Apple AAPL
NASDAQUS-GAAP9月決算
テクノロジー(ハード×サービス)データ基準日 2026/7/17
iPhoneを入口に、App Store・iCloud・Apple Musicなどのサービス収益$1,092億ドルを積み上げる世界最大級の企業。時価総額約4.9兆ドル(約796兆円)。「AIで出遅れた」と言われた直後に、iPhone売上+23%・中国+38%の最高決算で反撃中。
💡 はじめての方へ:iPhoneの会社ですが、今のAppleの本当の稼ぎ頭は「iPhoneを持っている人が毎月払うお金」——アプリ課金の手数料、iCloudの保存料、Apple Musicなどのサブスクです。スマホを1台売って終わりではなく、その後ずっとお金が入り続ける仕組みを世界で一番うまく作った会社です。
01企業カルテ
FY2025通期実績(2025年9月期・2025/10/30発表、SEC 10-K確定値)と直近四半期・市場評価。
売上高(FY2025)
4,162億ドル
+6.4%・約67.6兆円(162.4円換算)
営業利益
1,331億ドル
+8.0%(利益率32.0%)
純利益
1,120億ドル
+19.5%・EPS $7.46
サービス売上
1,092億ドル
+13.5%・全体の26%
直近四半期(FY26 Q2)
+17%
売上$1,112億・中国+28%と再加速
自社株買い(FY2025)
907億ドル
約14.7兆円。新枠$1,000億を承認
時価総額
4.90兆ドル
約796兆円・株価$333.74(26/7/17)
PER(実績TTM)
40.5倍
予想36.6倍・利回り0.3%台
◎
成長性
FY26は2桁増収に再加速(Q1+16%・Q2+17%、通期予想+15%)
◎
収益性
営業利益率32%・粗利率46.9%。サービスの伸びで構造的に改善中
○
財務健全性
現金+有価証券$1,324億。ただし自社株買いで株主資本は薄い(後述)
◎
株主還元
自社株買い年$900億+配当。還元総額は世界最大級
△
バリュエーション
PER40倍は同業比でも最高水準。再加速の持続が前提の株価
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。円換算は1ドル=162.40円(2026/7/17)。
💡 読み方:1年前まで「AI競争に乗り遅れた」と散々叩かれていましたが、直近2四半期は売上+16〜17%と絶好調。「AIの一番手にならなくても、23億台のデバイスを持つ入口の支配者は強い」——これが今の株価(52週+56%)が語っているストーリーです。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、Appleの稼ぎ方。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点iPhone——世界最強のハードウェアの入口
定説ハードは売って終わり。次の買い替えを待つビジネス
逆説ハードは「入口」にすぎない。囲い込んだユーザーにサービスを売り続け、1台から生涯収益を得る(サービス$1,092億ドル・粗利率はハードの約2倍)
iPhone・Mac・Watchが連携する「エコシステム」でユーザーを離れにくくし、App Storeの手数料(15〜30%)・iCloud・Music・TV+などの継続課金を積み上げる二段ロケット。製造はFoxconn等へ委託するファブレス型で、設計・ブランド・顧客接点だけを自社に残す——キーエンスと同じ「付加価値の場所だけ握る」思想を世界最大規模で実行している。
💡 やさしく:Appleのすごさは「iPhoneが売れること」より「iPhoneを持った人が毎月お金を落とすこと」。アプリを買えば3割がAppleに、写真を保存すればiCloud代が、音楽を聴けばMusic代が入ります。世界に何十億台とある「Apple製の入口」が、24時間お金を運んでくるイメージです。
03成長の歩み — 14年で売上2.7倍
iPhone 6(FY2015)とコロナ・5G特需(FY2021)の二段ジャンプを経て、FY2025に過去最高の$4,162億ドルへ。
売上高の推移(FY2012〜FY2025)
単位:億ドル ■濃い棒=直近期
営業利益の推移(FY2020〜FY2025)
単位:億ドル
営業利益率の推移
