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🕒 最終更新: 2026-09-12

日本航空 9201・東証プライム

東証プライムIFRS3月決算 航空26年3月期(FY2026)通期+27年3月期Q1まで反映

2010年に会社更生法を申請して経営破綻(負債総額約2兆3,200億円)した日本の旗艦航空会社。稲盛和夫氏が持ち込んだ「アメーバ経営」で部門別採算を徹底し2012年に再上場。FY2026は売上収益2兆125億円(+9.1%)・EBIT2,180億円(+26.4%)・純利益1,376億円(+28.6%)の過去最高だったが、2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は中東情勢緊迫化による航空燃油費+58.4%の急騰で主力の航空事業がEBIT赤字に転落し、非航空の「マイル/金融・コマース事業」だけが会社を黒字に支えた。

💡 はじめての方へ:航空会社は、飛行機を1機飛ばすだけで燃料費・パイロットの人件費・機体のリース料など莫大なお金が動きます。しかもこの費用は「お客さんが何人乗ったか」にほとんど関係なく発生する固定費です。だから燃料価格が急に上がったり、旅客数が急に減ったりすると、利益がまっさきに吹き飛びます。2010年の経営破綻もこの構造が背景にありました。

2026年3月期(FY2026)通期の確定実績と2027年3月期(FY2027)第1四半期実績(2026年8月3日発表)まで反映済み。四半期別データ(1Q〜4Q)は会社が単独値を開示していないため、公表済みの累計値の差分から筆者が算出(本文中に明記)。株価・時価総額・同業比較は2026年9月11日時点。

01企業カルテ

2026年3月期(FY2026)通期実績(2026/4/30発表)と2026年9月11日時点の市場評価。

売上収益(FY2026)
20,125億円
+9.1%・過去最高
EBIT
2,180億円
+26.4%・マージン10.8%(前期9.4%)
親会社帰属当期利益
1,376億円
+28.6%・過去最高
ROE相当
12.2%
前期11.4%から改善
自己資本比率
40.3%
+5.4pt・永久劣後債発行が寄与
時価総額
12,957億円
株価2,964円(26/9/11終値)
PER(会社予想)
11.58
PBR1.19倍(実績)・配当利回り3.24%
Q1 FY2027 EBIT
127億円
前年同期比▲72.1%・燃油費+58.4%
成長性
FY2026は売上+9.1%・EBIT+26.4%と過去最高。ただし直近のFY2027 Q1はEBIT▲72.1%と燃油費急騰で急失速し、通期の伸びがそのまま続くとは言えない
収益性
EBITマージンはFY2026で10.8%(前期9.4%)まで改善したが、Q1 FY2027は2.4%まで落ち込んだ。航空事業単体の薄利体質は完全には解消していない
財務健全性
自己資本比率40.3%(+5.4pt)。有利子負債8,759億円は残るが、公募永久劣後債1,777億円の発行で資本基盤を強化
株主還元
年間配当96円(前期86円から増配)・配当性向31.3%。2027年3月期も96円を維持予定(会社予想)
バリュエーション
PER11.58倍・PBR1.19倍は同業のデルタ(PER12.98倍)・ユナイテッド(9.96倍)と比べて中位。ANA(13.50倍)より低い

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。EPS306.96円・BPS2,586.99円・年間配当96円(中間46円・期末50円)。時価総額・PER・PBRは発行済株式437,143,500株×2026年9月11日終値2,964円ベース(Yahoo!ファイナンス)。ROE相当は会社開示の「親会社所有者帰属持分当期利益率」12.2%。

