CompanyPocketβ 用語集

三菱電機 6503

東証プライムIFRS3月決算 電気機器(総合電機・FA・パワー半導体)データ基準日 2026/7/17

エアコン・エレベーターなど「くらしの電機メーカー」のイメージが強いが、26/3期の増益を牽引したのはFA(ファクトリーオートメーション)とパワー半導体。売上収益5兆8,947億円(+6.8%)・純利益4,078億円(+25.8%)と4期連続の最高益を更新し、なかでもFA事業は営業利益+64%と急回復した。

💡 はじめての方へ:「三菱電機=家電やエレベーターの会社」というイメージは会社の一部でしかありません。実際に利益を大きく伸ばしているのは、工場の生産ラインを自動制御する機械(FA)と、電気を効率よく制御する半導体(パワー半導体)。中国のスマートフォン・工作機械投資の回復や、AIブームによるデータセンター向け設備投資の増加が、この「縁の下」の事業を押し上げています。

01企業カルテ

2026年3月期実績(2026/4/28開示)と現在の市場評価。4期連続の最高益更新。

売上収益(26/3期)
5.89兆円
+6.8%・過去最高
営業利益(26/3期)
4,330億円
+10.5%・利益率7.35%
純利益(親会社帰属)
4,078億円
+25.8%・4期連続最高益
ROE(予想)
10.59%
売上高純利益率6.92%まで改善
FA事業 営業利益(26/3期)
766億円
+64%・中国需要回復
株主資本比率
60.95%
総資産7.36兆円・株主資本4.48兆円
時価総額
11.3兆円
株価5,370円(26/7/17)
PER(予想)
23.14
PBR 2.45倍・利回り1.02%
成長性
27/3期会社予想は売上+5.2%・営業利益+36.3%。FA・半導体の需要回復が続く前提
収益性
売上高営業利益率は22/3期5.63%→26/3期7.35%へ継続改善。純利益率も4.55%→6.92%
財務健全性
株主資本比率60.95%と電機大手の中でも高水準。有利子負債3,633億円に対し現金7,316億円
株主還元
配当利回り1.02%は電機大手4社中3番目。配当は27円→55円へ10年で倍増したが利回りは平凡
バリュエーション
PER23.14倍・PBR2.45倍。4期連続最高益とFA回復期待が既にある程度織り込まれた水準

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。

💡 読み方:4期連続で最高益を更新しているのに、市場の評価は「もう十分織り込み済み」という見方も強い局面。ここから先の株価を左右するのは、FA事業の回復が27/3期も続くかどうか(会社は営業利益+36%を見込む強気予想)です。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、三菱電機の稼ぎ方。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点発電機・変圧器などの重電機器から出発した総合電機メーカー
定説エアコン・エレベーター・テレビなど、家電から重電まで何でも作る「くらしに身近な」総合電機メーカー
逆説売上最大の『ライフ』(家電・空調・エレベーター)の利益率は7.4%止まりの一方、目立たないFA・パワー半導体事業は中国のスマホ・工作機械投資回復とAI関連設備投資に乗って急回復。「くらしの電機メーカー」の裏側で、実際の稼ぎ頭は工場・データセンターを支える産業向け事業

製造業・インフラ事業者にはFA機器(工場の生産ラインを制御するPLC・産業用ロボット等)や電力・鉄道インフラ機器を、一般消費者・法人にはエアコン・エレベーター・ビル設備を販売する「二階建て」構造。稼いだ現金は配当・自社株買いで株主に還元しつつ、株主資本比率60.95%という手厚い自己資本を維持している。

💡 やさしく:三菱電機は「家電屋さん」と「工場の裏方さん」の二つの顔を持つ会社。テレビCMで見かけるのは前者ですが、会社の利益を大きく動かしているのは後者——工場やデータセンターの機械を陰で支える仕事です。

03成長の歩み — 10年で売上4.2兆円→5.9兆円、利益率も継続改善

2021年3月期を底に、売上・利益率とも右肩上がりで26/3期は4期連続の最高益。

売上収益の推移(17/3期〜26/3期)

単位:億円

2021年3月期(4兆1,900億円)を底に、以降5期連続で増収。23/3期に5兆円の大台を突破し、26/3期は5兆8,947億円まで拡大した。

💡 やさしく:コロナ禍で落ち込んだ2021年3月期を境に、右肩上がりが続いています。特に直近はFA・半導体という「産業向け」事業の伸びが牽引役です。

純利益(親会社帰属)の推移(17/3期〜26/3期)

