🕒 最終更新: 2026-09-09
ファナック 6954
東証プライム日本基準(JGAAP)3月決算
電気機器(CNC・産業用ロボット)データ基準日 2026/9/9
工作機械の"頭脳"であるCNC(数値制御装置)と、工場でおなじみの黄色い産業用ロボットで世界大手。単一事業ながらFA・ロボット・ロボマシン・サービスの4部門を持ち、2026年3月期は営業利益率21.4%・自己資本比率89.2%(実質無借金)。直近四半期(27/3期1Q)は営業利益率23.2%まで上昇し、受注は5四半期連続で拡大中。
💡 はじめての方へ:工場の機械を動かす「頭脳」(CNC)と、黄色い産業用ロボットをつくる会社です。工作機械や自動車の生産ラインなど、景気に左右されやすい「設備投資」が商売の種ですが、"壊れる前に知らせる・壊れてもすぐ直す"という保守サービスを組み込むことで、単発の販売だけに頼らない収益構造をつくっています。
01企業カルテ
2026年3月期実績(2026年4月開示)と、2027年3月期第1四半期実績(2026年7月開示・直近)・現在の市場評価。
売上高(26/3期)
8,578億円
+7.6%・2022年度を超え過去最高
営業利益
1,838億円
+15.7%(利益率21.4%)
純利益
1,665億円
+12.9%・EPS178.47円
直近1Q営業利益率
(27/3期1Q)
23.2%
前年同期21.6%から上昇(売上2,310億円・営業利益535億円)
自己資本比率
89.2%
有利子負債の開示なし=実質無借金
時価総額
5.69兆円
56,942億円・株価5,797円(26/9/9)
PER
27.2倍
PBR 2.84倍・利回り2.19%
◎
成長性
26/3期は2桁増収・2桁増益。27/3期1Qは受注+36.9%で会社は通期予想を上方修正
◎
収益性
営業利益率21.4%(直近1Qは23.2%)。単一事業の生産財メーカーとしては国内最高水準
◎
財務健全性
自己資本比率89.2%、有利子負債の開示なし。現金・預金だけで7,181億円
○
株主還元
配当性向60.0%を基本方針として明示。1株配当は94.39円→107.09円へ増配
△
バリュエーション
PER27.2倍は年初来高値8,880円から3割超調整した後の水準。割安か、業績循環リスクの織り込みかが論点
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
💡 読み方:26/3期は増収増益、直近四半期はさらに利益率が上がり、受注も5四半期連続で伸びています。「業績が良くなっている最中」というのが今のファナックの立ち位置です。
02ビジネスモデル図解
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、ファナックの稼ぎ方。
カネの流れ
モノ・サービスの流れ
情報の流れ
起点1956年、日本初のNC(数値制御装置)とサーボ機構の開発に成功したのが出発点
定説工作機械・ロボットなどの生産財メーカーは、顧客の設備投資サイクルに業績が直撃され、好不況で大きく振れやすい
逆説『壊れない・壊れる前に知らせる・壊れてもすぐ直せる』の生涯保守サービスと、CNC・サーボの基盤技術をロボット/ロボマシンへ横展開する「one FANUC」により、単一の景気循環に賭けない収益構造を築いている
工作機械メーカーはCNC・サーボをファナックから調達して自社の工作機械に組み込み、エンドユーザー(自動車・電子部品・半導体などの製造業)に販売する。産業用ロボットとロボマシン(ロボドリル・ロボショット・ロボカット)は、システムインテグレータや工作機械メーカー経由に加え、エンドユーザーへの提案も行う。売った後も保守サービス(26/3期の売上構成比16.5%)が続くことで、新規設備投資が一時的に落ち込む局面でも、既存稼働台数に対するサービス収入がクッションになる。26/3期はロボマシン部門が前期比5.8%減となる一方、サービス部門は+4.4%・ロボット部門は+14.9%と部門間でばらつきを吸収し、全社では増収増益を確保した。
