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🕒 最終更新: 2026-09-19 (直近更新)

デンソー 6902・東証プライム

東証プライム・名証プレミアIFRS3月決算 自動車部品(トヨタグループ)26年3月期(FY2026)通期+27年3月期1Q(Q1)まで反映

1949年にトヨタ自動車工業の電装部門が分離独立して生まれた、トヨタグループ最大の自動車部品メーカー。売上の54.8%はトヨタグループ向けだが、非トヨタ系OEM・海外・非車載事業を含めると「トヨタの下請け」では語れない広がりを持つ。FY2026は売上収益7兆5,400億円(+5.3%)・営業利益5,525億円(+6.5%)・親会社帰属当期利益4,438億円(+5.9%)の増収増益。だが最新のFY2027第1四半期(2026年4〜6月)は増収減益(売上+9.1%、営業利益△21.5%)に転じ、欧州は品質費用で営業損失に陥った。EV化でエレクトリフィケーションシステム(インバータ・モーター等)の売上構成比がFY2024の17.4%→FY2026は19.0%へ上昇する一方、パワトレインシステム(エンジン制御等)は21.3%→19.6%へ低下している。

💡 はじめての方へ:デンソーは、エンジンやカーエアコン、最近では電気自動車(EV)のモーターを動かすインバーターまで、車の中の「目に見えない部品」を幅広く作っている会社です。トヨタ自動車の一部門が独立して生まれたので今もトヨタ向けが売上の半分以上を占めますが、日産やホンダなど他の自動車メーカーにも部品を供給しており、単なる「トヨタの子会社」という理解では捉えきれない規模を持っています。ガソリン車がEVに置き換わっていく中で、エンジン関連の部品が相対的に縮み、モーターやバッテリー関連の部品が伸びる——その変化の最前線に立つ会社です。

2026年3月期(FY2026)通期の確定実績(2026年4月28日発表)と2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)実績(2026年7月31日発表)まで反映済み。株価・時価総額・PER・PBR・同業比較は2026年9月18〜19日時点にもとづく。

01企業カルテ

2026年3月期(FY2026)通期実績(2026/4/28発表)と2026年9月18〜19日時点の市場評価。

売上収益(FY2026)
75,400億円
+5.3%・車両販売増加が牽引
営業利益
5,525億円
営業利益率7.3%(米国関税・部材費高騰を合理化で吸収)
親会社帰属当期利益
4,438億円
+5.9%
ROE(公表値)
8.5%
前期8.0%から改善
トヨタグループ向け比率
54.8%
残り45.2%は非トヨタ系OEM・市販/非車載
自己資本比率
62.9%
純現金3,778億円(現金1兆1,891億円−有利子負債8,113億円)
時価総額
約5.57兆円
株価1,915円(26/9/18終値)
PER(予想)
12.5
PBR0.93倍・配当利回り予想3.86%
成長性
FY2023〜FY2026の売上CAGRは+5.6%と安定成長だが、直近のFY2027 Q1は増収(+9.1%)ながら営業利益は△21.5%と減益に転じており、勢いに陰りが見える
収益性
営業利益率7.3%はFY2025(7.2%)からわずかに改善したが、同業アイシン(4.5%)より高い一方、海外部品大手(BorgWarnerの調整後10.7%等)と比べると見劣りする水準
財務健全性
自己資本比率62.9%・純現金3,778億円(現金が有利子負債を上回る)。製造業として盤石なバランスシート
株主還元
FY2026は配当1,767億円+自社株買い2,534億円=純利益の96.9%を還元。さらにFY2027(4月)には豊田自動織機保有株を対象に約3,136億円の自己株式TOBを実施しDOEを2030年に4.0%以上へ引き上げる方針
バリュエーション
PER12.5倍・PBR0.93倍は本サイト掲載の日本製造業の中でも低め。解散価値(簿価)を下回る株価で評価されている

