01企業カルテ
2026年3月期実績(2026/5/13開示)と現在の市場評価。
経常収益(26/3期)
10.79兆円
+6.1%(銀行の「売上高」に相当)
当期純利益(親会社帰属)
1兆5,830億円
+34.4%・3期連続最高益
ROE(実績)
13.47%
予想は10.77%へ低下見込み(⑥で解説)
CET1比率
(規制ベース・移行措置)
12.41%
バーゼルⅢ所要水準を上回る(概算)
PER(実績)
16.21倍
予想ベースでは15.09倍
◎
成長性
経常収益・純利益とも過去最高を更新。3期連続の増益基調
○
収益性
ROE13.47%(実績)はメガバンク3社中トップ。ただし予想は10.77%へ低下見込み
△
財務健全性(規制資本)
CET1比率12.41%(移行措置ベース・概算)はバーゼルⅢ所要水準を上回るが、一次資料PDFの抽出精度に限界あり(要注記)
△
キャッシュフロー
単純なCF計算では大幅マイナスだが、銀行特有の理由がある(⑤で解説)
○
バリュエーション
PER16.21倍・PBR1.63倍はMUFGよりやや割安な評価
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
💡 読み方:ROEが「実績13.47%」なのに「予想10.77%」と下がって見えるのは、26/3期に一時的な増益要因があった反動の可能性がありますが、会社側の明確な説明は本ページの調査範囲では確認できていません。銀行株を読むときは「実績」と「予想」のどちらの数字かを必ず確認する癖をつけましょう。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、SMFGの稼ぎ方。
カネの流れ
金融サービス・情報の流れ
出資・持分
起点2002年、三井住友銀行の株式移転により設立された国内大手金融グループ
定説銀行は預金を集めて貸し出す「預貸金利ざや」で稼ぐ
逆説国内の低金利環境では預貸金利ざやが薄いため、インドネシアの銀行を子会社化(92.43%出資・連結)して現地の高い金利環境の収益を直接取り込み、フィリピン・ベトナムの銀行に持分法出資、さらに米国の投資銀行ジェフリーズへの出資比率を段階的に引き上げる(無議決権ベースで最大20%へ)という「複数の海外拠点を少しずつ積み上げるマルチフランチャイズ戦略」で稼ぐ
中核は三井住友銀行(預金・貸出、法人取引に強み)だが、インドネシアのバンクSMBC(旧Bank BTPN)は92.43%出資の連結子会社として現地収益をそのまま取り込み、フィリピンのRCBC(20%)・ベトナムのVPBank(15%)は持分法適用会社として投資利益を計上する。さらに米国の投資銀行ジェフリーズへの出資は2021年の4.5%から2025年時点で14.5%まで拡大しており、2027年1月開業予定の合弁証券会社を通じた投資銀行業務の取り込みを狙う。
💡 やさしく:MUFGが「モルガン・スタンレーという1つの大きなアメリカの投資銀行に賭ける」戦略なら、SMFGは「インドネシアの銀行は丸ごと買う、フィリピン・ベトナムの銀行には一部出資する、アメリカのジェフリーズにも少しずつ出資を増やす」という分散型の海外戦略です。1つの相手に依存しないぶん、それぞれの出資先がまだMUFG-モルガン・スタンレーほどの巨大な利益源には育っていない、という違いもあります。
0310年の業績トレンド — 3期連続の過去最高益
FY2021の当期純利益5,100億円(コロナ禍の落ち込み)から、FY2026は1兆5,830億円へ約3.1倍。
当期純利益の推移(億円)
FY2021のコロナ禍落ち込みから3期連続最高益へ
売上高利益率の推移(%)
経常利益率・純利益率(FY22〜26)
国内の金利上昇(日銀の金融政策正常化)に加え、海外事業・非金利収益の積み上げが増収増益を牽引。利益率は24/3期に一時的に低下したのち急回復しており、26/3期の経常利益率21.35%は5期間で最高水準。
04マルチフランチャイズ戦略の中身 — SMFGだけの海外分散モデル