単位:億円

21/3期(1,931億円)を底に回復し、26/3期は過去最高の4,078億円(EPS198.31円)。この10年で純利益はほぼ倍増した。

💡 やさしく:10年前と比べると純利益はほぼ2倍。売上の伸び以上に「利益率の改善」が効いており、同じ売上でもより多く儲けられる体質に変わってきています。

04今期の焦点 — FA事業、中国需要回復で急反転

FA(ファクトリーオートメーション)事業は25/3期に落ち込んだが、中国のスマートフォン・工作機械投資回復とAI関連設備投資需要で26/3期は急回復。27/3期はさらなる増益を見込む。

FA事業 売上高・営業利益(25/3期→26/3期)

単位:億円

売上高は7,256億円→7,982億円(+726億円)、営業利益は467億円→766億円(+298億円、+63.8%)。営業利益率も6.4%→9.6%へ改善した。会社は要因として「中国のスマートフォン、工作機械関連の需要や、日本と中国でのAI関連半導体・サーバ向け設備投資需要の増加」を挙げている。

FA事業 営業利益の推移と27/3期見通し

単位:億円。27/3期は会社見通し

27/3期のFA事業営業利益は1,020億円(+36%)を会社は見込んでおり、中国需要の回復が一時的な反動ではなく持続的なトレンドだと会社側は見ていることがうかがえる。FA事業単体の利益は全社営業利益4,330億円の約17.7%を占め、26/3期の伸び(+298億円)だけで全社営業利益の増加分(+412億円)の7割超を稼いだ、三菱電機の「隠れた稼ぎ頭」になっている。

💡 やさしく:FA事業は「工場の頭脳」を作る仕事。スマホや半導体の新しい工場が世界で建てば建つほど、そこに納める制御機器の注文が増える構造です。中国のスマホ・工作機械投資が上向いたことが、そのままFA事業の急回復につながりました。

05セグメント — 売上最大は『ライフ』、利益率トップは『その他』『半導体』

6つの事業セグメントの売上高と営業利益(26/3期)。売上規模と利益率の順位が逆転している点に注目。

セグメント別売上高(26/3期・億円)

セグメント合計は連結売上高より626億円多い(セグメント間取引消去等・会社非開示のため推計せず)

最大は『ライフ』2兆3,182億円(家電・ビル空調・エレベーター)。次いで『インダストリー・モビリティ』1兆6,738億円(FA・自動車機器)、『インフラ』1兆4,634億円(電力・鉄道インフラ)と続く。

セグメント別営業利益(26/3期・億円)

セグメント合計は連結営業利益より1,359億円多い(全社共通費用・セグメント間消去、会社非開示のため推計せず)

利益率で見ると『その他』33.7%・『セミコンダクター・デバイス』18.4%・『デジタルイノベーション』14.1%が、売上最大の『ライフ』7.4%を大きく上回る。会社の顔である『ライフ』は実は利益率の低い事業で、規模は小さくても高収益な半導体・その他事業が全社利益率を押し上げる構図になっている。

💡 やさしく:6つの財布のうち、一番大きいのは家電・エレベーターの財布ですが、財布の「厚み」(利益率)で見ると半導体やその他事業の方が実はふくよか。売上の大きさと儲けの大きさは必ずしも一致しません。

06財務3表ビジュアル

売上収益5兆8,947億円から純利益4,078億円へ。株主資本比率60.95%という手厚い財務基盤。

PL滝グラフ — 売上収益5兆8,947億円から純利益4,078億円へ(26/3期)

単位:億円。IFRSのため税引前利益ベースで表示
💡 やさしく:5.9兆円の売上のうち、最終的に株主のものになるのは4,078億円(約6.9%)。この比率(純利益率)は5年前の4.55%から着実に上がってきています。

財政状態 — 総資産7兆3,575億円(26/3末)

単位:億円

株主資本比率60.95%は電機大手の中でも高水準。有利子負債3,633億円に対し現金及び現金同等物は7,316億円あり、有利子負債を現金が上回る。

キャッシュフロー(26/3期)

単位:億円。営業CF5,760億円

FCF(営業CF−投資CF)は2,316億円。財務CFの流出(▲3,048億円)は配当・自社株買い・借入返済の合計。

07収益性 — ROE10.59%、利益率は5年連続で改善

ROE10.59%(予想)をデュポン分解し、資本コストとの関係を確かめる。

ROE(26/3期・会社予想)
10.59%
6.92%
売上高純利益率
26/3期実績。5年前4.55%から改善
× 0.80回
総資産回転率
期末残高ベース(筆者概算)
× 1.64倍
財務レバレッジ
株主資本比率60.95%と高いため低め

