iPhoneを入口に、App Store・iCloud・Apple Musicなどのサービス収益$1,092億ドルを積み上げる世界最大級の企業。時価総額約4.9兆ドル(約796兆円)。「AIで出遅れた」と言われた直後に、iPhone売上+23%・中国+38%の最高決算で反撃中。
FY2025通期実績(2025年9月期・2025/10/30発表、SEC 10-K確定値)と直近四半期・市場評価。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=162.40円(2026/7/17)。
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、Appleの稼ぎ方。
iPhone・Mac・Watchが連携する「エコシステム」でユーザーを離れにくくし、App Storeの手数料(15〜30%)・iCloud・Music・TV+などの継続課金を積み上げる二段ロケット。製造はFoxconn等へ委託するファブレス型で、設計・ブランド・顧客接点だけを自社に残す——キーエンスと同じ「付加価値の場所だけ握る」思想を世界最大規模で実行している。
iPhone 6(FY2015)とコロナ・5G特需(FY2021)の二段ジャンプを経て、FY2025に過去最高の$4,162億ドルへ。
FY2026はアナリスト予想で売上$4,787億(+15.0%)・EPS $8.76(+17.5%)。会社はQ3ガイダンスで+14〜17%成長を提示し、市場予想を上回った。
Siri刷新の大幅遅延で「AI敗者」と呼ばれたAppleが、なぜ最高決算を連発できているのかを分解する。
FY26 Q1はiPhone +23%・Greater China +38%と、弱点とされた2領域が急回復。Q2も中国+28.1%(約4年ぶりの高成長)。Alibaba提携によるApple IntelligenceのAI機能が2026年7月に中国の規制承認を取得し、最大の懸案が一つ解消した。
Apple公式決算発表(Newsroom)を四半期ごとに確認すると、FY25 Q3(4-6月)+10%→Q4(7-9月)+8%と一旦鈍化した後、FY26 Q1(10-12月)+16%→Q2(1-3月)+17%へ再加速している。中国のApple Intelligence規制承認(2026年7月)はQ1・Q2の好決算より後の出来事であり、「AI承認で売れた」のではなく「iPhone本体の需要が先に戻り、AI承認はさらなる追い風」という順序関係に注意。
Appleは事業セグメントを製品カテゴリと地域で開示する。セグメント利益は地域別のみ開示のため、ここでは売上構成を見る。
FY25は中国だけがマイナス(▲3.9%)だったが、FY26に入りQ1+38%・Q2+28%と急反転。日本は+14.6%と好調(円安による値上げ後も伸長)。
「稼いだ現金を全部株主に返す」を極限まで実行した結果、利益剰余金がマイナスという世界でも稀なBSになっている。
株主資本は$737億と総資産の2割しかなく、利益剰余金は▲$143億(累積赤字)。経営難ではなく「稼いだ利益より多くの金額を配当・自社株買いで株主に返してきた」結果であり、Apple流の資本政策の到達点。
投資CFがプラスなのは保有有価証券の償還・売却による流入のため。設備投資はファブレス型ゆえ小さく(減価償却$117億が目安)、FCFは概ね$1,000億ドル規模(筆者概算)。それを自社株買い$907億+配当$154億でほぼ全額還元した。
ROE171.4%は普通の会社ではあり得ない数字。デュポン分解で正体を暴く。
平均残高ベースの筆者概算。ROE171%のうち「実力」は利益率×回転率=約31%で、残りはレバレッジ(資本圧縮)の掛け算。ROEの絶対値を他社と比べても意味がない典型例で、任天堂(ROE16.5%・現金温存)と正反対の資本政策を採る。
ROIC=NOPAT(営業利益$1,331億×(1−実効税率概算16%)≒$1,118億)÷投下資本(株主資本$737億+有利子負債概算$1,000億規模※)≒60%超。推定WACC(9%前後)の6倍以上で、投下資本がほぼ要らないビジネスモデルであることを示す。※有利子負債の正確な残高は本ページでは未確認のため概算幅で表示。
AppleはUS-GAAP採用。日本の投資家が米国株の決算書を読むときの「翻訳のコツ」をAppleで学ぶ。
時価総額世界トップ級のNVIDIA・Alphabet・Microsoftと比較(2026/7時点)。
時価総額はNVIDIA($4.91兆)とApple($4.90兆)がほぼ並走。純利益率ではNVIDIA62.9%・Alphabet37.9%に対しApple26.9%と見劣りする一方、PERはAppleが最も高い——「AIの本命」ではなく「AI時代の入口の支配者」として、安定性にプレミアムが付いている構図(各社数値はstockanalysis.com・2026年7月17日時点で照合済み)。
「入口の支配」は盤石。リスクはAIの主戦場が変わることと規制。
Siri刷新の遅延で「約束を守れない」印象を残した。Siri AIとAFM 3の実用性・普及速度が、次の10年の入口支配を左右する。
DMA・Epic判決で手数料モデルに穴が開き始めた。手数料以外のサービス(iCloud・広告・金融)の育成が防衛線になる。
売上の50%がiPhone。Vision・ホーム・ヘルスケアなど「次の入口」の育成は依然として宿題。
関税・地政学リスクに対し、インド・東南アジアへの生産移管をどこまで速く進められるか。
「事業は再加速、還元は世界最大級。論点はPER40倍が織り込む『2桁成長の持続』を信じるか」が本レポートの総括。