🕒 最終更新: 2026-09-17 (直近更新)
HOYA 7741・東証プライム
東証プライムIFRS3月決算
メガネレンズ・半導体マスクブランクス26年3月期通期+27年3月期1Qまで反映
HOYAは「メガネ屋さん」でも「半導体の会社」でもない。会社自身が掲げる経営思想は「小さな池の大きな魚」——巨大市場のシェア争いを避け、他社が本気で取りにこないニッチ市場で圧倒的シェアを握る事業を積み上げる「事業ポートフォリオ経営」。2026年3月期は売上収益9,477億円(前期比+9.4%)・税引前当期利益3,277億円(同+26.0%)・親会社所有者帰属当期利益2,531億円(同+24.6%、過去最高)。情報・通信事業(半導体用マスクブランクス等)のセグメント利益率は54.2%と突出しており、この非対称な事業構成が税引前利益率34.6%・ROE25.4%という高収益性を生んでいる。
💡 はじめての方へ:HOYAは1941年に東京で光学ガラスを作る会社として生まれ、その技術を軸に「メガネレンズ・コンタクトレンズ・内視鏡」(ライフケア事業)と「半導体用マスクブランクス・HDD用ガラス基板」(情報・通信事業)という一見バラバラな事業を営んでいます。共通点は「他社が本気で取りにこない、ニッチだけど無くては困る部材」で圧倒的シェアを握るという一貫した戦略です。
※2026年3月期(FY2026)通期の確定実績(有価証券報告書ベース)まで反映済み。2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算は2026年7月31日発表分まで反映済み。株価・時価総額・同業比較は2026年9月15日終値にもとづく。
01企業カルテ
2026年3月期(FY2026)通期実績と2026年9月15日時点の市場評価。
売上収益(FY2026)
9,477億円
+9.4%・過去最高
税引前当期利益
3,277億円
+26.0%・利益率34.6%
親会社所有者帰属当期利益
2,531億円
+24.6%・過去最高
情報・通信セグメント利益率
54.2%
半導体用マスクブランクス等が牽引
自己資本比率
78.4%
有利子負債422億円に対し現金5,741億円
時価総額
74,769億円
株価22,330円(26/9/15終値)
PER
29.51倍
PBR7.36倍・配当利回り1.32%
◎
成長性
FY2026売上収益+9.4%・5年前(FY2022)比では+43%。直近のQ1 FY2027(2026年4〜6月)は売上収益+16.0%とさらに加速し、四半期ベースで過去最高を更新
◎
収益性
税引前利益率34.6%・ROE25.4%は本サイト掲載企業でも最高水準の部類。情報・通信セグメントの利益率54.2%が牽引
◎
財務健全性
自己資本比率78.4%・有利子負債422億円に対し現金及び現金同等物5,741億円と、実質的に無借金に近い財務構造
○
株主還元
配当性向40%目安の累進配当(FY2026実績39.7%)に加え、2026年8月から2,000億円の自社株買いを実施中
△
バリュエーション
PER29.51倍・PBR7.36倍は同業(オリンパス・ニコン)より明確に高い。高収益性を織り込んだ株価水準
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。1株当たり当期純利益(EPS)は743.93円、1株当たり純資産(BPS)は3,041.71円、年間配当金は1株当たり295円(中間125円・期末170円)。時価総額・PER・PBRは2026年9月15日終値22,330円ベース(IRBank調べ)。