💡 読み方:FY2026の決算(4〜6月ではなく2025年4月〜2026年3月の1年間)は過去最高でしたが、その直後の四半期(2026年4〜6月)にいきなり利益が7割減りました。これは会社の実力が急に落ちたわけではなく、中東情勢の緊迫化で燃料費が3か月で1.6倍近くに跳ね上がったことが主因です。1年間の実績と直近の四半期の実績は分けて見る必要があります。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、JALの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点1951年設立。2010年1月19日、負債総額約2兆3,200億円で会社更生法を申請し経営破綻——戦後最大級の企業倒産の一つ。同年2月、稲盛和夫氏(京セラ創業者)が無報酬で会長に就任
定説航空会社は旅客機を飛ばして旅客・貨物の運賃を稼ぐビジネスであり、燃油費・人件費・機材費という巨大な固定費構造ゆえに市況変動の影響をそのまま受ける
逆説稲盛氏が持ち込んだ「アメーバ経営」(会社を小集団=アメーバに分けて部門別採算を全社員が見える化する手法)により路線・部門単位のコスト意識が根付いた結果、JALの利益は航空事業だけに依存しない構造になった。2027年3月期第1四半期は航空事業(フルサービスキャリア・LCC)がEBIT赤字に沈む中、資産をほとんど使わない「マイル/金融・コマース事業」のEBIT120億円だけで会社全体を黒字(53億円)に保った

顧客から旅客・貨物運賃を受け取り、その一部を航空機メーカー・リース会社への機材購入・リース料、燃油サプライヤーへの燃油費として支払う。稼いだ利益の一部はJALマイレージバンクを通じてクレジットカード会社・提携金融事業者(Capital One、Bilt Rewards等)との連携収益(マイル/金融・コマース事業)に再投資され、残りは配当・自己株式取得で株主へ還元される(FY2026は配当総額416億円、配当性向31.3%)。

💡 やさしく:普通の航空会社は「飛行機を飛ばして運賃を稼ぐ」の一本足打法です。JALは破綻を機に、マイルを軸にした金融・コマース事業という「もう一本の足」を育てました。2026年4〜6月は燃料費が急騰して本業(飛行機)の方の足がふらついたのですが、もう一本の足(マイル/金融事業)が会社を支えたことで、会社全体としては黒字を保てました。

03成長の歩み — FY2026は売上・EBIT・純利益とも過去最高

FY2025からFY2026にかけて増収増益が続いたが、FY2027は会社予想でEBIT・純利益とも減益を見込む。

売上収益・EBITの推移(FY2025〜FY2027予想)

単位:億円 ■濃い棒=直近期。3月決算。FY2027は会社予想(2026年8月3日時点で修正なし)

売上収益はFY2025の18,441億円からFY2026に20,125億円(+9.1%)へ拡大。会社予想のFY2027は20,950億円(+4.1%)とさらなる増収を見込むが、EBITは1,800億円(前期比△17.4%)、純利益は1,100億円(△20.1%)と減益予想——中東情勢の緊迫化を織り込んだ保守的な予想であることが、Q1の急激な減益(後述)で裏付けられた。

親会社帰属当期利益の推移

単位:億円

FY2025の1,070億円からFY2026は1,376億円(+28.6%)へ過去最高を更新。FY2027は会社予想で1,100億円(△20.1%)へ減益を見込む。

四半期別 売上収益・EBITの推移(FY2026 1Q〜FY2027 1Q)

単位:億円。四半期単独値は筆者が累計値の差分から算出

FY2026は2Q・3Q(夏〜秋の需要期)にEBITが600億円台まで積み上がる季節性があり、4Q(1〜3月)はもともと389億円まで落ち込む閑散期。FY2027 1Qの127億円は、その閑散期の4Qよりもさらに低く、季節性だけでは説明できない急落であることが分かる。

💡 やさしく:航空会社の利益は夏休みや行楽シーズンで大きく変わる「季節商売」の面があります。ただ2026年4〜6月の利益の落ち込みは、そうした毎年おなじみの季節の波ではなく、燃料費の急騰という一時的だが強いショックが上乗せされたものです。