期末残高ベースの筆者概算のため、会社発表ROE予想(10.59%)と若干の差(分解結果は約9.08%)がある。同じ電機大手でも日立(6501)はROE12.9%・レバレッジ2.29倍(ネットキャッシュなのに二桁ROE)と対照的に、三菱電機はより保守的な財務レバレッジ(1.64倍)で手堅くROE10%台を確保している構図。

利益率の5期推移

単位:%。22/3期〜26/3期

売上高営業利益率は5.63%→7.35%、売上高純利益率は4.55%→6.92%と、いずれも5期連続で改善。FA・半導体事業の伸びが利益率改善のミックス効果として効いている。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか(筆者試算)

単位:%。概算値

簡便ROIC=純利益4,078億円÷投下資本(株主資本4兆4,842億円+有利子負債3,633億円=4兆8,475億円)≒8.41%。推定WACC(6〜7%、電機業界の目安として日立(6501)ページと同前提)を上回っており、資本効率の面では合格ライン。

💡 やさしく:ROICがWACCを上回るとは「集めたお金の調達コスト以上に稼げている」ということ。三菱電機は日立ほど劇的ではありませんが、着実にこの基準をクリアしています。

08会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP

三菱電機はIFRS採用企業。「調整後」ではなく素の営業利益をヘッドライン指標に使う点が日立(6501)との違い。

利益段階の比較(26/3期)

単位:億円
  • 三菱電機はIFRSの「営業利益」をそのままヘッドライン指標として使用しており、日立(6501)のような「調整後営業利益」への読み替えは行っていない
  • のれんはIFRSでは非償却(減損テストのみ)。過去の買収案件の減損リスクは毎期の償却負担なしに株価変動要因として残る
  • セグメント情報の「共通費用・消去」(本ページでは1,359億円)はIFRSの報告セグメント基準に基づくもので、会社は内訳の詳細開示をしていない
  • JGAAPならのれんは20年以内の規則償却が必要。過去の買収規模次第では営業利益が今より圧縮されて見える可能性がある
  • JGAAPには「経常利益」の概念があり、営業外損益(受取利息・持分法投資損益等)を含めた実力値として使われる。IFRSの税引前利益がこれに近い概念
  • 収益認識のタイミング(出荷基準か検収基準か等)に細部の差異が生じ得るが、大枠の売上計上時期はJGAAP/IFRSで大きくは変わらない
  • US-GAAPでものれんは非償却・減損テストのみで、IFRSとの差は小さい
  • 研究開発費の資産化基準はIFRS/US-GAAPで異なり得る(IFRSは一定要件下で開発費を資産計上可、US-GAAPは原則費用処理)。FA・半導体向けの研究開発投資が多い三菱電機ではこの差が利益に与える影響を無視できない
  • セグメント開示の粒度(報告単位の切り方)はUS-GAAPの事業セグメント基準でも類似の考え方だが、開示される「共通費用」の扱いに差が出ることがある
💡 やさしく:三菱電機は「調整後」という言葉を使わず、IFRSの営業利益をそのまま実力値として発表するシンプルな会社。日立のような特殊要因の除外計算がない分、決算の数字がそのまま「素顔」に近いとも言えます。

09電機大手比較 — 収益性は改善中も、評価は日立に一歩譲る

日立・パナソニックHD・NECと比較(2026/7/17時点)。

三菱電機日立パナソニックHDNEC

ROEは三菱電機10.59%で、日立12.9%・NEC12.3%に次ぐ3位。PBRも2.45倍と日立3.23倍には及ばないが、パナソニックHD1.79倍は上回る。PER23.14倍は日立24.97倍に次いで4社中2番目に高く、NEC21.37倍・パナソニックHD22.20倍よりは高い評価を市場から受けている。収益性は改善傾向にあり、割安放置されているわけではないが、日立ほど強気には振れていないという位置づけ。26/3期純利益4,078億円は日立8,023億円の約半分だが、NEC2,702億円・パナソニックHD1,895億円は上回る。

💡 やさしく:4社の中で「一番静かに改善している優等生」が三菱電機のポジション。日立ほど派手な物語(Lumada)はありませんが、FA・半導体という手堅い事業で着実に利益率を上げています。割安感を重視するなら選択肢に入る銘柄です。