💡 読み方:HOYAの利益率が高いのは「メガネを高く売っているから」ではありません。売上の37%を占める情報・通信事業(主に半導体用マスクブランクス)が利益率54.2%という突出した稼ぎ頭で、これが売上の62%を占めるライフケア事業(利益率21.9%)と合わさることで、全体として税引前利益率34.6%という高水準を実現しています。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、HOYAの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点1941年、東京都保谷市で光学ガラス製造の「東洋光学硝子製造所」として創業。1962年にメガネレンズ、1974年に半導体用マスクサブストレート(マスクブランクスの前身)の製造を開始
定説大企業は一つの大きな市場(スマホ、自動車等)でトップシェアを競う
逆説HOYAは大きな市場のシェア争いにはあえて参戦しない。「事業ポートフォリオ経営」「小さな池の大きな魚」という考え方のもと、他社が本気で取りにこない・参入障壁の高いニッチ市場(半導体露光工程で使う「マスクブランクス」という部材だけ等)を選び、その中で世界トップ級のシェアを握ることを狙う。市場が縮小・成熟したと判断すれば撤退も辞さない(2025年10月に音声合成ソフトウェア事業を譲渡、2026年7月に内視鏡事業の戦略的オプション検討を開始)
HOYAの収益は大きく2本柱で構成される。ライフケア事業5,907億円(メガネレンズ・コンタクトレンズ・内視鏡・眼内レンズ等、売上の62%・セグメント利益率21.9%)と、情報・通信事業3,548億円(半導体用マスクブランクス・フォトマスク・HDD用ガラス基板・光学ソリューション、売上の37%・セグメント利益率54.2%)。半導体メーカーはEUV露光工程に不可欠なマスクブランクスをHOYAから調達し、HOYAはその対価を受け取る。稼いだ利益の一部は研究開発に再投資され、残りは配当・自社株買い(FY2026は総額2,539億円)として株主へ還元される。
💡 やさしく:半導体チップを作る工程を「写真の現像」にたとえると、マスクブランクスは「フィルムの原板」にあたります。この原板が均一で欠陥ゼロでないと、その上に焼き付ける何百層もの回路すべてが不良品になってしまう——だからこそ、価格ではなく品質と信頼性で選ばれる部材で、HOYAはここで世界トップ級のシェアを握っています。
03成長の歩み — 5年で売上+43%、税引前利益率は27年ぶり高水準へ
FY2022〜FY2026の5期で売上収益は661,466百万円から947,749百万円へ拡大。税引前当期利益率はFY2022の31.9%からFY2026は34.6%まで上昇し、ROEも22.1%→25.4%へ改善した。
売上収益の推移(FY2022〜FY2026)
単位:億円 ■濃い棒=直近期。3月決算
税引前当期利益率の推移
単位:%。税引前当期利益÷売上収益
FY2022の31.9%からFY2024にかけて31.0%前後で推移した後、FY2025に30.0%へ一時低下したが、FY2026は情報・通信事業の急拡大で34.6%まで上昇——5年間で最も高い水準となった。
親会社所有者帰属当期利益の推移
単位:億円
FY2022の1,653億円からFY2026の2,531億円へ5年で1.53倍。同期間の売上収益は1.43倍(6,615→9,477億円)で、利益の伸びが売上の伸びを上回っている——利益率の高い情報・通信事業の構成比上昇が寄与した。
FY2026セグメント構成 — 情報・通信が利益の過半を稼ぐ
単位:億円。セグメント利益は税引前当期利益ベース
売上収益ではライフケア事業が62.3%(5,907億円)を占め主役に見えるが、セグメント利益(3,276億円、調整前)ではライフケア39.5%・情報・通信58.7%とほぼ逆転する。情報・通信事業は売上の37.4%しか占めないのに、利益の過半近くを稼ぎ出す構造になっている。
💡 やさしく:ライフケア事業は「量で稼ぐ」薄利多売型(利益率21.9%)、情報・通信事業は「質で稼ぐ」少量高付加価値型(利益率54.2%)。HOYAはこの性格の異なる2つの事業を組み合わせることで、片方が市況で弱含んでももう片方が支える収益構造を作っています。