04今期の焦点 — 燃油費+58.4%が炙り出した固定費構造、支えたのは非航空事業

2026年8月3日発表のFY2027 Q1(2026年4〜6月)は、売上収益5,237億円(前年同期比+11.2%)と増収だったにもかかわらず、EBITは127億円(同▲72.1%)、純利益は53億円(同▲80.2%)という急激な減益となった。主因は中東情勢の緊迫化による航空燃油費の急騰。

Q1 FY2027の増減益分解 — 増収でも燃油費が利益を吹き飛ばした

単位:億円。前年同期(Q1 FY2026)との比較

売上収益は前年同期比+512億円(4,711→5,237億円)増加したが、航空燃油費だけで+549億円(940→1,489億円、+58.4%)増加し、増収分をほぼ相殺した。人件費等その他コストの増加(+264億円)も重なり、結果としてEBITは328億円減少(455→127億円)した。

💡 やさしく:お客さんは前より多く飛行機に乗ってお金を払ってくれた(増収)のに、そのお金の大半が燃料代の値上がり分に消えてしまった、という決算です。飛行機は燃料を使わずに飛べないので、燃料価格が急に上がると、増収分がそのままコスト増に食われてしまうという航空会社特有の弱さが表れました。

事業セグメント別EBIT — 航空事業が赤字、非航空事業が黒字を支える

単位:億円。Q1 FY2026→Q1 FY2027

フルサービスキャリア事業のEBITは307億円→△8億円、LCC事業は42億円→△1億円と、航空事業2セグメントが揃ってマイナスに転落した。一方、「マイル/金融・コマース事業」のEBITは102億円→120億円(+17.6%)と増益を継続し、グループ全体のEBIT127億円のほぼすべてをこの非航空事業が生み出した構図になった。

EBITマージンの推移 — 収益効率も燃油費に飲まれた

単位:%。四半期ベース

FY2026を通じて9.7%→12.5%→13.1%→7.8%と推移していたEBITマージンは、FY2027 1Qに2.4%まで急落。会社は通期のEBIT目標1,800億円(前期比△17.4%)を維持しているが、Q1だけで通期目標の7.1%しか使えておらず、下期の燃油価格・需要動向次第で上下双方向の余地が残る。

アメーバ経営の遺産 — 非航空事業という「もう一本の足」

セグメント別EBITの絶対額比較(億円)

2010年の経営破綻後、稲盛和夫氏が導入したアメーバ経営は、路線・部門ごとの採算を小集団単位で見える化する手法。破綻当時は航空事業一本足だったJALは、現在は売上収益の11%程度に過ぎない「マイル/金融・コマース事業」が、燃油費ショックの局面ではEBITの実質全額を稼ぐ「最後の防衛線」になっている。これは破綻前のJALには存在しなかった構造で、再生の最大の成果の一つと言える。

💡 やさしく:「アメーバ経営」は、大きな会社を小さなチームに分けて、それぞれのチームがどれだけ稼いでいるかを毎日見える化する仕組みです。これにより、JALの社員一人ひとりが「自分の部門はコストに見合う利益を出せているか」を意識するようになりました。その結果生まれたのがマイル/金融事業で、今回のように航空事業が苦しいときの支え役になっています。

05財務3表ビジュアル

永久劣後債の発行で自己資本比率を高めたBS、燃油費が利益を圧迫したPL、そして株主還元と成長投資を両立させたCF。

PL滝グラフ — 売上収益20,125億円はどこへ消えるか(FY2026)

単位:億円。IFRSのため「経常利益」の段階はなく、投資・財務損益を経てEBIT・税引前利益に至る

売上収益20,125億円に対し営業費用18,340億円(うち航空燃油費3,954億円)を差し引いた営業利益2,073億円。持分法投資損益・投資収益等を加えたEBITは2,180億円(マージン10.8%)。財務収益・費用を差し引いた税引前利益は2,073億円、法人所得税628億円を引いた当期利益は1,445億円、非支配持分68億円を除いた親会社帰属当期利益は1,376億円となった。

