度第2四半期Form 10-Qで開示している通り、AMDは1枚のシリコンウエハーも自社で製造していない——設計とソフトウェア(ROCm等)にリソースを集中させる代わりに、供給網全体を外部パートナーに委ねる構造である。
💡 やさしく:料理に例えると、AMDは「レシピ(設計図)だけを作る一流シェフ」。実際に食材を仕入れて調理する厨房(工場)は持たず、TSMCという世界最高峰の「調理専門会社」に外注しています。厨房を持たないので、設備投資という重荷を背負わずに、TSMCが持つ世界最先端の調理技術(微細化プロセス)をそのまま使えるのが強みです。一方でIntelは長年「自分の厨房で自分のレシピ通りに作る」方式にこだわり、厨房の設備更新が遅れて出遅れた時期がありました。
03成長の歩み — 「倒産秒読み」の2015年から過去最高益の2025年へ
2015年の純利益▲6.6億ドルから2025年の純利益43.4億ドルへ。ファブレス転換(2009年)とRyzen/EPYC投入(2017年)を経て、2020年以降は複利で成長が加速している。
売上高の推移(FY2015〜FY2025)
単位:億ドル ■濃い棒=直近期。12月決算
純利益の推移
FY2015・FY2016は最終赤字。単位:億ドル
FY2015は▲6.6億ドル、FY2016も▲5.0億ドルの最終赤字で、当時の株価は$1.75(2015年10〜12月期安値)まで下落した。2017年のRyzen/EPYC投入で黒字転換し、2020年以降は複利成長。FY2025は過去最高の純利益43.4億ドルに到達した。
売上高営業利益率の推移
単位:%(GAAP)。FY2022〜2023はXilinx買収に伴う無形資産償却の影響で圧縮
FY2022のXilinx買収(約490億ドル規模)に伴う取得無形資産の償却負担で、FY2023の営業利益率は1.77%まで低下した。FY2024・FY2025は売上拡大とともに回復し、FY2025は10.66%(非GAAP22.43%)まで戻している。
04今期の焦点 — データセンターAI事業が「会社の主役」に変わった瞬間
2026年度第2四半期、データセンター事業は売上67.2億ドル(前年比+107.3%)で会社全体売上115.4億ドルの58.2%を占めた(純利益23.0億ドル)。1年前のこの比率は42.2%——ファブレス戦略で温存した身軽さが、いまAI半導体ブームで最大の果実を生んでいる。FY2025通期のセグメント別売上はデータセンター166.3億ドル・クライアント&ゲーミング145.5億ドル・組み込み34.5億ドル。
データセンター事業の四半期売上推移 — 5四半期で2倍超に
単位:億ドル。■濃い棒=直近期
Q2FY25の32.4億ドルからQ2FY26は67.2億ドルへ、5四半期で2.07倍。前年比+107.3%(決算発表の見出しでは「2倍超」と表記)。EPYCサーバーCPUの需要拡大に加え、AMD Instinct GPUの出荷が本格的に積み上がっていることが背景にある。データセンター事業の営業利益率はFY2025通期で21.66%、Q2FY26には31.3%まで改善した。会社は2026年下期にデータセンター売上がさらに加速する見通しを示している。
セグメント別売上構成の変化(Q2FY25→Q2FY26)
単位:億ドル
データセンター売上比率はQ2FY25の42.2%からQ2FY26は58.2%へ13年分の年輪を1年で進めたような変化。全社営業利益率もQ2FY25の-1.74%(営業損失)からQ2FY26は17.25%へ改善した。クライアント&ゲーミングは横ばい(36.2億ドル→38.4億ドル)ながら、組み込み(Embedded)も8.2億ドル→9.8億ドルへ着実に拡大。会社全体の顔つきが、PC・ゲーム機中心からデータセンターAI中心へ変わりつつある。
「倒産秒読み」だった2015年と現在の株価
単位:ドル。Yahoo Finance長期データ(2015年10〜12月期安値)
2015年10〜12月期の安値1.75ドルから、2026年9月14日終値489.58ドルまで279.8倍。当時の時価総額は20億ドル台にまで縮小し「倒産秒読み」と評されたが、ファブレス転換によりTSMCの微細化ロードマップに乗り続けたことが、その後10年の回復の土台になった。
