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東京エレクトロン 8035・東証プライム

東証プライムJGAAP3月決算 半導体製造装置26年3月期(FY2026)通期まで反映

世界の半導体工場に装置を売って終わりではない。装置は工場に設置された後も10年以上稼働を続け、その保守・部品交換・改造から生まれる「フィールドソリューション」収益が2026年3月期に6,260億円(売上の25.6%、過去最高)に達した。売上高2兆4,435億円(+0.5%)・営業利益6,249億円(-10.4%)・当期純利益5,744億円(+5.6%、過去最高)。純利益が増益なのは政策保有株式の売却益1,154億円が寄与したためで、本業の稼ぐ力は前期からやや低下している。

💡 はじめての方へ:スマホやパソコン、AIサーバーの頭脳である半導体チップは、シリコンの円盤(ウェーハ)の上に回路を何百層も積み重ねて作られます。その「塗る」「削る」「洗う」工程で使う巨大な工作機械(半導体製造装置)を作っているのが東京エレクトロンです。装置は1台数億〜数十億円もする高額品ですが、真価は売り切りで終わらないこと。工場に設置された装置は何年も稼働を続け、その保守・部品交換・改造から継続的な収益を生みます。

2026年3月期(FY2026)通期の確定実績まで反映済み(2026年4月30日発表)。2027年3月期第1四半期決算は2026年7月30日発表予定でまだ公表されていないため、本ページでは未反映。株価・時価総額・同業比較は2026年7月28日終値にもとづく。

01企業カルテ

2026年3月期(FY2026)通期実績(2026/4/30発表)と2026年7月28日時点の市場評価。

売上高(FY2026)
24,435億円
+0.5%・2年連続で過去最高
営業利益
6,249億円
営業利益率25.6%(前期28.7%から低下)
当期純利益
5,744億円
+5.6%・過去最高(政策保有株式売却益1,154億円含む)
ROE
29.6%
前期30.3%からやや低下も高水準を維持
フィールドソリューション比率
25.6%
過去最高・新規装置に次ぐ収益の柱
自己資本比率
71.5%
有利子負債ゼロの無借金経営
時価総額
約25.4兆円
株価55,920円(26/7/28終値。同日は半導体株全般が急落)
PER(実績)
44.6
PBR12.43倍・配当利回り1.12%
成長性
FY2026売上高+0.5%と足踏みしたが、5年前(FY2022)比では+22%。直近四半期は前年同期比+8.6%・前四半期比+28.9%と加速
収益性
営業利益率25.6%・ROE29.6%は本サイト掲載の日本製造業で最高水準の部類。ただし前期(28.7%)から3.1pt低下
財務健全性
自己資本比率71.5%・有利子負債ゼロの完全無借金経営。現金及び預金4,513億円
株主還元
FY2026は自社株買い1,499億円+配当2,874億円=純利益の76.1%を還元、過去最高の総還元額4,374億円
バリュエーション
PER44.6倍・PBR12.43倍は本サイト掲載の日本企業では高水準。7/28に株価が前日比-11.0%と急落した直後の数字

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。1株当たり当期純利益(EPS)は1,254.57円、1株当たり純資産(BPS)は4,498.85円、年間配当金は1株当たり628円(中間264円・期末364円)。時価総額・PER・PBRは自己株式控除後の発行済株式454,849,692株×2026年7月28日終値55,920円から筆者算出。1ドル=163.64円(2026/7/27)。