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。EPS162.96円、BPS2,040.42円、年間配当金は1株当たり67円(中間32円・期末35円)。時価総額は発行済株式数2,910,979,691株×株価1,915円から55,745億円(筆者算出)。株価・時価総額・PER・PBR・ROE予想・配当利回り予想は日本経済新聞会社情報(2026年9月18日時点)による。

💡 読み方:FY2026は「増収増益」で過去の水準を更新しましたが、最新のFY2027第1四半期は「増収なのに減益」というねじれた決算でした。原材料費の高騰と将来投資の強化が利益を圧迫しており、この先も増収基調が続くか、利益率が持ち直すかが最大の注目点です。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、デンソーの稼ぎ方。矢印にカーソルを合わせると実額が出ます。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点1949年12月16日、企業再建整備法に基づきトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)の電装品部門が分離独立し、「日本電装株式会社」として設立。1996年に「株式会社デンソー」へ社名変更
定説デンソーはトヨタグループの部品子会社であり、売上はトヨタ向けにほぼ一本足で依存している
逆説FY2026実績でトヨタグループ向け売上は4兆1,346億円・全体の54.8%と過半を占めるが、残る45.2%は日産・ホンダ等の非トヨタ系OEM(2兆7,741億円・36.8%)と市販・非車載事業(6,313億円・8.4%)が占める。海外売上比率も59.1%に達し、「トヨタの下請け」という一言では捉えきれない規模と分散を持つ(従業員数も154,716名に及ぶ)。一方でEV化により部品構成は変化しつつあり、エレクトリフィケーションシステム(インバータ・モーター等)の売上構成比がFY2024の17.4%→FY2026は19.0%へ上昇している

部品・素材サプライヤーから調達した原材料は、サーマル・パワトレイン・モビリティエレクトロニクス・エレクトリフィケーション・先進デバイスの各製品として加工され、トヨタグループ(54.8%)・非トヨタ系OEM(36.8%)・市販/非車載向け(8.4%)の顧客へ供給される。得られた利益の一部は研究開発(6,901億円・売上の9.15%)に再投資され、残りは配当・自社株買いとして株主へ還元される(FY2026は純利益の96.9%)。

💡 やさしく:デンソーは車の部品を作る「町工場」の巨大版ですが、お客さんはトヨタだけではありません。日産やホンダにも部品を売り、さらにカー用品店で売る補修部品(市販品)も手掛けています。複数のお客さんに分散して売る体制があるからこそ、特定の自動車メーカーの業績に左右されすぎない経営ができています。

03成長の歩み — 4年で売上+17.8%、円安と車両販売増が下支え

FY2024は品質費用の発生で減益となったが、FY2025・FY2026は合理化努力と円安・車両販売増で増収増益基調に回復した。

売上収益の推移(FY2023〜FY2027予想)

単位:億円 ■濃い棒=直近期・27/3期は会社予想。3月決算

営業利益率の推移

FY2024は品質費用の発生で5.3%まで低下

FY2023の6.7%からFY2024は品質費用の発生で5.3%へ低下したが、FY2025は円安進行・合理化努力で7.2%へ回復し、FY2026も7.3%とほぼ横ばいを維持。ただし会社はFY2027予想で売上収益77,500億円・営業利益5,000億円(利益率6.5%)への低下を見込んでおり、将来成長投資の強化と中東情勢等の不確実性を織り込んでいる。

親会社帰属当期利益の推移

単位:億円

FY2023の3,146億円からFY2026の4,438億円へ4年で1.41倍。同期間に売上収益は1.18倍(6兆4,013億円→7兆5,400億円)で、利益の伸びが売上の伸びを上回っている——ただしFY2027会社予想は3,820億円(△13.9%)と減益を見込んでおり、この成長トレンドは足元で反転している。

