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🕒 最終更新: 2026-08-30

ニッスイ 1332

東証プライム日本基準(JGAAP)3月決算 水産×食品×ファインケミカルデータ基準日 2026/8/28

「獲る漁業」から「育てる養殖」、魚由来の医薬品原料(EPA・DHA)まで、水産資源を海から食卓・薬まで一気通貫でつなぐ会社。2026年3月期は売上高・各段階利益とも過去最高を更新し、2026年1月にはチリのサーモン養殖大手PESQUERA YADRAN S.A.を約205億円で完全子会社化した。

💡 はじめての方へ:「ニッスイ」は冷凍食品やちくわでおなじみですが、実は船で魚を獲る漁業、サーモンを育てる養殖業、魚の油から薬の原料を作る化学メーカーまで兼ねる珍しい会社です。「海から食卓・薬まで」を1社でつなぐのが最大の特徴です。

01企業カルテ

2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)通期実績と、2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)・現在の市場評価。

売上高(FY26)
9,312.6億円
+5.1%・過去最高
営業利益(FY26)
404.3億円
+27.2%(利益率4.3%)
親会社株主純利益(FY26)
275.2億円
+8.4%・EPS90.17円
経常利益(FY26)
431.9億円
+22.3%
ROE(自己資本当期純利益率)
9.5%
前期9.6%からほぼ横ばい
ROIC(筆者推定)
5.0%
推定WACC1.8〜3%を上回る
自己資本比率
40.0%
前期43.6%から低下(買収・積極投資)
時価総額
3,876.2億円
2026/8/28終値ベース
PER(実績)
13.62
PBR1.23倍・配当利回り2.47%
成長性
売上+5.1%・営業利益+27.2%と各段階利益とも過去最高を更新。Q1FY27も売上+14.1%と加速
収益性
営業利益率4.3%は改善傾向だが食品セクターとして依然低水準。物流事業(14.5%)が最も高利益率
財務健全性
自己資本比率40.0%はチリ養殖会社買収(約205億円)で前期43.6%から低下
株主還元
配当性向35.5%・年間配当32円は過去最高。FCFはプラス確保(88.9億円)
バリュエーション
PER13.62倍・PBR1.23倍は同業マルハニチロ・極洋より高いが、ニチレイよりは割安

※5軸評価は本レポート筆者の見解であり、投資勧誘ではありません。

💡 読み方:売上・利益とも過去最高を更新した一方、自己資本比率が下がっているのは南米チリのサーモン養殖会社を約205億円で買収したため。「稼ぐ力」を強化するための積極投資が財務指標にそのまま表れている局面です。

02ビジネスモデル図解

モノ()・カネ()の流れで見る、ニッスイの稼ぎ方。

カネの流れ モノの流れ
起点1911年創業の大手底曳網漁業会社がルーツ。戦後の遠洋漁業から養殖・食品加工・医薬品原料へ事業を拡大
定説水産会社は魚を獲って売るだけ
逆説獲る漁業だけでなく、育てる養殖、加工食品・チルド惣菜、そして魚油由来のEPA・DHAを使った医薬品原料・サプリメントまで、水産資源を「タンパク質」と「機能性成分」の両方に変える垂直統合モデルを持つ

売上の中心は家庭・量販店・外食向けの冷凍食品・チルド惣菜・加工品(食品事業)で、売上の53.8%(5,009.85億円、FY26実績)を占める。水産事業(漁撈・養殖・加工商事、40.8%)が次ぎ、2026年1月にはチリのサーモン養殖大手PESQUERA YADRAN S.A.を約205億円で完全子会社化し、南米での養殖拡大に踏み出した。規模は小さい(売上の1.8%)が、ファイン事業は医薬品原料・サプリメント向けにEPA・DHAを供給し、営業利益率は水産・食品事業を上回る。

💡 やさしく:ニッスイは「魚を獲って、育てて、加工して、さらに薬の原料まで作る」会社です。スーパーの冷凍食品コーナーだけでなく、サプリメントの成分表示にも実はニッスイの技術が使われていることがあります。

03成長の歩み — 4年で売上+21.2%、直近は利益の伸びが加速

2023年3月期から2026年3月期にかけて売上・利益とも一貫して拡大。特にFY26は営業利益が前期比+27.2%と大きく伸びた。

売上高の推移(FY2023〜FY2026)