サービス比率の上昇とともに利益率も切り上がる
FY2026はアナリスト予想で売上$4,787億(+15.0%)・EPS $8.76(+17.5%)。会社はQ3ガイダンスで+14〜17%成長を提示し、市場予想を上回った。
04今期の焦点 — 「AI出遅れ」批判からの反撃と関税
Siri刷新の大幅遅延で「AI敗者」と呼ばれたAppleが、なぜ最高決算を連発できているのかを分解する。
売上成長率の再加速(前年同期比)
FY25通期の+6.4%から、FY26は2桁成長へギアチェンジ
FY26 Q1はiPhone +23%・Greater China +38%と、弱点とされた2領域が急回復。Q2も中国+28.1%(約4年ぶりの高成長)。Alibaba提携によるApple IntelligenceのAI機能が2026年7月に中国の規制承認を取得し、最大の懸案が一つ解消した。
四半期ベースで見る反転のタイミング
単発の好決算ではなく、2四半期前から助走していた
Apple公式決算発表(Newsroom)を四半期ごとに確認すると、FY25 Q3(4-6月)+10%→Q4(7-9月)+8%と一旦鈍化した後、FY26 Q1(10-12月)+16%→Q2(1-3月)+17%へ再加速している。中国のApple Intelligence規制承認(2026年7月)はQ1・Q2の好決算より後の出来事であり、「AI承認で売れた」のではなく「iPhone本体の需要が先に戻り、AI承認はさらなる追い風」という順序関係に注意。
AI・規制の現在地
- Siri刷新は大幅遅延(2026年6月にようやく「Siri AI」正式発表)。遅延を巡る訴訟も提起された
- 一方で自社開発の基盤モデル(AFM 3)をデバイスに統合し「端末側AI」で差別化を狙う
- EU DMA:€5億の制裁金(2025年)。App Store手数料モデルへの規制圧力は継続
- Epic訴訟:米国で外部決済リンクへの課金制限が禁止に。手数料収益の一部にリスク
関税の影響
- FY26 Q1(2025年10-12月)の関税コストは約$14億ドルとCFOが決算説明会で明言
- Q2は「前四半期比で影響は軽減」(具体額は非開示)
- 四半期$300億ドル超を稼ぐ利益体力に対し、現状の関税負担は吸収可能な規模。インド等への生産分散も進行中
💡 やさしく:トヨタは関税で年1.4兆円失いましたが、Appleの負担は四半期約2,300億円($14億)。しかもAppleは1四半期で約5兆円稼ぐので、痛いけれど致命傷にはほど遠い——「関税に強い」のではなく「利益が大きすぎて効かない」のです。
05製品・地域別 — iPhone半分、サービス4分の1
Appleは事業セグメントを製品カテゴリと地域で開示する。セグメント利益は地域別のみ開示のため、ここでは売上構成を見る。
製品・サービス別売上(FY2025)
売上高$4,162億ドルの内訳(10-K・合計一致検証済み)
地域別売上(FY2025・前年比)
FY25は中国だけがマイナス(▲3.9%)だったが、FY26に入りQ1+38%・Q2+28%と急反転。日本は+14.6%と好調(円安による値上げ後も伸長)。
読みどころ
- iPhone $2,096億(50.4%):依然として本体。FY26 Q1は+23%と衰え知らず
- サービス $1,092億(26.2%):+13.5%で最も安定した成長源。粗利率はハードの約2倍
- Wearables(Watch・AirPods)は▲3.6%と踊り場。次の柱探しが課題
💡 やさしく:「iPhoneの会社」から「iPhone+その中で使うサービスの会社」へ移行中。サービスは在庫も工場も要らないので、伸びるほど会社全体の利益率が上がります。
06財務3表ビジュアル
「稼いだ現金を全部株主に返す」を極限まで実行した結果、利益剰余金がマイナスという世界でも稀なBSになっている。
PL滝グラフ — 売上$4,162億はどこへ消えるか(FY2025)
単位:億ドル
💡 やさしく:4,162億ドル売って、部品・製造で2,210億ドル、研究開発と販売管理で621億ドルを使い、本業のもうけは1,331億ドル(32%)。日本円で約21.6兆円——トヨタの営業利益(3.77兆円)の5.7倍です。
BS比例図 — 総資産$3,592億の中身(FY2025末)
箱の高さ=金額。自己資本比率20.5%
