01企業カルテ
2026年8月期第3四半期累計(9カ月・2026/7/9開示)実績と現在の市場評価。
売上収益(9カ月累計)
3.07兆円
+17.1%・過去最高ペース
営業利益
6,143億円
+36.2%(利益率20.0%)
26/8期 会社予想(3度目の上方修正)
5,000億円
通期純利益予想・+15.5%・6期連続最高益
海外ユニクロ 事業利益
3,453億円
+45.4%(9カ月累計)
時価総額
24.2兆円
株価78,840円(26/7/17)
◎
成長性
9カ月累計+17.1%増収。年度内3度目の上方修正と勢い十分
◎
収益性
営業利益率が16.4%(25/8期)→20.0%(直近9カ月)へ改善
◎
財務健全性
自己資本比率63%台・現金1.1兆円超。実質無借金に近い水準
○
株主還元
年間配当640円・6期連続増配基調。配当性向は利益成長で低下傾向
△
バリュエーション
PER48倍は世界のアパレル企業でも最高水準。好決算でも株価は軟調
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
💡 読み方:決算内容は文句なしの絶好調(3度目の上方修正)でしたが、発表後の株価は逆に下落しました(7/9→7/16で約7.4%安)。「良い決算」と「株価が上がるかどうか」は別問題——市場予想と一致する「織り込み済み」の決算だったことが背景です。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、ファーストリテイリングの稼ぎ方。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点「良い服を、より安く、世界中の人々に」というシンプルな価値提案
定説アパレルは企画・生産・卸・小売が別会社に分かれた分業構造
逆説企画から店舗販売までを自社で一貫して行う(SPA)ことで、中間マージンと在庫リスクの両方をコントロールし、「高機能・低価格」を同時に実現
世界中の店舗から集めた売れ筋データを生産計画に即座に反映し、東レ等の素材メーカーと共同開発するヒートテック・エアリズム等の機能素材で差別化。生産は中国・東南アジア中心の委託工場網、販売は直営店+ECの両輪。4事業の規模を実額で見ると(26/8期9カ月累計)、海外ユニクロが売上の約60%(1兆8,340億円)で国内ユニクロ(約28%・8,677億円)を大きく上回る規模に育ち、GUは約9%(2,657億円)、不振の続くグローバルブランド(セオリー等)はわずか3.1%(963億円)まで縮小している。
💡 やさしく:普通の服屋は「作る会社」から服を仕入れて売るだけですが、ユニクロは「企画も生産も販売も全部自分たちでやる」会社です。だから流行や売れ行きの情報がすぐ次の生産に活かされ、良い品を安く作れます。ヒートテックのような「素材からこだわった商品」を大量に安く作れるのはこの仕組みのおかげです。
03成長の歩み — 直近5年で売上1.7倍
2021年8月期以降、海外ユニクロの拡大と値上げ効果で増収増益が続く。26/8期は6期連続の最高益更新へ。
売上収益の推移(FY2021〜FY2025・TTM)
単位:億円 ■濃い棒=TTM(直近12カ月・2025年6月〜2026年5月)
営業利益の推移(FY2021〜FY2025・TTM)
単位:億円
営業利益率の推移
値上げと海外比率上昇で一貫して改善
26/8期会社予想(2026年7月9日・3度目の上方修正)は売上収益3.97兆円(+16.7%)・営業利益7,300億円(+29.4%)・純利益5,000億円(+15.5%)。QUICKコンセンサス予想(純利益約5,004億円)とほぼ一致する着地。
04今期の焦点 — 海外ユニクロの急成長と関税リスク
増収増益を牽引するのは海外ユニクロ。一方で米国関税・国内の客数減速という2つの逆風にどう対処しているかを見る。
セグメント別 事業利益と増減率(9カ月累計・26/8期)
単位:億円
海外ユニクロは中国・香港・台湾・韓国・東南アジア・北米・欧州の全地域で増収増益、特に北米・欧州は2桁増収増益。国内ユニクロも事業利益+15.1%と好調な一方、グローバルブランド(セオリー等)は▲33.4%と苦戦——事業の選択と集中(コントワー・デ・コトニエ等の店舗を144→77店に集約)が進行中。
不振事業の整理も並行 — グローバルブランドの店舗集約
コントワー・デ・コトニエ等、セオリー以外の不採算ブランドの店舗数
2年弱で店舗数を144店→77店へほぼ半減。海外ユニクロへの集中投資と並行し、伸びない事業は素早く縮小するメリハリの効いた資源配分が、全社の事業利益率20%超を支えている。
米国関税への対応
- 2025年4月の相互関税発動時、会社は「下期事業利益を2〜3%押し下げる」との影響試算を提示
- ベトナム20%・スリランカ30%等の関税に対し、バングラデシュ・カンボジアへの生産分散で対応
- 柳井会長兼社長は「トランプ関税は続かない」と発言する一方、価格転嫁も一部実施