04今期の焦点 — AI需要が押し上げるEUVマスクブランクス、四半期ベースで過去最高を更新
2026年7月31日発表のQ1 FY2027(2026年4〜6月期)は売上収益2,557億円(前年同期比+16.0%)・通常の営業活動からの利益824億円(同+24.4%)で、売上・利益ともに四半期ベースで過去最高を更新した。牽引役は「AI関連需要を背景に堅調に推移した」EUV向け半導体マスクブランクス。
四半期業績の推移(Q1 FY2026〜Q1 FY2027)
単位:億円。通常の営業活動からの利益=非経常損益を除いた基礎的収益力
売上収益は前年同期(2,204億円)→前第4四半期(2,481億円)→当第1四半期(2,557億円)と3四半期連続で拡大。通常の営業活動からの利益は662億円→759億円→824億円と、売上の伸び以上のペースで拡大しており、利益率は30.0%→30.1%→32.2%へ改善している。税引前四半期利益は860億円(前年同期比+27.7%)、親会社所有者帰属四半期利益は658億円(同+26.9%)で、いずれも四半期ベースで過去最高を更新した。
💡 やさしく:「通常の営業活動からの利益」は、為替差損益や減損など一時的な要因を除いた、HOYAが独自に開示する「地力」を示す指標です。この指標が売上の伸び以上のペースで増えているのは、値上げや高付加価値品へのシフトで、単に売上が増えた以上に儲けの効率も上がっていることを意味します。
セグメント別売上高(Q1前年同期比) — 情報・通信が+22.7%と加速
単位:億円。Q1 FY2026(2025年4〜6月)→Q1 FY2027(2026年4〜6月)
ライフケア事業は1,372億円→1,548億円(+12.8%)、情報・通信事業は822億円→1,010億円(+22.7%)。情報・通信の内訳では、AI関連需要を背景にEUV向け先端マスクブランクスの需要が堅調に推移し、位相シフトマスク(PSM)など高付加価値品の拡販で売上が伸長したLSI(半導体用マスクブランクス・フォトマスク)が+21%、データセンター向けニアラインHDD需要拡大を背景にHDD用ガラス基板が+29%と特に高い伸びを記録した。
セグメント利益率(Q1前年同期比) — 情報・通信は55.1%まで上昇
単位:%。セグメント利益(通常の営業活動からの利益ベース)÷セグメント売上高
ライフケア事業の利益率は17.7%→19.4%(+1.7pt)、情報・通信事業は52.9%→55.1%(+2.2pt)とともに改善。情報・通信事業は「増収率+22.7%を上回る増益率+27.8%」を達成しており、高付加価値のEUVブランクス・光学ソリューション(旧映像関連、光トランシーバー向け偏光ガラスCUPO等)の販売拡大による製品ミックス改善が寄与している。
資本効率の追求 — 2,000億円の自社株買いとネットキャッシュ削減
2026年8月3日発表。実施期間2026/8/3〜2027/3/24
HOYAは2026年4月、資本効率のさらなる向上を目指しB/Sのネットキャッシュ水準を1,100億円程度減少させる方針を公表。この方針のもと、創出キャッシュフローや投資資金ニーズを勘案し、上限2,000億円・株数上限1,000万株(発行済株式総数の2.99%)の自社株買いを決議した。自己資本比率78.4%・実質無借金という強固な財務基盤を踏まえた、余剰資金の株主還元強化の動きと位置付けられる。
💡 やさしく:HOYAは有利子負債422億円に対し現金及び現金同等物が5,741億円と、借金の13倍以上の現金を抱えています。「稼いだお金を持て余している」状態を改善するため、自社株買いで株主に還元しつつ、1株あたりの価値を高めようとしているのがこの動きです。
05財務3表ビジュアル
IFRS採用のため「営業利益」の区分は開示上限定的だが、税引前当期利益に至る収益・費用構造、実質無借金のBS、そして稼いだ以上を株主に還元するCF——HOYAの財務的な特徴が3枚に表れる。
