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🕒 最終更新: 2026-09-21 (直近更新)

テルモ Terumo・4543

東証プライムIFRS3月決算 日経22527年3月期 第1四半期決算まで反映

1921年、北里柴三郎博士らの発起で「良質な体温計の国産化」を掲げて設立された医療機器メーカー。いまは心臓の血管に入れるカテーテルなど専門医向けの使い捨て医療機器を中核に、売上の80.3%を海外で稼ぐ。2026年3月期(26/3期)は売上収益1兆1,319億円・営業利益1,763億円(営業利益率15.6%)でともに過去最高。一方で2025年10月に臓器保存デバイスのOrganOx社を約2,306億円で買収し、自己資本比率は74.8%から68.5%へ低下、会社定義のフリーCFは△1,132億円となった。27/3期Q1は米国関税の還付と和解金で営業利益が前年同期比+60.1%と跳ねたが、一時的要因を除く調整後営業利益の伸びは前年同期比+34.7%。

💡 はじめての方へ:テルモは「体温計・注射器の会社」と思われがちですが、稼ぎの中心は、手術室やカテーテル室で1回ごとに使い捨てられる血管内治療の道具(心臓血管カンパニー:26/3期の売上の59.8%)です。カミソリの刃のように「使うたびに新品が売れる」消耗品ビジネスなので、医療現場で一度採用されると継続的に売れます。この「消耗品の強さ」が、今回の大型買収(OrganOx)を支える稼ぐ力になっています。

※テルモ自身は決算資料で26/3期を「FY25」、27/3期を「FY26」と表記しています(年度の開始年で呼ぶ方式)。本ページは決算期末の年月で「26/3期」(2025年4月〜2026年3月)と統一表記しています。2026年8月7日発表の27/3期第1四半期(4〜6月)決算と通期予想の上方修正を反映済み(→④ 今期の焦点)。株価は決算短信に開示がないため、バリュエーションは期末(2026年3月末)時点の会社開示比率からの逆算値で示す。

01企業カルテ

26/3期通期実績(2026/5/15発表)と、27/3期第1四半期(2026/8/7発表)までの状況。

売上収益(26/3期)
1.132兆円
前年比+9.2%・過去最高
営業利益
1,763億円
営業利益率15.6%・前年比+11.8%
調整後営業利益
2,194億円
利益率19.4%・前年比+7.8%
純利益(親会社帰属)
1,359億円
前年比+16.2%・EPS 92.14円
ROE
9.2%
ROIC(会社公表)7.5%
海外売上比率
80.3%
米州が売上の39.2%(4,434億円)
自己資本比率
68.5%
前期末74.8%(OrganOx買収で低下)
27/3期Q1 売上収益
3,118億円
前年同期比+19.9%(為替除く+9.4%)
成長性
売上収益は22/3期の7,033億円から26/3期の1兆1,319億円へ4年で1.61倍(年平均12.6%増)。27/3期は会社予想で売上前年比+9.5%(Q1決算で据え置き)。ただし円安の寄与が大きく、27/3期Q1の為替除く伸びは+9.4%
収益性
調整後営業利益率19.4%、営業利益率15.6%。同業のオリンパス(調整後14.2%・営業利益率9.6%)やシスメックス(営業利益率10.4%)を上回る。ただしROEは9.2%と高くはない
財務健全性
自己資本比率68.5%と高水準だが、買収の借入で社債及び借入金は1,748億円→3,798億円に増加。現金2,805億円を引いた純有利子負債は993億円と限定的
株主還元
年間配当は26/3期30円→27/3期予想36円と増配基調(配当性向32.6%)。総還元性向50%水準で自社株買いも検討する方針。自社株取得は25/3期の約300億円から26/3期はほぼゼロ
バリュエーション
期末推定PERは25/3末の35.4倍から26/3末の22.9倍へ縮小。27/3期の会社修正予想EPS(130.91円)に対しては16.1倍。ただし関税還付と和解金という一時要因を含む予想である点に注意(現在株価は未確認のため判断は保留)

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。期末推定株価(2,108円)・PERは、会社が決算短信に開示している「時価ベースの親会社所有者帰属持分比率」(26/3末134.5%)に資産合計を掛けて時価総額を逆算し、自己株式控除後の発行済株式数で割った概算値です。現在の株価ではありません。