単位:億円 ■濃い棒=直近期

営業利益の推移(FY2023〜FY2026)

単位:億円

自己資本ROEの推移

決算短信開示の自己資本当期純利益率

04今期の焦点 — 南米養殖M&Aとファイン事業の急回復

2026年1月に完了したチリ・PESQUERA YADRAN S.A.買収(約205億円)で南米養殖が新たな柱に加わり、Q1FY27はファイン事業の営業利益が前年同期の約24倍に急拡大した。Q1FY27(2026年4〜6月)は売上高2,572.8億円・営業利益124.4億円・純利益74.4億円と、四半期ベースでも増収増益が続いている。

セグメント別営業利益の前年同期比較(Q1FY26→Q1FY27・億円)

水産事業が牽引し全社営業利益+20.9%、ファイン事業は絶対額は小さいが急回復

ファイン事業の営業利益は前年同期の0.22億円から5.23億円へ、約24倍に急拡大した(医薬品原料・サプリメント向け機能性原料の国内販売が堅調)。決算短信では「前年同期比2,348.5%」という表記があるが、これは百万円未満切捨て後の整数で単純計算すると倍率が変わってしまうため、本文では実額ベースの倍率表現に統一した。水産事業の営業利益も前年同期比+72.6%(31.50億円→54.37億円)と大きく伸びた。

💡 やさしく:「本業(水産・食品)は安定して伸ばしながら、規模は小さいが利益率の高いファイン事業(医薬品原料)が急回復した」のが今期の見どころです。

地域別有形固定資産(FY2025末→FY2026末・億円)

南米区分が新設され、いきなり北米に迫る規模に

FY2025末(2025年3月末)まで「南米」区分は存在せず北米・欧州・その他のみだったが、PESQUERA YADRAN S.A.の連結開始(2026年1月15日・完全子会社化、取得原価205億円)により、FY2026末(2026年3月末)に南米区分が新設され、有形固定資産311.0億円(全体の14.2%)を計上した。これは同時点の北米(324.6億円)に迫る規模で、南米養殖事業が一気に主要拠点の一角へ躍り出たことを意味する。

💡 やさしく:M&Aで「南米」という新しい地図の色が一気に濃くなりました。買収した会社の資産規模だけで、北米事業に匹敵するインパクトがあったということです。

05セグメント — 4事業+その他で稼ぐ構造

食品事業が売上の過半(53.8%)を占める最大セグメントだが、営業利益で見ると物流事業の利益率が最も高い。

セグメント別 売上構成(FY26・億円)

食品事業53.8%・水産事業40.8%で全体の94.6%を占める

セグメント別 営業利益率(FY26)

物流事業14.5%が最も高収益、水産・食品・ファインは4〜6%台

読みどころ

  • 食品事業(売上53.8%)が主力。営業利益率5.9%で全社を下支え
  • 水産事業は営業利益+111.1%と急改善。前期苦戦した漁撈・養殖・北米加工の持ち直しが寄与
  • 物流事業(売上1.8%)は利益率14.5%(FY26)と全事業中で最も高い水準にある。ただし営業利益は人件費・燃料費の増加が響き、前期比▲15.1%の減益となった
  • ファイン事業(売上1.8%)は利益率4.9%、規模は小さいが医薬品原料需要の追い風がある
💡 やさしく:「量」で稼ぐのは食品と水産、「率」で稼ぐのは物流という役割分担です。今期は苦戦していた水産事業が持ち直し、全社の増益を牽引しました。

06財務3表ビジュアル

FY26は積極投資(南米養殖M&A・国内外の設備投資)を反映し、資産・負債とも大きく拡大した。

PL滝グラフ — 売上高9,312.7億円はどこへ消えるか(FY26)

単位:億円
💡 やさしく:9,312.7億円売って、原材料・加工費・販管費で8,908.3億円が消え、本業のもうけは404.3億円(4.3%)。食品セクターとしては薄利ですが、前期3.6%から改善しています。

BS比例図 — 総資産7,495.1億円の中身(FY26末)

自己資本比率40.0%

キャッシュフロー(FY26)

単位:億円。営業CF532.4億円(前期比+31.9%)