- 結果的に北米は関税下でも2桁増収増益を達成し、影響を吸収できている
国内の減速シグナル
- 2026年6月の国内ユニクロ既存店売上高が6カ月ぶりに前年割れと速報
- 2026年10月に3年ぶりの値上げを発表(1デーパスポート的な価格改定ではなく商品価格改定)
- 国内は9カ月累計で事業利益+15.1%と好調維持も、直近月の客数動向は要観察
💡 やさしく:アメリカの関税は「痛いけれど致命傷ではない」レベルに収まっています。むしろ投資家が気にしているのは国内の値上げ疲れ——お客さんが「もう十分値上がりした」と感じ始めていないか、という点です。
05セグメント — 海外ユニクロが最大の稼ぎ頭に
売上・利益ともに、海外ユニクロが国内ユニクロを大きく上回る規模に成長した。
売上構成(9カ月累計・26/8期)
連結売上収益 3兆651億円の内訳
読みどころ
- 海外ユニクロ:売上1兆8,340億円(全体の約60%)・事業利益率18.8%と国内を上回る収益性
- 国内ユニクロ:売上8,677億円・事業利益率19.9%と依然高収益だが、成長率は海外に見劣り
- ジーユー:売上2,657億円・事業利益+28.0%と着実に成長
💡 やさしく:「日本のユニクロ」から「世界のユニクロ」への転換が完了しつつあります。今や海外での売上が国内の2倍以上——この会社を見るときは、国内のニュースだけでなく海外店舗の動向を追うことが重要になっています。
06財務3表ビジュアル
高成長と高い財務健全性を両立させる、教科書的なSPA企業のBS・CF。
PL滝グラフ — 売上収益3.85兆円(TTM)はどこへ消えるか
単位:億円。直近12カ月(2025年6月〜2026年5月)ベース
💡 やさしく:3.85兆円売って、原材料・店舗運営費などで3.14兆円が消え、本業のもうけは7,103億円(18.5%)まで改善しました。5年前(FY2021・11.9%)と比べ、値上げと海外拡大で利益率が着実に上がっています。
BS比例図 — 総資産4.43兆円の中身(2026年5月末)
箱の高さ=金額。自己資本比率63.4%
現金1.13兆円に対し有利子負債概算7,984億円と、実質的な財務余力は大きい。高成長を続けながら自己資本比率も年々上昇している点が特徴。
キャッシュフロー(TTM・億円)
単位:億円。営業CF8,036億円
FCF(stockanalysis.com算定)は+7,197億円と潤沢。旺盛な出店投資(設備投資839億円)を賄ってなお、増配・自社株買いの原資を確保できる体力がある。
07収益性 — ROEとROICを分解する
ROE20.9%(25/8期)をデュポン分解で見る。無借金に近い財務でも高ROEを維持できているのが強み。
=
12.7%
売上高純利益率
値上げ・海外比率上昇で改善中
× 0.88回
総資産回転率
店舗・在庫を抱えるが効率は良好
× 1.66倍
財務レバレッジ
自己資本比率60%超・借金は控えめ
平均残高ベースの筆者概算。借金にほとんど頼らず(レバレッジ1.66倍)ROE20%超を達成しているのは、利益率と資産効率の両方が優れている証拠。
ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか
単位:%。stockanalysis.com算定値
ROIC33.1%(25/8期)は推定WACC(5〜6%。低い財務レバレッジと安定需要ゆえ資本コストは低め)を大幅に上回り、5期連続で20%台後半〜30%台という高水準を維持している。
💡 やさしく:「集めたお金でどれだけ稼いだか」が33%と、合格ライン(5〜6%)を大きく超え続けています。値上げや海外拡大という「攻めの経営」が、きちんと利益に結びついていることを示す数字です。
08会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP
ファーストリテイリングはIFRS採用。会社が独自に使う「事業利益」という指標の意味を押さえる。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(9カ月累計・26/8期)
単位:億円
- 会社独自の「事業利益」(売上収益−売上原価−販管費)5,927億円は、IFRS上の営業利益6,143億円より小さい非公式指標。両者の差は為替差損益等の営業外的な要素の分類による
- 「経常利益」区分はなく、営業利益の下は金融収支(受取利息・為替差益等、9カ月累計+438億円)のみ
- のれんは小規模。大型買収に頼らない自社成長型のため減損リスクは限定的
- JGAAPなら金融収支は営業外収益に整理され、経常利益という段階が復活する——数字自体は近い水準になる見込み
- しまむら等JGAAP企業と比較する際は、営業利益ベースで揃えるのが妥当
- US-GAAPでも大差はなく、インディテックス(IFRS)・H&M(IFRS類似の欧州基準)との国際比較がしやすい
- 世界のSPA大手はいずれも近い会計処理のため、営業利益率での横比較が最も実務的