💡 読み方:営業利益(1,763億円)より「調整後営業利益」(2,194億円)が大きいのは、買収した会社の無形資産の償却費(242億円)や、訴訟費用・減損などの一時的な損益(△188億円)を除いた「本業の実力値」を会社が別に示しているからです。テルモはこの2つの差が大きい会社(26/3期は約431億円)なので、どちらの数字の話をしているのかを意識して読むのがコツです。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()・情報()の流れで見る、テルモの稼ぎ方。矢印・箱にカーソルを合わせると実額が出ます。

カネの流れ モノ・サービスの流れ 情報の流れ
起点1921年、北里柴三郎博士らの発起で「良質な体温計の国産化」を目指して設立。1963年に日本初の使い切り注射針、1969年に日本初の血液バッグを発売し、使い捨ての医療消耗品で医療現場を支えてきた
定説「体温計・注射器のテルモ」——身近な医療用品を作る国内メーカー
逆説稼ぎの中心は心臓の血管治療用のカテーテル等(心臓血管カンパニー:売上の59.8%・調整後営業利益率24.2%)で、売上の80.3%は海外。26/3期は関税の逆風(会社説明で調整後営業利益への影響△121億円)を受けながら、価格政策で+146億円を稼いで利益率をほぼ維持した。使い捨ての専門機器は値上げが通りやすい、という消耗品ビジネスの強さを示している

テルモは4つのセグメントで構成される。心臓血管カンパニー(売上6,764億円)は血管造影用ガイドワイヤー・カテーテル・止血デバイスなどのインターベンショナルシステムズ、脳動脈瘤・脳梗塞治療のニューロ、人工肺・人工心肺のカーディオバスキュラー、人工血管・ステントグラフトのアオルティックから成る。メディカルケアソリューションズカンパニー(売上2,161億円)は注射器・輸液ポンプ・血糖測定・製薬企業向けのプレフィルドシリンジ受託製造(CDMO)。血液・細胞テクノロジーカンパニー(売上2,310億円)は血液バッグ・血液自動製剤システム・血漿採取装置など。オーガンテクノロジーズ事業は2025年10月に買収したOrganOx社の臓器保存デバイスで、26/3期の売上は80億円(買収後約5カ月分)。

💡 やさしく:プリンターに例えると、心臓血管カンパニーは「インク(消耗品)で稼ぐ」タイプです。カテーテルは1回の手術ごとに新品が必要で、医師は使い慣れたメーカーのものを選びがち。だから本体(装置)を売って終わりではなく、患者さんが治療を受けるたびに売上が積み上がります。テルモが値上げ(価格政策)をしても、関税というコスト増を吸収できたのはこの構造のおかげです。

03成長の歩み — 売上は4年で1.61倍、営業利益は2期連続で過去最高更新

22/3期から26/3期まで毎期の増収を続け、25/3期に営業利益が大きく伸びた(調整後営業利益は前年比+29.8%)。26/3期は買収関連費用など一時費用がありながら過去最高を更新した。

売上収益の推移(22/3期〜26/3期)

単位:億円 ■濃い棒=直近期。3月決算

売上収益は22/3期の7,033億円から26/3期の1兆1,319億円へ、4年で1.61倍(年平均12.6%増)。円安の追い風もあるが、26/3期の為替を除く売上の伸びも+8.6%(会社開示)と、為替抜きでも高い成長を続けている。

営業利益と調整後営業利益の推移

単位:億円。調整後営業利益は買収無形資産の償却と一時損益を除いた会社指標

調整後営業利益は22/3期の1,344億円から26/3期の2,194億円へ。25/3期は前年比+29.8%と大きく伸び、営業利益も1,577億円(前年比+12.5%)に。営業利益との差が大きい年(25/3期:458億円、26/3期:431億円)は、減損損失(25/3期22,461百万円、26/3期11,363百万円)や買収関連費用などの一時費用がかさんだ年でもある。

純利益(親会社帰属)の推移

単位:億円

純利益は22/3期888億円→26/3期1,359億円。26/3期は前年比+16.2%(EPS 92.14円、前年比+16.6%)。2024年4月1日の株式分割(1株→2株)後の株数で計算されたEPSは、24/3期71.50円→25/3期79.01円→26/3期92.14円と3期連続で増えている。