FCF(営業CF532.4億円−設備投資443.5億円)は+88.9億円とプラス確保。南米養殖M&A(投資CFに含む約190億円の子会社株式取得)を除けば本業のキャッシュ創出力は着実に改善している。

07収益性 — ROE9.5%を分解する

ROE9.5%(FY26・決算短信開示の自己資本当期純利益率)をデュポン分解で見る。

ROE(FY26)
9.5%
2.95%
売上高純利益率
薄利多売の食品セクター特性
× 1.35回
総資産回転率
在庫・設備投資型で回転は緩やか
× 2.40倍
財務レバレッジ
自己資本比率40.0%

平均残高ベースの筆者概算。オイシックス(3182・高回転×薄利)とは対照的に、ニッスイは在庫・設備を多く抱える「低回転×薄利×高レバレッジ」型でROEを積み上げる構造。

ROIC vs WACC — 資本コストを上回っているか

単位:%。筆者推定

ROIC5.0%(FY26・筆者算定)は推定WACC(1.8〜3%程度)を上回り、価値創造の状態。ただしβ0.14の低ボラティリティ銘柄であるため資本コスト自体が低く、スプレッドは大きくない。トヨタ(7203・IFRS採用、ROIC水準は別次元)のような高収益グローバル製造業と比べると、食品・水産セクターとしての「薄利」構造がROICの絶対水準にも表れている。

💡 やさしく:「集めたお金を使って、資本コストを上回るリターンは出せている」状態ですが、その差はまだ大きくありません。南米養殖など高収益事業の拡大が、この差を広げられるかが今後の焦点です。

08会計基準ビュー — JGAAP / IFRS / US-GAAP

ニッスイは日本基準(JGAAP)採用。漁業・養殖という資産性質の特殊な事業を持つ会計上の論点を見る。

会計基準による見え方の違い

  • 営業利益と経常利益(営業外損益を加味した段階利益)を区分する日本独自の表示。持分法投資利益(FY26は33.4億円)は経常利益に算入される
  • のれん(FY26末40.5億円)は規則的に償却する。PESQUERA YADRAN買収で発生したのれん24.2億円は10年均等償却の方針
  • 養殖事業の生物資産(サーモン・ブリ等)は棚卸資産として計上し、時価評価は行わない取得原価主義
  • IFRSでは「経常利益」区分が無くなり、営業利益の下に金融損益・持分法損益が並ぶ形になる
  • のれんは非償却・年次減損テストに切り替わるため、買収直後の利益押し下げ(償却負担)は無くなる一方、減損時のインパクトは一度に大きく出やすい
  • IAS41(農業)の考え方が適用されれば、養殖事業の生物資産は公正価値評価となり、相場変動が損益に直接反映される可能性がある(会社の実際の適用方針は非開示)
  • US-GAAPでものれんは非償却・減損テストとなり、IFRSと同様の論点が生じる
  • 米国基準は経常利益の概念を持たないため、営業外損益・持分法損益は営業利益の下に一括表示される
💡 やさしく:ニッスイ最大の会計論点は「のれんを毎年少しずつ費用にするか(JGAAP)、減損が起きるまで費用にしないか(IFRS/US-GAAP)」。南米買収でのれんが増えた今、この違いは今後の利益の見え方に効いてきます。

09同業比較 — 水産・食品3社の中でのポジション

水産同業のマルハニチロ・極洋、冷凍食品同業のニチレイと比較すると、ニッスイの評価はその中間に位置する。

PERはニッスイ13.62倍で、水産専業のマルハニチロ(10.24倍)・極洋(7.75倍)より高いが、冷凍食品のニチレイ(18.83倍)よりは低い。PBRも同様の序列(マルハニチロ0.67倍・極洋0.71倍・ニッスイ1.23倍・ニチレイ1.74倍)で、市場はニッスイを「水産専業より高く、食品加工専業より安く」評価している。ROEはニッスイ9.5%(自己資本ベース)が極洋の推定9.16%(PBR÷PERで筆者算出)・ニチレイの10.27%に近く、マルハニチロの8.65%をやや上回る水準。配当利回りは水産2社(マルハニチロ3.43%・極洋3.38%)がニッスイ(2.47%)やニチレイ(2.32%)より高く、成熟した水産専業ほど株主還元色が強い傾向がうかがえる。

