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NTT 9432

東証プライムIFRS3月決算 情報・通信業データ基準日 2026/7/17

国内固定電話の独占インフラ企業から、2025年のNTTデータグループ完全子会社化(投資額2.3兆円)を経て、稼ぎの35%を海外ITサービスが占める世界的ICT企業へ変貌中。26/3期は売上収益14.4兆円・純利益1兆370億円だが、買収に伴う有利子負債増で自己資本比率は34.0%→20.8%へ急低下した。

💡 はじめての方へ:「NTT=電話会社」のイメージはもう半分古くなっています。今のNTTは、海外のIT・データセンター事業(NTTデータ)が売上の3分の1以上を稼ぐ会社。2025年に2.3兆円を投じてNTTデータを完全子会社化し、AIブームによるデータセンター需要を取り込む体制を作った代わりに、借金は大きく増えました。政府が法律で株式の3分の1超の保有を義務づけられている「半官半民」企業という珍しい立ち位置も持っています。

01企業カルテ

2026年3月期実績(2026/5/8開示)と現在の市場評価。

売上収益(26/3期)
14.41兆円
+5.1%
営業利益(26/3期)
1.71兆円
利益率11.8%
純利益(親会社帰属)
1.04兆円
+3.7%
自己資本比率
20.8%
前期34.0%から-13.2pt
NTTデータ完全子会社化
2.3兆円
2025年6月TOB成立・上場廃止
有利子負債
16.92兆円
買収資金調達で増加
時価総額
13.67兆円
株価151円(26/7/17)
PER(会社予想)
12.55
PBR 1.26倍・利回り3.58%
成長性
27/3期純利益は会社計画で-5.5%(9,800億円)。NTTデータ統合コスト等が重石
収益性
営業利益率11.8%は横ばい圏。グローバル・ソリューション事業の利益+50.7%が牽引
財務健全性
自己資本比率20.8%(前期34.0%)・有利子負債16.92兆円。大型買収の代償で財務は重くなった
株主還元
配当利回り3.58%(予想)は通信大手の中でも高水準。減配なき増配を継続中
バリュエーション
PER12.55倍・PBR1.26倍は電機・通信大手と比べても割安寄り

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。

💡 読み方:この決算の顔は「稼ぐ力は横ばい、財務は重くなった」。NTTデータを2.3兆円で完全子会社化した代償として、自己資本比率が1年で13.2ポイントも下がりました。利益の伸びと引き換えに借金を増やした年、という理解が実態に近いです。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、NTTの稼ぎ方。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点1985年、電電公社(日本電信電話公社)の民営化で誕生した国内固定電話の独占インフラ企業
定説NTTは国内の固定電話・ブロードバンド回線を担う「国内通信会社」というイメージが強い
逆説実際には売上の35%(5兆円)を、NTTデータを中心とする海外ITサービス・データセンター事業(グローバル・ソリューション事業)が稼ぐ、世界的ITサービス企業へ変貌。一方で政府がNTT法により株式の3分の1超の保有を義務づけられており、完全民営化を巡る議論が続く「半官半民」の逆説も抱える

国内の個人・法人顧客には固定電話・スマートフォン・ブロードバンド回線(地域通信・総合ICT事業)を提供して通信料を得る一方、海外企業・官公庁にはNTTデータを通じたシステム構築・データセンター運用・クラウドサービス(グローバル・ソリューション事業)を提供してIT利用料を得る——この2本柱が収益の土台。2025年6月、TOB(株式公開買付け)でNTTデータグループの保有比率を約58%から82%まで引き上げた後、スクイーズアウト手続きで完全子会社化・上場廃止に至り、投資額は約2.3兆円。稼いだ現金は配当・自社株買いで株主(政府を含む)に還元しつつ、買収で膨らんだ有利子負債の圧縮も課題として残る。

💡 やさしく:昔のNTTは「電話線を引いて通話料をもらう」会社でした。今は海外の企業や政府機関のシステムを丸ごと請け負い、データセンターを貸す「ITの大家さん」としての稼ぎの方が大きくなりつつあります。2.3兆円という大きな買い物(NTTデータの完全子会社化)をした分、財布(自己資本)は薄くなった——それが今のNTTの状態です。

03成長の歩み — 増収基調は続くが、利益率はじわり低下

売上収益は21/3期の11.9兆円から26/3期14.4兆円まで一貫して拡大。一方、営業利益率は25/3期・26/3期と2期連続で低下している。

売上収益の推移(21/3期〜26/3期)

単位:億円

6期連続の増収。25/3期・26/3期は特にグローバル・ソリューション事業(海外ITサービス)の伸びが押し上げ要因になっている。

営業利益率の推移(21/3期〜26/3期)