株主資本は$737億と総資産の2割しかなく、利益剰余金は▲$143億(累積赤字)。経営難ではなく「稼いだ利益より多くの金額を配当・自社株買いで株主に返してきた」結果であり、Apple流の資本政策の到達点。
キャッシュフロー(FY2025)
単位:億ドル。営業CF$1,115億
投資CFがプラスなのは保有有価証券の償還・売却による流入のため。設備投資はファブレス型ゆえ小さく(減価償却$117億が目安)、FCFは概ね$1,000億ドル規模(筆者概算)。それを自社株買い$907億+配当$154億でほぼ全額還元した。
07収益性 — ROE171%のからくり
ROE171.4%は普通の会社ではあり得ない数字。デュポン分解で正体を暴く。
=
26.9%
売上高純利益率
世界トップ級の稼ぐ力(実力)
× 1.15回
総資産回転率
ファブレスで資産が軽い(実力)
× 5.54倍
財務レバレッジ
自社株買いで資本を極限まで圧縮(人為)
平均残高ベースの筆者概算。ROE171%のうち「実力」は利益率×回転率=約31%で、残りはレバレッジ(資本圧縮)の掛け算。ROEの絶対値を他社と比べても意味がない典型例で、任天堂(ROE16.5%・現金温存)と正反対の資本政策を採る。
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)
単位:%。概算値
ROIC=NOPAT(営業利益$1,331億×(1−実効税率概算16%)≒$1,118億)÷投下資本(株主資本$737億+有利子負債概算$1,000億規模※)≒60%超。推定WACC(9%前後)の6倍以上で、投下資本がほぼ要らないビジネスモデルであることを示す。※有利子負債の正確な残高は本ページでは未確認のため概算幅で表示。
💡 やさしく:ROEの171%は「見せ方」の産物ですが、ROIC60%超は本物の実力。「商売に使うお金1に対して毎年0.6稼ぐ」——工場を持たず、ブランドと設計だけで稼ぐビジネスの極致です。
08会計基準ビュー — US-GAAP / JGAAP / IFRS
AppleはUS-GAAP採用。日本の投資家が米国株の決算書を読むときの「翻訳のコツ」をAppleで学ぶ。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2025)
単位:億ドル
- 「経常利益」区分はなく、営業利益の下は金融損益等のみ。営業利益≒税引前利益のシンプルな構造
- 研究開発費$346億は全額費用処理(資産化しない)。保守的な利益と言える
- 株式報酬$129億も費用計上済み。利益の質は高い
- JGAAPの感覚で最も驚くのは利益剰余金マイナス(▲$143億)。日本では「債務超過寸前」に見えるが、米国では優良企業の資本政策として普通に許容される文化差がある
- 「経常利益」に相当する段階はないため、日本株と比べる際は営業利益か税引前利益で揃える
- のれんはほぼゼロ(大型買収をしない自前主義)。減損論点は小さい
- IFRSとの差異は軽微。最大の違いは開発費で、IFRSなら一部を資産化できるがAppleは全額費用のUS-GAAP——利益はやや控えめに出る
- 売上の計上(iPhone本体とソフトウェアアップデートの配分等)は両基準とも同様の収益認識ルール(ASC606/IFRS15)に収斂済み
💡 やさしく:米国株の決算書には日本でおなじみの「経常利益」がありません。また「利益剰余金(会社の貯金)がマイナス」は日本なら大問題ですが、米国では「貯金を全部株主に返した優等生」の証。ルールと文化の違いを知らないと、優良企業を危険企業と読み違えます。
09米テック大手比較 — 時価総額トップ集団の中で
時価総額世界トップ級のNVIDIA・Alphabet・Microsoftと比較(2026/7時点)。
AppleNVIDIAAlphabetMicrosoft
時価総額はNVIDIA($4.91兆)とApple($4.90兆)がほぼ並走。純利益率ではNVIDIA62.9%・Alphabet37.9%に対しApple26.9%と見劣りする一方、PERはAppleが最も高い——「AIの本命」ではなく「AI時代の入口の支配者」として、安定性にプレミアムが付いている構図(各社数値はstockanalysis.com・2026年7月17日時点で照合済み)。