💡 やさしく:「水産専業2社(マルハニチロ・極洋)よりは高く評価され、食品加工専業(ニチレイ)よりは割安」——ニッスイは養殖・ファイン事業という成長ドライバーを持つぶん、水産専業より市場から一段高い評価を受けています。

10戦略・課題と改善ポイント

中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」の柱は「海外事業の成長」「養殖事業の高度化」「不採算事業のターンアラウンド」。

強み Strengths

  • 漁撈・養殖・食品加工・医薬品原料まで一気通貫の垂直統合モデル
  • 南米チリのサーモン養殖大手を新たに完全子会社化し、海外養殖の拠点を獲得
  • ファイン事業(医薬品原料・機能性素材)は水産・食品事業より高い利益率
  • 売上高・各段階利益ともFY26で過去最高を更新した実績

弱み Weaknesses

  • 営業利益率4.3%は食品セクターとして依然低水準
  • 自己資本比率40.0%は積極投資で前期43.6%から低下
  • 養殖事業は漁獲・生残率など天候・環境リスクの影響を受けやすい
  • 南米新規連結子会社は「損益改善の途上」(Q1FY27決算短信の表現)で当面は増収減益要因

機会 Opportunities

  • 世界的な水産物需要拡大(人口増加・食の多様化・健康志向)
  • 南米養殖拠点拡大による営業利益率10%以上が期待できる養殖事業の伸長
  • 医薬品原料・機能性食品市場の拡大(ファイン事業の追い風)

脅威 Threats

  • 中東情勢等の地政学リスクによる燃料価格・石油由来原材料価格の上昇(FY27業績予想には未織り込み)
  • 米国関税政策による原料価格上昇・業務用需要への影響
  • 養殖場拡大に対する環境規制・ライセンス制限の強化(生産国ごとに異なる)

改善ポイント(優先度つき)

短期

南米新規連結子会社の損益改善

PESQUERA YADRAN S.A.は会社側も「損益改善の途上」と認めており、早期のシナジー実現が南米事業拡大の成否を左右する。

中期

営業利益率のさらなる改善

4.3%(FY26)から中計目標に向けてどこまで引き上げられるかが、ROE・ROICの押し上げに直結する。

中期

財務健全性の回復

自己資本比率40.0%は積極投資局面での一時的低下だが、次の大型投資に備え早期の水準回復が望ましい。

11投資メリット・デメリット

「水産・食品の安定収益と、南米養殖拡大・ファイン事業という2つの成長ドライバーを併せ持つ会社。論点は薄利構造からの脱却ペース」が本レポートの総括。

▲ 強気材料(メリット)

  • FY26で売上・各段階利益とも過去最高を更新、Q1FY27も増収増益が継続
  • 南米チリの養殖大手を完全子会社化し、営業利益率10%以上が期待される養殖事業を拡大
  • ファイン事業の営業利益が前年同期比で急拡大(Q1FY27は約24倍)
  • ROIC5.0%が推定WACC(1.8〜3%)を上回り価値創造の状態

▼ 弱気材料(デメリット)

  • 営業利益率4.3%は同業比較でも依然低水準で、薄利構造からの脱却は道半ば
  • 自己資本比率40.0%は積極投資で低下傾向、次の大型投資余地は限定的になりうる
  • 南米新規連結子会社は当面「損益改善の途上」で増収減益要因
  • 養殖事業は天候・環境規制・為替など外部要因の影響を受けやすい

3つのシナリオ(筆者試算・2028年3月期想定EPS)

強気シナリオ南米養殖・ファイン事業の伸びが加速しEPS110円×PER15倍=1,650円
中立シナリオ現在の成長ペースが継続しEPS100円×PER13倍=1,300円
弱気シナリオ原料高・為替逆風で減益しEPS85円×PER10倍=850円
💡 はじめての方への総括:チェックポイントは3つ。①南米養殖拠点(PESQUERA YADRAN)の損益改善ペース②営業利益率4.3%からの改善速度③ファイン事業の高収益成長の持続性。「冷凍食品の会社」というイメージだけで見ると、養殖・医薬品原料という成長エンジンを見落としてしまいます。