💡 やさしく:工作機械メーカーにとってファナックのCNCは「機械の頭脳」にあたる部品です。ロボットはメーカーや工場に直接売ることも多く、売った後も「壊れる前に知らせる」保守サービスでずっとお付き合いが続きます。一度に大きく売るビジネスと、細く長く続くサービスの両方を持っているのがポイントです。
03成長の歩み — 7期で売上高1.7倍
コロナ禍やFA市況の調整を挟みつつ、2026年3月期に過去最高の売上高を更新した。
売上高の推移(20/3期〜26/3期)
単位:億円・濃い棒=直近期
営業利益率の推移
23/3期25.0%をピークに一度低下、直近2期は回復基調
04今期の焦点 — 受注5四半期連続増、通期予想を上方修正
27/3期1Q(2026年4〜6月)の受注高は2,819億円と、前年同期比+36.9%まで加速。会社は2026年7月31日、2025年度期末(4月)に発表した通期予想を上方修正した。
受注(オーダー)の四半期推移
単位:億円・25年度Q1〜26年度Q1
受注は26年度Q1まで5四半期連続で増加。直近は前年同期比+36.9%・前四半期比+11.9%。生成AI活用の「フィジカルAI」ロボット等、新商品発表展示会(2026年5〜6月)への反応も良好だったと会社は説明している。
部門別 受注の前年同期比(27/3期1Q)
ロボマシン・FAの伸びが牽引
ロボマシン部門は中国需要の回復で+98.3%と急伸。FA部門も中国・インドの工作機械需要増で+63.8%。一方ロボット部門は国内自動車向けの一服もあり+8.1%にとどまる。
通期予想の上方修正(27/3期)
- 売上高:9,096億円→9,481億円(+4.2%上方修正)
- 営業利益:2,122億円→2,180億円(+2.7%上方修正)
- 純利益:1,849億円→1,980億円(+7.1%上方修正)
- 前提為替レートも円安方向に見直し(通期USD152.37円・EUR177.60円)
読みどころ
- 受注の伸びが売上に先行する業態のため、受注加速は今後数四半期の業績の先行指標になりやすい
- 直近1Qの営業利益率23.2%は26/3期通期実績21.4%を上回り、稼働率改善が進んでいることを示唆
- 上方修正はあくまで会社予想であり、地政学リスク・関税動向・中国景気次第で下振れる可能性もある
💡 やさしく:「受注」は工場が実際に注文を出した金額で、数か月後の売上に変わっていきます。その受注が5四半期連続で伸びているということは、しばらくは業績の追い風が続きそうだ、というサインです。
05部門別・地域別 — 単一事業の中の4部門
会計上は単一の事業セグメント(決算短信に明記)だが、FA・ロボット・ロボマシン・サービスの4部門で売上を開示している。
部門別売上構成(26/3期)
売上高8,578億円の内訳
ロボット部門が構成比44.1%で最大。26/3期は米州・中国のEV関連向けが牽引し前期比+14.9%。ロボマシン部門(構成比15.1%)は中国以外のアジア需要低迷が響き、前期比では▲5.8%の唯一の減収部門だった。
地域別売上構成(26/3期)
海外売上比率87.1%
アジア(中国含む)が構成比41.1%で最大。国内比率はわずか12.9%で、稼ぎの大半は海外の製造現場にある。
💡 やさしく:ファナックは会計上「1つの事業」として決算を発表していますが、実際には頭脳(CNC)・ロボット・専用工作機械(ロボマシン)・保守の4本柱で稼いでいます。景気の波が違う部門を複数持つことで、どれか1つが不調でも全体では崩れにくくなっています。
06財務3表ビジュアル
「営業利益率21.4%のPL」と「自己資本比率89.2%のBS」。生産財メーカーとしては異例の財務健全性。
PL滝グラフ — 売上8,578億円はどこへ消えるか(26/3期)
単位:億円
💡 やさしく:8,578億円売って、原価と販管費を引いた1,838億円が本業のもうけ。さらに保有する現金・有価証券の利息などが乗って経常利益2,275億円、税金を払って純利益1,665億円が残ります。
BS比例図 — 総資産2兆907億円の中身(26/3末)
箱の高さ=金額。自己資本比率89.2%
負債合計はわずか2,078億円(総資産比10.8%)で、開示上は有利子負債がなく実質無借金。現金及び預金だけで7,181億円と負債総額を上回る。
キャッシュフロー(26/3期)
単位:億円。営業CF2,509億円