💡 読み方:「営業利益は10.4%減ったのに、最終利益は5.6%増えて過去最高」という一見矛盾した決算です。種明かしは、保有していた取引先株式(政策保有株式)を売却して得た1,154億円の特別利益。本業の力そのものは前期よりやや弱含んでいる点には注意が必要です。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、東京エレクトロンの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点1963年、「半導体こそ産業界を変革する」という信念のもと設立。1978年に現社名へ変更、1980年東証二部上場、1984年東証一部(現プライム)昇格。2026年3月期は創業から第63期
定説半導体製造装置メーカーは、大型の新規装置を顧客の工場に売り切ることで稼ぐビジネスである
逆説東京エレクトロンの収益は新規装置の販売だけで完結しない。一度工場に設置された装置は10年以上稼働を続け、その保守・部品交換・改造(アップグレード)から生まれる「フィールドソリューション」収益が2026年3月期に6,260億円(売上の25.6%、過去最高)に達した。新規装置の受注は半導体市況(WFE市場)のサイクルに合わせて大きく上下する一方、世界中の工場で稼働し続ける設置装置というストックが、その振れを吸収するクッションになっている

東京エレクトロンの収益は大きく2本柱で構成される。新規装置1兆8,175億円(顧客の工場に納入する新しい半導体製造装置の売上。筆者算出=売上高-フィールドソリューション)と、フィールドソリューション6,260億円(既存装置の保守・部品交換・中古装置の改造)。新規装置の受注は顧客の設備投資サイクル(WFE市場)に強く連動し四半期ごとの振れが大きいのに対し、フィールドソリューションは既に世界の工場で稼働している装置というストックに対する収益のため相対的に安定しやすい。部品・部材サプライヤーから調達した部材は装置に組み込まれて顧客の製造ラインへ出荷され、稼いだ利益の一部は研究開発(2,778億円、売上の11.4%)に再投資され、残りは配当・自社株買いとして株主へ還元される(FY2026は純利益の76.1%)。

💡 やさしく:車の販売にたとえると分かりやすいです。新車を売るだけでなく、売った後の車検・修理・部品交換でも稼ぐディーラーのようなもの。東京エレクトロンにとっての「車検・修理」がフィールドソリューションで、これが売上の4分の1を占めるまでに育っています。新車(新規装置)の売れ行きは景気に左右されますが、街を走っている車(設置済み装置)の数はそう簡単には減らないので、修理収入は比較的安定しているのです。

03成長の歩み — 5年で売上+22%、半導体市況の波を映す増減益

FY2024はメモリ市況低迷で減収減益。FY2025にAIサーバー向け投資の拡大で過去最高を更新し、FY2026も売上・純利益とも過去最高を更新した。

売上高の推移(FY2022〜FY2026)

単位:億円 ■濃い棒=直近期。3月決算

営業利益率の推移

FY2024はメモリ市況低迷で24.9%まで低下

FY2022〜FY2023は28〜30%で高水準に推移。FY2024は半導体メモリ市況の低迷(顧客の設備投資抑制)で24.9%へ低下したが、FY2025はAIサーバー向け投資の急拡大で28.7%まで回復。FY2026は25.6%とやや低下しており、これは主に研究開発費(+11.1%)・人件費など成長投資の先行によるもの。

当期純利益の推移

単位:億円

FY2022の4,370億円からFY2026の5,744億円へ5年で1.31倍。同期間に売上高は1.22倍(20,038→24,435億円)で、利益の伸びが売上の伸びを上回っている——研究開発投資による製品競争力の向上と、FY2026は政策保有株式売却益1,154億円がその差分に寄与した。

04今期の焦点 — フィールドソリューションという「クッション」、そして中国依存の変化

半導体製造装置ビジネスの本質は、装置の累積設置台数がそのままストック収益(フィールドソリューション)の母数になること。新規装置は市況で大きく上下するが、フィールドソリューションはFY2026に売上の25.6%(過去最高)まで拡大し、市況の振れを一定程度吸収している。もう一つの論点が中国比率——FY2024には44.4%まで達した中国向け売上が、FY2026は34.1%まで低下した。

新規装置とフィールドソリューションの売上構成(FY2022〜FY2026)