💡 やさしく:AI半導体のNVIDIA、AI検索のAlphabet、AIクラウドのMicrosoftが「AIを作る側」なら、Appleは「AIが届く場所(スマホ)を持つ側」。作る側の競争が激しくなるほど、入口を握るAppleの立場は安泰——という見方が今の株価を支えています。
10戦略・課題と改善ポイント
「入口の支配」は盤石。リスクはAIの主戦場が変わることと規制。
強み Strengths
- iPhoneを中心とするエコシステムの囲い込み(乗り換えコストの高さ)
- サービス$1,092億ドルの継続収益と高粗利(全体粗利率46.9%)
- 営業CF$1,115億ドル・年$900億規模の自社株買い余力
- ブランドと価格決定力(値上げしても日本+14.6%成長)
弱み Weaknesses
- 生成AI開発で後手(Siri刷新は約2年遅延、外部提携に依存する場面も)
- 売上の半分がiPhone一本足(新カテゴリのWearablesは▲3.6%)
- App Store手数料モデルが規制の主標的(DMA・Epic訴訟)
- 製造の中国依存(分散は進むが道半ば)
機会 Opportunities
- 端末側AI(AFM 3・Siri AI)が普及すれば23億台の入口がAI時代も入口であり続ける
- 中国AI承認(Alibaba提携)で最大市場の需要回復が本格化
- インド等の新興国での中間層拡大とシェア拡大
- サービスのARPU向上余地(広告・金融・健康)
脅威 Threats
- AIデバイスの主役がスマホから移る構造変化(AIグラス・エージェント等)
- 米中対立の激化(関税拡大・中国での排除リスク)
- 規制によるApp Store手数料率の低下圧力
- PER40倍ゆえ、成長減速時の調整幅が大きい
改善ポイント(優先度つき)
最優先AI実装の信頼回復
Siri刷新の遅延で「約束を守れない」印象を残した。Siri AIとAFM 3の実用性・普及速度が、次の10年の入口支配を左右する。
最優先規制対応とサービス収益の防衛
DMA・Epic判決で手数料モデルに穴が開き始めた。手数料以外のサービス(iCloud・広告・金融)の育成が防衛線になる。
中期iPhone依存の緩和
売上の50%がiPhone。Vision・ホーム・ヘルスケアなど「次の入口」の育成は依然として宿題。
中期サプライチェーン分散
関税・地政学リスクに対し、インド・東南アジアへの生産移管をどこまで速く進められるか。
11投資メリット・デメリット
「事業は再加速、還元は世界最大級。論点はPER40倍が織り込む『2桁成長の持続』を信じるか」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
- FY26は2四半期連続の2桁増収(+16%・+17%)で、会社Q3ガイダンスも+14〜17%と強気
- 中国が+38%→+28%と急回復。AI規制承認で不安材料が一つ消えた
- サービス比率上昇で利益率は構造的に改善(粗利率48%台へ)
- 自社株買い新枠$1,000億+増配。EPSは売上以上の速度で伸びる
- ROIC60%超(筆者試算)の資本効率と$1,000億規模のFCF
▼ 弱気材料(デメリット)
- PER40.5倍(TTM)は自社の歴史的レンジでも高く、52週+56%上昇後の高値圏
- AIの主戦場がスマホの外へ移れば、入口支配の前提が崩れる
- 関税・米中対立の再燃で中国の回復が腰折れするリスク
- 規制でApp Store手数料が削られるとサービス成長の質が低下
- 円建て投資家は為替(162円の円安水準)の反転リスクも負う
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオAI搭載iPhoneの買い替え加速でEPS $9.2×PER42倍=$385水準
中立シナリオコンセンサス通りEPS $8.76×PER35倍=$307前後(現値やや下)
弱気シナリオ中国失速・規制強化でEPS $8.0×PER28倍=$224前後
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①売上成長率(2桁成長が続くか。1桁に戻るとPER40倍は正当化しにくい)、②中国売上(+28%の持続性)、③サービス売上の伸び(+13〜15%が生命線)。世界最強クラスの会社であることは間違いなく、問うべきは「その強さにいくら払うか」だけです。