投資CFのうち有形固定資産の取得(設備投資)は212億円のみで、投資CFの大半は定期預金の預入・払戻の入れ替えによるもの。FCF(営業CF−設備投資・筆者算定)は+約2,297億円。
07収益性 — ROEを分解する
ROE9.3%は、営業利益率21.4%の会社としては控えめ。理由はキーエンス同様、貯め込んだ現金・有価証券が資産を重くしていることにある。
=
19.4%
売上高純利益率
生産財メーカーとして高水準
x 0.41回
総資産回転率
現金・有価証券の山が分母を重くする
x 1.12倍
財務レバレッジ
実質無借金・テコはほぼなし
分解値は期末残高ベースの筆者概算(積は8.9%)。会社公表ROE9.3%は平均残高ベースのため若干上振れる。純利益率19.4%はキーエンス(38.1%)には及ばないが、トヨタ(7.4%)を大きく上回る。
ROIC vs WACC - 資本コストを上回っているか(筆者試算)
単位:%・概算値
連結ROIC=NOPAT(営業利益1,838億円×(1−実効税率25.5%)≒1,368億円)÷投下資本(純資産合計1兆8,829億円・有利子負債の開示なし=実質無借金)≒7.3%で推定WACC(6〜7%)をわずかに上回る水準。現金・有価証券を除いた事業投下資本ベースなら12.1%まで上がる。キーエンスの事業ROIC(21%超・本サイト掲載)には及ばないが、本業の資本効率自体は資本コストを上回っている。
💡 やさしく:集めたお金でどれだけ稼いだかという成績が、合格ライン(資本コスト6〜7%)をぎりぎり超えて7.3%。貯金を除いた「商売に使っているお金」だけなら12.1%まで上がります。ただしキーエンスほど余裕のある水準ではなく、余剰現金の使い道が今後の課題です。
08会計基準ビュー - JGAAP / IFRS / US-GAAP
ファナックは日本基準(JGAAP)を採用。ポイントは「経常利益に載る持分法投資利益」と「のれんゼロの自前成長」。
どの「利益」で見るかで印象が変わる(26/3期)
単位:億円
- 経常利益2,275億円は営業利益より437億円大きい。差分の主因は持分法適用会社からの投資利益305億円と受取利息75億円
- 買収に頼らない自前成長のためのれんはゼロ。減損リスクという論点自体が存在しない
- 単一事業セグメントのため、セグメント情報の開示自体を省略している(決算短信に明記)
- IFRSに「経常利益」区分はなく、持分法投資利益・受取利息は営業利益の下に金融収益として並ぶため、見え方はほぼ同じ
- IFRS16では工場・オフィス等のリースが使用権資産として計上されるが、有形固定資産5,914億円に対する規模は限定的とみられる
- 営業利益率21.4%という数字は基準を変えてもほぼ動かない
- US-GAAPでも損益の骨格は変わらない。米国のCognex等ロボットビジョン・自動化関連企業と営業利益率で比較可能
- 米企業との違いは資本政策側:米企業なら余剰現金・有価証券7,181億円超は自社株買いで株主へ返すのが標準的
💡 やさしく:ファナックは買収も借金もほぼない「シンプルな商売」なので、会計ルールを変えても利益の見え方はあまり変わりません。むしろ注目すべきは、経常利益が営業利益より大きく見える理由(持分法投資利益や利息収入)です。
09同業比較 - FA・ロボット大手との比較
安川電機(産業用ロボット)・SMC(空気圧機器)・オムロン(制御機器)と比較(2026/9/9時点)。
SMCは営業利益率22.6%とファナックの21.4%を上回り、PBR・PERともファナックより割安な評価。安川電機は26/2期に業績調整があり営業利益率8.7%にとどまる。オムロンはROE非開示(前期の損益変動が影響)。時価総額はファナック5.7兆円が4社で最大。
💡 やさしく:同じ工場自動化の仲間でも、稼ぐ力(営業利益率22.6% vs 7.8〜21.4%)にはっきり差があります。ファナックはその中では「規模も利益率も両立」しているポジションです。
10戦略・課題と改善ポイント
事業の質は高いが、情報開示の少なさと余剰現金の使い道が論点になりやすい。
強み Strengths
- CNC・サーボの基盤技術をロボット/ロボマシンへ横展開する「one FANUC」体制
- 生涯保守サービスによる継続収益(26/3期売上の16.5%)