単位:%

24/3期14.4%をピークに、25/3期12.0%・26/3期11.8%と2期連続で低下。増収でも利益率が落ちている背景には、総合ICT事業の利益減少(26/3期-7.7%)や大型統合に伴うコスト負担がある。

💡 やさしく:「売上は伸びているのに、儲けの効率(利益率)はじわじわ下がっている」のが直近2期のNTT。会社が大きくなる過程で一時的にコストがかさんでいる状態と読めます。

04今期の焦点 — NTTデータ完全子会社化、2.3兆円の代償

2025年6月、NTTはNTTデータグループへのTOBを成立させ、保有比率を約58%から82%に引き上げた後、スクイーズアウト手続きで完全子会社化・東証プライム上場廃止に至った。投資額は約2.3兆円。この結果、NTTの総資産は1年で55.4%増加し、自己資本比率は34.0%から20.8%へ急低下した。

総資産の変化(前期→26/3期)

単位:億円。前期は「総資産+55.41%」の会社開示ベースの逆算値(筆者概算)

総資産は約30.1兆円→46.7兆円へと、1年で16.6兆円増加。NTTデータの連結子会社化により、同社の資産・負債が丸ごとNTTの連結バランスシートに乗った影響が大きい。

NTTデータグループの保有比率変化

単位:%。TOB成立前後の比較

TOB価格は1株4,000円(TOB公表前日終値2,991.5円に対し+34%のプレミアム)。TOB期間は2025年5月9日〜6月19日。成立後のスクイーズアウトで100%子会社化・上場廃止に至った。親子上場(NTTとNTTデータが共に東証プライムに重複上場する状態)を解消し、経営の意思決定スピードを上げる狙い。

💡 やさしく:NTTデータはもともとNTTの子会社でありながら別に上場していた「親子上場」という珍しい状態でした。少数株主に2.3兆円を払って買い取り、完全に自分の会社にした——それが今回の取引の実態です。財布は軽くなりましたが、意思決定は速くなりました。

05セグメント — グローバル・ソリューションの利益が急拡大

4つの事業セグメントの売上収益と利益を見る。26/3期はグローバル・ソリューション事業の利益急伸が際立った。

セグメント別売上収益(26/3期・億円)

セグメント間取引を含む数値(内部取引調整前)

最大は総合ICT事業6兆4,600億円(+3.9%)で、ドコモの携帯電話事業等を含む。次いでグローバル・ソリューション事業5兆円(+7.9%)、地域通信事業3兆2,100億円(+3.1%)と続く。セグメント間取引を含むため単純合計は連結売上収益(14.4兆円)を上回る。

セグメント別利益(26/3期・億円)

セグメント間取引・全社調整を含む数値

利益の伸び率で突出しているのがグローバル・ソリューション事業(+50.7%・4,882億円)。NTTデータの完全子会社化による連結範囲拡大が主因とみられる。一方、稼ぎ頭の総合ICT事業は9,400億円ながら-7.7%と減益。地域通信事業は3,074億円(+4.0%)で堅調、その他(不動産・エネルギー等)は約16億円の赤字。

💡 やさしく:NTTの4つの財布のうち、今年一番「膨らんだ」のはグローバル・ソリューション(海外IT)財布。反対に、稼ぎ頭だったはずの総合ICT(国内通信・ドコモ等)財布は目減りしています。主役交代が進んでいる年、と言えます。

06財務3表ビジュアル

売上収益14兆4,091億円から純利益1兆370億円へ。大型買収でバランスシートが変化したNTTのPL・BS・CFの読み方。

PL滝グラフ — 売上収益14兆4,091億円から純利益1兆370億円へ(26/3期)

単位:億円。IFRSのため税引前利益ベースの内訳は非開示分を含み概算

営業利益(1兆7,062億円)から純利益(1兆370億円)までの差額(6,692億円)は、金融収支・法人所得税・非支配持分等の合計(内訳非開示のため純額表示)。

💡 やさしく:14.4兆円の売上のうち、最終的に株主のものになるのは1兆370億円(約7.2%)。残りは通信設備の維持費・人件費・税金などに消えていきます。

財政状態 — 総資産46.72兆円(26/3末)

単位:億円

自己資本比率20.8%(前期34.0%)。有利子負債16兆9,195億円は、NTTデータ完全子会社化(約2.3兆円)の買収資金調達等により大きく積み上がった。

キャッシュフロー(26/3期)

単位:億円

FCF(営業CF−投資CF)は4,618億円。財務CFが+4,413億円とプラスなのは、買収資金として新たに調達した有利子負債の流入が配当・自社株買いの流出を上回ったため。