💡 やさしく:2015年当時のAMDは、自社工場の維持費が重荷になり、赤字が続いて株価が1株2ドルを切る場面もありました。もし当時のまま自社工場にこだわっていたら、設備投資の借金だけが積み上がっていた可能性があります。工場を手放して身軽になったことで、後にTSMCの最先端技術を武器に反転攻勢に転じることができました。
05財務3表ビジュアル
売上の半分近くが原価に消えるPL、総資産の半分以上がXilinx買収由来の無形資産であるB/S、そして稼いだ以上を成長投資に回すC/F——ファブレス半導体企業の財務的な特徴が3枚に表れる。
PL滝グラフ — 売上346.4億ドルはどこへ消えるか(FY2025)
単位:億ドル
💡 やさしく:346億ドル(約5.4兆円)の売上のうち、原価(TSMC等への製造委託費や無形資産償却を含む)だけで175億ドルが消えます。ここに研究開発費81億ドルなど巨額の投資が続くため、最終的に残る営業利益は37億ドルほど。工場を持たない代わりに、外部への製造委託費と自社の研究開発費という2つの大きな支出がAMDの費用構造の柱です。
BS比例図 — 総資産769.3億ドルの中身(FY2025末)
箱の高さ=金額。自己資本比率81.90%
総資産の54.4%(418.3億ドル)がのれん251.3億ドルと無形資産167.1億ドル。株主資本は630.0億ドル——大半は2022年に約490億ドルで買収したXilinx(FPGA大手)に由来する。自己資本比率81.9%と財務は極めて健全だが、実物の工場資産をほとんど持たず、買収の値段が資産の半分以上を占めるバランスシートという点はVisa等のアセットライト企業と共通する構造。有利子負債はわずか32.2億ドル。
キャッシュフロー(FY2025)
単位:億ドル。営業CF(継続事業)64.9億ドル
継続事業の営業CF64.9億ドルに対し設備投資は9.7億ドル(売上比2.8%)と小さく、FCFは55.2億ドル。株主還元は自社株買い13.16億ドルのみ(配当ゼロ)で、FCFの24%にとどまる。稼いだ現金の大半を配当・自社株買いに回さず、成長投資や手元資金として温存している点がVisa等の高配当アセットライト企業とは対照的。
06収益性 — ROE6.9%をデュポン分解する
AMDのROEは、高い自己資本比率(レバレッジの低さ)が足を引っ張り、同業他社に見劣りする水準にとどまっている。
=
12.51%
売上高純利益率
QCOM(12.51%)と同水準
× 0.474回
総資産回転率
Xilinx買収でのれん・無形資産が重い
× 1.212倍
財務レバレッジ
自己資本比率81.9%と極めて低レバレッジ
本サイト掲載企業と並べると、AMDのROEの低さの理由がはっきりする。Visa(ROE52.1%=純利益率50.1%×0.412回×2.52倍)は高い財務レバレッジでROEを押し上げる構造だが、AMDのレバレッジは1.212倍とVisaの半分以下。NVIDIAはROE76.3%(純利益率55.6%という桁違いの利益率が牽引)と比べても、AMDの利益率12.51%は見劣りする。AMDは「利益率もレバレッジも控えめ」という、成長株にしては保守的な財務構造にある。
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)
単位:%。FY2025末時点
ROIC=NOPAT(営業利益36.94億ドル×(1−非GAAP実効税率13%)=32.14億ドル)÷投下資本(株主資本629.99億ドル+有利子負債32.22億ドル−現金及び短期投資105.52億ドル=556.69億ドル)=5.77%。推定WACC約12.3%(無リスク金利4.3%+高ベータ半導体株のベータ1.6×株式リスクプレミアム5.0%)を下回っており、投下資本を上回るリターンを生めていない。主因は2022年のXilinx買収(約490億ドル)に伴うのれん・無形資産が投下資本を押し上げていること。AI事業の成長で営業利益率が改善すれば、この差は縮小に向かう可能性がある。
💡 やさしく:ROIC5.77%がWACC12.3%を下回るのは「借りたお金の金利より低い利回りしか生めていない」ということ。ただしこれは経営が下手という意味ではなく、Xilinxという会社を高い値段(約490億ドル)で買った代金がバランスシートに重くのしかかっているためです。買収の「のれん代」を差し引いた本業そのものの効率は、データセンター事業の営業利益率が31.3%(Q2FY26)まで改善していることからも、着実に上向いています。
