国内固定電話の独占インフラ企業から、2025年のNTTデータグループ完全子会社化(投資額2.3兆円)を経て、稼ぎの35%を海外ITサービスが占める世界的ICT企業へ変貌中。26/3期は売上収益14.4兆円・純利益1兆370億円だが、買収に伴う有利子負債増で自己資本比率は34.0%→20.8%へ急低下した。
2026年3月期実績(2026/5/8開示)と現在の市場評価。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、NTTの稼ぎ方。
国内の個人・法人顧客には固定電話・スマートフォン・ブロードバンド回線(地域通信・総合ICT事業)を提供して通信料を得る一方、海外企業・官公庁にはNTTデータを通じたシステム構築・データセンター運用・クラウドサービス(グローバル・ソリューション事業)を提供してIT利用料を得る——この2本柱が収益の土台。2025年6月、TOB(株式公開買付け)でNTTデータグループの保有比率を約58%から82%まで引き上げた後、スクイーズアウト手続きで完全子会社化・上場廃止に至り、投資額は約2.3兆円。稼いだ現金は配当・自社株買いで株主(政府を含む)に還元しつつ、買収で膨らんだ有利子負債の圧縮も課題として残る。
売上収益は21/3期の11.9兆円から26/3期14.4兆円まで一貫して拡大。一方、営業利益率は25/3期・26/3期と2期連続で低下している。
6期連続の増収。25/3期・26/3期は特にグローバル・ソリューション事業(海外ITサービス)の伸びが押し上げ要因になっている。
24/3期14.4%をピークに、25/3期12.0%・26/3期11.8%と2期連続で低下。増収でも利益率が落ちている背景には、総合ICT事業の利益減少(26/3期-7.7%)や大型統合に伴うコスト負担がある。
2025年6月、NTTはNTTデータグループへのTOBを成立させ、保有比率を約58%から82%に引き上げた後、スクイーズアウト手続きで完全子会社化・東証プライム上場廃止に至った。投資額は約2.3兆円。この結果、NTTの総資産は1年で55.4%増加し、自己資本比率は34.0%から20.8%へ急低下した。
総資産は約30.1兆円→46.7兆円へと、1年で16.6兆円増加。NTTデータの連結子会社化により、同社の資産・負債が丸ごとNTTの連結バランスシートに乗った影響が大きい。
TOB価格は1株4,000円(TOB公表前日終値2,991.5円に対し+34%のプレミアム)。TOB期間は2025年5月9日〜6月19日。成立後のスクイーズアウトで100%子会社化・上場廃止に至った。親子上場(NTTとNTTデータが共に東証プライムに重複上場する状態)を解消し、経営の意思決定スピードを上げる狙い。
4つの事業セグメントの売上収益と利益を見る。26/3期はグローバル・ソリューション事業の利益急伸が際立った。
最大は総合ICT事業6兆4,600億円(+3.9%)で、ドコモの携帯電話事業等を含む。次いでグローバル・ソリューション事業5兆円(+7.9%)、地域通信事業3兆2,100億円(+3.1%)と続く。セグメント間取引を含むため単純合計は連結売上収益(14.4兆円)を上回る。
利益の伸び率で突出しているのがグローバル・ソリューション事業(+50.7%・4,882億円)。NTTデータの完全子会社化による連結範囲拡大が主因とみられる。一方、稼ぎ頭の総合ICT事業は9,400億円ながら-7.7%と減益。地域通信事業は3,074億円(+4.0%)で堅調、その他(不動産・エネルギー等)は約16億円の赤字。
売上収益14兆4,091億円から純利益1兆370億円へ。大型買収でバランスシートが変化したNTTのPL・BS・CFの読み方。
営業利益(1兆7,062億円)から純利益(1兆370億円)までの差額(6,692億円)は、金融収支・法人所得税・非支配持分等の合計(内訳非開示のため純額表示)。
自己資本比率20.8%(前期34.0%)。有利子負債16兆9,195億円は、NTTデータ完全子会社化(約2.3兆円)の買収資金調達等により大きく積み上がった。
FCF(営業CF−投資CF)は4,618億円。財務CFが+4,413億円とプラスなのは、買収資金として新たに調達した有利子負債の流入が配当・自社株買いの流出を上回ったため。
ROE(筆者算出)10.7%をデュポン分解し、資本コストとの関係を確かめる。
通信インフラという設備集約型ビジネスのため総資産回転率は0.31回と低いが、財務レバレッジ4.80倍(自己資本比率20.8%の裏返し)でROEを押し上げている構図。日立(6501、レバレッジ2.29倍・ネットキャッシュ)とは対照的に、NTTは借金を使って収益性を維持するタイプと言える。
簡便ROIC=営業利益1兆7,062億円×(1−実効税率想定30%)÷投下資本(有利子負債16兆9,195億円+株主資本9兆7,276億円=26兆6,471億円)≒4.5%。推定WACC(4〜5%)とほぼ同水準で、資本コストをかろうじて上回る「合格ぎりぎり」の水準。日立のROIC12.8%・推定WACC6〜7%(明確に上回る)と比べると、資本効率の余裕は乏しい。
NTTはIFRSを採用。NTTデータ完全子会社化(約2.3兆円)で発生するのれんの扱いが、基準によって利益に与える影響が大きく異なる。
KDDI・ソフトバンク・米Verizonと比較(2026/7/17時点)。ROEの算出基準(会社発表の予想/実績ベース)は各社で完全には揃っていない可能性がある点に留意。
PER12.55倍・PBR1.26倍はKDDI(15.44倍・2.15倍)・ソフトバンク(18.86倍・3.57倍)と比べて最も低く、国内通信大手ではNTTが最も割安。ただし米国最大手Verizon(PER10.59倍・実績)はさらに割安評価で、配当利回り6.51%(実績)もNTT(3.58%予想)を大きく上回る。ROEはNTT10.7%(筆者算出)に対しKDDI13.93%・ソフトバンク18.93%(予想)・Verizon17.20%(実績)と見劣りし、自己資本比率もNTT20.8%は4社で最も低い水準とみられる。
NTTデータ完全子会社化という大きな賭けを終え、次の焦点は財務の立て直しとグローバル事業の収益化。
20.8%まで下がった自己資本比率をどう回復させるか。増資は考えにくく、利益の内部留保と有利子負債圧縮のペースが焦点。
稼ぎ頭でありながら-7.7%減益の総合ICT事業(国内通信・ドコモ等)の立て直しが、全社利益の下支えに直結する。
2.3兆円を投じた完全子会社化が、単なる財務悪化で終わらず利益成長に結びつくかを、今後数期の決算で見極める必要がある。
政府保有株売却が現実化した場合の需給インパクトを注視する必要がある。
「割安なバリュエーション×高い配当利回り」の魅力と、「財務健全性の急低下×薄いROIC-WACCスプレッド」のリスクが同居する銘柄。NTTデータ統合の成否が今後数年の分かれ目。