07収益性 — ROIC・WACCの差は薄く、資本効率は「合格ぎりぎり」

ROE(筆者算出)10.7%をデュポン分解し、資本コストとの関係を確かめる。

ROE(26/3期・筆者算出)
10.7%
7.2%
売上高純利益率
純利益1兆370億円÷売上収益14兆4,091億円
× 0.31回
総資産回転率
期末残高ベース(筆者概算)
× 4.80倍
財務レバレッジ
総資産46.72兆円÷自己資本9.73兆円

通信インフラという設備集約型ビジネスのため総資産回転率は0.31回と低いが、財務レバレッジ4.80倍(自己資本比率20.8%の裏返し)でROEを押し上げている構図。日立(6501、レバレッジ2.29倍・ネットキャッシュ)とは対照的に、NTTは借金を使って収益性を維持するタイプと言える。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)

単位:%。概算値

簡便ROIC=営業利益1兆7,062億円×(1−実効税率想定30%)÷投下資本(有利子負債16兆9,195億円+株主資本9兆7,276億円=26兆6,471億円)≒4.5%。推定WACC(4〜5%)とほぼ同水準で、資本コストをかろうじて上回る「合格ぎりぎり」の水準。日立のROIC12.8%・推定WACC6〜7%(明確に上回る)と比べると、資本効率の余裕は乏しい。

💡 やさしく:ROICとWACCがほぼ並んでいるのは「集めたお金の調達コストと、稼ぐ力がほぼ釣り合っている」状態。大きな価値を生み出しているとは言えませんが、価値を壊してもいない、という水準です。

08会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP

NTTはIFRSを採用。NTTデータ完全子会社化(約2.3兆円)で発生するのれんの扱いが、基準によって利益に与える影響が大きく異なる。

利益段階の比較(26/3期)

単位:億円
  • NTTデータグループ完全子会社化(約2.3兆円)で発生するのれんはIFRSでは非償却(減損テストのみ)。具体的な計上額は本ページ執筆時点で未取得だが、毎期の償却負担がない分、当面の利益への影響は限定的とみられる
  • 金融収支(受取利息・支払利息等)は営業利益の下の区分で表示され、有利子負債16兆9,195億円への支払利息負担が今後の純利益を圧迫する方向に働く
  • NTTデータの完全子会社化前(保有比率58%時点)は非支配持分が相応にあったが、完全子会社化後は非支配持分による利益按分が縮小する見込み
  • JGAAPなら「のれん」は20年以内で規則償却が必要。NTTデータ買収(約2.3兆円規模)ののれんを償却すると、単純計算で年間数百億円〜1,000億円規模の追加費用が発生し、営業利益は今よりかなり小さく見える可能性がある
  • JGAAPには「経常利益」の概念があり、金融収支まで含めた実力値として使われる。IFRSでは対応する単一の「経常利益」表示はない
  • US-GAAPでものれんは非償却・減損テストのみで、IFRSとの差は小さい。ただし収益認識のタイミングやリース会計の細部で差異が残る
  • 米国では通信キャリアの設備投資(5G・データセンター)を巡る会計処理(資産化の範囲)がしばしば論点になり、NTTの海外事業拡大に伴い今後の開示で注目点になり得る
💡 やさしく:「のれんが非償却」というのはIFRS・USGAAP共通のルールで、買収で膨らんだ資産が毎年少しずつ費用計上されない代わりに、事業がうまくいかなくなったときに一気に損失が出る「時限爆弾」的な性質を持ちます。NTTデータの2.3兆円買収がこれに当てはまるかどうかは、今後の統合の成否次第です。

09通信大手比較 — バリュエーションは最も割安、財務健全性は見劣り

KDDI・ソフトバンク・米Verizonと比較(2026/7/17時点)。ROEの算出基準(会社発表の予想/実績ベース)は各社で完全には揃っていない可能性がある点に留意。

NTTKDDIソフトバンクVerizon

PER12.55倍・PBR1.26倍はKDDI(15.44倍・2.15倍)・ソフトバンク(18.86倍・3.57倍)と比べて最も低く、国内通信大手ではNTTが最も割安。ただし米国最大手Verizon(PER10.59倍・実績)はさらに割安評価で、配当利回り6.51%(実績)もNTT(3.58%予想)を大きく上回る。ROEはNTT10.7%(筆者算出)に対しKDDI13.93%・ソフトバンク18.93%(予想)・Verizon17.20%(実績)と見劣りし、自己資本比率もNTT20.8%は4社で最も低い水準とみられる。