07会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
AMDはUS-GAAP採用。買収由来の無形資産償却と、輸出規制に伴う一時的な在庫評価損の扱いが読み方の鍵になる。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2025)
単位:億ドル。GAAP純利益43.4億ドル→非GAAP純利益68.3億ドル(EPS $2.65→$4.17)
詳しく見る:会計基準の技術的差異(US-GAAP/JGAAP/IFRS)
- のれん251.3億ドル・無形資産167.1億ドルは非償却(のれん)または一定期間で償却(無形資産)で、FY2025だけで無形資産償却が売上原価に10.3億ドル・販管費に12.2億ドル、合計22.5億ドル計上されている。これは「非GAAP営業利益」を算出する際に足し戻される代表的な調整項目
- 米国の対中輸出規制(AMD Instinct MI308対象)により、FY2025だけで純額約4.4億ドルの在庫評価損・関連費用を計上。第4四半期には逆に約3.6億ドルの評価損戻し入れが発生するなど、地政学リスクが直接損益に表れる特殊要因がある
- 非GAAP税率は13%(会社が2025年度に使用した正規化税率)で算出され、一時的な税効果(不確実な税務ポジションに関する引当金の戻し入れ等)はGAAP純利益にのみ反映され非GAAP純利益からは除外される
- 「経常利益」区分はなく、営業利益の下に支払利息とその他収益・費用が並ぶだけの構造。ZT Systems製造事業の譲渡(FY2025第4四半期)に伴う損益は非継続事業として区分表示されている
- JGAAPならのれん251.3億ドルは20年以内の規則償却が必要。仮に20年均等償却すると年12.6億ドルの追加費用が発生し、営業利益率は10.66%から7.2%程度まで下がって見える
- 非GAAP調整(無形資産償却・株式報酬・買収関連費用等の除外)という発想自体がJGAAPには乏しく、日本基準では「特別損失」に計上する項目とAMDが恒常的に営業費用へ含める項目が異なるため、単純な営業利益率の比較には注意が必要
- 「経常利益」に相当する段階がないため、日本株と比較する際は営業利益か税引前利益で揃える必要がある
- IFRSでものれんは非償却・減損テストのみで、US-GAAPと同じ思想。ただし無形資産の償却期間の見積りや減損テストの頻度に差が出ることがある
- IFRSは「営業利益」の定義に幅があり、輸出規制に伴う在庫評価損のような一時項目を営業内・営業外のどちらに置くかが会社により異なる。AMDはこれを売上原価・営業費用の内側に含めている
- 非継続事業(ZT Systems製造事業)の表示方法はIFRS5とASC205-20でおおむね同様だが、測定期間調整の扱いに細かな差がある
💡 やさしく:AMDの「非GAAP営業利益77.7億ドル」は、GAAP営業利益36.9億ドルに無形資産の償却費や株式報酬などを足し戻した数字です。日本の会社ならこうした足し戻しの発想自体があまりなく、のれんは規則的に費用計上していきます。同じ実態でも「どの費用を一時的なものとみなすか」で利益の見え方が2倍以上変わる——Xilinx買収のような大型M&Aを行った会社の決算書を読むときは、この点への注意が欠かせません。
08同業比較 — 「AI最大手」「苦戦する王者」「安定した中堅」との3者比較
AI GPUで先行するNVIDIA、長年のライバルでファブレス化していないIntel、モバイル半導体大手Qualcommと比較する(各社直近本決算の実績値、2026/9/14の株価データにもとづき筆者算出)。
純利益率の比較
単位:%。各社直近本決算実績
NVIDIAの純利益率55.6%(FY2026・2026年1月期)は圧倒的で、AMDの12.51%(FY2025)とは4倍以上の差がある。Qualcommも12.51%(FY2025・2025年9月期)とAMDとほぼ同水準。Intelは52.9億ドルの原価削減・構造改革の途上にあり、FY2025(2025年12月期)は純利益▲2.7億ドルの最終赤字で純利益率▲0.51%——AMDが追い詰めてきた相手であるIntel自身が今、収益力の立て直しに苦しんでいる構図が数字に表れている。