「1つの大きな海外パートナー」に賭けるMUFG(モルガン・スタンレー約20%)とは対照的に、SMFGは複数国・複数出資形態を組み合わせる。
海外出資先の出資比率比較
連結子会社〜持分法適用〜資本業務提携まで濃淡がある
インドネシアのバンクSMBC(旧Bank BTPN)は92.43%出資で連結子会社化(現地収益をそのまま取り込む)。フィリピンのRCBC・ベトナムのVPBankは15〜20%の持分法出資にとどめ、リスクを抑えつつ現地成長を取り込む設計。米ジェフリーズへの14.5%(無議決権)は、この4カ国の中で最も新しく、最も出資比率の拡大が続いている案件。
ジェフリーズ出資比率の推移
2021年7月の初期出資から段階的に拡大中
2021年7月に約400億円で初期出資(当時4.5%)した後、2024年8月に10.9%、2025年9月には約1,350億円を追加出資し14.5%(無議決権ベース)へ。最大20%まで引き上げる計画を公表しており、2027年1月には日本株事業を統合した合弁「SMBC日興ジェフリーズ証券」の開業を予定する。MUFGのモルガン・スタンレー出資(2008年・約90億ドル)が既に純利益の27.9%を稼ぐ「完成した」収益源であるのに対し、ジェフリーズはまだ育成段階にある点が対照的。
💡 やさしく:SMFGの4事業部門(ホールセール=国内法人、リテール=国内個人、グローバル=海外、市場=トレーディング)の中でも、近年最も投資が集中しているのが「グローバル」です。インドネシアは「丸ごと買う」、フィリピン・ベトナムは「一部だけ持つ」、アメリカのジェフリーズは「少しずつ増やしている最中」——同じ海外展開でも関わり方の深さを使い分けているのがSMFGの特徴です。
05財務3表ビジュアル
銀行の財務諸表は、製造業・小売業とは読み方が根本的に異なる。
PL滝グラフ — 経常収益10.79兆円から当期純利益1.58兆円へ(26/3期)
単位:億円
💡 やさしく:銀行には「原価」がありません(仕入れて売る商売ではないため)。代わりに、人件費・システム費・与信関係費用(貸したお金が返ってこないリスクへの備え)などの「費用等」が経常収益から差し引かれます。
BS比例図 — 総資産328.5兆円の中身(26/3末)
株主資本比率(単純)3.58%
負債の大半は預金・コールマネー等の「調達した資金」であり、一般事業会社の借入金とは性質が異なる。単純な自己資本比率3.58%だけを見て「財務が弱い」と判断するのは誤り——銀行の健全性は規制ベースのCET1比率(⑥で解説)で見るのが実務的。
キャッシュフロー(26/3期)
単位:億円。読み方に要注意
単純計算のFCF(営業CF+投資CF)は▲7兆289億円と大幅マイナス。ただしこれは銀行の営業CFが「貸出金・預金など資金運用ポートフォリオの残高変動」を反映する項目であり、事業会社の「本業で稼いだ現金」とは全く性質が異なるためで、赤字や資金繰り悪化のサインではない(MUFG8306ページと同様の注意点)。
06収益性とROTE目標
SMFGは新中期経営計画(2026〜28年度)でROE単体ではなくROTE(有形自己資本利益率)を主要目標指標に採用している点がメガバンク3社の中で独特。
ROEの実績・予想(26/3期・27/3期予)
単位:%
実績ROE13.47%はメガバンク3社の中でトップ(MUFG13.98%とほぼ並ぶ水準、みずほFG12.6%を上回る)。ただし27/3期予想は10.77%へ低下する見込みで、一時的な増益要因の反動である可能性がある。
新中計のROTE目標
2026〜2028年度中期経営計画
2028年度にROTE13%、中長期的には15%程度を目指すと公表。純利益は「2兆円半ば」を視野に入れており、26/3期実績1兆5,830億円から見ると、なお3割前後の上積みを狙う野心的な計画。
