日本最大の石油・天然ガス開発企業。豪州イクシスLNGとアブダビ原油を二本柱に、次の成長エンジン=インドネシア・アバディLNGのFID(最終投資決定)に向け前進中。中東紛争でアブダビの原油出荷が制約を受ける一方、累進配当を守り抜く財務規律が問われる決算が続く。
2025年12月期実績(2026/2/12開示)・2026年12月期第2四半期実績&通期予想(2026/8/7開示・修正後)と現在の市場評価。
※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。
モノ(緑)・カネ(黄)・情報(青)の流れで見る、INPEXの稼ぎ方。
売上収益2兆113億円の内訳は原油売上が76%(1兆5,302億円)、天然ガス売上が22%(4,480億円)。セグメントでは、売上の74%を稼ぐ「海外O&Gその他プロジェクト」(アブダビ等)と、売上は16%ながら利益率が最も高い「海外O&Gイクシスプロジェクト」(豪州LNG)が二本柱。持分法で取り込むJV各社の投資損益(720億円)も収益の柱のひとつ。次の成長エンジンは2027年央のFID(最終投資決定)を目指すインドネシア・アバディLNGで、開発準備資金を積み立て中。
売上・営業利益は油価下落で2期連続減少するが、2026年12月期は油価上昇・イクシス増産で過去最高益を見込む。配当は6期連続増配。
2026年12月期の配当は当初108円予想から、8月の業績予想上方修正にあわせて112円へ再増額。総還元性向は約53%を見込む。
2026年は中東紛争でアブダビの原油出荷が一時制約を受けた一方、油価上昇とイクシスの好調な生産で通期利益予想は過去最高の5,100億円に上方修正された。株価はこの二つのニュースの綱引きで動いている。
2026年に入ってからは中東紛争の激化でPBRが0.9倍(2月末)→0.7倍(6月末)まで一時低下したが、油価上昇を受けて0.8倍(7月末)まで戻している。会社自身も決算説明会で「現在の株価は当社の成長性を反映しきれていない」と明言している。
国内O&Gは3.5%まで改善したが依然として低水準。「その他」(再エネ・CCS等)は先行投資段階で△7.1%。連結ROIC8.2%は会社が想定するWACC6%程度を上回る。
アブダビ及びその他(中東・NIS諸国等)の原油販売量は前年同期比26.4%減の4,409万バレル。一方、豪州・東南アジアや欧州は堅調。連結全体の原油販売量は前年同期比22.8%減の5,517万バレルとなった。
売上の74%を「海外O&Gその他プロジェクト」(アブダビ中心)が占めるが、親会社帰属利益で見ると4区分の構図がはっきり変わる。
2兆円企業のPL・BS・CFを図で読む(25/12期)。
最大の資産は「石油・ガス資産3兆8,890億円」(油田・ガス田の権益や設備)。持分法投資も1兆249億円と大きく、JV各社への出資が資産構成の柱になっている。有利子負債は1兆2,447億円にとどまり、自己資本比率61.4%は財務健全性の高さを示す。
アバディLNG開発準備資金の積み立て等で投資CFが△6,687億円と膨らみ、現金は前期末2,417億円から1,684億円へ減少。設備投資(探鉱・評価資産+開発・生産資産+その他有形固定資産の合計2,940億円・筆者算定)を差し引いたFCFは+3,999億円。
| 項目 | 24/12期 | 25/12期 | 26/12期予想(8月修正) | 26/12期中間期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2,265,837 | 2,011,351 | 1,973,000 | 1,000,495 |
| 営業利益 | 1,271,789 | 1,135,440 | 1,223,000 | 618,713 |
| 税引前利益 | 1,298,811 | 1,173,473 | 1,278,000 | 644,346 |
| 親会社帰属当期(中間)利益 | 427,344 | 393,836 | 510,000 | 263,147(前期中間期223,527) |
| 基本的1株当たり利益(円) | 345.31 | 330.82 | 438.82 | 226.33 |
| 資産合計(期末) | 7,380,863 | 7,735,198 | — | 8,386,904 |
セグメント別 親会社帰属当期利益(25/12期・百万円):国内O&G 22,452/海外O&Gイクシス 270,801/海外O&Gその他 131,790/その他 △28,795。25/12期の総還元性向は55.4%(配当総額118,241百万円+自己株式取得決定額100,000百万円)。時価総額(26/9/1)は51,776億円。中期経営計画('25-'27)の3年間累計成長投資は19,000億円、INPEX Vision 2035の営業CF目標は15,000億円。
ROE8.2%(25/12期)の中身をデュポン分解で見る。トヨタ(薄い利益率×高い回転率)とは対照的な「超高利益率×超低回転率」型。
期首期末平均残高ベースの筆者算定(19.6%×0.27回×1.58倍≒8.23%)。会社開示のROE8.2%とほぼ一致。前期(24/12期)のROEは9.5%で、低下の主因は利益率(油価下落)。
連結ROICは25/12期7.3%→26/12期予想8.2%(8月修正後)。会社が想定するWACCは6%程度、株主資本コストは8%程度で、ROICはこれを上回る水準まで改善する見込み。セグメント別ではイクシスのROIC(10.3%)が突出して高く、国内O&G(3.5%)や「その他」(△7.1%)が全体を押し下げている。
INPEXはIFRS採用。石油・ガス開発業ならではの「減損の戻し入れ」と「セグメント利益の定義」が最大の論点。
石油資源開発(中堅E&P)・ENEOSホールディングス/出光興産(精製・元売の川下大手)と比較(2026/9/1時点)。
ROEはINPEXが唯一2桁(10.5%)で最も高い。PBRは4社とも1倍前後で、資源・エネルギー業界全体が市場から「割安」評価を受けやすい構造にある。出光興産のPER23.93倍は特殊要因(一時的な減益等)の影響が大きい可能性があり、単純比較には注意が必要。
経営の旗印は「INPEX Vision 2035」。足元は中東紛争への対応とアバディLNGのFID実現が最優先。
アブダビ依存度が高い中、2026年上期は原油販売量が前年同期比約3割減少。調達・出荷ルートの多様化やセキュリティ投資とコストのバランスが問われる。
2027年央のFID目標に向け、EPC入札結果とインドネシア政府とのIRR協議(10%台半ば目標)の着地が最大の論点。開発準備資金は前倒しで7,700億円強に積み上がっており規律ある投資判断が必要。
南長岡ガス田等は生産量が漸減しROICも不安定。CCS・水素等の低炭素事業への転換投資として位置づけを明確化する必要がある。
累進配当・機動的自己株取得・開示強化を進めているが、PBRは0.7〜0.9倍のレンジで推移。成長ストーリー(アバディ)の市場への浸透が課題。
「実力は着実に積み上がっているが、中東リスクの分だけ市場から値引きされている」——PBR0.94倍にそれがどこまで織り込まれたかが本レポートの総括。