単位:億円。フィールドソリューション=中古装置・改造+パーツ・サービス

フィールドソリューションはFY2022の4,559億円からFY2026の6,260億円へ5年で1.37倍に拡大。新規装置の売上がFY2024に前年比▲19.2%(17,350→14,020億円)と急減した局面でも、フィールドソリューションの減少幅は▲9.6%(4,740→4,285億円)にとどまった——設置済み装置の稼働は市況が悪化しても急には止まらないため、新規装置ほど落ち込まない構造が見て取れる。

フィールドソリューション比率の推移

単位:%(フィールドソリューション売上÷総売上高)

FY2023の21.5%を底に、FY2026は25.6%と過去最高を更新。会社は決算説明会で「顧客の工場稼働率が一段と上昇し、パーツ・サービス、改造ともに好調」と説明しており、装置の累積設置台数が積み上がるほど、この比率の下値が切り上がっていく構造にある。

💡 やさしく:新車の販売台数が落ち込んでも、すでに街を走っている車の車検・修理需要はすぐには減りません。東京エレクトロンも同じで、世界中の工場で稼働中の装置が多いほど、新規装置の受注が落ち込んだときの「下支え」が効きます。この比率が上がり続けているのは、それだけ稼働中の装置が積み上がっている証拠です。

地域別売上構成比の推移 — 中国依存はピークから10ポイント低下

単位:%。FY2024の44.4%をピークに低下

中国向け売上比率はFY2022の28.3%→FY2024に44.4%まで急伸した後、FY2025は41.7%、FY2026は34.1%まで低下した。会社は決算短信で「前年度と比べ中国における設備投資は一服感がみられた」と説明している。直近の第4四半期(1〜3月期)は26.8%まで低下(前四半期比-5.0pt)する一方、台湾向けが同22.0%へ急伸(前四半期比+40%)しており、投資の重心が中国から台湾(先端ファウンドリ)へ移りつつある。

地域別売上高(FY2026・構成比から算出)

単位:億円。構成比×通期売上高24,435億円から筆者算出

FY2026は中国(34.1%・8,332億円)が引き続き最大市場だが、韓国(22.3%・5,449億円)・台湾(20.4%・4,985億円)を合わせた東アジア2極が合計42.7%を占め、DRAM・先端ロジックへの投資が牽引役になっている。北米は6.8%(1,662億円)にとどまり、日本国内は9.8%(2,395億円)。CY2026〜2027のWFE(半導体製造装置)市場は会社予想で1,500〜1,700億ドル(CY2025比+20%以上、先端デバイス向けは+30%以上)と見込まれており、地域構成比は今後もAI関連の設備投資動向次第で振れやすい

05財務3表ビジュアル

政策保有株式売却益を含む特別損益、無借金のBS、そして稼いだ以上を株主に返すCF——半導体製造装置メーカーの財務的な特徴が3枚に表れる。

PL滝グラフ — 売上高24,435億円はどこへ消えるか(FY2026)

単位:億円。JGAAPのため経常利益・特別損益の段階を経て当期純利益に至る

売上高24,435億円から売上原価13,357億円(筆者算出=売上高-売上総利益)を引いた売上総利益は11,078億円(利益率45.3%)。販管費4,829億円(うち研究開発費2,778億円)を引いた営業利益は6,249億円(25.6%)。営業外損益+54億円を加えた経常利益6,303億円に対し、政策保有株式の売却益1,154億円を含む特別利益(ネット+1,178億円)が乗って税引前利益7,481億円となり、法人税等1,737億円を差し引いた当期純利益は5,744億円(過去最高)。

💡 やさしく:本業のもうけ(営業利益)は前の期より減っているのに、最終的な利益は過去最高。その理由は「本業以外の特別なもうけ」(保有していた他社株式を売った利益1,154億円)が上乗せされたからです。この特別利益は毎年繰り返し起こることではないので、来期以降の実力を見るときは営業利益・経常利益の水準の方が参考になります。

BS比例図 — 総資産2兆8,610億円の中身(FY2026末)