💡 やさしく:ROE(自己資本利益率)は「株主のお金でどれだけ稼いだか」ですが、ROTE(有形自己資本利益率)は、のれん等の目に見えない資産を除いた「実質的な元手」に対する利益率です。買収を重ねてのれんが積み上がっている会社ほど、ROEよりROTEの方が高く出やすい——SMFGがあえてROTEを目標指標に選んでいるのは、マルチフランチャイズ戦略で海外の買収・出資を重ねてきた自社の実態を、より正確に映す指標だと判断しているためと考えられます。MUFGは主にROEを軸に説明しており、この指標選びの違いにも各社の戦略観が表れています。非金融の事業会社ならROIC(投じたお金全体でどれだけ稼いだか)とWACCを比べるのが定番ですが、銀行は預金という特殊な「負債」を元手に商売する業態のため、この物差しをそのまま当てはめると意味を持ちにくく、本ページもMUFG8306ページと同様にROICの代わりにROE・ROTE・CET1比率を収益性・健全性の中心指標として扱った。
07会計基準ビュー — メガバンク3社で割れる開示実務
SMFGはJGAAP(日本基準)を採用。ただしNYSE上場のADRも発行しており、開示は一枚岩ではない。
会計基準による見え方の違い
- 連結決算短信は日本基準(JGAAP)で作成。銀行業特有の様式(経常収益・経常利益・与信関係費用等の区分表示)を使う
- のれんは20年以内の規則償却が原則。バンクSMBCインドネシアの子会社化など買収を重ねてきたSMFGにとって、この償却費の扱いは開示上の論点になりやすい
- IFRSでは金融資産の分類・評価(公正価値評価の範囲)がJGAAPよりも広く、有価証券の評価損益がより直接的に損益・自己資本に反映されやすい
- のれんは非償却・減損テストのみとなり、規則償却費が消える分、利益水準が変わって見える可能性がある
- SMFGは日本基準の決算短信に加え、NYSE上場のADR発行のため米SEC向けForm 20-Fも別途提出している(MUFGも同様。みずほFGは決算短信そのものがUS-GAAP)
- ジェフリーズ(米国上場企業)への出資持分の会計処理は、無議決権株式であることも踏まえ、議決権保有比率の高い連結子会社(バンクSMBCインドネシア)とは全く異なる会計上の扱いになる——同じ「海外出資」でも会計処理の建て付けは出資形態次第で大きく変わる
💡 やさしく:同じ「メガバンク」でも、決算書の作り方(会計基準)は会社によって違います。MUFGとSMFGは日本のルール(JGAAP)+米SEC向け開示、みずほは米国のルール(US-GAAP)で決算短信そのものを作っている——3社の数字を単純比較する際は、この違いを頭の片隅に置いておくと安全です。
08メガバンク3社比較+世界との距離
国内では時価総額2位だが、実績ROEはメガバンク3社でトップ。世界最大級のJPモルガン・チェースとはなお規模の差が大きい。
JPモルガンMUFGSMFGみずほFG
時価総額はMUFG41.2兆円>SMFG25.7兆円>みずほFG19.7兆円の順で、SMFGはMUFGの約6割の規模。一方、実績ROEはSMFG13.47%が3社中トップで、MUFG13.98%とほぼ並ぶ水準まで肉薄している。PER・PBRはSMFGがMUFGよりやや割安(PER16.21倍<16.15倍は僅差で近い水準、PBR1.63倍<1.76倍)。世界最大級のJPモルガン・チェース(時価総額147.3兆円)と比べると、SMFGはその6分の1以下にとどまる。
💡 やさしく:「規模のMUFG、収益性のSMFG」という色分けが今の3メガバンクの構図です。時価総額はMUFGが圧倒的トップですが、株主のお金をどれだけ効率よく稼ぎに変えているか(ROE)で見るとSMFGが肉薄しています。ただしアメリカのJPモルガンと比べれば、日本のメガバンク3社を合わせてもまだ規模で及びません。
09戦略・課題と改善ポイント
旗印は「マルチフランチャイズ戦略」による海外収益源の分散。課題はROE予想の低下見込みと、複数国にまたがる与信・カントリーリスク。
強み Strengths
- 実績ROE13.47%はメガバンク3社中トップ、3期連続の過去最高益
- インドネシア(連結子会社)・フィリピン・ベトナム・アメリカと海外収益源を分散
- PER・PBRともMUFGよりやや割安な評価
- CET1比率12.41%(概算)はバーゼルⅢ所要水準を上回る見込み