💡 やさしく:「国内では一番割安に評価されているが、財務の身軽さでは見劣りする」——それが4社の中でのNTTの立ち位置。世界最大手クラスのVerizonと比べても配当利回りで見劣りする点は、NTTデータの大型買収を消化しきれるかどうかが今後の評価を左右することを示唆しています。

10戦略・課題と改善ポイント

NTTデータ完全子会社化という大きな賭けを終え、次の焦点は財務の立て直しとグローバル事業の収益化。

強み Strengths

  • 国内通信インフラの独占的地位(地域通信事業)に基づく安定したキャッシュフロー
  • NTTデータ完全子会社化により、海外ITサービス・データセンター事業の意思決定スピードが向上
  • 配当利回り3.58%(予想)は通信大手の中でも高水準で、株主還元姿勢が明確
  • PER12.55倍・PBR1.26倍と、電機・通信セクターの中でも割安な株価水準

弱み Weaknesses

  • 自己資本比率20.8%(前期34.0%から-13.2pt)と財務健全性が急速に低下
  • 簡便ROIC(4.5%)と推定WACC(4〜5%)がほぼ並び、資本効率の余裕が乏しい
  • 総合ICT事業(稼ぎ頭)の利益が-7.7%と減益基調
  • 27/3期会社計画は純利益-5.5%と、統合コスト等を理由に減益を見込む

機会 Opportunities

  • AIブームによるデータセンター・クラウド需要の世界的拡大(グローバル・ソリューション事業の追い風)
  • NTTデータ完全子会社化によるグループ内シナジー(重複投資の削減・海外展開の一体運営)
  • IOWN(光電融合技術)等、次世代通信インフラでの技術優位性
  • 有利子負債圧縮が進めば、割安なバリュエーションの見直し余地

脅威 Threats

  • NTT法改正を巡る議論(政府保有株約4.7兆円の売却論)が需給面での懸念材料になり得る
  • 金利上昇局面では、有利子負債16兆9,195億円への支払利息負担が増加
  • 総務省による携帯電話料金引き下げ圧力など、国内通信事業の規制リスク
  • 海外IT市場でのAccenture・IBM等グローバル大手との競争激化

改善ポイント(優先度つき)

最優先

自己資本比率の立て直し

20.8%まで下がった自己資本比率をどう回復させるか。増資は考えにくく、利益の内部留保と有利子負債圧縮のペースが焦点。

最優先

総合ICT事業の減益トレンド反転

稼ぎ頭でありながら-7.7%減益の総合ICT事業(国内通信・ドコモ等)の立て直しが、全社利益の下支えに直結する。

中期

NTTデータ統合効果の実証

2.3兆円を投じた完全子会社化が、単なる財務悪化で終わらず利益成長に結びつくかを、今後数期の決算で見極める必要がある。

中期

NTT法改正議論への対応

政府保有株売却が現実化した場合の需給インパクトを注視する必要がある。

11投資メリット・デメリット

「割安なバリュエーション×高い配当利回り」の魅力と、「財務健全性の急低下×薄いROIC-WACCスプレッド」のリスクが同居する銘柄。NTTデータ統合の成否が今後数年の分かれ目。

▲ 強気材料(メリット)

  • PER12.55倍・PBR1.26倍は通信大手の中で最も割安な水準
  • 配当利回り3.58%(予想)は高水準で、インカムゲイン狙いの投資家に適する
  • グローバル・ソリューション事業の利益が+50.7%と急拡大、AIデータセンター需要の追い風
  • NTTデータ完全子会社化により、海外IT事業の意思決定スピード・シナジーが向上する余地

▼ 弱気材料(デメリット)

  • 自己資本比率20.8%(前期34.0%)と財務健全性が急低下。有利子負債16兆9,195億円の圧縮が課題
  • 簡便ROIC4.5%は推定WACC4〜5%とほぼ並び、資本効率の余裕が乏しい
  • 27/3期会社計画は純利益-5.5%と減益見込み
  • NTT法改正・政府保有株売却論という制度リスクを抱える

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ27/3期予想EPS11.92円(会社計画純利益9,800億円ベース・筆者概算)×PER15倍(KDDI並みへの再評価)=179円水準
中立シナリオ現状PERを維持。EPS11.92円×PER12.55倍=150円前後(現在値151円に近い水準)
弱気シナリオ財務悪化を嫌気した格安評価。EPS11.92円×PER10倍=119円前後
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①自己資本比率の回復ペース(20.8%からどこまで戻せるか)、②総合ICT事業の減益トレンドが反転するか③NTTデータ統合効果が数字に表れるか。「配当利回りが高く割安に見えるが、その割安さには財務悪化という理由がある」——安さの理由を理解した上で持てるかが判断の分かれ目になる銘柄です。