箱の高さ=金額。自己資本比率71.5%・有利子負債ゼロ

総資産の約16%(4,513億円)が現金及び預金で、有利子負債はゼロ(IRBank調べ)。半導体製造装置は受注から売上計上までのリードタイムが長く、装置本体・部品の在庫や仕掛品を抱えるビジネスであるため固定資産・流動資産ともに一定の厚みを持つ。自己資本比率71.5%は製造業として極めて高い水準。

キャッシュフロー(FY2026)

単位:億円。営業CF5,397億円

営業CF5,397億円に対し設備投資は2,160億円(宮城・熊本の新開発棟、岩手の生産・物流センター竣工)で、FCF(営業CF-設備投資、筆者算定)は3,237億円。この年の株主還元は自社株買い1,499億円+配当2,874億円=4,374億円と過去最高で、純利益5,744億円の76.1%を株主に還元している。財務CFが▲4,254億円と大きいのはこの還元によるもの。

06収益性 — ROE29.6%をデュポン分解する

東京エレクトロンの高ROEは、借金の力ではなく利益率と資産効率の両方で作られている。トヨタ(厚利×低回転×高レバレッジ型)とは異なる構造。

ROE(FY2026・平均残高ベース)
29.6%
23.51%
売上高純利益率
政策保有株式売却益を含む
× 0.891回
総資産回転率
製造業として高い回転率
× 1.412倍
財務レバレッジ
有利子負債ゼロで極めて低い

本サイト掲載の他社と比較すると構造の違いが分かる。トヨタ(ROE10.1%=純利益率7.6%×0.51回×2.63倍)は金融事業の分だけ総資産回転率が低くレバレッジで補う「厚利×低回転×高レバレッジ」型。東京エレクトロンは有利子負債ゼロのためレバレッジ1.41倍と極めて薄く、純利益率23.5%と総資産回転率0.89回という「利益率×回転率」の掛け算だけでROE29.6%を作っている——借金に頼らない資本効率の高さが際立つ。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)

単位:%。FY2026末時点

ROIC=NOPAT(営業利益6,249億円×(1−実効税率23.22%)=4,798億円)÷投下資本(自己資本20,463億円+有利子負債0−現金及び預金4,513億円=15,950億円)=30.1%。推定WACC 7〜8%(有利子負債ゼロのため株主資本コストがほぼそのままWACCとなる)を20ポイント以上上回る。借金という「他人のお金」を一切使わずにこの資本効率を実現している点が、東京エレクトロンの財務面での最大の強み。

💡 やさしく:ROIC30%は「商売に使うお金1に対して毎年0.30稼ぐ」ということ。しかもその元手はほぼ全額が自分のお金(自己資本)で、借金に頼っていません。金利が上がる局面でも利払い負担がまったく増えない、という財務体質の強さがここに表れています。

07会計基準ビュー — JGAAP / IFRS / US-GAAP

東京エレクトロンはJGAAP採用。「経常利益」という段階があることと、政策保有株式売却益を特別利益として区分表示することが読み方の鍵になる。

どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2026)