💡 やさしく:NVIDIAは「AIブームの最大の勝者」として桁違いの利益率を出しています。AMDとQualcommは、成熟した半導体メーカーとして似た水準の利益率。そしてIntelは、AMDやTSMCに追い上げられる中で自社工場の維持費に苦しみ、直近の本決算は最終赤字でした。
バリュエーション・資本効率の比較
2026/9/14時点の株価データと各社直近本決算実績から筆者算出
注意して読むべきはAMDのPER125.9倍(TTM・GAAP)——同じAI関連銘柄のNVIDIA(PER42.5倍)より高く、Qualcomm(PER33.7倍)の3.7倍にあたる。これは「AMDの方が優れている」という意味ではなく、AMDの現在の利益水準がまだAI事業の成長期待に対して小さく、市場が将来の利益拡大を強く先取りして織り込んでいることを示す。PBRではNVIDIA32.47倍・AMD12.69倍・Qualcomm8.81倍・Intel4.31倍(Intelは純利益が赤字のためPER算出不能)の順。ROEはNVIDIA76.33%・Qualcomm26.13%・AMD6.88%・Intelは-0.23%(最終赤字)と、AMDは黒字4社の中で最も低い。同じ「Intelを追う・追われる」半導体企業でも、市場評価はAI事業の実績と将来性次第で大きく分かれている。
09戦略・課題と改善ポイント
ファブレス戦略とAI事業拡大という「攻め」は成功しているが、収益性・資本効率という「守り」の指標では同業に見劣りする課題が残る。
強み Strengths
- データセンター事業がFY2025に売上166.3億ドル(前年比+32.2%)、Q2FY26には四半期売上の58.2%を占めるまで拡大
- ファブレス構造によりTSMCの最先端プロセス(7nm以下)をいち早く採用でき、自社工場を持つIntelより微細化で先行する局面が続く
- 組み込み(Embedded)事業の営業利益率35.99%(FY2025)は全社平均10.66%を大きく上回る高収益源
- FY2025は売上346.4億ドル・純利益43.4億ドルの過去最高、調整後EBITDA85.2億ドルとFCF55.2億ドルも過去最高水準
弱み Weaknesses
- 全社営業利益率は10.66%(非GAAP22.43%)にとどまり、GAAP粗利益率も49.52%とNVIDIA等に比べ低い
- ROIC5.77%は推定WACC約12.3%を下回る。2022年のXilinx買収(約490億ドル)によるのれん・無形資産が投下資本を押し上げ資本効率を圧迫
- 自己資本比率81.9%と財務は健全だが、その裏返しとしてROE(期末基準6.88%)は同業のNVIDIA(76.33%)やQualcomm(26.13%)に見劣りする
- 配当を一切支払っておらず、FY2025の株主還元は自社株買い13.16億ドルのみ(純利益の30%)
機会 Opportunities
- AI向けInstinct GPU・Helios ラックスケール製品の立ち上がりで、データセンター事業がさらに加速する見通し(会社は2026年下期の加速を明言)
- Anthropic・Microsoft・OpenAI等との複数年・大型(Anthropicは最大2ギガワット規模)パートナーシップにより、複数世代にわたる需要の可視性が高まっている
- Ryzen AI PC・組み込みロボティクス向けAI処理など、PC・組み込み双方でAI関連の新製品カテゴリーを拡大中
脅威 Threats
- 米国政府の対中輸出規制(Instinct MI308)により、FY2025だけで純額約4.4億ドルの在庫関連費用が発生。地政学リスクが業績に直接影響する
- TSMCへの生産委託集中というファブレス構造そのものが、台湾有事等の地政学リスクに対する脆弱性でもある
- 半導体産業特有の景気循環性。ゲーミング事業はQ2FY26に前年比▲30.6%と減速しており、需要変動の波を受けやすい
- NVIDIAがAI GPU市場で圧倒的シェアを握る中、AMDのInstinct事業はまだ規模で劣後しており、価格競争力・ソフトウェア対応(ROCm)で追い上げる立場
改善ポイント(優先度つき)
最優先データセンター事業の利益率改善