04今期の焦点 — 関税還付・和解金で跳ねたQ1の「実力」と、買収後の財務

27/3期第1四半期は営業利益が前年同期比+60.1%と急増したが、その約半分は一時的な収益。事業別の稼ぎ方、Q1の中身、通期予想の修正、買収の財務インパクトを順に見る。

4つの事業の構成と稼ぐ力(26/3期)

売上収益の構成。■心臓血管が6割、血液・細胞が2割、メディカルケアが2割

心臓血管は売上6,764億円(前年比+8.3%)で調整後営業利益1,640億円(前年比+6.0%)、利益率24.2%(25/3期24.8%)。血液・細胞テクノロジーは売上2,310億円(前年比+15.4%)で調整後営業利益336億円(前年比+27.0%)、利益率は13.2%から14.6%へ改善した——北米で血漿の採取システム(Rika)と血液自動製剤システム(Reveos)が伸びている。一方メディカルケアソリューションズは売上2,161億円(前年比+2.3%)で調整後営業利益は216億円(前年比△6.2%)、利益率は10.9%から10.0%へ低下した。2025年9月に取得したドイツ・レバークーゼン工場(製薬向けCDMO)の損益が26/3期に△37億円(会社開示)あり、これを除くと252億円になる。オーガンテクノロジーズは買収後約5カ月で売上80億円・調整後営業利益17億円(利益率20.9%)。

💡 やさしく:テルモの利益は、ほぼ「心臓血管」というエースが稼ぎ、「血液・細胞」が急成長中、「メディカルケア」は工場買収の立ち上げ費用で足踏み——という3人組です。買収したOrganOxは4番手の新人で、まだ小さいながら利益率は20%を超えています。

27/3期Q1:調整後営業利益の増減要因

単位:億円。前年同期591億円→796億円(前年同期比+34.7%)

売上増による売上総利益の増加が+128億円、売上総利益率・価格の効果が+116億円。この項目の主な内訳は関税還付+130億円・価格+22億円・関税影響△47億円(会社開示。内訳は全項目の合計ではない)。一般管理費△67億円・研究開発費△16億円、為替+43億円。各項目は会社が億円単位で開示しており、合計は端数調整(+1億円)を含めて796億円と一致する。関税還付は「前年度に支払った関税が戻った」もので、繰り返す収益ではない

27/3期Q1:調整後営業利益→営業利益

単位:億円。買収無形資産の償却と一時的な損益の調整

調整後営業利益796億円から、買収無形資産の償却費(△72億円)を引き、一時的な損益(+171億円)を足して営業利益895億円(前年同期比+60.1%)。一時的な損益の主因は受取和解金201億円(会社開示)で、営業利益率28.7%は和解金を含む。調整後営業利益率は25.5%。営業利益の伸び+60.1%と調整後の伸び+34.7%の差が「一時収益の分」にあたる。

27/3期通期予想の修正(2026年8月7日)

単位:億円。当初予想(5/15)→修正予想(8/7)

売上収益は据え置き(1兆2,390億円・前年比+9.5%)のまま、調整後営業利益を2,615億円→2,745億円(+130億円)、営業利益を2,245億円→2,575億円(+330億円)、当期利益を1,653億円→1,931億円(+278億円)に上方修正。修正の理由は関税還付(130億円)と和解金(200億円)で、本業の売上見通し自体は変わっていない。修正後の営業利益率は20.8%、調整後営業利益率は22.2%。会社の想定為替は1ドル155円・1ユーロ180円。

💡 やさしく:「上方修正」と聞くと本業が好調になったように思えますが、今回は臨時収入(税金の還付と和解金)が入ったぶんの引き上げです。売上の予想が変わっていない点が、それを物語っています。

26/3期:買収で膨らんだバランスシート

単位:億円。25/3末→26/3末の増加額

OrganOx社の買収(取得対価2,306億円、うちのれん1,382億円・無形資産926億円)とドイツ・レバークーゼン工場の取得(271億円)により、のれん及び無形資産が2,582億円、有形固定資産が754億円増加。買収資金は借入で賄い、社債及び借入金は1,748億円から3,798億円へ増えた。会社は2026年4月に5億米ドルの5年債を発行するなど、借入の長期化(リファイナンス)を進めている。