10戦略・課題と改善ポイント

FA・半導体の需要回復を27/3期も維持できるか、そして『ライフ』事業の低収益体質をどう改善するかが焦点。

強み Strengths

  • FA事業が中国需要回復・AI関連投資で急反転(26/3期営業利益+64%、27/3期はさらに+36%見込み)
  • 株主資本比率60.95%と電機大手でも高水準の財務健全性
  • 売上高営業利益率・純利益率とも5期連続改善のトレンド
  • 家電(ライフ)から重電インフラ・半導体まで分散したポートフォリオでリスクを平準化

弱み Weaknesses

  • 売上最大の『ライフ』セグメントの利益率は7.4%と6区分中最低水準
  • 配当利回り1.02%は電機大手4社中3位。株主還元の魅力は限定的
  • セグメント別の共通費用・消去(1,359億円)の内訳が非開示で、事業別の実力が外部からは見えにくい
  • PBR2.45倍・ROE10.59%は日立(6501)に見劣りし、市場評価で一歩譲る

機会 Opportunities

  • 中国のスマートフォン・工作機械投資回復、AI関連データセンター向け設備投資の拡大継続
  • パワー半導体(セミコンダクター・デバイス、営業利益率18.4%)の高収益事業としての拡大余地
  • 27/3期会社予想は営業利益+36.3%と強気。達成できれば市場評価の見直しにつながる可能性
  • ビル・インフラの改修需要(老朽化した社会インフラの更新investment)

脅威 Threats

  • 中国の設備投資は政策・景気に左右されやすく、FA事業の急回復が一時的な反動である可能性
  • 『ライフ』事業(家電・空調)は国内外の価格競争にさらされやすく、利益率改善余地が限定的
  • 半導体市況の変動リスク(パワー半導体は世界的な設備投資サイクルの影響を受けやすい)
  • 円高による海外売上の目減りリスク

改善ポイント(優先度つき)

最優先

FA事業回復の持続性の見極め

27/3期の営業利益+36%見通しが中国需要の一時的な反動ではなく構造的なトレンドかどうか、四半期ごとの受注動向で確認する必要がある。

最優先

『ライフ』事業の収益性改善

売上最大セグメントの利益率7.4%を、他セグメント並みの水準に引き上げられるかが全社利益率のさらなる改善の鍵。

中期

株主還元の強化

配当利回り1.02%は同業でも見劣りする水準。財務健全性の高さ(株主資本比率60.95%)を生かした増配・自社株買いの余地がある。

中期

セグメント開示の透明性向上

共通費用・消去(1,359億円)の内訳開示が進めば、投資家が事業別の実力をより正確に評価できるようになる。

11投資メリット・デメリット

「地味だが手堅い」電機大手。FA・半導体の回復力を信じられるかどうかが判断の分かれ目。

▲ 強気材料(メリット)

  • FA事業が中国需要回復で急反転(26/3期+64%)、27/3期はさらに+36%を会社が見込む
  • 株主資本比率60.95%という電機大手でも高水準の財務健全性
  • 売上高営業利益率・純利益率とも5期連続改善。26/3期は4期連続の最高益
  • 簡便ROIC8.41%は推定WACC(6〜7%)を上回り、資本効率は合格ライン

▼ 弱気材料(デメリット)

  • 配当利回り1.02%は電機大手4社中3位で還元は物足りない
  • 売上最大の『ライフ』事業の利益率は7.4%と低く、全社利益率の重荷になっている
  • FA事業の急回復が中国の政策・景気に依存した一時的な反動である可能性
  • ROE10.59%・PBR2.45倍は日立(6501)に見劣りし、市場評価で劣後
  • セグメント共通費用・消去(1,359億円)の内訳非開示で事業別実力が見えにくい

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ27/3期予想達成+FA回復持続で市場評価が改善。EPS約232円(純利益4,750億円想定)×PER26倍=6,032円水準
中立シナリオ現状PERを維持。EPS198.31円×PER23.14倍=4,589円前後(現在値5,370円から見て既に強気が織り込まれた水準)
弱気シナリオ27/3期未達+中国需要が反動減。EPS180円程度×PER19倍=3,420円前後
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①FA事業の受注動向(中国需要が一時的か持続的かを四半期ごとに確認)、②『ライフ』事業の利益率改善(低収益体質から抜け出せるか)、③27/3期の営業利益+36%予想の達成度。「地味だが財務は手堅く、PERも相対的に割安」——目立たない優等生に投資する覚悟があるかが判断の分かれ目になる銘柄です。