💡 やさしく:売上高2兆円のうち、燃料費だけで約4,000億円(売上の約2割)が飛んでいきます。人件費も約4,000億円。この2つだけで売上の4割近くを占め、残りで機材費・その他コストを払って初めて利益が残る——これが航空会社の損益構造です。

BS比例図 — 総資産3兆1,988億円の中身(FY2026末)

箱の高さ=金額。自己資本比率40.3%・有利子負債8,759億円

現金及び現金同等物は1兆102億円と総資産の約32%を占める。航空機(有形固定資産)は1兆417億円。有利子負債8,759億円(流動1,499億円+非流動7,260億円)に対し、2026年6月に発行した公募永久劣後債(その他の資本性金融商品)1,777億円が資本の部に計上され、自己資本比率を34.9%→40.3%へ押し上げた。

キャッシュフロー(FY2026)

単位:億円。営業CF3,948億円

営業CF3,948億円に対し投資CFは△1,831億円(航空機取得等)で、FCF(営業CF-投資CF、筆者算定)は2,117億円。財務CFは+446億円で、これは自己資本比率を高めた永久劣後債の発行収入1,772億円が、配当402億円・自己株式取得200億円等の還元を上回ったため。

06収益性 — ROE12.2%をデュポン分解する

JALのROEは薄い純利益率を高い財務レバレッジで補う「薄利×レバレッジ型」。ANAとほぼ同型だが、東京エレクトロン(無借金・高利益率型)とは対照的な構造。

ROE相当(親会社所有者帰属持分当期利益率・FY2026)
12.2%
6.84%
売上高純利益率
親会社帰属当期利益÷売上収益
× 0.672回
総資産回転率
売上収益÷平均総資産
× 2.65倍
財務レバレッジ
平均総資産÷平均親会社所有者帰属持分

平均総資産・平均親会社所有者帰属持分(FY2025末とFY2026末の平均)を使うと、会社開示のROE相当12.2%とほぼ一致する(6.84%×0.672回×2.65倍=12.2%)。本サイト掲載の他社と比較すると構造の違いが分かる。東京エレクトロン(ROE29.6%=純利益率23.5%×0.89回×1.41倍)は無借金で利益率と回転率の掛け算だけでROEを作る「利益率×回転率型」。対照的にJALは純利益率6.8%と薄く、総資産回転率も0.67回と低い(航空機という重い資産を抱えるため)代わりに、財務レバレッジ2.65倍で補ってROE12.2%を作っている——ANAもほぼ同型(純利益率6.7%×回転率0.67回×レバレッジ2.89倍でROE12.9%)で、航空業界に共通する収益構造といえる。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)

単位:%。FY2026末時点

ROIC=NOPAT(営業利益2,073億円×(1−実効税率30.3%)=1,445億円)÷投下資本(親会社所有者帰属持分12,896億円+有利子負債8,759億円−現金及び現金同等物10,102億円=11,553億円)=12.5%。推定WACC5〜6%(航空業界の資本コストは製造業より高め)を上回っており、価値創造は継続しているが、東京エレクトロン(ROIC30.1%)ほどの余裕はない。

💡 やさしく:ROIC12.5%は「事業に投じたお金1に対して毎年0.125稼ぐ」ということ。借金コスト(推定5〜6%)より高いので、借金をしてでも事業を続ける価値があるという計算になります。ただしQ1のような燃油費ショックが続けば、この数字はすぐに悪化しうる薄いマージンの上に立っています。

07会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP

JALはIFRS採用(2021年3月期から任意適用)。「EBIT」という独自指標を使うことと、「経常利益」の段階が無いことが読み方の鍵になる。

どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2026)