05財務3表ビジュアル

売上の1割超が営業利益として残る高収益のPL。BSは買収でのれん及び無形資産が総資産の3分の1超を占める構成に変わり、CFは「稼ぐ力は健在、ただし買収で会社定義のFCFは大幅マイナス」。

PL滝グラフ — 売上収益1兆1,319億円から純利益1,359億円へ(26/3期)

単位:億円
💡 やさしく:1兆1,319億円の売上から、製造原価(5,372億円)、販売費・一般管理費と研究開発費(合わせて4,099億円)、その他の収益費用(純額△84億円)を引くと営業利益1,763億円。金融収支等(+19億円)を足して税引前利益1,783億円、法人所得税(423億円)を引いて純利益1,359億円が残ります。売上100円あたり、営業利益は約15.6円、最終的な株主の取り分は約12.0円です。

BS比例図 — 総資産2兆3,122億円の中身(26/3期末)

箱の高さ=金額。自己資本比率68.5%

総資産の34.7%(8,034億円)がのれん及び無形資産で、25/3末(5,452億円)から大きく増えた。現金は2,805億円、社債及び借入金は3,798億円(うち1年以内が2,799億円)。27/3期Q1末では借入の長期化が進み、流動の社債及び借入金は1,799億円まで減り、自己資本比率は70.0%に上昇した。

キャッシュフロー(26/3期)

単位:億円。営業CF2,309億円

営業CFは2,309億円(前年比+9.5%)と過去最高水準。設備投資(有形固定資産852億円+無形資産168億円)を引くと約1,289億円が残り、M&Aを除いたFCF(営業CF−設備投資)は約1,289億円で、前年(同じ計算で約1,284億円)と同水準。しかしOrganOx等の買収支出2,483億円を加えた会社定義のFCF(営業CF+投資CF)は△1,132億円。財務CFは借入2,398億円・配当413億円・借入返済350億円などで+1,555億円。

06収益性 — ROE9.2%をデュポン分解する

テルモのROEは「高い利益率×低い資産回転率×小さいレバレッジ」。利益率は同業を上回るが、厚い自己資本と買収で膨らんだ総資産がROEを押し下げている。

ROE(26/3期・平均残高ベース)
9.2%
12.01%
売上高純利益率
本サイトの花王(7.11%)を大きく上回る。専門医向け消耗品の利益率の高さ
× 0.55回
総資産回転率
花王(0.90回)より低い。のれん・無形資産と現金の厚みが分母を膨らませる
× 1.40倍
財務レバレッジ
自己資本比率68.5%。花王(1.76倍)より借入に頼らない体質

本サイト掲載の花王(4452)は営業利益率9.7%・ROE11.3%。テルモは営業利益率15.6%と利益率で勝るのに、ROEは9.2%と花王を下回る。理由は回転率とレバレッジ——テルモは売上に対して資産が重く(買収でのれん及び無形資産が増加)、自己資本も厚い。「稼ぐ力は強いが、資本の使い方はこれから磨く段階」という読み方ができる。

ROICとROEの会社計画 — M&Aを除くとROICは8.5%→10.0%(27/3期予想)

単位:%。26/3期実績と27/3期の会社予想(2026/5/15時点)

会社の27/3期予想(5月時点)はROIC 8.2%・ROE 10.2%。OrganOx等26/3期のM&Aを除いた場合はROIC 8.5%→10.0%と、買収が27/3期予想のROICを約1.8ポイント押し下げていることを会社自身が示している。決算短信・説明資料にWACC(資本コスト)の数値の記載はないため、ROICとの差(スプレッド)は本ページでは示さない。ROIC・ROEの予想は5月15日時点のもので、8月7日の上方修正は反映されていない。

💡 やさしく:ROICは「借金も含めて事業に投じたお金1円が、1年で何円のもうけになるか」。買収は代金を払った瞬間に投下資本が増え、利益が乗るまでROICが下がります。OrganOxの利益率20%が実現するかが、ROIC 10%回復のカギです。

07会計基準ビュー — IFRS / JGAAP / US-GAAP

テルモは2018年3月期期末決算からIFRSを適用。調整後営業利益という「IFRSで定義されていない」指標を併記している点と、買収で増えたのれん・無形資産の扱いが読み方の鍵。

基準によって変わって見える利益(26/3期)