PL滝グラフ — 売上収益9,477億円から税引前当期利益3,277億円へ(FY2026)
単位:億円。IFRSのため金融収益・持分法投資利益・その他収益を含めた収益合計から費用合計を差し引く構造
売上収益9,477億円に金融収益133億円・持分法による投資利益6億円・その他収益342億円を加えた収益合計は9,958億円。ここから費用合計6,682億円(原材料費・人件費・減価償却費・広告宣伝費等の合計)を差し引くと税引前当期利益3,277億円(利益率34.6%)。法人所得税762億円を控除した当期利益2,515億円のうち、非支配持分△16億円を除いた親会社所有者帰属当期利益は2,531億円(過去最高)。
💡 やさしく:IFRS(国際会計基準)を採用する会社は、日本基準の「営業利益」に相当する明確な区分を必ずしも開示しません。HOYAも有価証券報告書では「収益合計-費用合計=税引前当期利益」という構造で開示しており、本ページもこれに沿って税引前当期利益を主指標として扱っています。
BS比例図 — 総資産1兆3,009億円の中身(FY2026末)
箱の高さ=金額。自己資本比率78.4%・有利子負債は現金の7%程度
総資産の約44%(5,741億円)が現金及び現金同等物で、有利子負債は422億円(現金の7.4%)にとどまる。棚卸資産1,325億円・売上債権2,096億円を含む流動資産が総資産の73.9%を占め、自己資本比率78.4%は日本の大型製造業でも極めて高い水準。
キャッシュフロー(FY2026)
単位:億円。営業キャッシュフロー2,784億円
営業CF2,784億円に対し設備投資は566億円(メガネレンズ増産、半導体用マスクブランクス・FPD用フォトマスクの増産投資等)で、FCF(営業CF-設備投資、筆者算定)は2,219億円。自社株買い1,720億円を実施し、財務CFは△2,613億円と大きくマイナスになっている。
06収益性 — ROE25.4%をデュポン分解する
HOYAの高ROEは、財務レバレッジではなく「利益率」で作られている。トヨタ(厚利×低回転×高レバレッジ型)や東京エレクトロン(利益率×回転率型)とも異なる、極めて薄いレバレッジ(1.27倍)が特徴。
=
26.70%
売上高純利益率
情報・通信事業の高マージンが牽引
× 0.748回
総資産回転率
現金比率が高いため相対的に低め
× 1.271倍
財務レバレッジ
自己資本比率78.4%で極めて薄い
本サイト掲載の他社と比較すると構造の違いが分かる。東京エレクトロン(ROE29.6%=純利益率23.5%×0.89回×1.41倍)は有利子負債ゼロながらHOYAよりレバレッジがやや厚い「利益率×回転率」型。HOYAは財務レバレッジ1.27倍という本サイト屈指の薄さで、借金にも高い資産回転率にも頼らず、純利益率26.70%という「利益率の厚さ」だけでROE25.4%を作っている——現金を厚く積み上げながらも高ROEを実現している点が際立つ。
ROIC vs WACC — 資本コストを大きく上回る(会社開示の参考値)
単位:%。Q1 FY2027(2026年4〜6月期)、会社の決算説明資料に基づく年率換算値
会社が決算説明資料で開示するROIC参考値(税引後営業利益÷投下資本〈有利子負債+親会社所有者帰属持分〉)は23.8%(筆者の年率換算試算でも23.86%とほぼ一致)。推定WACC 6.5%(有利子負債が僅少なため、ほぼ株主資本コストに一致するとみなす)を17ポイント以上上回っており、投じた資本に対して資本コストの3倍以上を稼ぐ効率の良さを示している。
💡 やさしく:ROIC23.8%は「商売に使うお金1に対して毎年0.24稼ぐ」ということ。HOYAは有利子負債422億円に対し現金5,741億円を持つ実質無借金企業のため、この効率の良さは「借金を使ったレバレッジ効果」ではなく、純粋に事業自体の稼ぐ力の高さから来ています。