Q2FY26のデータセンター営業利益率は31.3%まで改善したが、全社ベースでは非GAAPでも22.43%どまり。データセンター比率の上昇が全社利益率にどこまで波及するかが焦点。
最優先ROIC・WACCの逆転
ROIC5.77%が推定WACC約12.3%を下回る状態が続けば、Xilinx買収は会計上こそ黒字でも経済的価値を破壊し続けていることになる。データセンター事業の利益率改善がこの逆転の鍵。
中期ゲーミング事業の減速対応
Q2FY26のゲーミング売上は前年比▲30.6%。半導体産業特有の需要循環に対応する製品ポートフォリオの分散が課題。
中期地政学リスクの分散
対中輸出規制で一時費用が発生した実績があり、TSMC一極集中の製造委託構造も含め、サプライチェーンの地政学リスク管理が長期的な経営課題。
10投資メリット・デメリット
「ファブレス戦略でIntelを追い詰めた」という過去の成功物語は本物だが、論点は現在の株価PER125.9倍がAI事業の将来利益をどこまで先取りしているか。
▲ 強気材料(メリット)
- データセンター事業が前年比+107.3%(Q2FY26)で会社売上の58.2%を占めるまで拡大。AI半導体需要の追い風を最も受けている企業の一つ
- FY2025は売上+34.3%・純利益+164.2%、2026年度上期も売上+44.1%・純利益+132.8%と成長が加速している
- 自己資本比率81.9%と財務は極めて健全で、大型買収や設備投資を機動的に実行できる余力がある
- Anthropic・Microsoft等との複数年の大型パートナーシップにより、今後数年の需要の可視性が高い
- 組み込み事業の営業利益率35.99%など、データセンター以外にも高収益源を持つ多角化された事業構成
▼ 弱気材料(デメリット)
- PER125.9倍(TTM・GAAP)はNVIDIA(42.5倍)・Qualcomm(33.7倍)より大幅に高く、成長期待がすでに株価に強く織り込まれている
- ROIC5.77%が推定WACC約12.3%を下回っており、現時点の資本効率は同業に見劣りする
- 全社営業利益率10.66%(非GAAP22.43%)はNVIDIAの利益率水準には及ばず、収益性の改善余地が課題として残る
- 配当は一切なく、株主還元は自社株買い(純利益の30%)にとどまる
- ゲーミング事業の減速(Q2FY26前年比▲30.6%)や対中輸出規制など、半導体産業特有・地政学的な業績変動要因を抱える
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオデータセンター事業の急拡大が続き全社利益率が改善。FY2027非GAAP EPS $7.5×PER50倍=$375(約5万7,956円換算)
中立シナリオ成長は続くが現在の利益率水準からの改善は緩やか。FY2027非GAAP EPS $6.0×PER45倍=$270(約4万1,729円換算・現値比▲44.9%)
弱気シナリオAI投資ブームが一服し評価が切り下がる。FY2027非GAAP EPS $5.0×PER25倍=$125(約1万9,319円換算)
※起点となるFY2026(2026年12月期)の非GAAP EPSは、H1実績$3.03(Q1FY26 $1.37+Q2FY26 $1.66)と会社の四半期ガイダンス(Q3売上approximately $13.0B・非GAAP粗利益率approximately 56%)を踏まえ、通期で$6.5〜7.0程度に達する可能性がある水準。上の3シナリオはその翌期(FY2027)を対象とした筆者試算であり、会社予想でも市場コンセンサスそのものでもありません。
💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①データセンター事業の成長持続力(Q2FY26に前年比+107.3%まで加速したペースが今後も続くか)、②全社利益率の改善(データセンター比率が上がるほど全社の非GAAP営業利益率22.43%がどこまで上がるか)、③PER125.9倍という株価の高さ(同業のNVIDIA・Qualcommより高い倍率をAI事業の実績がどこまで正当化できるか)。「工場を持たない身軽さでIntelを追い詰めた」という過去の実績は本物ですが、これから問われるのは「その身軽さでNVIDIAにどこまで迫れるか」という、これまでとは別の戦いです。