作業服専門店から出発し、広告費をほぼかけずに愛好家の発信を後押しする「アンバサダー」戦略でアウトドア・カジュアル市場を切り開いた小売企業。2026年3月期は営業総収入・各段階利益とも過去最高を更新し、2027年3月期第1四半期も増収増益が加速している。
2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)通期実績と、2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)・現在の市場評価。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
モノ(緑)・カネ(黄)の流れで見る、ワークマンの稼ぎ方。
本部の収益は大きく3つ。加盟店向け商品供給売上高(フランチャイズ店に商品を卸す売上、Q1FY27実績で全体の57.5%)が最大で、次いでロイヤリティ収入(加盟店の売上に応じた対価、26.1%)、直営店売上高(本部直営・SC等の店舗、15.5%)と続く。加盟店は在庫を仕入れて販売する一方、売上に完全比例した収入を得る仕組みでノルマは無い。
2022年3月期に一時減益となったものの、2023年3月期以降は一貫して増収増益。2026年3月期は営業総収入・営業利益とも過去最高を更新した。
単一セグメントの会社だが、商品カテゴリ別の売上を見ると「ワーキングウエア専業」から一般客向けカテゴリへの構造転換が進んでいる。あわせて、加盟店を中心にした独自のフランチャイズ経済学を数字で見る。
ファミリー衣料は前期比+41.1%(198.4→280.1億円)、カジュアルウエアは+35.8%(273.2→371.1億円)と、一般客向けカテゴリが牽引した。主力のワーキングウエアは+8.3%(509.8→552.0億円)、作業用品は+1.3%(403.3→408.5億円)と緩やかな伸びにとどまり、チェーン全体に占めるワーキングウエア+作業用品の比率は前期の49.9%から45.9%へ低下した。チェーン全店売上高2,092.3億円のうち、PB(プライベート・ブランド)比率は71.9%(前期は68.5%)まで上昇し、2027年3月期第1四半期はさらに74.9%まで伸びている。
Q1FY2027(2026年4〜6月)の営業総収入518.1億円の内訳は、加盟店向け商品供給売上高297.7億円(57.5%)、ロイヤリティ収入135.4億円(26.1%)、直営店売上高80.3億円(15.5%)等。ロイヤリティ収入は前年同期の108.6億円から135.4億円へ大きく伸びており、加盟店の既存店売上増加がそのまま本部の実入りに直結する構造がうかがえる。この結果、Q1FY2027の営業利益は120.3億円、純利益は77.9億円となった。
加盟には保証金等を含め約223.75万円+その他諸費用約75万円が必要(自己資金は保証金100万円のみで、39歳以下は残りを本部融資可)。出店場所は本部が100%決定し、加盟店は個人契約(55歳未満の夫婦、または独身で3親等内の専従者がいる方)のみで副業は不可。粗利益は加盟店と本部が一定比率(会社非開示)で分配され、加盟店の取り分は売上に完全比例するためノルマは無い。2026年2〜5月は全店月次売上が前年比123〜127%と好調で、加盟店収入は月平均+24.8%増加。店舗網は2026年3月末で1,094店舗(フランチャイズ1,006店・比率92.0%)、2027年3月期第1四半期末は1,107店舗まで拡大した。
売上・利益の伸びに対し、財務基盤はきわめて健全(自己資本比率82.8%)。一方で営業CFは在庫積み増し等により前期比で減少した。
FCF(営業CF188.4億円−設備投資86.1億円)は+102.3億円とプラス確保。営業CFの減少は好調な販売を支える棚卸資産の増加(+58.0億円)と法人税等の支払い増加が主因で、稼ぐ力自体(営業利益+21.7%)は拡大している。
ROE14.3%(FY26・決算短信開示の自己資本当期純利益率)をデュポン分解で見る。
期中平均残高ベースの筆者概算。ニッスイ(1332・低回転×薄利×高レバレッジ)とは対照的に、ワークマンは「高利益率×低レバレッジ」でROEを積み上げる構造。財務レバレッジがほぼ効いていない分、ROEの絶対水準は自己資本の厚さに抑えられている。
ROIC17.0%(FY26・筆者算定)は推定WACC(6.1%)を10.9ポイント上回り、明確な価値創造の状態。有利子負債が総資産の1%未満とごく小さいため、資本コストはほぼ株主資本コスト(β0.83)に一致する。stockanalysis.comの独自算定ROIC(30.91%)とは方法論の違いで水準が異なるが、いずれの算定でもWACCを大きく上回っている点は共通する。
ワークマンは日本基準(JGAAP)採用、かつ子会社を持たない非連結決算という点が同業他社との大きな違い。
しまむら・良品計画・ファーストリテイリングと比較すると、ワークマンはPER・PBRで中位、ROEでは最も低い評価に位置する。
PERはワークマン21.93倍で、しまむら(15.12倍)より高いが、良品計画(34.20倍)・ファーストリテイリング(40.83倍)よりは低い。PBRも同様の序列(しまむら1.37倍・ワークマン3.21倍・良品計画5.56倍・ファーストリテイリング7.55倍)。ROEはワークマン14.3%(自己資本ベース)が4社中最も低く、しまむらの推定9.06%(PBR÷PERで筆者算出)は上回るものの、良品計画(18.36%)・ファーストリテイリング(22.48%)には及ばない。配当利回りはしまむら(2.47%)が最も高く、ワークマン(1.50%)は成長投資を優先する姿勢がうかがえる。
中期成長ビジョン2030「すべての人に機能性ウエアを」の実現に向け、「マス化製品政策」で主力製品の量産・低価格化を推進している。
棚卸資産の増加ペースが売上成長に対して過大になっていないか、在庫回転の管理が焦点。
配当利回り1.50%は同業比較でも見劣りする。潤沢な自己資本を踏まえた増配・自社株買いの余地がある。
ワーキングウエア・作業用品の伸び鈍化が続けば、成長を一般客向けカテゴリだけに頼る構造リスクが高まる。
「広告費をかけないアンバサダー戦略とフランチャイズ経済学で、高収益・高財務健全性を両立する会社。論点は株主還元姿勢と主力カテゴリの成長鈍化」が本レポートの総括。