07会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP
HOYAはIFRS採用。「営業利益」という段階を明確に区分しないこと、セグメント利益を「税引前当期利益」ベースから「通常の営業活動からの利益」ベースへ変更した経緯が読み方の鍵になる。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2026・Q1FY2027)
単位:億円
詳しく見る:会計基準の技術的差異(IFRS/JGAAP/US-GAAP)
- IFRSには「経常利益」という段階がなく、HOYAの有価証券報告書も収益合計(売上収益+金融収益+持分法投資利益+その他収益)から費用合計を差し引いて直接税引前当期利益を導出する構造で開示している
- HOYAは2026年4-6月期(Q1)よりセグメント利益の定義を「税引前当期利益」ベースから「通常の営業活動からの利益」(為替差損益・減損損失・非経常損益を除いた基礎的収益力)ベースへ変更した。これにより、通期(FY2026・税引前ベース)と四半期(Q1FY2027・通常の営業活動からの利益ベース)でセグメント利益の定義が異なる点に注意が必要
- のれんは非償却・年次減損テストの対象。HOYAは2026年3月期に49億円の減損損失を計上している
- 自己株式は資本のマイナス項目として控除表示される点はJGAAP・US-GAAPと共通
- JGAAPには「経常利益」という段階があり、HOYAの税引前当期利益に相当する概念が「営業利益+営業外損益」として明示的に区分されるため、本業の力と金融収支の切り分けがより明確になる可能性がある
- のれんは20年以内の規則償却が必要。HOYAはM&Aを継続的に行っているため、JGAAP採用であれば毎期ののれん償却費が費用計上され、IFRSより利益水準が押し下げられる可能性がある
- 同業のオリンパスはIFRS採用のため、この点での基準差異はオリンパスとの比較では生じない
- US-GAAPにも「経常利益」区分はなく、IFRSと同様に営業利益は会社の任意開示区分となる。研究開発費は原則費用処理でIFRSと大きな差異はない
- のれんは非償却・減損テストのみで、この点はIFRSと同じ扱い
- 自己株式の取得は資本のマイナス項目として扱う点はIFRS・US-GAAPで共通
💡 やさしく:HOYAが2026年4-6月期からセグメント利益の物差しを変えたのは、為替の振れや一時的な損失に業績が左右されにくい「本当の稼ぐ力」を見せるためです。ただし物差しを変えた分、通期実績(税引前ベース)と最新四半期(新しいベース)を単純に並べて比較できない点には注意が必要です。
08同業比較 — 光学技術の源流を共有する信越化学・オリンパス・ニコンと比較
半導体材料で隣接領域の信越化学工業、医療用内視鏡で直接競合するオリンパス、そしてHOYAと同じ光学ガラスを源流に持つニコンと比較する(2026年9月15日時点)。売上規模が大きく異なるため、利益率・ROEなど比率を主軸に比較する。
営業利益率・ROEの比較
単位:%。FY2026(2026年3月期)実績ベース
営業利益率は信越化学工業24.7%が高いが、HOYAの情報・通信セグメント単体(54.2%)には遠く及ばない。ROEはHOYA25.4%が4社で突出し、信越化学工業12.98%・オリンパス8.4%を大きく上回る。ニコンは2026年3月期に営業損失1,124億円・最終赤字861億円に転落しており、同じ光学ガラスを源流に持ちながら明暗が分かれた。
💡 やさしく:4社とも「光学・精密技術」に強みを持つ会社ですが、儲けの厚みには大きな差があります。HOYAが高ROEを実現できているのは、ニッチ市場に絞って高いシェアを握る戦略が奏功しているためで、大型市場(半導体露光装置・カメラ)で戦うニコンが苦戦しているのとは対照的です。
バリュエーションの比較
2026年9月15日時点。PER・PBRは実績〜TTMベース(各社注記参照)
