「東京海上日動」の保険引受と、集めた保険料を運用する巨大な運用資産の二層構造でもうける日本最大級の保険グループ。海外M&Aで築いた海外保険事業が利益の4割超を稼ぎ、2026年にはバークシャー・ハサウェイが2,874億円を出資する戦略的パートナーシップを締結した。
2026年3月期(JGAAP)実績と、2026年9月11日時点の市場評価。2027年3月期からIFRSに移行する過渡期にある。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
カネ(黄)・モノ・サービス(緑)・情報(青)の流れで見る、東京海上の稼ぎ方。
契約者から集めた保険料は、①事故が起きたときの保険金支払い、②将来の支払いに備える責任準備金の積立、③長期の資産運用に回る。運用収益(26/3期・資産運用収益1兆9,846億円)は保険引受収益と並ぶ収益の柱。海外は2008年のフィラデルフィア買収以降、HCC・デルフィ等の買収を重ね、経常利益5,591億円(26/3期・利益の4割超)を稼ぐ最大セグメントに成長した。2026年にはバークシャー・ハサウェイが第三者割当で株式を取得し、再保険分野での協働を含む戦略的パートナーシップを締結。
22/3期の資源高・金利上昇局面から、海外M&Aと国内料率改定を経て26/3期まで。単年の増減より複数期の平均で見るのがコツ。
経常収益は5期で5兆8,638億円→8兆8,723億円へ約1.5倍に拡大。海外保険事業の増収と国内損保の料率改定効果が牽引した。
23/3期は資産運用の逆風で減益となったが、24/3期・25/3期と大幅増益。26/3期は前期の政策株式売却益の反動で経常利益▲7.6%・純利益▲7.1%となったが、水準としては22/3期の2倍以上を維持している。EPSは515.55円(前期542.16円)、1株当たり純資産(BPS)は2885.44円(前期2640.27円)。
2026年、東京海上には2つの構造変化が同時に起きた。バークシャー・ハサウェイとの戦略的パートナーシップと、2027年3月期からのIFRS任意適用である。
2026年3月23日、東京海上はバークシャー・ハサウェイの完全子会社National Indemnity Companyを割当先とする第三者割当増資(自己株式処分)を決議し、2026年4月13日に払込が完了した。処分株数48,207,200株・処分価額1株5,962円・処分価額総額2,874億円。同時に、この割当による希薄化の影響を相殺するため、2026年4月〜9月に上限2,874億円の自社株買いを実施する旨を決議している(27/3期の自社株買い計画4,000億円とは別枠)。再保険分野での協働やM&A等における戦略的提携も柱に含まれる。
経営指標として使う「修正純利益」(親会社株主帰属利益からキャピタル損益等を控除した非GAAP指標)は、JGAAP時代の旧定義では25/3期実績12,150億円→26/3期実績12,048億円だが、2027年3月期からのIFRS移行に伴う新定義で同じ26/3期を見ると参考値8,815億円になる。27/3期の会社予想は新定義で9,500億円(+8%)。定義変更の影響を知らずに新旧の数字を比較すると「利益が急減した」と誤読するので注意が必要。
保険収益20,471億円(前年同期比+12.3%)、親会社の所有者に帰属する四半期利益2,643億円(同+3.3%)、修正純利益2,614億円(同▲3.6%)。修正純利益が減少しているのは金融派生商品費用等の一時的な変動要因が主因で、保険引受自体は保険サービス損益が前年同期比+363億円と堅調。通期予想(修正純利益9,500億円)に対する4分の1超が第1四半期で積み上がった形。
セグメント別に見ると、国内損保が依然最大の収益源だが、利益では海外保険が国内損保に迫る規模に成長した。
海外保険が4兆5,951億円と国内損保(3兆7,729億円)を上回り最大セグメントに。国内生保は7,958億円、ソリューション・その他は2,577億円。
国内損保は前年から1,488億円減少(7,444億円)。豪州の集団訴訟(Greensill関連)への引当金積み増しや自動車保険の損害率悪化が響いた一方、海外保険は前年から705億円増加(5,591億円)と対照的な動きになった。国内生保は236億円と規模は小さいが前年からは465億円減少している。
経常収益8兆8,723億円と純利益9,804億円の間で何が起きているか。保険会社特有のBS・CFの読み方。
自己資本比率17.0%(前期16.3%)。保険会社は預かった保険料(責任準備金232兆6,389億円)が負債の大半を占めるため、自己資本比率が一般事業会社より低く出るのが業界の特徴。
FCF(営業CF−有形固定資産取得による支出・筆者算定)は+5,393億円。前期比で営業CFが大きく減っているのは、前期に政策株式売却で得た資金が投資CFに計上され営業CFの水準を押し上げていた反動と、法人税等の支払額が前期比+2,930億円増加したことが主因。
ROE18.7%をデュポン分解し、資本コストとの関係を確かめる。
平均残高ではなく期末値ベースの筆者概算(純利益980,428百万円÷経常収益8,872,277百万円×100=11.1%、経常収益8,872,277百万円÷総資産31,961,940百万円=0.28回、総資産31,961,940百万円÷自己資本5,420,347百万円=5.90倍)。オイシックス(薄利×高回転の小売モデル)とは対照的に、東京海上は「高い純利益率×低い回転率×高いレバレッジ」という保険会社特有の型でROEを積み上げている。
簡便ROIC=親会社株主帰属当期純利益9,804億円÷自己資本5兆4,203億円≒18.1%(保険会社は有利子負債の概念が一般事業会社と異なるため、株主資本ベースの簡便値とする)。推定WACC(6〜7%程度、国内金融株の一般的なレンジ)を大きく上回っており、資本コストを上回る収益力を安定的に確保できている点は評価できる。
東京海上は2026年3月期までJGAAP、2027年3月期の有価証券報告書からIFRSを任意適用する過渡期。保険会計は基準間の差が特に大きい領域。
国内の大手損保はMS&AD・SOMPOと合わせて実質3社体制。海外M&Aモデルの参考としてChubb Limited(米州最大級のP&C保険会社)も並べる(2026-09-11時点・stockanalysis.com調べ)。
東京海上のPER(TTMベース・stockanalysis.com調べ)28.09倍はMS&AD(8.44倍)・SOMPO(8.71倍)を大きく上回るが、これはIFRS移行に伴う会計上のノイズを含むTTM値であることに注意。26/3期のJGAAP実績EPS(515.55円)ベースで計算し直すと実績PERは15.1倍となり、それでも国内2社より高いバリュエーションだが差は縮まる。配当利回りは東京海上3.07%・MS&AD3.24%・SOMPO2.91%とほぼ横並び。Chubb Limitedは市場データ上PER11.97倍・配当利回り1.21%で、ROE・PBRはstockanalysis.comに掲載が無く非開示として扱う。
海外M&Aで築いた成長エンジンを持ちながら、IFRS移行・資本提携という2つの構造変化をどう乗りこなすかが当面の焦点。
自動車保険の損害率悪化に対するレートアップ効果の発現度合いと、豪州Greensill訴訟の影響がいつ一巡するかが27/3期の焦点。
「経常利益」が無くなり修正純利益の定義も変わるため、新旧指標の接続を丁寧に説明できるかが株価の安定に直結する。
資本提携自体は完了したが、再保険協働・M&Aでの具体的な成果がいつ数字に表れるかが次の株価材料。
2,874億円の相殺用自社株買いに加え、27/3期通期で4,000億円の自社株買いを計画。ESR低下分の資本バッファ回復ペースを見極める必要がある。
「海外成長は本物、国内は正常化途上、IFRS移行という霧の中でどう評価するか」が本レポートの総括。