単位:億円
詳しく見る:会計基準の技術的差異(IFRS/JGAAP/US-GAAP)
  • JALは独自指標「EBIT(財務・法人所得税前利益)」を業績評価の主要指標としている。営業利益に持分法投資損益・投資収益/費用を加えたもので、IFRSに標準的な区分ではなく会社独自の定義である点に注意
  • IFRSには「経常利益」の区分が無いため、営業外の収益・費用は営業利益とEBITの間、EBITと税引前利益の間に分散して表示される
  • 公募永久劣後債(その他の資本性金融商品)はIFRS上、資本(エクイティ)として分類され、負債に計上されない。これが自己資本比率を34.9%→40.3%へ押し上げた技術的な要因の一つ
  • のれんは非償却・減損テストのみ(JALグループののれんは僅少)
  • JGAAPには「経常利益」の段階がある。ANAが採用しているのはJGAAPで、営業利益の下に営業外損益を加えた経常利益を表示する(ANAのFY2026は営業利益2,174億円・経常利益2,197億円)
  • IFRSの「EBIT」に相当する概念がJGAAPには無く、JALがJGAAPを採用していた場合、営業利益(2,073億円)が最も近い比較対象になる
  • 公募永久劣後債はJGAAPでも会社の会計処理次第だが、負債・資本の区分判定基準がIFRSと微妙に異なる場合がある
  • US-GAAPを採用するデルタ・ユナイテッド航空には「経常利益」も「EBIT」の標準区分もなく、Operating income(営業利益)とPre-tax income(税引前利益)が主要な比較指標になる
  • デルタ・ユナイテッドは非GAAP指標(Adjusted operating margin等)を併記する慣行があり、特別項目の扱いがIFRSの「EBIT」とは別の切り出し方になる
  • 永久劣後債的な資本性証券の会計処理はUS-GAAPでも発行条件次第で負債・資本の判定が分かれ、単純比較はできない
💡 やさしく:JALが使う「EBIT」という指標は、JAL独自の定義に基づくもので、他社の「営業利益」とそのまま比べられるわけではありません。同業でもANAはJGAAPの「経常利益」、デルタ・ユナイテッドはUS-GAAPの「Operating income」という別の指標を主に使っており、比較するときは各社が発表している指標の定義まで確認する必要があるという点は、初めて決算書を読む方が特に注意すべきポイントです。

08同業比較 — ANA・デルタ航空・ユナイテッド航空との比較

国内最大の競合ANAホールディングス、米国で最も収益性が高いとされるデルタ航空、そしてハブ&スポーク網が強いユナイテッド航空と比較する(2026年9月11日時点)。通貨・会計基準が異なるため、営業利益率・ROE等の比率を主軸に比較する。

営業利益率・ROEの比較

単位:%。JAL・ANAはFY2026(26年3月期)実績、デルタ・ユナイテッドはFY2025実績(USドル・GAAPベース)

売上規模はデルタが最大でANAは25,392億円(FY2026・JGAAP)とJALの20,125億円を上回る。営業利益率(JAL・ANAはEBIT/EBITマージン、デルタ・ユナイテッドはUS-GAAP Operating margin)はJAL10.8%が4社の中で最も高い——ANA8.6%、デルタ9.2%、ユナイテッド8.0%が続く。ROEはデルタ20.12%・ユナイテッド23.25%が、JAL12.2%・ANA12.9%を大きく上回る。これは米大手2社が自己資本を薄く(財務レバレッジを高く)している面が大きく、単純な優劣ではなく資本構成の違いを反映している。

💡 やさしく:4社とも「飛行機を飛ばして稼ぐ」商売ですが、儲けの厚み(営業利益率)で見るとJALが健闘しています。一方でROE(株主のお金に対する効率)では米国勢が高く見えますが、これは自己資本を薄くしているから数字が大きく出やすいだけで、必ずしも「経営がうまい」ことを意味しません。

バリュエーションの比較

2026年9月11日時点。PER・PBRは実績〜会社予想ベース(各社注記参照)