04今期の焦点 — EV化で伸びる製品・縮む製品、そして欧州の営業損失

FY2027 Q1(2026年4〜6月)の売上収益は19,139億円(前年同期比+9.1%)。2つの論点を深掘りする。①EV化に伴う製品構成の変化——エレクトリフィケーションシステム(インバータ・モーター等)が拡大する一方、パワトレインシステム(エンジン制御等)は構成比で縮小。②FY2027 Q1(2026年4〜6月)に表面化した地域間の明暗——北米が好調な一方、欧州は品質費用の発生で営業損失に転落し、日本も部材費高騰で減益となった。

製品分野別の売上収益(FY2024〜FY2026)

単位:億円。有価証券報告書「収益の分解」の製品区分別(自動車分野)

3年でエレクトリフィケーションシステム(インバータ・モータージェネレータ・電池監視ユニット等)は1兆2,416億円→1兆4,335億円へ+15.5%拡大し、モビリティエレクトロニクス(先進安全・コックピット関連等)も1兆9,417億円→2兆1,987億円へ+13.2%と最大の増加額を記録した。一方、パワトレインシステム(エンジン制御等)は1兆5,186億円→1兆4,797億円へ微減、先進デバイス(半導体)も4,239億円→3,903億円へ縮小している。

製品分野別の構成比の変化

単位:%。自動車分野の売上収益に占める比率

エレクトリフィケーションシステムの構成比はFY2024の17.4%→FY2026は19.0%へ+1.6pt上昇。パワトレインシステムは21.3%→19.6%へ△1.7pt低下し、先進デバイス(半導体)も5.9%→5.2%へ縮小した。最大の伸びはモビリティエレクトロニクス(27.2%→29.2%、+2.0pt)で、EVだけでなく先進安全・コックピット関連の電子化が同時並行で進んでいることが分かる。

💡 やさしく:「EV化=エンジン部品からモーター部品へ」という単純な構図だけでなく、センサーやカメラ、車内ディスプレイなど「クルマの電子化」全般が同時に進んでいることが、モビリティエレクトロニクスの伸びから読み取れます。

FY2027 Q1 地域別営業利益 前年同期比

単位:億円。2026年4〜6月・前年同期比

FY2027 Q1は北米(253億円・+12.1%)が合理化努力で増益を確保した一方、欧州は86億円の営業損失に転落(前年同期は52億円の黒字)——品質費用の発生が主因。日本も部材費等の高騰と将来成長投資の強化により76億円・△43.3%の大幅減益、アジアも操業度差損等で418億円・△12.2%の減益となった。

FY2026通期の地域別営業利益 前期比

単位:億円。2025年4月〜2026年3月

FY2026通期では北米が343億円増(+34.9%、一過性費用の回収等)、欧州が191億円増(+221.3%、合理化努力)と好調だった一方、日本は346億円減(△15.7%、部材費高騰・人への投資増加)。同じ北米・欧州がFY2026は好調でFY2027 Q1に欧州だけ失速するなど、四半期単位では地域間の明暗が目まぐるしく入れ替わっていることが分かる。

💡 やさしく:デンソーの利益は「日本は苦戦、海外は好調」という単純な構図ではなく、四半期ごとに好調な地域が入れ替わる不安定さがあります。直近は欧州で品質問題によるコストが発生し、一時的に赤字化したことが最大のニュースです。

05財務3表ビジュアル

品質費用・部材費高騰を合理化努力で吸収したPL、純現金を持つ保守的なBS、そして稼いだ以上を還元するCF——部品メーカーとしての財務体質が3枚に表れる。

PL滝グラフ — 売上収益7兆5,400億円はどこへ消えるか(FY2026)

単位:億円。IFRSのため営業利益から税引前利益・当期利益まで段階的に算出

売上収益7兆5,400億円から売上原価6兆3,704億円(筆者算出=売上収益−売上総利益11,696億円)を引いた売上総利益は1兆1,696億円(利益率15.5%)。販売費及び一般管理費5,986億円等を引いた営業利益は5,525億円(7.3%)。金融収益・費用等の営業外損益+648億円を加えた税引前利益6,173億円から法人所得税1,298億円を差し引いた当期利益4,875億円のうち、非支配持分438億円を除いた親会社帰属当期利益は4,438億円。

