発電所・鉄道車両などの重電インフラ(OT)に、「Lumada」というデジタルの頭脳(IT)を組み合わせて稼ぐ会社。26/3期は売上収益10兆5,867億円・純利益8,023億円(+30.3%)と2期連続の過去最高益。Lumada売上比率は40%に到達し、有利子負債は現金が上回る実質無借金まで財務を絞り込んだ。
2026年3月期実績(2026/4/27開示)と現在の市場評価。日立は「調整後営業利益」(一時的な要因を除いた本業の実力値)を業績の主指標としている。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、日立の稼ぎ方。
電力会社・鉄道事業者・製造業などの顧客に発電設備・鉄道車両・産業機器(OT=制御・運用技術)を納入し、その稼働データをLumadaのAI・解析技術(IT)で価値に変えて保守・DXサービスとして売り返す——これが「OT×IT×プロダクト」の中核ループ。2021年に米GlobalLogicを約1兆円で買収し、デジタルエンジニアリングの拠点・人材を一気に獲得したことがこの転換を後押しした。稼いだ現金は配当・自社株買いで株主に還元しつつ、ネットキャッシュ(現金が負債を上回る状態)を維持し、次のM&Aにも備える。
2019年3月期の875億円を底に、非中核事業の売却と選択と集中を経て、26/3期は過去最高の8,023億円まで回復した。
21/3期・22/3期に売上収益が急伸しているのは、日立化成(現:昭和電工マテリアルズ)・日立国際電気の売却と入れ替わりに、ABBのパワーグリッド事業(現:日立エナジー)や日立ハイテクの完全子会社化などの再編が重なったため。単純な「拡大」ではなく事業の入れ替えを伴う成長である点に注意。
19/3期(875億円)は米国原子力事業や英国鉄道案件の一時損失が響いた谷。そこから選択と集中とLumadaの拡大で、26/3期は過去最高の8,023億円(EPS176.76円)まで回復。27/3期は8,500億円を計画するが、市場予想(QUICKコンセンサス9,126億円)よりは保守的な水準。
中期経営計画「Inspire 2027」の中心テーマはLumada。売上を伸ばすだけでなく、利益率をどこまで引き上げられるかが次の焦点になっている。
25/3期31%→26/3期40%と、1年で+9ptの急伸。28/3期(Inspire 2027最終年度)の目標は50%で、達成には残り2年で+10ptの上積みが必要。さらに長期構想「Lumada 80-20」では売上比率80%を掲げるが、達成時期は明示されていない。
Lumada事業単体の調整後EBITA率は25/3期時点で15%と、全社の調整後営業利益率(26/3期11.3%)より既に高い。28/3期目標18%・長期構想20%まで引き上げられれば、Lumada比率の上昇そのものが全社の利益率を押し上げる「ミックス改善」の構図になる。「比率」と「率」の両方が伸びて初めて、Lumada戦略は成功したと言える。
5つの事業セグメントの売上収益と利益(Adjusted EBITA)を見る。26/3期はエナジーの伸びが際立った。
最大はエナジー3兆2,008億円(+24.9%)。AIデータセンター向け電力需要と送変電インフラ更新の追い風を受け、日立エナジー(旧ABBパワーグリッド)が牽引した。次いでコネクティブインダストリーズ3兆8億円(▲2.8%)、デジタルシステム&サービス2兆7,566億円(+3.9%)と続く。
利益の稼ぎ頭はデジタルシステム&サービス4,501億円(+14.2%)。ただし伸び率で見るとエナジー(+65.1%)が突出しており、来期以降はエナジーが利益貢献トップに躍り出る可能性がある。各セグメントの利益率(Adjusted EBITA÷売上収益)は、エナジー13.0%・デジタルシステム&サービス16.3%・コネクティブインダストリーズ12.2%・モビリティ8.2%と、Lumada比率の高いデジタルシステム&サービスが最も高い。
売上収益10.59兆円から純利益8,023億円へ。実質無借金に至った日立のBS・CFの読み方。
自己資本比率43.7%。有利子負債1兆90億円に対し現金及び現金同等物は1兆3,234億円あり、ネットキャッシュ約3,144億円(現金が借金を上回る状態)。D/Eレシオ0.15倍という「36年ぶりの実質無借金」水準まで財務を絞り込んだ。
FCF(営業CF−投資CF)は1兆3,265億円(会社開示値)で前期比+7,300億円の大幅増。財務CFの流出(▲9,710億円)は有利子負債の返済・配当・自社株買いの合計で、稼いだ現金を着実に財務健全化と株主還元に回している。
ROE12.9%をデュポン分解し、資本コストとの関係を確かめる。
期末残高ベースの筆者概算のため、会社発表ROE(12.9%)と若干の差(分解結果は約12.2%)がある。三菱商事(8058)のROE8.5%はデュポン分解上「財務レバレッジ2.43倍」に支えられた構図だったのに対し、日立はレバレッジがほぼ効いていない(ネットキャッシュ)のに二桁ROEを確保している点が対照的——借金に頼らない「身ぎれいな」稼ぎ方といえる。
簡便ROIC=純利益8,023億円÷投下資本(親会社所有者持分6兆5,683億円+ネット有利子負債▲3,144億円=6兆2,539億円)≒12.8%。ネットキャッシュのため投下資本が自己資本より小さくなり、ROICはROEとほぼ同水準まで近づく。推定WACC(6〜7%)を明確に上回っており、資本効率の面では合格ラインを大きく超えている。
日立は2015年3月期にUS-GAAPからIFRSへ任意適用移行した先駆け企業のひとつ。「調整後営業利益」という独自指標も基準の産物。
三菱電機・パナソニックHD・NECと比較(2026/7/17時点)。ROE・PBRとも日立が優位だが、配当利回りは最下位。
ROEは日立12.9%が4社中トップ、次いでNEC12.3%・三菱電機10.59%・パナソニックHD8.06%の順。PBRも日立3.23倍が最も高く、市場は日立のLumada成長を最も強く評価している構図。一方で配当利回りは日立1.06%が4社中最低(NEC0.92%に次ぐ低さ)で、還元は自社株買い頼みの設計になっている。26/3期純利益は日立8,023億円が三菱電機4,078億円の約2倍、時価総額も日立21.4兆円が突出して大きい。
旗印は中期経営計画「Inspire 2027」——Lumada比率50%・調整後EBITA率18%(28/3期)。壁は還元の薄さと高PERへの説明責任。
40%→50%まで残り2年。1年で+9pt進んだ勢いを維持できるか、四半期ごとの進捗開示が焦点。
27/3期予想がコンセンサスを6.9%下回った理由(保守的な前提か、実力の反映か)を決算説明会で明確にできるかが株価反応を左右する。
1.06%は同業最低。自社株買いに偏った還元設計から、増配ペースを上げる方向への転換余地がある。
Lumada調整後EBITA率を実際に15%→18%へ引き上げられるか。「比率は伸びたが率は伸びない」となれば再評価は一服しかねない。
「実質無借金×二桁ROE×Lumada成長」は優等生的な組み合わせだが、株価は既にその多くを織り込んでいる——バリュエーションの高さをどう見るかが本レポートの総括。