PERはユナイテッド9.96倍が最も低く、JAL11.58倍・デルタ12.98倍・ANA13.50倍の順。PBRはJAL1.19倍・ANA1.07倍が1倍近辺にとどまるのに対し、デルタ2.35倍・ユナイテッド2.07倍は明確に高い——米国勢はROEが高い分、同じ利益水準でも株価が資産価値の何倍まで買われるかが大きくなる傾向がある。配当利回りはJAL3.24%が4社で最も高く(ユナイテッドは無配)、株主還元姿勢の違いも読み取れる。

参考:売上高の規模比較(共通通貨換算)

単位:10億ドル。1ドル=154円(2026/9/11時点の参考レート)でJAL・ANAを換算した概算値

売上規模ではデルタ($63.4B)が最大、ユナイテッド($59.1B)が続き、ANA(約$16.5B)・JAL(約$13.1B)は米大手の4分の1程度の規模にとどまる。国際線ネットワークの広さと機体数で米大手2社が優位に立つ構造は変わっていない。

09戦略・課題と改善ポイント

アメーバ経営由来の非航空事業という「もう一本の足」は明確な強み。課題は、燃油費ショックに対する航空事業本体の脆さがQ1で改めて露呈したことに集約される。

強み Strengths

  • マイル/金融・コマース事業のEBIT455億円(FY2026・前年同期比+19.5%)が航空事業の市況変動を吸収するクッションとして機能
  • 自己資本比率40.3%(+5.4pt)。公募永久劣後債1,777億円の発行で資本基盤を強化しつつ株主還元も継続
  • D&I AWARD大賞(航空会社として初)、SKYTRAX5スター9年連続認定など人的資本・サービス品質での高評価
  • アメーバ経営由来の部門別採算管理文化が、破綻から15年経った現在も路線・事業単位のコスト意識として根付いている

弱み Weaknesses

  • FY2027 Q1はフルサービスキャリア事業EBIT△8億円・LCC事業EBIT△1億円と主力の航空事業が揃って赤字化
  • 航空燃油費がQ1で前年同期比+58.4%(940→1,489億円)と急騰し、増収分をほぼ相殺する構造的な脆さ
  • ROE12.2%は同業比較で最下位(デルタ20.12%・ユナイテッド23.25%・ANA12.9%)
  • 国内線は有効座席キロがFY2026で前期比99.4%と伸び悩み、供給調整・競合協業が課題

機会 Opportunities

  • 2030年度EBIT目標3,000億円・2035年度3,500億円を掲げる「JALグループ経営ビジョン2035」(2026年3月発表)
  • Capital One・Bilt Rewardsなど海外金融事業者との提携拡大による「JALマイルライフ構想」の海外展開
  • ライフネット生命保険との資本業務提携(2026年6月株式取得・持分法適用会社化)による保険事業への布石
  • ZIPAIRの全機Starlink搭載完了(2026年5月)など、LCC事業のサービス強化による国際線中長距離需要の取り込み

脅威 Threats

  • 中東情勢の緊迫化に伴う燃油価格の急騰・地政学リスクが通期EBIT目標1,800億円の達成を左右する
  • ウクライナ情勢の長期化など世界情勢の不確実性が原油価格・為替を通じてコスト構造に直接影響
  • 国際線の需給ひっ迫を利用した収益最大化(レベニューマネジメント)に依存した増収が、需給緩和時に反転するリスク
  • 円安基調が続く場合、ドル建てで調達する燃油費・航空機リース料等のコスト増加圧力が続く

改善ポイント(優先度つき)

最優先

燃油費急騰への耐性強化

燃油サーチャージの機動的な見直しに加え、非航空事業(マイル/金融・コマース)の利益クッションをさらに拡大することが、Q1のような急激な減益を和らげる鍵。

最優先

通期EBIT目標1,800億円達成の道筋の明確化

2026年8月3日時点で会社は通期予想を維持しているが、Q1だけでEBITの93%(1,673億円)を使い切っている計算。下期の前提(燃油価格・需要)を決算説明会等でどこまで具体化できるかが焦点。