単位:億円
詳しく見る:会計基準の技術的差異(IFRS/JGAAP/US-GAAP)
  • のれんは償却せず減損テストのみ。OrganOx社の取得でのれん1,382億円・無形資産926億円(主に技術資産と仕掛研究開発資産)を計上。無形資産(買収分)は償却され、26/3期の償却額は242億円
  • 会社は「調整後営業利益」(営業利益+買収無形資産の償却費±一時的な損益)を業績管理指標として開示。IFRSに定義がなく、会社が「セグメント利益と一致」と説明する独自指標なので、同業比較では定義の違いに注意が必要(オリンパスの調整後営業利益は定義が異なる)
  • 開発費のうち資産化した「開発資産」が、開発中止で減損として計上される(26/3期は米州でのアオルティック・カーディオバスキュラー事業の開発一部中止など。決算短信の減損注記)
  • IFRSには「経常利益」区分がなく、営業利益の下に金融収益・費用と持分法損益が並ぶ
  • JGAAPならのれんは20年以内の規則償却が必要。OrganOxののれん1,382億円を20年で償却すると年約69億円(筆者試算)で、26/3期の営業利益1,763億円は通年ベースで約1,694億円に見える
  • 26/3期は減損損失11,363百万円を計上。JGAAPでは特別損失に区分され営業利益に含まれない扱いが一般的で、営業利益がその分高く見えうる(IFRSではその他の費用として営業利益に含まれる)
  • 27/3期Q1の和解金201億円は、IFRSでは営業利益に含まれる(その他の収益)。JGAAPなら特別利益に区分される可能性があり、営業利益+60.1%という伸びは基準によって見え方が変わる
  • 同業のニプロ(8086)はJGAAP採用。営業利益率5.7%はのれん償却を含む数字で、IFRSのテルモの15.6%とは基準が違うため差は割り引いて見る必要がある
  • US-GAAPでものれんは償却せず減損テストのみで、IFRSと同じ思想。OrganOxののれん1,382億円の扱いは変わらない
  • 研究開発費は原則すべて費用化(ソフトウェア等を除く)。IFRSで資産化している開発資産(26/3期に減損した米州の開発案件など)は、US-GAAPなら発生時に費用計上され、減損として後から出る形にならない
  • 買収で取得した仕掛研究開発資産(IPR&D)は、US-GAAPでは開発完了までは償却しない無形資産として計上される。IFRSでもOrganOxの無形資産に「仕掛研究開発資産」が含まれる
💡 やさしく:テルモは日本企業ですが、海外の同業と比べやすいよう世界共通ルール(IFRS)で決算を作っています。さらに会社は「調整後営業利益」という、買収の償却費や一時的な損益を省いた数字も出しています。決算のニュースで「営業利益が○%増」と聞いたら、それが調整後なのか、一時的な収益(27/3期Q1の和解金など)を含むのかを確認すると、実力の見え方が変わります。

08同業比較 — 医療機器の国内大手3社との比較

内視鏡のオリンパス、検体検査のシスメックス、注射器・透析・カテーテルで事業が重なるニプロと、26/3期(2026年3月期)の会社開示値で比較する。

営業利益率の比較(26/3期)

単位:%。ニプロは日本基準(のれん償却あり)

テルモは営業利益率15.6%と4社で最も高い。シスメックス10.4%、オリンパス9.6%、ニプロ5.7%。オリンパスは営業利益から「その他の収益・費用」を除いた調整後営業利益では14.2%(売上1兆107億円)で、テルモの調整後19.4%との差は5.2ポイント。ただし両社の調整後営業利益は定義が異なる。ニプロは日本基準で、注射器・透析など重なる領域を持つが利益率はテルモの3分の1強。

💡 やさしく:同じ医療機器でも、テルモの主力は「専門医が指名する使い捨てのカテーテル」、オリンパスは「内視鏡という高額な本体+処置具」、シスメックスは「検査装置と試薬」、ニプロは「量産型の注射器・透析製品」。利益率の差は、どれだけ「指名買い」されやすい商品を持つかの差でもあります。

資本効率・財務・還元の比較(26/3期)