💡 やさしく:売上収益7兆5,400億円のうち、原価・経費を引いて最終的に株主のものになるのは4,438億円(約5.9%)。残りの94%以上は、部品・材料の調達費用や人件費、税金として社会に還元されていると考えると、部品メーカーの薄利多売な構造が見えてきます。

BS比例図 — 総資産8兆7,309億円の中身(FY2026末)

箱の高さ=金額。自己資本比率62.9%・純現金3,778億円

総資産の約14%(1兆1,891億円)が現金及び現金同等物で、有利子負債8,113億円を上回る純現金3,778億円のポジション。自動車部品メーカーとして設備投資が重い事業ながら、自己資本比率62.9%と財務基盤は厚い。

キャッシュフロー(FY2026)

単位:億円。営業CF5,110億円

営業CF5,110億円に対し設備投資(有形固定資産の取得)は3,702億円で、FCF(営業CF−設備投資、筆者算定)は1,409億円。この年の株主還元は配当1,767億円(配当性向41.1%)+自社株買い2,534億円=4,301億円と純利益の96.9%を還元。財務CFが△3,550億円と大きいのはこの還元と借入金純増減の結果。前年度に7,587億円あった営業CFが5,110億円へ減少したのは、仕入債務の増減額が1,270億円減少・法人所得税の支払額が923億円増加したことが主因。

06収益性 — ROE8.5%をデュポン分解する

デンソーのROEは高くないが、薄利×高回転×低レバレッジという保守的な収益構造で安定的に積み上げている。東京エレクトロン(高利益率×無借金)とは対照的な「部品メーカー型」。

ROE(FY2026・平均残高ベース・筆者算出)
8.5%
5.88%
売上高純利益率
部品メーカーとして薄利
× 0.89回
総資産回転率
設備投資が重く回転率は控えめ
× 1.61倍
財務レバレッジ
純現金を持ち極めて低い

本サイト掲載の他社と比較すると構造の違いが見える。東京エレクトロン(ROE29.6%=純利益率23.5%×0.89回×1.41倍)は無借金ながら高利益率でROEを積み上げる「利益率主導型」。デンソーは純利益率5.9%と薄利ながら、財務レバレッジを1.61倍に抑えた保守的な財務運営でROE8.5%を作っている——高収益な半導体装置メーカーと比べると見劣りするが、純現金を維持しながらのROEという点で財務の安全性は高い。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)

単位:%。FY2026末時点

ROIC=NOPAT(営業利益5,525.38億円×(1−実効税率21.02%)≒4,362.01億円)÷投下資本(純資産合計5兆7,158.47億円+有利子負債8,112.82億円−現金及び現金同等物1兆1,891.26億円=5兆3,380.03億円)=8.17%。推定WACC5〜6%を上回っており、資本コストを超える価値創造はできているが、そのスプレッドは東京エレクトロン(ROIC30.1%)等の高収益企業と比べると小さい。

💡 やさしく:ROIC8.17%は「事業に投じたお金1に対して毎年0.08稼ぐ」ということ。資本コスト(お金を集めるのにかかるコスト)を上回ってはいるものの、その差は大きくありません。部品メーカーは巨額の設備投資が必要な割に利益率が低いため、資本効率の面では半導体装置メーカー等に見劣りするのが実情です。

07会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP

デンソーは2015年3月期からIFRS会計基準を採用。「経常利益」区分が無いことと、持分法投資損益が営業利益の下に表示されることが読み方の鍵になる。

どの「利益」で見るかで印象が変わる(FY2026)