単位:億円
詳しく見る:会計基準の技術的差異(JGAAP/IFRS/US-GAAP)
  • JGAAPには「経常利益」という段階があり、営業利益6,249億円に営業外損益+54億円を加えた6,303億円として表示される。IFRS・US-GAAPにはこの区分がない
  • 政策保有株式の売却益1,154億円は「特別利益」として経常利益の下に区分表示される。このため経常利益(本業+金融収支)が前期比-11.0%と悪化していても、特別利益の計上で当期純利益は+5.6%の過去最高になるという「見え方のねじれ」が生じる
  • のれんは20年以内の規則償却が必要(東京エレクトロンは大型M&Aが少ない自社成長型のため、のれん償却の影響自体は小さいとみられる)
  • FY2022期首より「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)を適用済みで、これはIFRS15・US-GAAPのASC606とほぼ同内容。この点での基準間の差異は既に小さい
  • IFRSに「経常利益」の区分はなく、政策保有株式の売却益もどの区分に置くかは会社の判断次第——多くの場合「その他の収益」として営業利益の内側に含めてしまう会社もある。その場合、東京エレクトロンのJGAAP開示で見えている「本業6,249億円・特別利益1,154億円」という内訳がIFRS表示では見えにくくなる
  • のれんは非償却・減損テストのみ。ただし東京エレクトロンはのれん自体が僅少とみられ、この差異による利益への影響は小さい
  • 同業のASMLはIFRS採用。研究開発費の一部資産化の可否など、費用処理の細部でJGAAPと差異が生じうる
  • US-GAAPにも「経常利益」区分はなく、特別損益に相当する「非経常項目」は近年の基準改定で表示上ほとんど区別されなくなっている。政策保有株式の売却益は営業外収益(Other income)として一括処理される可能性が高い
  • 同業のアプライドマテリアルズ・ラムリサーチはUS-GAAP採用。研究開発費は原則費用処理でJGAAPと大きな差異はない
  • 自己株式は資本のマイナス項目として扱う点はJGAAP・US-GAAPで共通
💡 やさしく:日本のルールには「経常利益」という段階があり、本業のもうけに金融収支を足したものを指します。今回のように保有株式を売って得た利益は、この経常利益の「外」(特別利益)に置かれるため、本業の実力(経常利益-11.0%)と最終的な儲け(純利益+5.6%)が逆方向に動くという分かりにくい決算になりました。海外基準ではこの一時的な利益がどこに紛れ込むか分かりにくくなる場合がある点で、JGAAPの区分表示はむしろ読み手に親切といえます。

08同業比較 — 半導体製造装置4強+検査装置大手との比較

EUV露光を独占するASML(蘭)、装置ラインアップで世界最大のアプライドマテリアルズ(米)、エッチングに強いラムリサーチ(米)、そして半導体テスタで急成長するアドバンテスト(日)と比較する(2026/7/28〜29時点)。通貨が異なるため、営業利益率・ROEなど比率を主軸に比較する。

営業利益率・ROEの比較

単位:%。TTM実績(アドバンテストはFY2026/3実績、東京エレクトロンはFY2026実績)

営業利益率はアドバンテスト44.2%が突出——AI向け高性能半導体テスタの需要爆発で前期比営業利益2.2倍という急成長中の特殊要因が効いている。ASML35.4%・ラムリサーチ34.3%・アプライドマテリアルズ30.3%が続き、東京エレクトロン25.6%は5社の中で最も低い。ROEはラムリサーチ66.8%・アドバンテスト57.6%・ASML53.9%・アプライドマテリアルズ39.7%・東京エレクトロン29.6%の順で、いずれも自己資本の薄さ(レバレッジの効き)が寄与している面がある。

💡 やさしく:5社とも「装置を作って売る」商売ですが、儲けの厚み(営業利益率)には差があります。アドバンテストは検査装置に特化してAIブームの恩恵を最も強く受けている段階、東京エレクトロンは幅広い工程をカバーする分、単一製品ほどの突出した利益率にはなりにくい構造です。

バリュエーションの比較

2026/7/28〜29時点。PER・PBRは実績〜会社予想ベース(各社注記参照)

PERはラムリサーチ50.9倍・ASML50.1倍が高く、アプライドマテリアルズ44.8倍・東京エレクトロン44.6倍がほぼ並び、アドバンテスト39.8倍(会社予想ベース)がやや低い。PBRは絶対水準で見るとラムリサーチ31.9倍・ASML24.4倍・アドバンテスト23.3倍が高く、東京エレクトロン12.4倍・アプライドマテリアルズ15.8倍は相対的に低い——これは高PBRの3社がいずれも自己資本を薄くする自社株買いを積極化させている面がある一方、東京エレクトロン・アプライドマテリアルズは自己資本の絶対水準が相対的に厚いことの反映でもあり、単純な割安・割高比較では読めない点に注意が必要。

