「うま味」調味料で知られる食品大手でありながら、スマホ・PCの半導体パッケージに使われる絶縁材料「ABF(味の素ビルドアップフィルム)」で高い世界シェアを持つ、異色の二刀流企業。TTMベースで売上収益+3.5%・純利益+91.7%と大幅増益。
直近12カ月(TTM・2025年4月〜2026年3月)実績と現在の市場評価。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、味の素の稼ぎ方。
味の素グループの子会社・味の素ファインテクノが製造するABF(味の素ビルドアップフィルム)は、CPU等の半導体パッケージ基板に使われる層間絶縁材料として高い世界シェアを持つとされる。もともとアミノ酸の発酵技術・素材開発力を持つ会社だったからこそ、化学材料としての応用展開ができた——「食品」と「半導体」という一見無関係な事業が、同じ技術基盤から生まれている点がこの会社の面白さ。規模感で見ると、家庭・飲食店向けの調味料・冷凍食品が売上の77.5%(約1.23兆円)を占め、依然として稼ぎの本体。ABF(半導体メーカー向け)とアミノ酸原薬等(製薬・ヘルスケア向け)は合わせて売上の21.6%(3,415億円)で、両者の内訳は会社非開示のため個別の規模は特定できない。
2021年からの5年間で着実に売上を伸ばし、直近は利益の伸びが売上の伸びを大きく上回る局面に入った。
売上の85%超は調味料・冷凍食品だが、伸び率で見ると4事業とも4%前後で横並び。それでも純利益がほぼ2倍になった理由をセグメント構成から読む。
調味料・食品+4.6%、冷凍食品+0.3%、ヘルスケア等+4.0%、その他▲10.6%。売上の伸び方は各セグメントほぼ横並びで、純利益+91.7%を説明するのは増収そのものよりも利益率の高いセグメント(ヘルスケア等)の構成比上昇と、全社的なコスト効率化と考えられる。
売上構成は調味料・食品が6割を占めるが、2年間の伸び方を比べると成長エンジンの違いが見える。
食品会社として標準的なBS構造の中に、高収益事業の芽が育っている。
FCF(stockanalysis.com算定)は+1,429億円、FCFマージン9.0%と5年で着実に改善(FY22の6.2%から上昇)。ABF等の設備投資(966億円)を賄ってなおプラスを確保。
ROE17.5%(TTM)をデュポン分解で見る。
平均残高ベースの筆者概算。前期9.5%から17.5%への急改善は、主に純利益率の向上(高収益事業比重の拡大)による。
ROIC10.04%(TTM)は推定WACC(5〜6%)を明確に上回り、価値創造の状態。5年間8.7%→10.0%へ緩やかに改善を続けており、ABF等高収益事業の拡大が資本効率の向上に寄与している。
味の素は日本基準(JGAAP)採用。食品事業と電子材料事業という異なる性質の事業を持つ会計上の論点を見る。
食品同業2社(明治ホールディングス・キユーピー)・電子材料同業(信越化学工業)と並べると、味の素の「二刀流」らしい立ち位置が見える。
営業利益率は味の素10.1%が食品同業2社(明治HD7.95%・キユーピー6.74%)をいずれも上回る。一方、電子材料専業の信越化学は24.68%と別次元の高収益。ROEも味の素17.5%が4社中最高で、2位の信越化学(12.98%)や食品同業2社(明治HD4.54%・キユーピー10.78%)を大きく引き離す。つまり味の素は「食品専業2社のどちらより稼ぎ、電子材料専業(信越化学)ほどの利益率はないが、資本効率(ROE)では最も高い」という、単純な中間ではなく独自の強いポジションにいる。PERは味の素37.5倍と4社で最も高く、市場はこの「二刀流」の成長性に食品専業以上の評価を与えている。
旗印は「アミノサイエンス」による食と健康・電子材料への貢献。課題は成長事業への経営資源シフトの加速。
ABF・ヘルスケア等の高収益事業の拡大ペースを維持できるかが、ROE・ROICのさらなる向上の鍵。
緩やかな成長にとどまる食品事業を、健康志向商品等でどう底上げするか。
次回更新では食品同業・電子材料同業との財務指標比較を追加し、相対評価を明確化する。
「食品の安定収益と半導体材料の成長性を併せ持つユニークな二刀流企業。論点はPER37.5倍という高評価が続くか」が本レポートの総括。