単位:億円
詳しく見る:会計基準の技術的差異(IFRS/JGAAP/US-GAAP)
  • IFRSには「経常利益」という区分が無い。営業利益5,525億円に金融収益826億円・金融費用△317億円・為替差損益+14億円・持分法投資損益+124億円を加えて税引前利益6,173億円を算出する
  • 持分法による投資損益(124億円)は営業利益の「下」(税引前利益に至る過程)で計上される。JGAAPでは持分法投資損益を営業外収益として経常利益に含める点は同様だが、区分名や表示順序が異なる
  • のれんは非償却・減損テストのみ。デンソーは大型M&Aが少なく、のれん自体は僅少とみられる
  • 2015年3月期(第92期)の有価証券報告書からIFRSを適用。指定国際会計基準特定会社の要件を満たすため連結財務諸表規則第312条に基づく
  • JGAAPでは「経常利益」区分があり、営業利益に営業外損益(受取利息・支払利息・持分法投資損益等)を加えて算出する。デンソーのIFRS区分と近い水準になるとみられるが、金融収支の表示科目が細分化される
  • のれんは20年以内の規則償却が必要。デンソーはのれんが小さいため影響は限定的とみられる
  • 同業のアイシン(7259)もIFRS採用のため、直接比較する場合は基準差異は生じない
  • US-GAAPにも「経常利益」区分は無く、金融収支は営業外項目として一括処理される傾向がある
  • 同業のMagna International・BorgWarnerはUS-GAAP採用。研究開発費は原則費用処理でIFRSと大きな差異はないが、リース会計・のれんの取り扱い等で細部が異なりうる
  • BorgWarnerのFY2025はGAAP営業利益率3.7%(減損費用624百万ドル込み)とAdjusted営業利益率10.7%(非GAAP)が大きく乖離しており、どの利益指標を見るかで評価が180度変わる典型例
💡 やさしく:IFRSには日本独自の「経常利益」という段階がなく、金融収支や持分法の損益をまとめて税引前利益に加算します。数字自体は大きく変わりませんが、「本業のもうけ」と「金融収支」の境目が日本基準ほどくっきり見えない点に注意が必要です。

08同業比較 — トヨタ系の兄弟会社アイシン、EV部品を伸ばす北米・欧州大手と比較

同じトヨタグループの兄弟会社アイシン(7259)、北米最大級の自動車部品会社Magna International(加)、EVパワートレイン特化を進めるBorgWarner(米)と比較する(2026年9月18〜19日時点)。通貨・会計基準が異なるため、利益率・ROE等の比率を主軸に比較する。

営業利益率・ROEの比較

単位:%。直近期実績(デンソー・アイシンはFY2026=26/3期、Magna・BorgWarnerは2025年12月期)

営業利益率はBorgWarnerのAdjusted営業利益率10.7%(非GAAP、減損費用を除く)が最も高く、デンソー7.3%・Magna(Adjusted EBIT)5.6%・アイシン4.5%の順。ただしBorgWarnerのGAAP営業利益率は3.7%とデンソーより低く、非GAAP調整の効果が大きい。ROEはデンソー8.5%・アイシン8.2%とトヨタグループの2社がほぼ並び、Magna6.6%・BorgWarner5.1%を上回っている。

💡 やさしく:4社とも「クルマの部品を作って売る」商売ですが、利益率の見え方は会計処理の違いで大きく変わります。BorgWarnerは工場閉鎖などの一時的な費用(減損費用)を除くと利益率が跳ね上がる典型例で、一時費用を含むか除くかで評価が変わる点に注意が必要です。

バリュエーションの比較

2026年9月18〜19日時点。PERは各社注記のとおり基準が異なる

PERはBorgWarner49.96倍(GAAP EPSベース、減損の影響で歪みが大きい。参考値のTTM PERは32.05倍)・Magna23.19倍・デンソー12.5倍・アイシン10.44倍の順。デンソー・アイシンのPERが低いのは、トヨタグループの部品会社が市場から「成長性が低い」「シクリカル」と評価されがちな傾向を反映している可能性がある。PBRはBorgWarner2.35倍・Magna1.38倍・デンソー0.93倍・アイシン0.74倍で、日本の2社は解散価値(簿価)を下回る株価で評価されている。