中期

国内線ネットワークの収益性改善

2026年5月の国内航空のあり方に関する有識者会議報告書を受け、燃油サーチャージ導入・競合他社との協業など供給調整を通じた収益力強化が課題。

中期

非航空事業のさらなる拡大

マイル/金融・コマース事業の売上収益は連結の11%程度。ライフネット生命との提携等でこの比率をどこまで拡大できるかが次の焦点。

10投資メリット・デメリット

「再生の教科書」としての構造改革(非航空事業の育成)は評価できる一方、航空事業本体の燃油費への脆さはQ1で改めて確認された。PER11.58倍という株価が、この両面をどこまで織り込んでいるかが論点。

▲ 強気材料(メリット)

  • マイル/金融・コマース事業のEBIT455億円(+19.5%)が航空事業の市況変動を吸収するクッションとして拡大中
  • 自己資本比率40.3%(+5.4pt)・公募永久劣後債1,777億円の発行で資本基盤を強化
  • PER11.58倍・PBR1.19倍はデルタ(12.98倍/2.35倍)・ANA(13.50倍/1.07倍)と比べても過度に高くない水準
  • 配当利回り3.24%は同業4社で最高、配当性向31.3%で増配を継続
  • 「JALグループ経営ビジョン2035」で2035年度EBIT目標3,500億円(FY2026の1.6倍)という明確な成長シナリオを提示

▼ 弱気材料(デメリット)

  • FY2027 Q1はEBIT▲72.1%・純利益▲80.2%と急減益。フルサービスキャリア・LCC両事業がEBIT赤字化した
  • 燃油費は3か月で+58.4%と急騰し、増収分をほぼ相殺する構造的な脆さが改めて確認された
  • ROE12.2%は同業4社中最下位で、デルタ(20.12%)・ユナイテッド(23.25%)との差は大きい
  • 会社は通期予想を維持しているが、Q1だけでEBIT目標の93%を消化しており下方修正リスクが残る
  • 中東情勢・ウクライナ情勢など地政学リスクへの感応度が高く、燃油価格・為替の急変に業績が振れやすい

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ燃油価格が落ち着き下期3四半期がQ1FY26の平均水準(EBITマージン約12%程度)まで回復すると仮定。FY2027通期EPSを会社予想純利益1,100億円の上振れ想定として約280円×PER14倍=約3,920円(現値比+32.3%)
中立シナリオ会社予想どおりFY2027通期EPS約252円(純利益1,100億円÷平均株式数約436百万株)×PER11.58倍(現在の水準を維持)=約2,918円(現値比▲1.6%、会社予想通りなら現在の株価とほぼ整合)
弱気シナリオ燃油費ショックが下期も続き通期EBITが会社予想を下回る(純利益800億円程度に下方修正)と仮定。EPS約183円×PER10倍=約1,830円(現値比▲38.3%)

※起点となるFY2027通期の会社予想(2026年3月2日公表・2026年4月30日および8月3日時点で修正なし)はEBIT1,800億円・親会社帰属当期利益1,100億円。EPSは会社予想純利益÷期中平均株式数(約436百万株)から筆者算出した概算であり、会社発表のEPS予想ではない。上の3シナリオは筆者試算であり会社予想でも市場コンセンサスでもない。現在値・PER・PBR・時価総額は2026年9月11日終値2,964円時点。

💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①燃油費の動向(Q1は前年同期比+58.4%。この落ち着き具合が下期の業績を左右する)、②マイル/金融・コマース事業のEBIT(Q1は120億円で前年同期比+17.6%。この非航空事業が今後も航空事業の穴を埋め続けられるか)、③通期EBIT目標1,800億円の達成可否(Q1だけで目標の93%を使ってしまった計算で、下期の巻き返しが必要)。2010年の破綻から生まれた「非航空事業というもう一本の足」は本物の強みですが、航空事業本体が燃油費に振れやすい体質は今も変わっていないという点を意識する必要があります。