💡 やさしく:会社が発表資料でよく使う「事業利益」は、正式な決算書の「営業利益」とは少し違う社内指標です。数字を比べるときは、どちらの利益を見ているか意識するのがコツです。
09世界アパレル比較 — Inditexを追う「世界2位」争い
ZARAを展開するInditex(世界1位)、H&M、しまむらと比較(2026/7時点)。
ファストリInditexH&Mしまむら
売上規模はInditex(約7.4兆円)が世界首位で不動。ファストリとH&Mは僅差の2位争いで、2026年7月の日経報道はファストリが売上高で2位に浮上したと伝える(H&Mは現地通貨ベースで前年比▲2.6%と減収傾向)。PER48.4倍はInditex(26.6倍)・H&M(21.4倍)・しまむら(14.8倍)を大きく上回り、成長期待の高さが際立つ。
💡 やさしく:世界のアパレル業界では「ZARAが1位、ユニクロとH&Mが僅差の2位争い」という構図が続いてきましたが、最近はユニクロが伸び、H&Mが苦戦——順位が入れ替わりつつあります。ただし株価の割高さ(PER48倍)は「これからも勝ち続ける」という高い期待の表れでもあります。
10戦略・課題と改善ポイント
旗印は「世界一のアパレル企業」。焦点は海外成長の持続と国内の値上げ耐性。
強み Strengths
- SPAモデルによる企画・生産・販売の一貫コントロール
- 海外ユニクロの全地域増収増益(特に北米・欧州の2桁成長)
- ROIC33%超・実質無借金という高い資本効率と財務健全性
- ヒートテック等、素材開発力に基づくブランド力と値上げ耐性
弱み Weaknesses
- 国内既存店売上高が2026年6月に6カ月ぶりの前年割れ
- グローバルブランド事業(セオリー等)は減収減益が継続
- PER48倍は期待値が非常に高く、成長鈍化時の株価調整リスクが大きい
- 好決算でも株価が下落する「材料出尽くし」的な地合いが直近続く
機会 Opportunities
- 北米・欧州の売上目標を1年前倒しで達成する勢い
- Inditexを射程に捉える「世界一」への到達可能性
- 2026年10月の商品価格改定(3年ぶり)による収益改善余地
- 中国以外のアジア新興国での出店余地
脅威 Threats
- 米国関税の拡大・恒久化(現状は下期利益2〜3%押し下げ試算)
- 国内の値上げ疲れによる客数減少の定着リスク
- 中国の消費低迷・競争激化
- 円安の反転(調達コスト面では円安が逆風という側面も)
改善ポイント(優先度つき)
最優先国内客数動向の見極め
6月の既存店売上高前年割れが一過性か、値上げ疲れの始まりかを次の四半期で見極める必要がある。
最優先海外成長ペースの持続
北米・欧州の2桁成長が今後も続くか。関税環境の変化にどこまで耐えられるかが焦点。
中期グローバルブランド事業の立て直し
セオリー等の不振事業をどう再建、または縮小するか。全体成長の足を引っ張らない規模への調整が課題。
中期高PERとの向き合い方
市場の高い期待に応え続けられるかが株価の分水嶺。実行力の証明が次の株価上昇の条件になる。
11投資メリット・デメリット
「事業そのものは世界最高水準。論点はPER48倍という極めて高い期待値にどう向き合うか」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
- 9カ月累計+17.1%増収・営業利益+36.2%と絶好調。年度内3度目の上方修正
- 海外ユニクロが全地域で増収増益。北米・欧州は目標を前倒しで達成中
- ROIC33%超・実質無借金と資本効率・財務健全性を両立
- 関税環境下でも北米は2桁増収増益を確保。生産分散でリスク管理
- Inditexを追う「世界2位」浮上が伝えられ、グローバルでの存在感が拡大
▼ 弱気材料(デメリット)
- PER48.4倍は世界のアパレル企業で最高水準。成長鈍化時の下落幅が大きい
- 国内既存店売上高が6カ月ぶりに前年割れ(値上げ疲れの兆候の可能性)
- 好決算でも株価が下落する「材料出尽くし」の地合いが直近続く
- グローバルブランド事業の不振が継続
- 米国関税の拡大・恒久化リスクは依然残る
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ海外成長が加速しEPS1,750円×PER50倍=87,500円水準
中立シナリオ会社計画どおりEPS約1,630円×PER45倍=73,000円前後
弱気シナリオ国内客数減速+関税拡大でEPS1,400円×PER35倍=49,000円前後
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①国内既存店売上高(前年割れが続くか)、②海外ユニクロの成長率(北米・欧州の2桁成長が持続するか)、③関税影響(拡大するか現状維持か)。事業の強さは折り紙付きですが、すでに高い期待が株価に織り込まれているため、「もっと良い決算」を出し続けられるかが試されています。