参考:売上高の規模比較(共通通貨換算)

単位:10億ドル。1ドル=147円で概算(円建て企業の実額を為替で概算したものであり、通貨変動の影響を受ける参考値)

売上規模はデンソー($51.3B)が4社中最大で、Magna($42.0B)・アイシン($34.8B)・BorgWarner($14.3B)が続く。デンソーはトヨタグループ以外にも幅広い顧客を持つことで、単一OEM系列に留まらない事業規模を確保している

09戦略・課題と改善ポイント

財務健全性・株主還元は強みだが、収益性の低さと地域間の業績のブレ(特に欧州の品質費用問題)が当面の課題。

強み Strengths

  • 自己資本比率62.9%・純現金3,778億円という盤石な財務基盤
  • トヨタグループ54.8%・非トヨタ系OEM36.8%・市販/非車載8.4%と顧客が分散しており、単一顧客への依存度が過度に高くない
  • エレクトリフィケーションシステムがFY2024→FY2026で構成比17.4%→19.0%へ拡大するなど、EV化への製品ポートフォリオのシフトが着実に進行
  • FY2026は純利益の96.9%を株主に還元、さらにFY2027には約3,136億円の自己株式TOBを実施しDOEを2030年に4.0%以上へ引き上げる方針

弱み Weaknesses

  • 営業利益率7.3%・ROE8.5%は同業比較でも中位〜下位で、半導体装置メーカー等の高収益企業と比べると見劣りする
  • FY2027 Q1は欧州が品質費用の発生で営業損失(△86億円)に転落するなど、地域間の業績変動が大きい
  • FY2027会社予想は営業利益△9.5%・親会社帰属当期利益△13.9%と減益見通しで、足元の増収基調と利益成長が両立していない
  • 先進デバイス(半導体)の売上はFY2024→FY2026で4,239億円→3,903億円へ縮小しており、成長領域とされる分野でも一様に伸びているわけではない

機会 Opportunities

  • モビリティエレクトロニクス(先進安全・コックピット関連等)がFY2024→FY2026で+13.2%と製品群の中で最大の伸びを示しており、EV化に加えて車両電子化全体の追い風がある
  • 北米はFY2026に営業利益+34.9%、FY2027 Q1も+12.1%と合理化努力の効果が継続している
  • CORE2030(2026〜2030年度中期経営計画)でROE最大化・資本効率改善を掲げ、資本コストを意識した経営への転換を進めている
  • トヨタグループの相互保有株式解消(TOB)の流れの中で、デンソー自身も自己資本比率60%超を上限としつつ機動的な自己株式取得を継続する方針

脅威 Threats

  • 米国関税政策の影響が継続しており、FY2026は「米国関税、部材費高騰及び人への投資増加等」が営業利益の押し下げ要因として明記されている
  • 欧州で発生した品質費用のような一過性コストが今後も地域単位で業績を振らす可能性
  • 銅・アルミ等の原材料価格高騰が続けば、FY2027の減益見通しがさらに下振れするリスク
  • EV化のペースが地域・車種によって不均一に進む中、パワトレインシステム(エンジン関連)の縮小と新分野の拡大のタイミングが一致しなければ収益性が一時的に悪化するリスク

改善ポイント(優先度つき)