ROE・自己資本比率・配当性向は会社開示値。売上高は億円

ROEはテルモ9.2%、オリンパス8.7%、シスメックス7.3%、ニプロ5.1%。テルモの自己資本比率68.5%はシスメックス(71.4%)並みで、オリンパス(52.8%)・ニプロ(22.6%)より厚い。配当性向はシスメックスが67.3%と最も高く、テルモは32.6%と低め。利益率・ROEはトップ、配当性向は低いため、増配余地はあると読める。

売上と営業利益の伸び(26/3期の前年比)

単位:%。オリンパス・シスメックスは減益、ニプロは低水準からの回復

売上収益の前年比はテルモ+9.2%、ニプロ+2.5%、オリンパス+1.3%、シスメックス△1.7%。営業利益はテルモ+11.8%に対し、オリンパス△40.2%、シスメックス△40.8%と2社が4割の減益(シスメックスは中国の医療費抑制政策の影響)。ニプロの+41.5%は営業利益率が4.1%から5.7%への回復で、水準は低い。成長と収益の両方が伴っているのはテルモだけ

09戦略・課題と改善ポイント

5カ年成長戦略「GS26」(2021年12月策定)は27/3期が最終年度。「デバイスからソリューションへ」を掲げ、成長領域の買収で軸を広げてきた。次の課題は、買収で膨らんだ資本をきちんと稼ぐ力に変えられるかどうか。

強み Strengths

  • 心臓血管カンパニー(売上6,764億円・調整後営業利益率24.2%)を軸にした、専門医向けの使い捨て医療機器という高収益モデル
  • 売上の80.3%が海外で、米州が39.2%を占める。26/3期は価格政策だけで調整後営業利益を+146億円押し上げた価格支配力
  • 営業CF2,309億円(過去最高水準)と、自己資本比率68.5%(27/3期Q1末70.0%)の厚い財務基盤
  • 血液・細胞テクノロジー(調整後営業利益前年比+27.0%)など、心臓血管以外にも成長エンジンが育っている

弱み Weaknesses

  • 26/3期の米国関税影響は調整後営業利益で△121億円。27/3期予想でも△45億円を織り込む(会社開示)
  • メディカルケアソリューションズの調整後営業利益は前年比△6.2%の216億円。血糖測定(SMBG)市場の縮小や、レバークーゼン工場の立ち上げ損失(26/3期△37億円)が重い
  • 減損が毎年出る:25/3期22,461百万円、26/3期11,363百万円。開発中止(資産化した開発費)や独占販売権の契約見直しに伴う
  • 買収で会社定義のFCFが△1,132億円、ROICは7.5%(M&Aを除くと8.5%)と資本効率が一時低下

機会 Opportunities

  • OrganOx(臓器保存デバイス)は27/3期に売上255億円・調整後営業利益率20%を目標。肝移植の増加と顧客基盤の拡大で成長中(Q1売上62億円)
  • 血液・細胞テクノロジーの血漿採取システム「Rika」と血液自動製剤システム「Reveos」は北米・アジアで拡大中
  • 製薬向けCDMO(プレフィルドシリンジ受託)を、レバークーゼン工場の取得で海外へ展開。会社は「グローバル展開を成長戦略の一つ」と位置づけ
  • 新製品パイプライン:脳動脈瘤治療デバイスWEB、大口径カテーテルSOFIA 88、腹部大動脈ステントグラフトFenestrated TREOなど(会社の今後の製品展開)

脅威 Threats

  • 米国の関税政策:27/3期予想は通商法第122条に基づく税率(7月末まで10%、以降15%)を前提にしており、政策変更が業績を左右する
  • 為替:27/3期Q1の売上は前年同期比+19.9%だが為替除きは+9.4%。円高に振れると円換算の売上・利益が縮む(ドル155円・ユーロ180円の想定)
  • 脳梗塞治療領域は競争が激化していると会社が説明。心臓血管のアオルティック事業ではRelayProの一部品種で自主回収があり、Q1の減収要因になった
  • 中東情勢に起因する原材料コスト上昇(27/3期予想で△25億円を織り込み)と、サプライチェーン混乱リスク

改善ポイント(優先度つき)

最優先

買収後の資本効率を「ROIC 10%」に戻せるか

OrganOxの買収は26/3期のROICを約1ポイント押し下げた(7.5%、M&Aを除くと8.5%)。27/3期に会社目標の調整後営業利益率20%(売上255億円)を達成し、ROICが予想通り上向くかが最大の検証ポイント。