参考:売上高の規模比較(共通通貨換算)

単位:10億ドル。1ドル=163.64円で東京エレクトロン・アドバンテストを換算(円建て企業の実額を為替で概算したものであり、通貨変動の影響を受ける参考値)

売上規模ではASML($40.3B)が最大、アプライドマテリアルズ($29.0B)・ラムリサーチ($21.7B)が続き、東京エレクトロン($14.9B)・アドバンテスト($6.9B)は相対的に小さい。ただしアドバンテストは前期比+44.7%という急成長中で、規模の序列は今後数年で変わりうる。

09戦略・課題と改善ポイント

ビジネスモデルの強さ(無借金・高利益率・成長するフィールドソリューション)は明確。課題は地政学リスクと、AI投資ブームがいつまで続くかという市況サイクルへの依存に集約される。

強み Strengths

  • コータ/デベロッパ(塗布現像装置)でマーケットシェア90%以上、絶縁膜エッチング装置でも50%以上を持つ主力製品の圧倒的競争力
  • 有利子負債ゼロ・自己資本比率71.5%の無借金経営。現金及び預金4,513億円
  • フィールドソリューション比率25.6%(過去最高)とストック収益が拡大し、新規装置の市況変動への耐性が高まっている
  • ROIC30.1%が推定WACC7〜8%を大きく上回り、借金に頼らず高い資本効率を実現

弱み Weaknesses

  • FY2026の営業利益率は25.6%と前期(28.7%)から3.1pt低下。研究開発費+11.1%・人件費等の増加が先行している
  • 当期純利益+5.6%の過去最高は政策保有株式売却益1,154億円という一時的要因が押し上げており、本業(経常利益)は-11.0%と悪化
  • 中国向け売上比率は低下傾向とはいえFY2026も34.1%と依然最大市場で、地政学リスクへの感応度が高い構造は変わっていない
  • 同業5社比較で営業利益率25.6%は最も低く、検査装置に特化するアドバンテスト(44.2%)等との差が大きい

機会 Opportunities

  • CY2026〜2027のWFE市場は会社予想で1,500〜1,700億ドル(CY2025比+20%以上)、先端デバイス向けは+30%以上の成長を見込む
  • HBM(高帯域幅メモリ)・アドバンストパッケージング向けにPOR(顧客の製造プロセスでの採用認定)を複数獲得済みで、FY2027の塗布・現像装置売上は前年比+50%以上を見込む
  • 台湾向け売上が直近四半期で構成比22.0%(前四半期比+40%)に急伸するなど、先端ファウンドリ投資の恩恵を受けやすい製品ポートフォリオ
  • フィールドソリューションは装置の累積設置台数に比例して積み上がる構造で、新規装置の販売が続く限り将来のストック収益の母数も増え続ける

脅威 Threats

  • 米中対立に伴う対中輸出規制の強化・拡大リスク。中国向け売上は低下したとはいえ依然34.1%を占める
  • AIサーバー向け投資が牽引する現在の需要拡大局面が反転した場合、新規装置売上の急減という半導体市況特有のサイクルリスク
  • 研究開発費・設備投資の積極拡大(FY2027は研究開発費3,300億円・設備投資1,900億円を計画)が先行する局面で、需要が想定より弱まった場合の固定費負担増
  • ASML・アプライドマテリアルズ・ラムリサーチという海外大手との技術開発競争。特にアドバンストパッケージング等の新領域では競合各社も参入を強めている

改善ポイント(優先度つき)

最優先

営業利益率の反転

FY2026は25.6%と3.1pt低下。研究開発・人件費の先行投資が収益にどう跳ね返るか、FY2027上期の実績(会社予想は27.5%)で確認する必要がある。

最優先

中国以外への市場分散

中国比率はピーク(44.4%)から10ポイント低下したが、依然最大市場。台湾・韓国など先端ファウンドリ/メモリ向けへのシフトが規制リスクの分散にどこまで寄与するか。