最優先

欧州の品質費用問題の収束

FY2027 Q1に86億円の営業損失を計上した欧州の品質費用が一過性で収束するか、今後の四半期決算で継続的に確認する必要がある。

最優先

収益性の底上げ

営業利益率7.3%・ROE8.5%は同業と比べて中位水準。会社予想どおりFY2027に営業利益率6.5%へ低下するのか、合理化努力で押し返せるのかが焦点。

中期

先進デバイス(半導体)の立て直し

FY2024→FY2026で売上が縮小している数少ない製品分野。EV化・自動運転の進展で半導体需要は本来追い風のはずであり、要因の見極めが必要。

中期

CORE2030の実行力

ROE最大化・DOE4.0%以上という2030年目標に対し、直近のROE8.5%・DOE3.5%からどう引き上げていくか、中期の進捗を確認していく必要がある。

10投資メリット・デメリット

財務健全性・株主還元は申し分ないが、収益性の低さとFY2027の減益見通しが株価の重しになっている。PER12.5倍・PBR0.93倍という株価が、この慎重な見通しをどこまで織り込んでいるかが論点。

▲ 強気材料(メリット)

  • 自己資本比率62.9%・純現金3,778億円という盤石な財務基盤で、景気後退局面でも耐性が高い
  • PER12.5倍・PBR0.93倍は同業4社比較でも最も割安な水準で、株主還元の強化(DOE3.5%→2030年4.0%以上)が続けば再評価の余地がある
  • トヨタグループ54.8%・非トヨタ系OEM36.8%・市販/非車載8.4%という顧客分散により、特定顧客の業績悪化リスクを緩和できる構造
  • エレクトリフィケーションシステム・モビリティエレクトロニクスが着実に拡大しており、EV化・電子化の恩恵を製品ポートフォリオに取り込めている
  • FY2026は純利益の96.9%を株主に還元、豊田自動織機保有株の自己株式TOB(約3,136億円)でトヨタグループの資本構成改善にも寄与

▼ 弱気材料(デメリット)

  • FY2027会社予想は営業利益△9.5%・親会社帰属当期利益△13.9%と2期ぶりの減益見通し
  • FY2027 Q1は営業利益△21.5%と会社予想を上回るペースで減益しており、欧州の品質費用(86億円の営業損失)が象徴的な下振れ要因
  • 営業利益率7.3%・ROE8.5%は同業比較でも中位水準にとどまり、半導体装置メーカー等の高収益企業と比べると資本効率で見劣りする
  • 米国関税・原材料価格(銅・アルミ等)の高騰が続けば、FY2027予想がさらに下振れするリスク
  • 先進デバイス(半導体)の売上縮小が続いており、EV・自動運転の追い風を全製品群で一様に取り込めているわけではない

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ欧州の品質費用が下期に収束し、会社予想を上回るペースで合理化効果が出ると仮定。FY2027 EPS 165円(会社予想比+10%)×PER15倍=約2,475円(現値比+29.2%)
中立シナリオ会社予想どおりFY2027 EPS 150.08円で着地すると仮定。EPS150.08円×PER13倍(過去平均並み)=約1,951円(現値比+1.9%)
弱気シナリオ欧州の品質費用が長期化し、原材料高騰も加わり会社予想を下回ると仮定。FY2027 EPS 130円(会社予想比△13%)×PER11倍=約1,430円(現値比△25.3%)

※起点となるFY2027通期の会社予想EPSは150.08円(2026年7月31日発表・自己株式取得による株式数減少を反映後の値。当初予想は146.95円)。上記3シナリオは会社予想と過去のPERレンジを機械的に当てはめた筆者試算であり、会社予想でも市場コンセンサスでもありません。現在値・PER・PBR・時価総額は2026年9月18日終値1,915円時点。

💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①欧州の品質費用問題(FY2027 Q1に86億円の営業損失。一過性で収束するか要注目)、②EV化に伴う製品構成の変化(エレクトリフィケーションシステムの構成比はFY2024の17.4%→FY2026は19.0%へ着実に上昇しているが、パワトレインシステムの縮小と足並みが揃うかは今後次第)、③FY2027の減益見通し(会社予想で営業利益△9.5%。Q1はそれを上回るペースで減益しており、通期でどこまで下振れするかが焦点)。財務基盤は盤石で株主還元も手厚い「守りの強い」会社である一方、収益性・成長性の面では地味な評価に甘んじている点が、割安なPER・PBRの背景にあると考えられます。