PERはニコン55.9倍(会社予想ベース、通期赤字のため参考値)が高いが、実質的な収益基盤で比較するとHOYA29.51倍が最も高い実績PERを持つ。PBRはHOYA7.36倍が4社で突出しており、信越化学工業2.33倍・オリンパス2.81倍・ニコン0.94倍を大きく上回る——ROE25.4%という高い資本効率が高いPBRを正当化しているかが同業比較上の最大の論点となる。
参考:売上高の規模比較
単位:億円。FY2026(2026年3月期)実績
売上規模では信越化学工業(2兆5,740億円)が突出して大きく、オリンパス(1兆107億円)・HOYA(9,477億円)・ニコン(6,772億円)が続く。HOYAは4社で3番目の規模だが、利益率・ROEでは最上位という「小粒でもピリ辛」な収益構造が際立つ。
09戦略・課題と改善ポイント
ニッチ市場での高シェア・高収益性という強みは明確。課題は、情報・通信事業の半導体サイクル依存と、ライフケア事業内の構造改革(内視鏡事業の見直し)の行方に集約される。
強み Strengths
- 「事業ポートフォリオ経営」に基づくニッチ市場での高シェア。半導体用EUVマスクブランクス等で世界トップ級の地位
- 自己資本比率78.4%・有利子負債422億円に対し現金5,741億円という、実質無借金に近い強固な財務基盤
- 情報・通信セグメント利益率54.2%(FY2026)という突出した収益性。AI関連需要を背景にQ1FY2027はさらに+27.8%増益
- ROIC参考値23.8%が推定WACC6.5%を大きく上回り、資本コストを大幅に上回る価値創造を継続
弱み Weaknesses
- 総資産回転率0.748回は、現金比率の高さ(総資産の44%)を背景に本サイト掲載の製造業と比べても低め
- PER29.51倍・PBR7.36倍は同業(信越化学工業・オリンパス・ニコン)より明確に高く、高い成長・収益性期待が既に株価に織り込まれている
- ライフケア事業のうち内視鏡は中国市場の減収が継続しており、2026年7月に事業譲渡を含む戦略的オプションの検討開始を表明——構造改革の途上にある
- 情報・通信事業の急成長はAI関連の半導体投資ブームに依存する面があり、投資サイクルが反転した場合の影響が読みにくい
機会 Opportunities
- AI関連需要を背景に、先端半導体向けEUVブランクス・位相シフトマスク(PSM)等の高付加価値品需要が堅調に推移
- データセンター向けニアラインHDD需要の拡大により、HDD用ガラス基板(3.5インチ品)がQ1FY2027に前年同期比+29%と大幅増収
- 光トランシーバー向け偏光ガラス(CUPO)等、映像関連から名称変更した「光学ソリューション」領域での新規需要開拓
- 2,000億円の自社株買い(発行済株式の2.99%)による資本効率のさらなる向上余地
脅威 Threats
- 半導体設備投資サイクルの反転リスク。情報・通信事業の高成長・高収益性はAI関連投資ブームに支えられている面がある
- 内視鏡事業における中国市場の継続的な減収と、構造改革(分社化・事業譲渡検討)の実行リスク
- 為替変動リスク。海外売上比率が高く、円高局面では円換算後の売上・利益が目減りする
- 同業のニコンが大型市場(半導体露光装置)で苦戦しているように、HOYAが選択と集中を進めるニッチ市場自体が縮小した場合の代替市場開拓リスク
改善ポイント(優先度つき)
最優先内視鏡事業の構造改革の完遂
2026年8月に日本の内視鏡事業を分社化、事業譲渡を含む戦略的オプションの検討を開始。ライフケア事業全体の収益性向上に向けた進捗を今後の決算で確認する必要がある。
最優先情報・通信事業の需要サイクル管理
Q1FY2027の情報・通信事業は+22.7%増収・+27.8%増益と絶好調だが、AI関連投資ブームがいつまで続くかという半導体市況特有のサイクルリスクへの目配りが必要。