最優先

一時収益を除いた「実力」の継続的な開示・確認

27/3期は関税還付130億円と和解金200億円が上振れ要因。調整後営業利益(前年比+25.1%の予想)ベースで、実力の伸びが維持されているかを四半期ごとに確認したい。

中期

メディカルケアソリューションズの収益力回復

調整後営業利益率が10.9%から10.0%へ低下。レバークーゼン工場を除いた場合は27/3期予想で15%まで戻る計画(会社資料)。CDMO事業の立ち上げが計画通り進むかが焦点。

中期

次の成長戦略(GS26後)の提示と株主還元の明確化

GS26は27/3期が最終年度。次の中期戦略の内容と、総還元性向50%水準という方針の下での自社株取得の具体化が、投資家の関心事になる。

10投資メリット・デメリット

「高収益な消耗品ビジネス×買収での軸足拡大」という物語は本物で、期末推定PERは1年で大きく縮小した。論点は、27/3期の利益予想に含まれる一時収益と、買収後のROIC回復を割り引いて見たとき、いまの評価をどう位置づけるか。

▲ 強気材料(メリット)

  • 26/3期は売上収益・営業利益ともに過去最高。27/3期Q1も四半期として過去最高の売上・利益(会社発表)
  • 心臓血管の高収益(調整後営業利益率24.2%)と、価格政策で関税を吸収した実績(26/3期は価格+146億円)
  • 営業利益率15.6%・ROE9.2%は同業3社(オリンパス・シスメックス・ニプロ)の中で最上位、かつ増収増益はテルモだけ
  • OrganOxの高収益(利益率20.9%)と成長で、27/3期の売上255億円を計画。買収の効果が出れば資本効率が改善する
  • 期末推定PERは35.4倍から22.9倍へ縮小、27/3期修正予想EPS(130.91円)に対しては16.1倍。配当性向は32.6%と低く増配余地がある

▼ 弱気材料(デメリット)

  • 27/3期の営業利益予想(2,575億円)には関税還付130億円・和解金200億円という一時的な収益が含まれ、来期以降は反動が出る
  • 関税の影響は26/3期△121億円、27/3期予想も△45億円。政策次第で振れる
  • 買収でFCFが△1,132億円、ROIC7.5%。借入の長期化は進むが、金利負担(26/3期の支払利息28億円)は今後増える
  • メディカルケアソリューションズが減益(調整後営業利益△6.2%)で、成長がカンパニー間で偏っている
  • 売上の伸びの約半分は為替(27/3期Q1は報告ベース+19.9%に対し為替除き+9.4%)で、円高転換局面では逆風になる

3つのシナリオ(筆者試算)

強気シナリオ関税還付・和解金に加えOrganOxの利益率20%を達成し、実力ベースで会社修正予想を約7%上回る。EPS 140円×PER22倍(期末推定PER22.9倍並み)=約3,080円(期末推定株価2,108円比+46%)
中立シナリオ会社の修正予想通りに着地するが、一時収益の反動を織り込みPERは19倍に留まる。EPS 130.91円×PER19倍=約2,487円(期末推定株価比+18%)
弱気シナリオ一時収益を除いた当初予想EPS 112.06円が実力とみなされ、関税の再拡大でPERも16倍に低下。EPS 112.06円×PER16倍=約1,793円(期末推定株価比△15%)

※EPSとPER倍率は筆者の仮定であり、会社予想・市場コンセンサスそのものではありません。EPS 130.91円は会社の27/3期修正予想(2026/8/7)、112.06円は同当初予想(2026/5/15。関税還付・和解金を含まない)です。比較基準の期末推定株価2,108円は2026年3月末時点の逆算値で、現在の株価とは異なります。現在の株価をご自身で確認のうえ、倍率を読み替えてください。

💡 はじめての方への総括:見るべきは3つ。①一時収益を除いた実力(27/3期の営業利益予想2,575億円のうち、関税還付と和解金の合計330億円は繰り返さない)、②買収の回収(OrganOxが利益率20%を達成し、ROICが10%に向かうか)、③関税と為替(売上の8割が海外なので、両方とも外部要因)。使い捨ての専門機器という強い商売は本物ですが、いまは「買収を消化する1年」。数字を見るときは、調整後営業利益と為替除きの伸びを併せて確認する癖をつけると、実力が見えやすくなります。