弱み Weaknesses
- 時価総額はMUFGの約6割にとどまり、国内2位
- 27/3期のROE予想10.77%は実績13.47%から大きく低下する見込みで、要因の説明が本ページの調査範囲では確認できていない
- ジェフリーズ出資はMUFG-モルガン・スタンレーと比べまだ育成段階で、目に見える利益貢献はこれから
- 単純な株主資本比率3.58%は事業会社の指標と混同されやすい
機会 Opportunities
- 日銀の金融政策正常化(金利上昇)による国内利ざやのさらなる改善
- 2027年1月開業予定の「SMBC日興ジェフリーズ証券」による投資銀行業務の収益取り込み拡大
- 新中計のROTE目標達成に向けた資本効率のさらなる改善余地
脅威 Threats
- インドネシア・フィリピン・ベトナムなど新興国での与信・為替・カントリーリスク
- ジェフリーズの業績変動が持分の評価・持分法損益を通じて連結決算に波及するリスク
- 国内外の金利動向次第で収益変動リスク(急激な利上げ・利下げ両方向)
改善ポイント(優先度つき)
最優先ROE予想低下の要因説明
実績13.47%から予想10.77%への低下理由を投資家にわかりやすく説明できるかが、株価評価の安定に直結する。
中期ジェフリーズ提携の収益化
2027年1月開業予定の合弁証券会社を軌道に乗せ、MUFG-モルガン・スタンレーに匹敵する収益貢献に育てられるかが中期的な焦点。
中期セグメント別収益の精緻な開示
本ページでは決算説明資料のPDF抽出精度の制約により、事業部門別(ホールセール/リテール/グローバル/市場)の金額入り内訳の掲載を見送った。次回更新で精緻化する。
10投資メリット・デメリット
「メガバンク3社トップのROEとマルチフランチャイズ戦略による海外分散を武器に3期連続最高益。論点はROE予想低下の理由とジェフリーズ提携の収益化ペース」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
- 経常収益・当期純利益とも過去最高を更新中(当期純利益+34.4%、3期連続最高益)
- 実績ROE13.47%はメガバンク3社中トップ
- PER・PBRともMUFGよりやや割安で、相対的な出遅れ感がある
- インドネシア・フィリピン・ベトナム・アメリカへの分散型海外戦略が、特定パートナーへの依存リスクを抑えている
- 新中計でROTE13〜15%・純利益「2兆円半ば」という明確な数値目標を提示
▼ 弱気材料(デメリット)
- 27/3期のROE予想10.77%は実績から大きく低下する見込みで、理由が本ページの調査範囲では未確認
- 単純計算のFCFは大幅マイナス(ただし銀行特有の理由があり赤字シグナルではない)
- ジェフリーズ提携はまだ育成段階で、MUFG-モルガン・スタンレーのような巨大な利益貢献には至っていない
- 時価総額はMUFGの約6割にとどまり国内2位
- 新興国(インドネシア・フィリピン・ベトナム)への与信・カントリーリスクが分散はしているが依然存在する
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオジェフリーズ合弁が早期に軌道に乗り、EPS500円×PER17倍=8,500円(新中計のROTE目標達成が視野に入る展開)
中立シナリオ足元の増益基調が一巡し、EPS420円×PER15倍=6,300円程度で安定(現在の株価水準に近い)
弱気シナリオROE予想通りの低下が続き、新興国与信費用も増加してEPS350円×PER13倍=4,550円まで下押し
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①ROE予想低下の理由が判明するか、②ジェフリーズ合弁(2027年1月開業予定)の立ち上がり、③新興国(インドネシア・フィリピン・ベトナム)の経済・為替動向。同じメガバンクでもMUFGとは海外戦略の組み方が全く異なるので、「銀行株はどれも同じ」と一括りにせず、この3社を並べて比較する視点が重要です。