- 自己資本比率89.2%・有利子負債の開示なしという鉄壁財務
- 受注が5四半期連続で拡大し、通期予想を上方修正するモメンタム
弱み Weaknesses
- ロボマシン部門など一部部門は前期比マイナスもあり、部門間のばらつきが大きい
- 現金・有価証券の滞留がROEを9%台に抑えている
- 部門別の利益(セグメント利益)は非開示で、どの部門が稼いでいるか外部から測りにくい
- 生産財のため需要の絶対水準は工作機械業界・自動車業界の設備投資サイクルに左右される
機会 Opportunities
- 人手不足を背景とした世界的な自動化・省人化投資の拡大
- 生成AIを活用した「フィジカルAI」ロボット等、新領域での需要創出
- インド・中国など新興国の設備投資需要(27/3期1Qは中国・インド向けFAが好調)
- 配当性向60.0%の方針のもと、増益局面での増配余地
脅威 Threats
- 米国政府の関税政策や地政学リスクによる世界経済への影響(決算短信でも明記)
- 中国景気・工作機械需要の減速リスク(売上の3割超が中国関連とみられる)
- 為替(円高転換)による海外売上(87.1%)の円換算目減り
- 安川電機・SMC・海外ロボットメーカーとの競争激化
改善ポイント(優先度つき)
最優先余剰資本の活用
現金・有価証券だけで7,000億円超。自己資本比率89.2%は健全だが、資本効率(ROE9.3%)の観点では機動的な自社株買いや成長投資の拡充余地が大きい。
中期部門別開示の拡充
単一セグメントゆえ部門別利益が非開示。投資家がロボマシン低迷など部門ごとの課題を評価しにくく、時価総額5.7兆円の会社としては開示水準の引き上げ余地がある。
中期サービス収益の拡大
サービス部門は売上の16.5%にとどまる。景気循環への耐性を高めるには、保守・IoT(FIELD system等)の一段の拡大が鍵。
中期ロボマシン部門のてこ入れ
26/3期は前期比▲5.8%と唯一の減収部門。中国以外のアジア需要の回復が課題。
11投資メリット・デメリット
「業績モメンタムは改善中、論点は割高感がすでに剥落した株価をどう評価するか」が本レポートの総括。
▲ 強気材料(メリット)
- 受注が5四半期連続で拡大し、会社自身が通期予想を上方修正(売上+4.2%・純利益+7.1%)
- 直近1Q営業利益率23.2%は26/3期通期実績21.4%を上回り、稼働率改善が進行中
- 自己資本比率89.2%・有利子負債の開示なしという鉄壁財務で、景気後退耐性が高い
- フィジカルAI・生成AI活用ロボット等、新領域への展開が新商品発表展示会で好評
- 配当性向60.0%の明確な方針。26/3期は1株107.09円へ増配
▼ 弱気材料(デメリット)
- 株価は年初来高値8,880円から3割超下落しており、部材調達問題等への警戒も報じられている
- 中国景気・工作機械需要の減速が直撃するリスク(受注のうち中国比率は3割超)
- 米国の関税政策・地政学リスクによる不透明感が業績予想の前提として残る
- 円高転換なら海外売上比率87.1%の円換算が目減り
- 部門別利益が非開示のため、どの部門が実際に稼いでいるか外部から測りにくい
3つのシナリオ(筆者試算)
強気シナリオ受注拡大が続き27/3期EPSが会社予想を上振れ約230円×PER30倍=6,900円水準
中立シナリオ27/3期通期予想(純利益1,980億円)通りでEPS約212円×PER27倍=5,724円前後(現値近辺)
弱気シナリオ中国減速・関税影響でEPSが会社予想を下振れ約180円×PER22倍=3,960円前後
EPS試算は27/3期通期予想の純利益1,980億円を期中平均株式数(933,158千株)で除いた筆者概算(約212円)を基準値とした。会社は27/3期通期のEPS予想を明示していない。
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①受注の伸びが続くか(+36.9%の勢いが維持されるか)、②営業利益率23%台の定着(直近1Qの水準が一時的か本格改善か)、③中国・関税動向(受注の3割超を占める中国景気が最大の変数)。「業績は上向き、株価はすでに調整済み」という現状をどう評価するかが投資判断の分かれ目です。