中期

フィールドソリューションのさらなる拡大

比率25.6%は過去最高だが、海外同業と比べた水準・伸びしろの検証余地がある。装置の累積設置台数という「ストックの母数」が今後も積み上がるかが鍵。

中期

AI投資ブーム後の需要平準化への備え

DRAM・HBM・先端ロジック向け投資の拡大が業績を牽引する一方、この特需が一巡した後の需要水準をどう見極め、設備投資・研究開発のペース配分に反映させるか。

10投資メリット・デメリット

無借金・高ROIC・拡大するフィールドソリューションという構造の強さは明確。論点は、PER44.6倍という高いバリュエーションが、AI投資ブームの持続性と中国依存の低下をどこまで織り込んでいるか。

▲ 強気材料(メリット)

  • 有利子負債ゼロ・自己資本比率71.5%・ROIC30.1%(推定WACC7〜8%を大きく上回る)という盤石な財務基盤
  • フィールドソリューション比率25.6%(過去最高)が示す通り、新規装置の市況変動に対する収益のクッションが年々厚みを増している
  • CY2026〜2027のWFE市場は会社予想で前年比+20%以上、先端デバイス向けは+30%以上の拡大を見込む
  • FY2026は総還元額4,374億円(純利益の76.1%)と過去最高の株主還元を継続
  • コータ/デベロッパでシェア90%以上など主力製品での圧倒的な競争優位

▼ 弱気材料(デメリット)

  • PER44.6倍・PBR12.43倍は本サイト掲載の日本企業の中でも高水準。2026年7月28日には株価が前日比-11.0%と急落した
  • FY2026の当期純利益+5.6%は政策保有株式売却益1,154億円という一時的要因が主因で、本業(経常利益)は-11.0%と悪化している
  • 営業利益率は25.6%と前期から3.1pt低下し、同業5社比較でも最も低い水準
  • 中国向け売上比率は低下したとはいえ34.1%と依然最大で、米中対立・輸出規制の強化リスクに晒され続ける
  • AIサーバー向け投資という単一のブームへの依存度が高まっており、その反転局面での新規装置売上の急減という半導体市況特有のサイクルリスクは変わらない

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ会社が言う「2026年後半にかけてDRAM・先端ロジックを中心に更に出荷が増加」通りH2がH1比+55%伸びると仮定。FY2027通期EPS 約1,839円×PER40倍=約73,560円(現値比+31.6%)
中立シナリオFY2026のH1→H2伸び率(+37.9%)がFY2027も同様に続くと仮定。FY2027通期EPS 約1,716円×PER35倍=約60,060円(現値比+7.4%)
弱気シナリオWFE市況減速・中国投資のさらなる下振れでH2がH1並みにとどまると仮定。FY2027通期EPS 約1,442円×PER25倍=約36,050円(現値比-35.5%)

※起点となるFY2027上期(H1)の会社予想EPSは721.12円(2026年4月30日発表)。会社はFY2027通期の業績予想を2026年10月頃の第2四半期決算発表時に開示する方針で、本ページ作成時点では通期予想は存在しない。上の3シナリオはH1予想とFY2026のH1→H2季節性を機械的に当てはめた筆者試算であり、会社予想でも市場コンセンサスでもない。現在値は2026年7月28日終値55,920円。

💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①フィールドソリューション比率(FY2026は25.6%で過去最高。この比率が上がり続けるなら、市況変動に対する耐性が強まっている証拠)、②中国向け売上比率(ピークの44.4%から34.1%まで低下。輸出規制リスクの分散が進むか、それとも中国投資が再加速するか)、③2026年7月30日発表予定の2027年3月期第1四半期決算(AI投資ブームの勢いが続いているかを確認する最初の材料)。無借金で高い資本効率を持つ優良企業である一方、PER44.6倍という株価はすでに相応の期待を織り込んでおり、「良い会社」であることと「割安な株価」であることは別問題という点を意識する必要があります。