中期総資産回転率の改善
現金比率の高さ(総資産の44%)が総資産回転率0.748回を押し下げている。2,000億円の自社株買い・純現金1,100億円削減方針がどこまで資本効率改善に寄与するか。
中期ライフケア事業の収益性向上
ライフケア事業の利益率21.9%(Q1FY2027は19.4%)は情報・通信事業(54.2%)と比べ見劣りする。メガネレンズ・コンタクトレンズの高付加価値品比率向上が鍵。
10投資メリット・デメリット
ニッチ市場での高シェア・高ROE・実質無借金という構造の強さは明確。論点は、PER29.51倍・PBR7.36倍という高いバリュエーションが、情報・通信事業の成長持続性をどこまで正しく織り込んでいるか。
▲ 強気材料(メリット)
- ROE25.4%・ROIC参考値23.8%(推定WACC6.5%を大きく上回る)という高い資本効率
- 情報・通信セグメント利益率54.2%(FY2026)、Q1FY2027は+27.8%増益とAI関連需要の追い風が継続
- 自己資本比率78.4%・実質無借金という盤石な財務基盤に加え、2,000億円の自社株買いで資本効率をさらに追求
- 配当性向40%目安の累進配当方針(FY2026実績39.7%)で、増益に応じた増配が期待しやすい
- 「小さな池の大きな魚」戦略により、市場が縮小すれば早期撤退(音声合成ソフト譲渡)・成長分野には積極投資という機動的なポートフォリオ運営
▼ 弱気材料(デメリット)
- PER29.51倍・PBR7.36倍は同業(信越化学工業・オリンパス・ニコン)より明確に高く、既に高い成長期待を織り込んだ株価水準
- 情報・通信事業の急成長はAI関連の半導体投資ブームに依存する面があり、投資サイクル反転時の影響が読みにくい
- 内視鏡事業は中国市場の減収が継続し、事業譲渡を含む戦略的オプションの検討は構造改革の途上にある
- 総資産回転率0.748回は、厚い現金を抱える構造上、資産効率の面では改善余地がある
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオQ1FY2027の増益率(親会社所有者帰属四半期利益+26.9%)が通期でも維持されると仮定。FY2027通期EPS 約944円(743.93円×1.269)×PER35倍=約33,040円(現値比+48.0%)
中立シナリオFY2026実績の増益率(+24.6%)が今後も続くペースがやや鈍化し、+15%程度で着地すると仮定。FY2027通期EPS 約856円(743.93円×1.15)×PER30倍=約25,680円(現値比+15.0%)
弱気シナリオ半導体投資サイクルの反転で情報・通信事業が失速し、通期増益率が横ばい(0%)にとどまると仮定。FY2027通期EPS 743.93円×PER22倍(同業平均並み)=約16,370円(現値比-26.7%)
※起点となるFY2027通期の会社予想は本ページ作成時点で確認できていない。上の3シナリオはFY2026実績・Q1FY2027実績の増益ペースを機械的に当てはめた筆者試算であり、会社予想でも市場コンセンサスでもない。現在値・PER・PBR・時価総額は2026年9月15日終値22,330円時点のもの。
💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①情報・通信事業の伸び(Q1FY2027は+22.7%増収・+27.8%増益。AI関連の半導体投資需要がどこまで続くかが最大の変数)、②内視鏡事業の構造改革(分社化・事業譲渡の検討が進行中で、完了すればライフケア事業全体の収益性が改善する可能性)、③バリュエーション(PER29.51倍・PBR7.36倍は同業より明確に高く、既に「良い会社」であることを織り込んだ株価)。ROE25.4%・実質無借金という財務の強さは間違いないが、「良い会社」であることと「割安な株価」であることは別問題という点を意識する必要があります。